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聴いてみた 第178回 リトル・フィート

致命的名盤を今さら聴いてみようかなシリーズ、今日聴いてみたのはリトル・フィートの「Dixie Chicken」。
実はかなり前にモンスリー師匠の名盤指導要領に沿って聴いてはみたものの、全く定着せずそのまま放置していた。
従って再履修ではあるが全曲にわたり記憶は喪失しているので、実質初めての鑑賞である。(問題外)

Dixie-chicken

再履修を前にアルバム制作背景を前室でスピード学習。
リトル・フィートは71年にデビューし、翌年「Sailin' Shoes」を発表するが全然売れず、ベースのロイ・エストラーダが脱退。
その後デラニー&ボニーのグループにいたケニー・グラッドニー(B)、サム・クレイトン (パーカッション)が加入。
さらにルイジアナ州出身のポール・バレアが加わり6人組となる。
ここからバンドは確変し、サウンドにファンク要素を採り入れていく。

73年にニューオーリンズ・サウンド大胆導入アルバム「Dixie Chicken」を発表。
ローウェル自身がプロデューサーを務め、ボニー・レイットもバックボーカルで参加している。
アルバムはチャートを賑わすような実績は残していないが、リトル・フィート初期の名盤として高く評価されているとのこと。

・・・名盤という評価はわかったが、ニューオーリンズやファンクがどういうものなのか全然理解しておらず、さらには聴いたくせに定着しなかったという前科があるため、再履修前から不安しかない。
もしまた定着しなかったら、それが自分の実力である。(ヤケクソ)
果たして自分はリトル・フィートやり直し鑑賞で小さな一歩を踏み出すことができるでしょうか。

・・・・・聴いてみた。

1.Dixie Chicken
けだるいリズムにピアノとかすれたギターで始まる名曲。
がなり系ボーカルにガヤ系コーラスで思ったより騒々しく、ライブのようなノリである。
「Dixie Chicken」は「南部のちょっといい女」を意味し、メンフィスでいい女に会っていい歌を歌ってくれて酒場をハシゴしていい感じになった・・と思ったら、実は地元で有名な浮気女で、1年後にとあるバーに行ったらその場にいた男全員があの歌を知っていた・・という物語。

2.Two Trains
これも雰囲気は前の曲と似ている。
楽器の音がどれもけっこう尖って聞こえる。

3.Roll Um Easy
アコースティックギターで静かに始まる弾き語り。
どこかイーグルスドゥービーを思わせる部分もあるが、どちらにもない雑でワイルドな味わい。
後にリンダ・ロンシュタットもカバーしたそうだ。

4.On Your Way Down
アラン・トゥーサンの作品。
スローテンポにキーボードが印象的な、映画音楽のようなサウンド。

5.Kiss It Off
これもボーカル中心の静かに始まる曲だが、なんとなくエスニック調な音が聞こえたり、SF映画っぽい人工的な効果音がはさまれたりで不思議な感覚の曲。

6.Fool Yourself
LPではここからB面。
のちにリトル・フィートに加入することになるフレッド・タケットの作品。
大きな盛り上がりはないが、ボーカルとコーラス、リズムとサウンドのバランスが取れていてまとまった印象。

7.Walkin' All Night
ビル・ペインとポール・バレルの共作。
ボーカルはポール・バレルだが、ローウェル・ジョージに比べて少し線が細い。

8.Fat Man in the Bathtub
独特のリズムに投げやりな楽器が響き、ライブ感が最も強い曲。
タイトルの「浴槽のデブ男」とは後先を考えないダメな男のことで、目の前の女やクスリにすがる哀れな姿を歌っている・・らしいが、訳詞を見てもいまいち意味がわからない。

9.Juliette
ジャズっぽいサウンドに乗せてローウェルが物悲しく歌う。
コーラスもそれぞれが主張していて、あまり調和していない気がするが、これがリトル・フィートのスタイルなのだろう。

