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聴いてない 第323回 スリー・ドッグ・ナイト

前回のCCRに続いてアメリカの古くて変わった名前のバンドをご紹介します。
スリー・ドッグ・ナイト、やはり聴いてません。
86年頃にFMの「アメリカン・ポップスDJ」という特番で、CCRの「雨を見たかい」を録音したが、同じ番組でオンエアされたのがスリー・ドッグ・ナイトの「An Old Fashioned Love Song」だった。
この1曲だけ録音したが、以来他の曲を全く聴くこともなく現在に至る。
従ってCCR同様に聴いてない度も2。

そこでスリー・ドッグ・ナイトについても調べてみたが、当然だけどCCRとは全く異なる原理と経歴を持っていた。
さらにバンドの歴史にからむ関係者に、意外な人たちの名前が見つかった。
意外と思ったのは自分だけで、ファンにとっては常識なのかもしれませんけど・・・

スリー・ドッグ・ナイトの原型は1967年ロサンゼルスで結成されたレッドウッドというグループ。
ダニー・ハットン、チャック・ネグロン、コリー・ウェルズの歌える3人がレッドウッドを組んだが、これが後のスリー・ドッグ・ナイトである。

レッドウッドをデビューに先立ってサポートしようとしたのは、ビーチ・ボーイズのブライアン・ウィルソンだった。
レッドウッドはブライアンとともに3曲ほどレコーディングし、ビーチ・ボーイズが設立したブラザー・レコードと契約させ、アルバムのプロデュースもブライアンが行う予定だった。

だが、ブライアン以外のメンバーはこれに反対する。
当時ビーチ・ボーイズは「Smiley Smile」が商業的に失敗し、またブライアンが心身ともに不安定になりバンド活動にいまいち身が入らない状況にあった。
他のメンバーはこの状況を打破するためにはブライアンの力をビーチ・ボーイズにのみ振り向ける必要があると考えたようだ。
メンバーはブライアンに「そんな新人バンドの面倒なんか見ないでビーチ・ボーイズに集中せえよ」と詰め寄ったらしい。
ブライアンに頼らず自分たちでビーチ・ボーイズを立て直そうとは思わなかったんですかね?

レッドウッドの演奏や歌は残念ながらブライアンの期待したレベルではなく、ビーチ・ボーイズのメンバーからの圧力もあり、結局ブライアンはレッドウッドのサポートを断念。
ブライアンに頼れなくなったレッドウッドは、自力でのデビューに向けて追加メンバーを雇うことにした。
採用されたのはギターのロン・モーガン、ドラムのフロイド・スニード、ベースのジョー・シェルミー、キーボードのジミー・グリーンスプーンの4人。
だがロン・モーガンはアルバム録音前に脱退し、代わってマイケル・オールサップが加入。
7人組となったバンドはスリー・ドッグ・ナイトに改名した。
このボーカル隊3人+演奏4人という変わった編成が、スリー・ドッグ・ナイトの特徴でもある。

スリー・ドッグ・ナイトという妙な名前は、「オーストラリア先住民アボリジニが寒い夜には犬を3匹抱いて眠る」という慣習から来ているとのこと。
ボーカルのダニー・ハットンの恋人ジューン・フェアチャイルドが、雑誌記事を読んでこの名前を提案したそうだ。
低偏差値な疑問ですけど、これって「three dogs」じゃなくていいんでしょうか・・・?

スリー・ドッグ・ナイトは68年にデビューを果たし、アルバム「Three Dog Night」とシングル「Nobody」「Try a Little Tenderness」がリリースされた。
この2曲は当初思ったほど売れず、バンドは気を取り直して次のアルバム制作に取りかかる。
だがハリー・ニルソンのカバー曲「One」が3枚目のシングルとして発表されると、すぐにヒットチャートを急上昇し、最終的に全米5位に達した。
この曲の人気を利用するため、アルバムジャケットのグループ名の下に「One」というタイトルが後から追加されている。

70年には「Mama Told Me Not to Come」で全米1位を獲得。
この曲はもともとランディ・ニューマンがエリック・バードンのソロアルバムのために書いた曲である。
さらに71年にもフォークシンガーのホイト・アクストンが作った「Joy to the World」をリリースし、全米1位になった。
また同年ポール・ウィリアムズが書いた「An Old Fashioned Love Song」もヒットさせている。
スリー・ドッグ・ナイトはこの後も他人が作ったいい曲を発掘してヒットさせるパターンを続け、74年にはレオ・セイヤー作の「The Show Must Go On」も全米4位を記録した。

