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聴いてない 第337回 ナイン・インチ・ネイルズ

世の中には聴いてない上に勝手に方向性やイメージを勘違いしていたアーチストというのが相当数存在するが、今日採り上げるナイン・インチ・ネイルズもそんなところ。
まず1曲も聴いてないので、聴いてない度は堅固の1。
それだけでも十分失礼な話だが、実はてっきりメタルで派手な装飾をまとったビジュアル重視なバンドだと勘違いしていた。
勘違いしていた理由は不明。
たぶん「9インチもある長い爪」という恐ろしい名前から、勝手にメタルっぽい人たちとイメージしてしまったものと思われる。
改めて調査してみると、その実態は持っていたイメージとは大幅にかけ離れていた。

ナイン・インチ・ネイルズはトレント・レズナーによる音楽プロジェクトである。
日本語ウィキペディアによれば、バンドの体裁はとっているが、基本的にはトレント個人によるプロジェクトであり、アルバムごとにメンバーは異なるそうだ。
ただ英語版ウィキペディアを翻訳すると「1988年にクリーブランドで結成されたアメリカのインダストリアル・ロックバンドである」と書いてある。
どっちが正確なのかよくわからないが、実態は「トレント・レズナーさんのワンマンバンド」でいいような気がする。

で、インダストリアル・ロックって何?
これもいまいちよくわからないが、特徴として以下が挙げられるそうだ。
・繰り返される不協和音
・怒りと虚無の叫び、冷たい世界観を表現した難解な歌詞
・濁った声でうなる耳障りなボーカル
・金属が軋むようなノイズや暴力的なドラムマシンで作られる楽曲
・ディストーションのかかったシンセサイザーサウンド
・疾風怒濤・混沌・反体制といったキーワードでくくられる音楽ジャンル

自分が聴けそうな生やさしい要素は一切見当たらないが・・・
このジャンルで必ず名前が挙がるのがマリリン・マンソンとトレント・レズナーとのこと。

トレント・レズナーは1965年5月、ペンシルバニア州ニューキャッスルに生まれた。
彼はドイツとアイルランドの血を引いており、曽祖父ジョージ・レズナーは1884年に空調機器製造メーカーのレズナー社を設立した名士で、トレント君は裕福な名門家庭の出身ということになる。
だがトレントが6歳のときに両親が離婚し、姉は母親に引き取られ、弟トレントは母方の祖父母と一緒に暮らした。
本来ならもっと恵まれた家庭に育つはずだったという微妙な境遇は、その後の人生に大きく影響しているようだ。

トレント・レズナーは12歳でピアノを始め、早くから音楽の才能を発揮した。
初めて見たコンサートは76年のイーグルスのコンサートで、「いつかあのステージに立ってみたい」と思ったそうだ。
中学・高校ではジャズバンドやマーチングバンドに所属し、演劇にも熱中。
大学ではコンピュータ工学を専攻したが、音楽の道を志すため1年で中退した。

クリーブランドでいくつかのバンドにキーボード奏者として参加したがどれも長続きせず、その後スタジオで清掃員の仕事をしながら空き時間に自分の曲のデモを録音するということを繰り返していた。
自分の曲を思い通りに表現できるメンバーを見つけることができず、プリンスに感化されてドラム以外の楽器を全て自分で演奏し、ドラムは打ち込みで録音した。

こうしてほぼ一人で制作したデモ音源は複数のレーベルから好意的に受け止められ、トレント・レズナーはTVTレコードと契約。
デモから選りすぐりの曲が集められ、ナイン・インチ・ネイルズとして最初のスタジオアルバム「Pretty Hate Machine」として89年10月にリリースされた。
なお「Pretty Hate Machine」は2010年にリマスター版がリリースされ、クイーンの「Get Down, Make Love」のカバーが追加収録されている。
トレントは大きな影響を受けた音楽としてデペッシュ・モードのアルバム「Black Celebration」を挙げ、またライナーノーツにはサンプリングされたアーティストとしてプリンス、ジェーンズ・アディクション、パブリック・エネミーの名前が記載されている。
「Pretty Hate Machine」発表後、トレントはギタリストのリチャード・パトリックを雇い、ツアーを開始。
ピーター・マーフィーやジーザス&メリーチェイン、ガンズ・アンド・ローゼズなどのライブでオープニングアクトを務めた。

だがこの後トレント・レズナーは早くもレコード会社ともめることになる。
ツアー終了後、トレントは「もうレコードは作らない」とはっきり伝えていたが、TVTは「Pretty Hate Machine」の続編を制作するよう命じた。
トレントはもっと自由な環境で音楽をやりたいと思っていたが、TVTはバンドを管理し大きく事業展開することを考えていたようだ。
トレントはTVTに契約解除を要求したが、TVTは彼の嘆願を無視した。
TVTの干渉を避けるため、トレントはやむを得ず密かに偽名でレコーディングを開始する。
その後トレントはインタースコープ・レコードと契約を結び、自身のレコード会社「ナッシング・レコード」を設立した。