10.Lafayette Railroad
ラストはギター中心のインスト。
エンディングとしてはやや物足りない感じがする。
タイトルの「Lafayette」はルイジアナ州南部の都市名とのこと。

聴き終えた。
聴いた記憶が残っていた曲は全くなく、やはり全てが初鑑賞同然だった。
とりあえず苦手な音や受け入れがたい感覚はなく、想定内のサウンドである。
では具体的にどこがニューオーリンズなサウンドなのかというと、そこはよくわからない。

「Roll Um Easy」「Fool Yourself」など、イーグルスやドゥービー・ブラザーズに近い雰囲気を感じる曲もある。
ただしイーグルスの清らかさやドゥービーのスクエア感はあまりなく、リトル・フィートはステージ上のメンバーがなんとなく離れて立っていてソデからソデまで目一杯使ってわらわら音を出しているような感じがする。

「On Your Way Down」「Fool Yourself」はいいとは感じた。
では繰り返し聴きたくなるアルバムか・・?と問われると、まだそこまでの感情は起こっていない。
拒絶感や苦手な感覚は特になかったので、なぜ定着しなかったのかもよくわからない。
最近ようやくわかってきたが、イーグルスもドゥービー・ブラザーズもザ・バンドも、おそらく自分にとっては「流れていても問題ないが、能動的に繰り返し聴きたくなる音とは違う」のだろう。
リトル・フィートも「Dixie Chicken」はその範疇にあると思われる。

タイトル曲「Dixie Chicken」は味わい深い曲だとは思う。
ただ少し気になったのは歌詞の解釈である。
歌詞にある「Dixie Chicken」と「Tennessee lamb」という組み合わせは男と女を表しているようだが、和訳した人によってChickenとlambのどっちが女かは異なっている。
歌を歌ったのは女のほうなので、「If you'll be my dixie chicken, I'll be your Tennessee lamb」という部分は、女の立場からすれば「もしあなたが私のディキシー・チキンになってくれたら、私はあなたのテネシー・ラムになるわ」となるので、Chickenが男でlambが女ということになる。
でも「これは男の立場で歌っている」と解釈してるサイトもあって、それだと「Dixie Chicken」は「南部のちょっといい女」を意味することになる・・・のだが、正直どちらが正しいのかはよくわからない。

さらに言うと、チキンとかラムとか、肉を男女にたとえて歌うという図式が、当時も今もイケてることなのか全然わからない。
まあポークとビーフとかガツとホルモンじゃたぶんダメなんでしょうけど。
歌詞の解釈は聞き手にゆだねられている・・・ということならどちらでもいい気もするが、当時の世相とか南部固有の文化などを背景として理解した上で聴かないと、この曲の本当の良さはわからないだろう。
洋楽全般に言えることだが、やはりこのあたりは極東の三流リスナーでは条件的に非常に不利である。

ジャケットはネオン・パークというイラストレーターによる非常に印象的なアート。
長いアコーディオンに巻かれた謎の女の立ち姿なのだが、サウンドとは全然合っておらずプログレっぽいデザインだと思う。
リトル・フィートのジャケットはほとんどネオン・パークが手がけていて、一つ目の怪物少女がブランコで靴飛ばししたり、トマト女がハンモック上で微笑んだりと、やっぱりプログレっぽい独特の世界観である。
アートとしては面白いので、当時のナウいヤングはレコードジャケットを壁にかけてベルボトムにロンドンブーツでユラユラグルグルしていたんだろうなと思う。(適当)

というわけで、「Dixie Chicken」。
悪くはなかったんですけど、定着する予感も全然しないという身も蓋もない状態になりました。
もう少し聴きこんでみて、さらに他のアルバム鑑賞にも発展できたらいいなと思います。(棒読み)

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
以前にこのアルバムは苦手と書きましたが、フィートの傑作で
あることには違いありません。
ウェストコーストらしいカラリとした感じがありません。
ま、イーグルスは湿度が高いですが、このアルバムは粘度が高いです。