だがスリー・ドッグ・ナイトはこの頃から混乱してくる。
ベースのジョー・シェルミーは73年初めに脱退し、直後にジャック・ライランドが加入。
さらにキーボードのスキップ・コンテが加わり、一時的に8人編成となった。

74年後半にはマイケル・オールサップとフロイド・スニードが脱退する。
後任のジェームズ・スミスとミッキー・マクミールが加入したが、二人とも2年持たず脱退している。
なおフロイド・スニードは、先に脱退したジョー・シェルミーと、後にTOTOのメンバーとなるボビー・キンボールと共にSSフールズを結成している。
スリー・ドッグ・ナイトはその後もメンバーチェンジが続いたが、基本的に入れ替わっていたのは演奏組だった。

しかし歌唱隊の3人も決して安定はしていなかったようだ。
ボーカルのダニー・ハットンはコカインとアルコールの乱用でレコーディングやセッションを欠席するようになり、最終的には75年後半にバンドから解雇されてしまう。
ダニーは結成当時の中心メンバーだった歌唱隊からの最初の脱落者となり、代わってジェイ・グルスカが加入した。
また75年のツアーの最初のコンサート開始前に、チャック・ネグロンは麻薬所持で逮捕されている。(すぐに1万ドルの保釈金で釈放)

バンド内部の不安定さは成績にも影響した。
75年5月にリリースされたアルバム「Coming Down Your Way」は、売れ行きが振るわず全米70位どまり。
また「Til The World Ends」をアルバムからの唯一のシングルとしてリリースしたが、結果的にこれがバンドにとって最後のトップ40ヒット(32位)となった。
不振の原因はレーベル変更やディスコミュージックの人気の高まりによるプロモーションの失敗とも言われたが、メンバーもファンも結果に失望。
がっかりしたバンドは、76年7月ロサンゼルスで最後の公演を行い解散する。

でもスリー・ドッグ・ナイトは案外早く再結成する。
81年にはジョー・シェルミーを除くデビュー当時の6人に、マイク・セイフリットを加えた編成で再結成された。
マイクは当時リック・スプリングフィールドのヒット曲「Don't Walk Away」などでベースを弾いていた人物である。

再結成スリー・ドッグ・ナイトは83年に5曲入りEP「It's a Jungle」をパスポート・レコードという小さなレーベルからリリース。
ただ音楽性はかなり変わっていて、スカ調の5曲全てがメンバー外の人による作品であった。
再結成してもメンバーは自前の曲にあまりこだわらない点は変わらなかったようだ。
パスポート・レコードはすぐ倒産したため、このEPは売れなかったが、後年再評価されている。

めでたく再結成はしたものの、すでに歌唱隊3人の求心力もなく、その後もやっぱりメンバー・チェンジが繰り返される。
マイケル・オールサップは活動を休みがちになりやがて脱退。
ポール・キングリーとスティーブ・エッツォがヘルプで加わり、その後正式に加入。
同時にフロイド・スニードは解雇され、マイク・キーリーと交代した。
キーボード担当はジミー・グリーンスプーンが病気→代役としてデビッド・ブルーフィールド加入→リック・セラットに交代→回復したジミー・グリーンスプーン復帰、と目まぐるしく変動。

チャック・ネグロンは85年にまたクスリのやり過ぎでついにバンドを解雇された。
リハビリを続けたが、結局バンドには復帰していない。
ポール・キングリーとマイケル・オールサップは80年代から90年代にかけて脱退と復帰を何度か繰り返している。
これだけ出入りの激しい期間でも、バンドはツアーに出て演奏してたというからすごい話だ。

ただこの時期のスリー・ドッグ・ナイトは、日本では話題になることはほとんどなかったのではないかと思う。
自分にとっての三大洋楽講師である柏村武昭・小林克也・東郷かおる子も、誰一人再結成スリー・ドッグ・ナイトを案内していなかった。(してたらすいません)
渋谷陽一やピーター・バラカンは当時の日本のヤング向けにきちんと案内していたのだろうか?(上から目線)

90年代以降もバンドは変動継続。
93年、パット・バウツがマイク・キーリーの後任としてドラマーに就任。
結成当時の演奏隊だったベーシストのジョー・シェルミーは2002年3月に死去した。