91年頃、トレントはロサンゼルスに移り、シエロ・ドライブ10050という場所にスタジオを作る。
そこは1969年にマンソン・ファミリーのメンバーによって女優シャロン・テートが殺害された場所だった。
ナイン・インチ・ネイルズはその事故物件スタジオでEP「Broken」とアルバム「The Downward Spiral」をレコーディングする。

「The Downward Spiral」は前作とは対照的に、テクノやメタルなどの要素を特徴としている。
テーマは人類に反抗し神を殺害してから自殺を図る厭世的な男の生と死に焦点を当てた。
この頃トレントは度々薬物中毒と鬱病に苦しみ、アルバムのテーマは彼の生活状況を投影しているものとされている。
なおトレントは、デビッド・ボウイの「Low」とピンク・フロイドの「The Wall」に強く影響を受けたと語っている。
「The Downward Spiral」は音楽評論家の間では評判が良く、今では90年代で最も重要なアルバムの一つに分類されており、「1985-2005年の最も偉大なアルバム100選」で25位、ローリング・ストーン誌の「史上最高のアルバム500選」で200位となっている。

3枚目のスタジオ盤「The Fragile」は、度々の延期の後に99年9月にようやく発表された。
前作「The Downward Spiral」の歪んだ楽曲やサウンドから脱却しようとした結果、アンビエント・ミュージックやエレクトロニックなど様々なジャンルの要素が取り入れられ、また前作よりもインスト曲を増やし、約1時間45分にも及ぶダブルアルバムとなった。
アルバムはビルボード200で初登場1位を獲得し、初週で22万8千枚を売り上げ、概ね好評を博した。
なおこのアルバムからは3枚のシングルをリリースしたが、北米では「The Day the World Went Away」、ヨーロッパと日本では「We're in This Together」、オーストラリアでは「Into the Void」と、地域で発売曲を変えている。

2000年1月には初の来日公演が実現。
「The Fragile」のジャパンツアーとして東京(実際は千葉の東京ベイNKホール)・横浜・大阪でライブを行った。
だがこの頃トレント・レズナーの薬物中毒はさらに悪化していた。
よく来日中に捕まらなかったな・・・
2000年6月のツアー中、ロンドンでヘロインを過剰摂取し、予定されていた公演がキャンセルとなった。
この事件をきっかけにトレントはリハビリ施設に入所。
ナイン・インチ・ネイルズの活動も休止し、禁酒断薬に努めた。
活動停止は4年間にも及んだそうだ。

2004年にようやく次のアルバム「With Teeth」のレコーディングを開始。
フー・ファイターズのデイヴ・グロールと、後にバンドのメンバーとなるアッティカス・ロスも参加し、翌年5月にリリースされた。
だがアルバムにはライナーノーツがなく、オンラインPDFのURLが記載されているだけで、歌詞やクレジットはそっちを見てねというスタイルを取った。
なんとなく投げやりな戦略だったが、ビルボード200でバンド史上2度目の(しかも初登場)1位を記録した。
ナイン・インチ・ネイルズはいわゆる音楽配信サービスには積極的で、このアルバム全曲はリリース前にバンドの公式サイトでストリーミングオーディオとして提供されている。

6作目のアルバム「Year Zero」は2007年4月にリリースされた。
アメリカ政府の政策と、未来の世界に与える影響を批判した、政治色の強いコンセプトアルバムである。
このコンセプトと並行して、ストーリーラインを拡張したゲームを制作したり、ファンがリミックスできるようにシングル曲をマルチトラックオーディオファイルとしてリリースするなど、様々なアイディアが実現している。
トレント・レズナーは「Year Zero」の映像化も考えており、映画やテレビ番組制作も試みたようだが、これは公開されていない。
5月には再来日ツアーも行なわれた。

ナイン・インチ・ネイルズは2008年に「Ghosts I-IV」という実験的な発表を行った。
当初5曲入りEPとして構想されていたが、最終的にリリースされたのは9曲入りのEP4枚組で、合計36曲。
ただしトラックには名前がなく、リストとグループ番号のみで識別され、ほぼ全曲インストゥルメンタルである。
しかも第1巻の無料ダウンロード版から300ドルのウルトラデラックス限定版パッケージまで、様々なフォーマットで販売された。
タダでダウンロードもできるのに300ドルの限定版なんて売れるの?と思ったが、この300ドル豪華パッケージは2500枚が3日間で完売したそうだ。
翌年「Ghosts I-IV」のツアーでまた来日し、東京と大阪公演を行った。

