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聴いてない 第306回 UB40

自分の場合、長く洋楽を聴いてきたわりにほとんど手を出さなかったジャンルがいくつかある。
メタルやパンク、グランジやオルタナ、ブラックミュージックやダンス、ヒップホップやラップなどがそうだが(壊滅)、レゲエもそのひとつ。
ボブ・マーリーもジミー・クリフもサード・ワールドもスペシャルズもダイアナ・キングも全然聴いていないが、UB40ももちろん聴いていない。

UB40で聴いたことがあるのは「(I Can't Help) Falling in Love With You(好きにならずにいられない)」だけ。
MTVの音声をテープに録音したのだが、たまたま録音できただけで狙ったわけではない。
映像はもう覚えておらず、何人組なのかどこの国の人たちなのかも不明。
時々B-52'sと混同しそうになるが、その程度の認識。(どっちにも失礼)
聴いてない度は2である。

新NISAと同じくらいよくわかっていないUB40。
証券会社に適当なことを吹き込まれる前に、UB40について人生初の自主的学習を断行。(ネットで調べるだけ)

UB40は1978年12月にイギリスのバーミンガムで結成されたレゲエ&ポップバンドである。
・・・78年結成は少し驚き。
てっきり80年代後半くらいに登場したグループかと思ってました・・

結成当時のメンバーは以下のみなさんである。
アリ・キャンベル(Vo・G)
ロビン・キャンベル(G・Vo)
ジミー・ブラウン(D)
アール・ファルコナー (B)
ノーマン・ハッサン (Per・Vo)
ブライアン・トラヴァース(Sax)
ジミー・リン(K)
ヨミ・ババエミ(Per)

78年半ばにアリ・キャンベルがヨミとジミーとアールのリズム隊と共に、レゲエのリハーサルを始めたのがUB40の源流。
そこにノーマン・ハッサン、ブライアン・トラヴァースとジミー・リンが加わり、さらにアリの弟ロビンもバンドに参加した。
「UB40」という名前は「Unemployment Benefit, Form 40」の略で、イギリス政府の雇用局から失業手当を請求する人に発行される出席カードを意味するとのこと。

ネットでは「30年近く安定した不動のメンバー」などと紹介されていることが多いが、結成当初はメンバーチェンジが相次いでいる。
79年2月に初ライブを行ったが、直後にヨミ・ババエミとジミー・リンが脱退し、ミッキー・ヴァーチュー(K)が加入。
さらに1ヵ月後パーカッショニスト兼ボーカリストのアストロが加わることになった。

ブレイクのきっかけはクリッシー・ハインドだった。(意外・・)
クリッシーがたまたまパブでUB40の演奏を見て、プリテンダーズのサポートアクトに起用したことで人気が出たとのこと。
最初のシングル「King」/「Food for Thought」は、地元バーミンガムのインディーズレーベル「Graduate Records」から80年にリリースされ、全英シングルチャートで4位を記録した。
(アメリカでは未発表。ニュージーランドでは1位)

同年8月ファーストアルバム「Signing Off」を発表。
10月にはUKアルバム・チャートに登場し、最高2位まで上昇。
合計71週にわたりチャートにランクインし、最終的にプラチナ・アルバムを獲得。
ちなみにニュージーランドでは4位。
このバンドはニュージーランドで人気が高く、その後もアルバム・シングルとも何度も1位を獲得している。

その後はアメリカでの快進撃が始まる・・・のだが、全く知らない話だった。
83年にカバー曲集アルバム「Labour of Love」を発表。
ニール・ダイヤモンドのカバーである「Red Red Wine」が収録されており、83年に全英1位を記録。
さらになぜか5年後の88年に全米1位も獲得している。
その「Red Red Wine」ヒットにつられてアルバムも発表の5年後に全英1位・全米14位を記録した。
・・・全然知らない・・・83年も88年もいちおうそれなりにチャートは追ってたはずだが、UB40がそんなヒットを放っていたとは知らなかった。
柏村武昭は何をしていたのだろう?
あと5年後に再ヒットってのも理由がよくわからないが・・・

なおその5年の間にも他のヒット曲が出ている。
85年にはクリッシーとのデュエット曲「I Got You Babe」(ソニー&シェールのカバー)が全英・全豪およびアイルランドとニュージーランドで1位になっている。
・・・全然知らない・・・
東郷かおる子は何をしていたのだろう?