21世紀に入るとバンドはクラシックオーケストラと接近する。
2002年5月にロンドン交響楽団とのコラボ盤「Three Dog Night with The London Symphony Orchestra」をリリース。
ロサンゼルスとロンドンで録音され、新曲「Overground」「Sault Ste. Marie」が収録されている。
またテネシー交響楽団との演奏を収録したDVD「Three Dog Night Live With the Tennessee Symphony Orchestra」もリリースされた。

さらに2004年10月、スリー・ドッグ・ナイトは35周年記念ヒット曲集盤「The 35th Anniversary Hits Collection Featuring The London Symphony Orchestra」をリリースした。
本編は2002年のロンドン交響楽団とのコラボ盤で、ボーナストラックとして「Eli's Coming」「Brickyard Blues」「Try a Little Tenderness」「Family of Man」のテネシー交響楽団とのライブバージョンが収録されている。

長く活動を続けてきたスリー・ドッグ・ナイトだが、メンバーの高齢化や病気は避けられなかった。
2012年の夏、ギタリストのマイケル・オールサップが病気で入院したため、ベースのポール・キングリーはギターに戻らざるを得なくなり、ダニー・ハットンの息子ティモシーがベースを弾いた。
ティモシーは今もバンドの正式なメンバーとして活動している。
息子が加入して親子でステージに立つという図式は、イーグルスチープ・トリックヴァン・ヘイレンなど名門バンドで最近よく見られるパターンである。

2015年3月にはキーボードのジミー・グリーンスプーンが癌のため67歳で亡くなった。
同じ年の10月21日、結成当時から歌い続けてきたコリー・ウェルズが74歳で死亡。

主要メンバーの病欠や死亡、またコロナ禍により一時期停滞していたスリー・ドッグ・ナイトだが、2021年からはツアーを再開。
バンドは現在も活動中で、新曲や新盤も計画中とのこと。
結成当時のメンバーで残っているのはダニー・ハットンだけである。
マイケル・オールサップは現在もスリー・ドッグ・ナイトのメンバーだが、ツアーからは引退しているそうだ。
昨年1月には結成時のドラマーのフロイド・スニードも亡くなっている。

以上がスリー・ドッグ・ナイトの波乱と混沌と薬物の歴史絵巻である。
CCR同様知ってた話は一切ない。
デビューにあたりブライアン・ウィルソンが後押ししようとしたことも知らなかった。
歌唱隊と演奏隊という明確な分担があるバンドってのも珍しい構成だと思う。
ボーカル組のコリー・ウェルズも多少は楽器を使ったらしいけど。
出入りの激しい団体だが、全メンバーを覚えているファンはいたりするんだろうか?

「An Old Fashioned Love Song」以外の70年代の曲をYou Tubeでいくつか聴いてみたが、全米1位の「Joy to the World」はどこかで聴いたことがある。
他はどこかメルヘンでフラワーなクスリっぽい曲が多い気がする。(伝わらない)
好みかどうか微妙ではあるが、聴きやすい音ではあると感じた。

ちなみに「An Old Fashioned Love Song」は、ポール・ウィリアムズが元々はカーペンターズのために書いた曲だったらしい。
だがタイトルの「古くさい時代遅れのダサいラブソング」が、それ系のヒット曲で人気だったカーペンターズにとっては皮肉だと思われたらしく、リチャード・カーペンターは歌うことを断ったとのこと。
スリー・ドッグ・ナイトが歌ってヒットしたので、リチャードの判断は正しかったのか、微妙なところですけど。

というわけで、スリー・ドッグ・ナイト。
聴くとしたら「An Old Fashioned Love Song」収録の「Harmony」からかなと思いましたが・・
果たして我が国にどれだけファンの方がおられるのかわかりませんが、もし必聴盤があるならば教えていただけたらと思います。

Three-dog-night
Three Dog Night One
Harmony
スリー・ドッグ・ナイト Harmony
Three-dog-night_book
落合恵子 三匹の犬と眠る夜

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
3DNはベスト盤2種とライブ盤を聞いています。オリジナル盤を
聞いていないですが、あえてベスト盤を聞くことをおすすめ
します。3DNはヒット曲を聞くバンドだと思うからです。
記事中に出た曲「One」、「Try A…」、「Joy To…」、
「Old Fashoned…」は間違いなく収録されていますし、
「Family of Man」や「Out in The Country」が収録されていれば
完璧です。