このアルバムと、前後の2作品を合わせて聞き直しました。
2枚目の前半はウェストコーストらしさがありますが、後半はこの作品
への助走になっています。逆に、4枚目は粘度が低くなっているのが
わかります。
こうした点からも、ジョージの才能が直接ぶつけられていると思うのです。
セルフプロデュースということも、もちろん影響していますね。

>>ガヤ系コーラスで思ったより騒々しく

ここですね、アッパーな女性コーラスが強い印象をもたらします。
ほかのアルバムにも女性コーラスは参加していますが、
ここまで狂騒的ではありません。

>>ニューオーリンズ

私もわかりませんが、例えばペインのピアノはそれっぽいですね。
Dr.ジョンの「アイコアイコ」に似ています。これが
ジョージの一風変わったポップを彩っています。これこそ、ジョージ
主導のアルバムであるこの証左ですね。
といいますのも、4枚目以降はペインやヘイワードたちの音が
ジョージのギターと並ぶ存在になるからです。

その他、ライブでの定番曲となる1、2、8曲目、私も好きな
3曲目はジョージ作。縦横無尽に駆け抜けるスライドギター。
改めて、アルバムの濃厚さとジョージのすごさに驚いています。

>>一つ目の怪物少女がブランコで靴飛ばししたり、
>>トマト女がハンモック上で微笑んだり

今なら「おぱんちゅうさぎ」がジャケットに!?

投稿: モンスリー | 2023.08.10 21:32

モンスリーさん、コメントありがとうございます。
再履修はしたものの予想どおり芳しくない結果になりましたが・・

>以前にこのアルバムは苦手と書きましたが、フィートの傑作であることには違いありません。

他の作品もさらによい、ということですかね。
前回と同じ感想になりますけど、リトル・フィートもこのアルバムだけで挫折してる場合じゃないんでしょうね。

>ウェストコーストらしいカラリとした感じがありません。
>ま、イーグルスは湿度が高いですが、このアルバムは粘度が高いです。

共感できるほどウェストコーストを理解できてませんけど、この例えは少しわかる気がします。

>ここですね、アッパーな女性コーラスが強い印象をもたらします。
>ほかのアルバムにも女性コーラスは参加していますが、ここまで狂騒的ではありません。

なるほど、そうなんですね。
コーラスも賑やかでやや騒々しい感じはします。
楽曲には合ってると思いますが、あまり得意な音ではありません・・

>といいますのも、4枚目以降はペインやヘイワードたちの音がジョージのギターと並ぶ存在になるからです。

そうですか・・
となるとペインやヘイワードたちの音が自分の好みに合っているなら、4枚目以降にかすかに希望が持てるかも・・

>今なら「おぱんちゅうさぎ」がジャケットに!?

あー・・感覚的にはそれくらい違和感ですね。
確かに今日本のロックバンドが突然「おぱんちゅうさぎ」ジャケットでアルバム出したら「・・どうした?」となるでしょうね。
基本的に自分には「こういう妙なジャケットはプログレの人たちがやるもの」という先入観があるので、音との乖離が未だに不思議で仕方がない状態です。

投稿: SYUNJI | 2023.08.12 17:27

こんにちは、JTです。

>聴いた記憶が残っていた曲は全くなく、やはり全てが初鑑賞同然だった。

くせ強なバンドですから。1回聴いただけでは、印象薄いですよね。

>ただしイーグルスの清らかさやドゥービーのスクエア感はあまりなく、

両バンドの取っつき易さはないですね。ミュージシャンズミュージシャン(ミュージシャンに受ける)と言われるだけあります。
キーボードのビル・ペインは、前期ドゥービーのスタジオアルバムにゲストミュージシャンとして参加していますが、リトル・フィートとは違う弾き方ですね。(チャイナグローブのピアノとかは、典型的なロックンロール・ピアノですね)

>リトル・フィートはステージ上のメンバーがなんとなく離れて立っていてソデからソデまで目一杯使ってわらわら音を出しているような感じがする。

趣深い表現ですね。

>もう少し聴きこんでみて、さらに他のアルバム鑑賞にも発展できたらいいなと思います。(棒読み)