すっかり人気者になったUB40(受け売り)、88年6月にはロンドンで行われたネルソン・マンデラ70歳誕生日トリビュート・コンサートに、ダイアー・ストレイツ、ジョージ・マイケル、ホイットニー・ヒューストンビージーズなどの大物芸人たちとともに出演。
90年にロバート・パーマーとUB40はボブ・ディランのカバー「I'll Be Your Baby Tonight」をリリースした。
この曲はロバート・パーマーのアルバム「Don't Explain」に収録され、イギリスとアイルランドで6位、ニュージーランドでは1位を獲得。

そして93年にバンド史上最大のヒットシングルがリリースされた。
プレスリーの「(I Can't Help) Falling in Love With You」を、93年のアルバム「Promises and Lies」からのファースト・シングルとしてカバー。
するとアメリカ、オーストラリア、オーストリア、オランダ、ニュージーランド、イギリスを含む11カ国のチャートで1位という世界的なヒットとなった。
さらにシャロン・ストーン主演の映画「Sliver」のメインタイトルにも使用された。
厳密にはシングル盤と映画のサントラ盤では曲名表記やバージョンが少し異なっているそうだ。
またこの曲は97年の映画「スピード2 クルーズ・コントロール」にも使われ、UB40のメンバーも映画にゲスト出演している。

95年にはエディ・マーフィ主演映画「ヴァンパイア・イン・ブルックリン」のためにスティービー・ワンダーの「Superstition」をカバーした。
その後も毎年コンスタントにシングルやアルバムを発表。
ただしチャート上位を賑わすことは減っていき、本国イギリス以外での発売も行われなくなった。

2003年、UB40とユナイテッド・カラーズ・オブ・サウンドは「Swing Low, Sweet Chariot」をラグビー・ユニオン・チームのイングランド代表の公式アンセムとして録音。
その年のワールドカップでイングランドが優勝した後、イギリスのシングルチャートで15位を記録した。
しかし2005年のシングル「Bling Bling」は全英100位にも入らず、人気の高かったニュージーランドでも78位に終わり、以降現在まで各国チャートにランクインされた曲はない。

盤石と思われたUB40のメンバー間にも亀裂が生じ始める。
2008年1月、アリ・キャンベルがグループを脱退することが発表された。
当初はアリがソロプロジェクトに専念するためとされていたが、後にアリ本人が脱退の理由としてマネジメントとビジネス上の問題だと発言した。
さらにキーボードのミッキー・ヴァーチューもアリに続いて脱退してしまう。

この騒動の後で、バーミンガムの地元新聞は「マキシ・プリーストがUB40の新しいボーカルになり、バンドと共にボブ・マーリーの「I Shot the Sheriff」を録音か?」などと東スポっぽく報道した。
マキシ・プリーストは2007年のUB40のツアーにゲスト参加しており、マキシ登場でバーミンガムでの公演はソールドアウトになったので、ファンもこれはいよいよマキシがUB40加入か?と期待したようだ。
しかしバンドの広報はこれを否定。
「マキシはバンドと協力してレコーディングはしたが、アリ・キャンベルに代わってボーカルやりますという決定はなされてはいない」とのコメントを発表している。
その後BBCが「アリの代わりに兄のダンカンがバンドに参加し、マキシ・プリーストもツアーのラインアップを強化する」と報じた。
結果としてはBBCの報道のとおりとなり、マキシはUB40の正式メンバーとはならなかった。
なおダンカンを「アリの弟」と書いてるサイトもいくつかあったが、英語版ウィキペディアを確認したらダンカンは1958年生まれ、アリは59年生まれなので、「アリがダンカンの弟」というのが正しいようだ。

この騒動の中でアリ在籍の最後のアルバム「TwentyFourSeven」(10曲入り)を、イギリスの保守系タブロイド紙「The Mail on Sunday」の2008年5月4日号に無料で挿入する方法で発表する。
バンドの意向なのか事務所の思いつきなのかは不明だが、タダでUB40の新盤が手に入るということでこの号は300万部近く売れた。
このため6月21日に17曲入りのフルバージョンアルバムがふつうに発売されると、大手CD販売店のほとんどが反発し入荷や販売を拒否。
公式アルバムがそれまですべて全英アルバムチャートでトップ50に入っていたが、「TwentyFourSeven」は81位に終わり、50位に入らなかった初めてのアルバムとなってしまった。
そりゃそうでしょうよ、タダで配ったりするから・・・

2009年、UB40は新ボーカルにダンカン・キャンベルを迎えて初のニューアルバム「Labour of Love IV」をリリースした。
全14曲のカバー集で、スモーキー・ロビンソン&ミラクルズの「The Tracks of My Tears」も収録されている。
ボーカル交代という大きな変化があったが、それなりに健闘し、2週間だけ全英チャートにランクインし、最高24位を記録した。