しかし2009年2月、トレントは公式サイトで「以前から考えていたが、ナイン・インチ・ネイルズの活動をしばらくの間停止させるべき時が来た」と発表。
その後「ナイン・インチ・ネイルズという名義での音楽制作は終わったわけではないが、ロックコンサートとしてのツアーは終了する」と明言した。
宣言を反映した「Wave Goodbye」ツアーの間にサマーソニック2009にも出演し、千葉マリンスタジアムでパフォーマンスを行った。
ツアーは2009年9月、ロサンゼルスで終了した。

ツアー終了後、トレント・レズナーはマリクイーン・マーンディグというフィリピン系アメリカ人女性歌手と結婚。
夫婦にアティカス・ロスとロブ・シェリダンを加えた4人でハウ・トゥ・デストロイ・エンジェルズというプロジェクトを結成した。
2010年6月にはセルフタイトルEPをリリースし、2013年まで活動した。
このプロジェクトはトレントのナイン・インチ・ネイルズ復活により自然消滅となった、ということのようだ。

トレント・レズナーは2012年頃からナイン・インチ・ネイルズの復活を考えていたらしい。
新曲を書きため新たな参加メンバーを探し、2013年2月にナイン・インチ・ネイルズの復活とツアー開始を発表。
バンドの新ラインナップにはジェーンズ・アディクションのエリック・エイヴリー、キング・クリムゾンのエイドリアン・ブリュー、テレフォン・テルアビブのジョシュ・ユースティス、そして復帰メンバーのアレッサンドロ・コルティーニとイラン・ルービンが含まれることも明らかにした。
ただしエリック・エイヴリーとエイドリアン・ブリューはツアーが始まる前に脱退している。
やはりゆるい人事がナイン・インチ・ネイルズの特徴のようだ。

復活後のアルバム「Hesitation Marks」は2013年8月にリリースされた。
エイドリアン・ブリューに加え、ベーシストのピノ・パラディーノ、トッド・ラングレン、そしてフリートウッド・マックのリンジー・バッキンガムを起用し、様々なアートロック要素を盛り込んだ。

2014年と15年にはナイン・インチ・ネイルズはロックの殿堂入り候補にノミネートされた。
ファン投票でも2位になったが、殿堂入りは果たせなかった。

2018年6月には9枚目のスタジオ盤「Bad Witch」をリリースした。
攻撃的なサウンドとボーカル、一方でより静かで陰鬱な楽曲で構成され、6曲収録で合計30分という簡潔なアルバムである。
このアルバムでは今までほとんど無かったサックスを使用しており、またトレントは時折普段とは異なる方法で歌っている。

2020年1月にナイン・インチ・ネイルズはようやく正式にロックの殿堂入りメンバーに選出された。
同年3月、10枚目と11枚目のスタジオアルバムとなる「Ghosts V: Together」と「Ghosts VI: Locusts」を同時リリースした。
これは2008年の「Ghosts I-IV」の続編で、コロナパンデミックの間、バンドのファンとの連帯を示すために無料でリリースされた。

2022年9月、ナイン・インチ・ネイルズは2013年以来初めて故郷クリーブランドで公演を行った。
バンドは現在も活動継続中で、ライブツアーも行い、映画やゲーム音楽制作も手掛けており、今年10月公開予定の映画「Tron: Ares」のサウンドトラックも制作しているとのこと。

以上がナイン・インチ・ネイルズの複雑で華麗なヒストリーである。
そもそもバンドについて大幅に勘違いしていたので、知ってた話はひとつもない。
なんにも知らないうちにロックの殿堂入りまで果たしてしまった、という状態。(論外)

逆になぜ名前だけ知っていたのかもよくわからない。
ちなみにバンド名の由来は「9インチの釘で十字架にかけられたイエス・キリスト」から来ている説、ホラー映画「エルム街の悪夢」の悪役フレディ・クルーガーの右手にはめられた鉄の鉤爪から取った説などがあるが、どれもファンの間で広まった噂のようだ。
トレント・レズナー自身は「ナイン・インチ・ネイルズ」という名前を「簡単にNINと省略できるから」という理由で選んだと発言している。
それが一番ウソっぽいんですけど・・・

見た目についてもキッスやトゥイステッド・シスターみたいなメイクを施したメタル系の人たち・・と勝手に勘違いしていたが、全然違っていた。
トレント・レズナーやメンバーの宣材?写真も見たが、インディーズ団体の格闘家みたいな風貌である。
曲もいくつかYou Tubeで聴いてみたが、どれも暗く難解な音のする上級者向けの楽曲だった。

というわけで、ナイン・インチ・ネイルズ。
自分みたいな素人にはとても聴ける音楽ではなさそうですが、もし初心者向けのアルバムがあるようでしたら教えていただけたらと思います。

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ナイン・インチ・ネイルズ Pretty Hate Machine
Hesitation-marks
ナイン・インチ・ネイルズ Hesitation Marks
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