是非。

>縦横無尽に駆け抜けるスライドギター。

ローウェル・ジョージって、矢野顕子のファースト・アルバムでなぜか尺八吹いているんですよね...。

投稿: JT | 2023.08.19 11:20

JTさん、コメントありがとうございます。

>両バンドの取っつき易さはないですね。ミュージシャンズミュージシャン(ミュージシャンに受ける)と言われるだけあります。

やはりそうですか。
玄人受けする音、ということでしょうかね?
イーグルスやドゥービー・ブラザーズにある「まとまり感」「整理感」みたいなものが、このアルバムだとあまり感じませんでした。

>キーボードのビル・ペインは、前期ドゥービーのスタジオアルバムにゲストミュージシャンとして参加していますが、リトル・フィートとは違う弾き方ですね。

そうなんですね。
それぞれのバンドのサウンドに合った弾き方ができる、というのはプロなら当然なのかもしれないですけど、器用なミュージシャンですね。

>ローウェル・ジョージって、矢野顕子のファースト・アルバムでなぜか尺八吹いているんですよね...。

そんなこともしてたんですか?
ローウェル・ジョージが尺八という組み合わせも、矢野顕子のデビューアルバムにリトル・フィートのメンバーが参加していたということも、驚きました。
調べたら確かにローウェルが尺八を吹いたという記述があちこちのサイトに見つかりますね。
ローウェルは元々日本通で墨絵や尺八を習っていて、尺八の音を入れようと提案したのもローウェルだったそうですが・・
すごい話だなぁ・・

投稿: SYUNJI | 2023.08.20 18:13

SYUNJIさん、こんばんは。

このアルバムは愛車のハードディスクに入れており、今日偶然にも久々に聞いていました。

リトル・フィートは何枚か持ってますが、このアルバムが一番好きですね。

ニューオリンズというキーワードが出てきますが、セカンドラインファンクというリズムがあり、モンスリーさんが書いているDr.ジョンの「アイコアイコ」がその典型ですね。

このアルバムでも、「Fat Man in the Bathtub」はセカンドラインファンクのリズムですね。

JTさんが書いているように、矢野顕子のファーストのバックバンドはリトルフィートで、彼らは最初、日本から来た小娘のために真剣に弾く必要なく小遣い稼ぎ程度に思っていたようですが、彼女がピアノを少し弾いたとたんその実力に驚き、全員が良いプレイをしたようです。

>悪くはなかったんですけど、定着する予感も全然しない>という身も蓋もない状態になりました。
>もう少し聴きこんでみて、さらに他のアルバム鑑賞にも>発展できたらいいなと思います。

このアルバムに「ビビビ」と来なかったら、他のアルバムは手を出さないほうが良いと思います。

投稿: getsmart0086 | 2023.08.26 21:15

ゲッツさん、コメントありがとうございます。

>リトル・フィートは何枚か持ってますが、このアルバムが一番好きですね。

やはりそうですか・・
あれから何度か聴き直しましたが、まだ定着の予感はありません・・

>彼らは最初、日本から来た小娘のために真剣に弾く必要なく小遣い稼ぎ程度に思っていたようですが、彼女がピアノを少し弾いたとたんその実力に驚き、全員が良いプレイをしたようです。

なんか映画みたいないい話ですね。
後の矢野顕子の活躍を考えたら、リトル・フィートのメンバーはやはり見る目(聴く耳?)があった、ということですかね。

>このアルバムに「ビビビ」と来なかったら、他のアルバムは手を出さないほうが良いと思います。

うーん・・この松田聖子的感覚(古い)はまだないです・・
これから来るとも思えませんが・・
どうも自分における「定着」は、そんなに最初の印象や直感でビビビっと決まるものでもないようです。
ツェッペリンは後追いで一応定着したほうですが、最初聴いた時は「怪しい音だなぁ・・」という印象でした。

投稿: SYUNJI | 2023.08.30 17:22

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