しかし2011年にバンド最大の危機が発生。
UB40のブライアン・トラヴァース、ジミー・ブラウン、テレンス・オズワルド、ノーマン・ハッサンと、元メンバーのアリ・キャンベルも破産を宣告された。
メンバーのうちロビンだけはなぜか破産宣告を免れたそうだ。
破産以前にバンドのレコード会社とマネジメント事務所を兼務していたDEPインターナショナルの破綻が明らかになっていたが、破綻に伴いメンバー間の対立もあり、アリ・キャンベルが脱退したのも対立が理由だった。
アリは「会社はいずれ破綻するぞ」とメンバーに警告していたはずだと語っている。

この破綻破産騒動は新旧メンバー間に深刻な対立を引き起こす。
バンドは2013年9月にニューアルバム「Getting Over the Storm」を発表。
成績は全英29位と微妙だったが、英国ツアーも行われ音楽ジャーナリストからは好評だった。
ただアリ・キャンベルは「オレは5年間ずっと、ダンカンがオレの歌を殺しているのを見ていた」と兄ダンカンやバンドを批判。
また同年11月にアストロが「バンドは舵のない船で、バンドとマネジメントの間にコミュニケーションが欠如している」と発言して脱退。
アルバムのカントリー寄りの方向性も気に入らなかったらしい。

その後アストロは2013年12月にロンドンのO2アリーナで行われたステージで、アリ・キャンベルとミッキー・ヴァーチューと共演。
翌年この元UB40トリオは新曲をレコーディングしたりツアーに出たりした。
このトリオに対してバンド側はUB40の名前の使用に関して訴訟を起こすというバンドあるあるな展開に。
訴えられたアリ・キャンベルは法廷外で和解することを選ばず、裁判所に行く用意があると発言した。
訴訟の結果は不明だが、かつてのメンバーたちは話し合いすらできないほど関係が悪化していたようだ。

ダンカン・キャンベルは2020年に脳卒中で倒れ、翌年弟アリと和解することなくUB40を引退。
後任ボーカルとして、同じバーミンガムのレゲエバンドKiokoのマット・ドイルが加入する。
この年にはサックスのブライアン・トラヴァースががんのため62歳で亡くなり、元メンバーのアストロも病気のため64歳で亡くなっている。
バンドは現在も活動中で、昨年マット・ドイルが歌う新曲も発表しているとのこと。

以上がUB40の信頼と実績と破綻の歴史である。
30年以上安定していたはずがまさかの破産と分裂という、月9ドラマのような展開。
もちろん知ってた話は全くない。
ヒット曲「Red Red Wine」「I Got You Babe」をYou Tubeで聴いてみたが、やはり聴いたことのない曲だった。

「(I Can't Help) Falling in Love With You(好きにならずにいられない)」はプレスリーのカバーであることは、聴いた時点でわかってはいた。
86年にコリー・ハートがこの曲をカバーしており、当時の雑誌でオリジナルがプレスリーで多くのミュージシャンによりカバーされているという情報を仕入れていたのだ。
プレスリーのカバーだとは知っていたが、特に気に入ったわけでもなく偶然録音できたので消さずに聴いていただけの状態。

特徴としては、「カバーが得意で独自のレゲエアレンジを行ってヒットさせる」バンドのようだ。
ベースはレゲエだがポップで親しみやすい音やアレンジが、ヨーロッパやアメリカでは受けたのだと思われる。
ただし歌詞はレゲエの精神や理念を継承しており、失業や人種差別などの問題を採り上げた社会派な内容が多いとのこと。

日本でもレゲエが好きな人はいるはずだが、やはりハードロック・メタル・プログレといったジャンルに比べ、ファンの数は少ないのではないかと思う。
レコード会社も事務所もUB40のメンバー本人たちも、日本をあまり魅力的で重要なマーケットだと思っていないのではないだろうか。
80年代当時、FM雑誌やミュージックライフでUB40の記事を見た記憶はないし、友人との会話に登場したこともない。
テレビやラジオでの露出もそうハデなものではなかったはずだ。
「好きにならずにいられない」がヒットしたのは93年だが、この頃はもうチャートをまじめに追うこともしなくなり、時々MTVを見ていた程度で、当時流行っていたと言えばホイットニー・ヒューストンやミート・ローフの印象しか残っていない。
自分が知らないだけで実はちゃんとUB40も日本で人気があったのかもしれないが・・・

というわけで、UB40。
聴くとしたら一番売れた「Promises and Lies」でいいとは思いますが、「Red Red Wine」収録の「Labour of Love」や、「I Got You Babe」が入った「Baggariddim」にも少しだけ興味はあります。
みなさまのUB40鑑賞履歴はいかがでしょうか?

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