こんな感じでヒット曲は知っていますが、メンバー名も歴史も
全く知りません。それでもおすすめできる理由は、ボーカルと
曲がとてもよいからです。そして楽しいです。
私が3DNを知ったのは、80年代の終わりです。MTVの懐かし特集で
「One」と「Try A…」を見ました。前者のサビのボーカルと
コーラスの熱いコール&レスポンス、後者のエセソウル感が
気に入ってベスト盤を探しました。すると、すぐに見つかったの
です。ロック評論にはまず登場しないバンドですが、CD拡販期
にはヒット曲の多さから重宝されたのでしょう。
ちなみに、「Old Fashoned…」と「Out in The Country」は
後に好きになるロジャー・ニコルスとポール・ウィリアムス関係で
不思議な縁を感じます。S.S.フールズもB級AORで、それなりに
楽しいです。

>>ただ音楽性はかなり変わっていて、スカ調の5曲全て

再結成でこういうことをやると、まず受けないですね。
失敗の見本のようです。

>>渋谷陽一や(略)きちんと案内していたのだろうか?

日本の洋楽エバンジェリストの至高・渋谷先生は名著
「ロック ベスト・アルバム・セレクション」で
取り上げています。さすが、渋谷先生です。

投稿: モンスリー | 2024.11.10 21:25

モンスリーさん、こんばんは。

>オリジナル盤を聞いていないですが、あえてベスト盤を聞くことをおすすめします。3DNはヒット曲を聞くバンドだと思うからです。

そう言われると少し気がラクになります。
まあ確かにテーマを持ってコンセプトアルバムをきっちり作るというスタイルではないようですね。

>それでもおすすめできる理由は、ボーカルと曲がとてもよいからです。そして楽しいです。

おお、高評価ですね!
純粋に楽曲を味わう意味では、聴きやすいバンドなんですかね。
モメ事ばかり追っかける自分がおかしいのはその通りですけど・・

>S.S.フールズもB級AORで、それなりに楽しいです。

今回S.S.フールズのことは初めて知りました。
ボビー・キンボールが歌っているのと、デビッド・ペイチの作った曲があるという点で興味がわきました。
日本でアルバム入手は可能なんですかね?

>日本の洋楽エバンジェリストの至高・渋谷先生は名著「ロック ベスト・アルバム・セレクション」で取り上げています。

そうだっけ?(不機嫌)
本は持ってますけど、スリー・ドッグ・ナイトのページは全然記憶に残ってませんでした・・
まあ後でもう一度見といてやるかな。(エラそう)

投稿: SYUNJI | 2024.11.12 21:33

こんばんは、JTです。

スリー・ドッグ・ナイト、CDはベスト盤のみ、最近購入したアナログ中古盤で「Harmony」とライブ盤2枚しか聴いた事がありません。

そういった訳でそんなにメンバーチェンジしていることも今回初めて知りました。

>ちなみに「An Old Fashioned Love Song」は、ポール・ウィリアムズが元々はカーペンターズのために書いた曲だったらしい。

これは知っていました。
前半の甘いメロディ(ナイトクラブ風?)を聴くとカレンが歌う事を想定して作った感じがしますね。

サビはロック調になっていますが、ポール・ウィリアムズが歌っているバージョンを聴くと、カントリー風なんですよね。

あと「An Old Fashioned Love Song」のシングルのB面で「Harmony」にも収録されている「JAM」という曲、ファンキーでよいです。
楽器隊の人たちはこういう路線が好みだったのではないでしょうか。

投稿: JT | 2024.11.18 17:59

JTさん、こんばんは。

>スリー・ドッグ・ナイト、CDはベスト盤のみ、最近購入したアナログ中古盤で「Harmony」とライブ盤2枚しか聴いた事がありません。

みなさんやはり聴いておられますね・・
FMのエアチェック1曲で終わってる自分が貧弱なだけなんでしょうけど。

>そういった訳でそんなにメンバーチェンジしていることも今回初めて知りました。

自分も調べてみて驚きましたが、ウィキペディア英語版にメンバーとタイムラインが載っていて、総勢30人くらいになっています。

>前半の甘いメロディ(ナイトクラブ風?)を聴くとカレンが歌う事を想定して作った感じがしますね。

これはカレンの声で聴いてみたいですね。
そのうち(すでに?)AI生成で好きな歌手の声で勝手に曲を作れるようになるかもしれないですね。

>あと「An Old Fashioned Love Song」のシングルのB面で「Harmony」にも収録されている「JAM」という曲、ファンキーでよいです。

思っていた以上に幅広い音楽性を持っているバンドみたいですね。
これだけメンバーが入れ替わればそうなるのかもしれませんが・・
やはり「Harmony」から聴くのがよさそうですね。

投稿: SYUNJI | 2024.11.18 18:21

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