聴いてみた 第183回 ポール・マッカートニー その6
高齢者洋楽手遅れ終活学習講座、今日はポール・マッカートニーの「Flaming Pie」を聴いてみました。
「Flaming Pie」は97年リリース。
ただし大半の曲は90年頃に作られており、ポールは当時始まったビートルズ・アンソロジー・プロジェクトを優先させたため、発表は大幅に後回しとなった。
アンソロジー・プロジェクトに参加したELOのジェフ・リンが、このアルバムでもプロデューサーを務めており、サウンドのあちこちにジェフの香りを感じることができるらしい。
ポールとジェフとジョージ・マーティンの共同プロデュースだが、全曲3人プロデュースではなく、ポールが全曲、ジェフは8曲、ジョージ・マーティンは2曲手がけている。
リンダもいくつかの曲で歌っているが、残念ながらリンダが参加した最後のアルバムになってしまった。
タイトル「Flaming Pie」は、ビートルズ命名の由来とされる「燃え盛るパイ」。
ジョン・レノンが見た夢を「燃え盛るパイに乗った男から『お前たちは今日からBeetleをBeatleに変えたビートルズだ!』と言われた」と語った話から来ているそうだ。
4人にだけ通じる内輪のギャグみたいな言葉だが、ここでもポールのビートルズへの想いが込められているのだろう。
ポールのソロ作品でも特にビートルズのテイストを感じるアルバムとなっているとされる「Flaming Pie」。
果たしてどんな音がするのでしょうか。
・・・・・聴いてみた。
1.The Song We Were Singing
おだやかに始まる、安心と実績のスタート。
昔ジョンとリバプールで曲を作ったり歌ったりしたことを書いた曲。
2.The World Tonight
トム・ペティ風と書いてるサイトもあったが、確かにトムが歌いそうな曲ではある。
これは間違いなくジェフ・リンの仕業だろう。
リズムもサウンドもジェフのものである。
シングルカットもされており、全英23位。
3.If You Wanna
メロディは明るくないが、リズムは軽快。
クレジットにジェフの名はないが、どこかポールがジェフの音に寄せたような感じがする。
4.Somedays
物悲しい旋律をポールがアコースティックギターで静かに語り始める。
その後ストリングスやオーボエなどが加わり、小さくまとまって静かに終わる。
5.Young Boy
発表当時リアルタイムで聴いた唯一の曲。
ポールらしい軽快で明るいサウンド。
スティーブ・ミラーがボーカルとギターで参加。
歌詞は若者への応援歌だが、息子ジェームスに呼びかけた内容らしい。
最初のシングルとして発表され、全英19位を記録している。
6.Calico Skies
ジョージ・マーティンとの共作で、楽器はアコースティックギターだけ(だと思う)。
反戦や平和についてのメッセージソングで、ポールらしい美しい小作品だ。
アメリカで休暇中にハリケーンが来て停電となった中で作られた曲とのこと。
2002年の大阪でのステージで初めてライブ演奏されている。
「Calico」は日本語ではキャラコと呼ばれる木綿のことだが、「まだら」という意味もあり、いろいろ解釈があるようだ。
7.Flaming Pie
アルバムタイトルにもなった曲だが、かなりヘビーでややヤケクソな70年代調ロック。
たぶんジョンを意識してのことだと思う。
8.Heaven on a Sunday
ミドルテンポのリズムにわりと静かに楽器が鳴る。
息子のジェームスがギターを弾いている。
この曲はコーラスがよく聞こえる。
ポールによれば「For No One」に少し手を加えて作った曲だそうだが、そう言われてもそれほど似ている気はしないが・・
9.Used to Be Bad
この曲でもスティーブ・ミラーが参加。
ボーカルをポールと分け合うデュエットだが、曲調はブルースでサウンドもスティーブ・ミラーがけっこう前に出てきている。
「オレは昔ワルだった」という、世界中の男の誰もが一度は口にしたことがある(そして大半は盛っている)フレーズと、そこから学んだ教訓を語る内容。
10.Souvenir
リズムはゆったりワルツだが、ギターやホーンなどが思ったより重く響く。
バックコーラスも厚塗りでウィングス時代を思わせる。
11.Little Willow
「Willow」とは柳の木のことで、ポールがリンゴの亡くなった元妻モーリーンを思い浮かべて作った曲。
美しい調べに乗せて静かに歌うポール、本領発揮の一曲である。
12.Really Love You
リンゴとの共作で、プロデュースはポールとジェフ。
次の曲「Beautiful Night」を録音した後、3人がかりで即興で作った曲とのこと。
やや暗めなベースラインがどこかポリスを思わせる。
13.Beautiful Night
3枚目のシングルとしてリリースされ、全英25位を記録した曲。
ジョージ・マーティンがオーケストラを加えて壮大なサウンドが完成。
リンゴも参加しており、エンディングでのタイトル連呼でもリンゴの声が聞こえる。
そもそもリンゴ参加はジェフの提案だったそうだ。
個人的にはこの曲でラストとしたほうがよかったのではと思う。
14.Great Day
ラストはホワイトアルバムにあってもおかしくないヒネたメロディ。
これもビートルズ的編集で「Her Majesty」のような妙な小作品を最後に持ってきている。
原案は74年頃のウィングス時代に録音されており、ポールは過去にライブでも演奏したことがあるそうなので、気に入って最後に押し込んだのだろう。
やはりありきたりな形ではアルバムを終わらせないのがポールということか?
聴き終えた。
全体的にまとまりがあり、それほど聴きづらい曲もなく、ポールの作品として規格内に収まってはいる。
仮定は無意味だが、10年早く発表されていたら、間違いなく愛聴盤になっていたはずである。
・・・なのだが、思ったよりも辛口な曲が多く、意外にヘビーな印象もある。
「The Song We Were Singing」「Calico Skies」など、お得意の甘いメロディやおだやかなサウンドもあるが、スティーブ・ミラー参加の「Used to Be Bad」、リンゴとの共作「Really Love You」はいずれもブルージーなロックである。
またジェフ・リンだが、これも思ったほど前には出てきていないと感じた。
ジェフの力で聴きやすくなっていることは確かだが、ジョージ・ハリスンの「Cloud Nine」や、アンソロジーで披露した「Free As a Bird」よりも、ジェフ色は薄い気がする。
英米の音楽業界では、グリン・ジョンズやフィル・スペクター、ナイル・ロジャースやトレヴァー・ホーン、ロバート・ラング(ジョン・マット・ランジ)やスティーブ・リリーホワイトといった濃すぎる名プロデューサーたちがヒットサウンドを作り上げてきた実績があるが、ジェフ・リンもその一人ではある。
そのジェフもさすがにポール・マッカートニーの作品を自分の色にべったり染めるところまでは行っていないと思う。
ジェフがその点はわきまえたのか、ポールが払いのけたのかはわからないが・・・
ジャケットはモノクロの粗いポールの写真。
ジャケットに顔写真を使うことが多いポールだが、このアルバムでは特にタイトルを想起させる絵でもなく、歴代の作品の中でも簡素な造りである。
悪くはないが、思ったより印象に残らないアートだ。
というわけで、「Flaming Pie」。
予想よりも辛口なサウンドが多くやや戸惑いましたが、全般的には聴きやすくまとまりのあるアルバムだと感じました。
大ヒット曲もなく、ポールの代表作・最高傑作という評価でもないと思いますが、聴けてよかったです。
次回は「Press to Play」「Flowers in the Dirt」のどちらかを試してみようかと思います。
ポール・マッカートニー Press to Play |
ポール・マッカートニー Flowers in the Dirt |
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