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聴いてみた 第177回 スティクス その3

今日聴いてみたのはスティクスの6枚目のアルバム「Crystal Ball」。
トミー・ショウが加入しバンドが大きく転換した最初の作品である。
発表は76年10月で、セルフプロデュース作品。
70年代のトミー加入後のアルバムで残っていた未聴盤をやっと聴いてみました。

Crystal-ball

聴く前に恒例の制作経緯と背景をレジュメにまとめましたので、これからパワーポイント画面を共有いたします。
どうでもいいけど、Google Meetとzoomで背景画像の再現度が全然違うのはなぜ?(知らねーよ)
zoomだとせっかく作った背景が自分の体や顔にぐちゃぐちゃ入り込んで、なんかウルトラセブンに出てくる悪い宇宙人みたいな姿にしかならないんですけど・・・

前作「Equinox(分岐点)」をリリース後、ギタリストのジョン・キュルレウスキーが家族と過ごしたいという理由で突然バンドを脱退した。
ツアーを予定していたメンバーは必死に後任ギタリストを探し、アラバマ出身のトミー・ショウを迎え入れた。

バンド側は「ハイトーンなコーラスもできるギタリストだし」という理由で加入させたそうだが、トミーの実力と功績はそんな安いもんじゃなかったのだ。
歌って弾けて曲も書けるお買い得な人材だったトミーはバンドに産業ロック革命をもたらし、加入早々アルバム全7曲中4曲を制作。
うち3曲は共作だが、タイトル曲はトミーが一人で作った曲である。
アルバムは全米チャート最高66位で、シングル「Mademoiselle」も36位と数字的には物足りない結果ではあったが、日本では「初めて聴いたスティクスのアルバムがこれ」というファンも多いようだ。

プログレからポップへの転換を果たし、後の大成功への助走と位置付けられる「Crystal Ball」。
果たして水晶玉にはどんな未来が見えるのでしょうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Put Me On
印象的なキーボードのイントロでスタート。
本編は思った以上にロックで、前半はジェームスが歌う。
キレ気味のギターソロの後、雰囲気がガラリと変わっておだやかなメロディとサウンドになりデニスのボーカル。
デニスのパートは意外に短く、再び急いだギターが響き、ラストは回転数が急上昇でプログレっぽく終わる。
かなり転換変化の多い曲。

2. Mademoiselle
トミーとデニスの共作で、ボーカルはトミー。
楽しそうなリズム、高いキーで鳴るギター、デニスのやや主張しすぎコーラスなど、すでに黄金期スティクスのスタイルが確立されている。

3. Jennifer
ややアダルトなムードの曲で、デニスが歌う。
これも聴けばすぐスティクスとわかるメロディとサウンドである。
後半にはトミーのギターソロもある。
デニスが17歳の少女に捧げた曲だそうだが、「不気味で説得力がない」といった辛辣な評価もあるらしい。

4. Crystal Ball
この曲だけベスト盤やライブ盤で聴いていた。
トミーの作品で、本領が早くも発揮され、アルバムも含めてスティクスを成功に導いた名曲・・とあちこちのサイトに書いてあるが、その通りだと思う。
静かに始まるバラードだが、中盤からエンディングまでは意外に力強くパワフルなサウンドだ。
歌詞は自分の未来が見えず困惑する若者の不安な思いが描かれている。

5. Shooz
ややワイルドで投げやりなメロディに乗せてトミーがやんちゃに歌うが、あまり似合わない。
こういう曲ならジェームスが歌うほうがいいと思う。
あるレビューに「シン・リジィっぽい」と書いてあったが、なんとなくわかる気はする。

6. This Old Man
壮大なイントロにおだやかなデニスのボーカル。
重厚な演奏かと思うと抑えめのキーボードだったり大げさなギターが来たりといろいろ忙しい。
ドラマチックで映画のような構成だが、メロディはやや重いので感覚としては微妙。

7. Clair de Lune/Ballerina
ドビュッシーの「月の光」をインストで演奏し、デニスとトミーの共作をつなげたメドレー。
これも演奏とコーラスが厚くスティクスの定石どおりの曲だが、メロディが明るくない分思ったほど印象に残らない。

聴き終えた。
その後のスティクスに見られる壮大でドラマチックなサウンドや世界観がすでに確立されていることがわかる。
正確な検証は前作「Equinox(分岐点)」も聴いてみないといけないのだが、まずは想定どおりの音が聴けて安心した、という感想。

ただメロディはあまり明るくない曲が多く、まだ技術志向の印象が強い気がする。
ストレートに言えば、繰り返し聴きたくなるような感覚がまだあまりわいてこない。
この点については「The Grand Illusion」「Pieces of Eight」「Cornerstone」で段階的にステップアップしていることがわかったので、「Crystal Ball」は発展途上中の作品という世間の評価に共感する。
個人的な順位をつけるとしても、「Crystal Ball」はやはり後の3作品には及ばない。
一番いいと思うのは「Cornerstone」である、というのは変わらない。

いずれにせよトミー・ショウの参加がバンドやアルバムにとって大きな転機であったことは疑いようもない。
ただその才能が、結果的にバンドに大いなる成功と分裂をもたらしたのは悲しい話である。(楽しいけど)
ロックバンドに3人以上の優秀シンガー・ソングライターがいると内紛が起こる、というのはやはりあるあるな法則のようで、ビートルズをはじめイーグルスフリートウッド・マックも同じ現象が起きている。
かつてミュージックライフのインタビュー記事で「打倒クイーン!」と高らかに宣言したスティクスだが、皮肉なことにそのクイーンは3人のシンガー・4人ものソングライターを擁しながらフレディ存命の間は決裂しなかったのだった。

ジャケットはタイトルどおり暗がりで手に包まれた水晶玉の中に踊る女性が映っているという絵。
スティクスのジャケットはどれも非常に完成度の高いアートだが、これも非常にいいと思う。

というわけで、「Crystal Ball」。
全体的に暗めで物足りなさはありましたが、悪くなかったです。
「The Grand Illusion」「Pieces of Eight」と同じ感想になりますけど、若い時に聴いていたらおそらく愛聴盤になっていたと思います。
トミー加入後の70年代作品鑑賞はこれで完了となりましたので、スティクス学習はもういいかなと考えております。

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