聴いてみた 第175回 ジェフ・ベック その6
正月早々まさかのベックの訃報に接し、あわててベックの未聴盤鑑賞に赴いたSYUNJIといいます。
誰しもが思っていたことだけど、三大ギタリストの中では一番健康的で躍動感もあったベックが、一番早く亡くなってしまった。
世界中でミュージシャンから一般人まで多くの人がSNS等で哀悼の意を表明している。
ベックを大して聴いてない極東辺境三流サラリーマンの自分も動揺するほどのがっかりニュースだった。
自分がこれまで聴いてきたベック関連アルバムは以下である。
・Truth
・Beck-Ola
・Rough and Ready
・Jeff Beck Group
・Beck, Bogert & Appice
・Wired
・Flash
・Performing This Week... Live at Ronnie Scott's(ライブ盤)
三流な自分にしてはまあ聴いてるほうだが、やはり世間一般の水準にほど遠くとても「ベック聴いてました」とFacebookやクラブハウスで発信できない状態。
最初に聴いたのは「Wired」だが、実はレコードでもCDでもなくMDである。
昔はアルバムがMDでも市販されていたのだ。
初めて聴いたベックのアルバムがMDだった・・というヤツは東日本でも自分だけだと思う。
ということでたくさん残っていた未聴盤の中から、取り急ぎソロ時代のインスト名盤「There and Back」を聴くことにしました。
鑑賞前に基礎情報を一夜漬け学習。
「There and Back」は、80年にエピック・レコードから発売された、ジェフ・ベック4枚目のソロアルバムである。
「Blow by Blow」と「Wired」のジャズ・フュージョン路線を継承しており、シリーズ集大成とも言える作品。
全曲インストながらビルボード200チャートで21位を記録。
発表後にはアメリカやヨーロッパ、日本でもツアーが行われた。
ヤードバーズやジェフ・ベック・グループでやっていたブルースロックなバンド活動をいったんやめ、ジャズやフュージョン方面にシフトした時期で、この期間を最も高く評価しているファンも多い。
この次の作品が非常に評判のよくない「Flash」なので、相対的にも「There and Back」は傑作とされるのだろう。
参加ミュージシャンは以下のみなさんである。
・ヤン・ハマー(K)
・トニー・ハイマス(K)
・モー・フォスター(B)
・サイモン・フィリップス(D)
ただし全員同時に楽しく参加したわけではなく、初めはヤン・ハマーとレコーディングしていたがベックは仕上がりに満足できず、ツアーをはさんでヤン抜きで録音を再開。
ヤンは次作「Flash」でも作曲・演奏してるので仲違いしたわけではないが、ベックとしてはヤンとはいったん距離を置きたかったようだ。
ヤンに代わりトニーがキーボードを担当し、モーとサイモンが加わって残りの曲をレコーディングし、アルバムは完成した。
タイトル「There and Back」とは「あちこち」「往復」「ちょっとそこまで」といった意味とのこと。
果たして自分はベックの作り出す世界観に、ちょっとそこまでのつもりがあちこち右往左往するのでしょうか。(意味不明)
・・・・・聴いてみた。
1. Star Cycle
この曲は自分もよく知っているし、多くの元少年が聴いていただろう。
その昔新日本プロレスの「ワールドプロレスリング」で、次期シリーズや参加予定外国人レスラーを紹介するコーナーのBGMに使われていたのだ。
なので曲を聴くとマードックやアンドレやダスティ・ローデスの顔と古館の声しか思い浮かばない。
ちなみにアメリカでもプロレス団体ミッドサウス・レスリングのテーマ曲に使われてたそうです。
あらためて聴いてみるとプログレっぽい怪しいサウンドにベックの甲高いギターが乗る、秀逸な構成である。
2.Too Much to Lose
一転ゆるやかなリズムにおだやかな調べで始まる曲。
後半はベックの軽やかなギターが聴ける。
3.You Never Know
雰囲気は前の曲と似ており、つながっている感じ。
左右から手数の多いキーボードのようなギターが響く。
終盤の右からのギターはやや濁った音がする。
4.The Pump
ゆったりしたリズムでアダルトな雰囲気の曲。
これも少しギターが濁っている気がする。
この頃のベックは高い音の範囲で弾いている曲が多いと思う。
5. El Becko
リアルタイムで聴いていた曲がこれ。
イントロはフュージョンっぽく始まるが、突如スピーディーなロックに転換。
ベックの鳴らすメロディが攻めていて印象的で、アルバムの中でこの曲が一番ベックが前に出てきて弾いている感覚。
当時はFM番組「ダイヤトーン・ポップス・ベストテン」でもよくオンエアされており、ベックの来日公演CMでもかかっていたので、日本のリスナーにもよく知られていると思う。
6.The Golden Road
再びゆるやかなリズムに戻り、曇ったサウンド。
この曲ではフルートがよく聞こえる。
全体的にはおとなしめの曲だが、ベックのソロは意外にはじけている。
7.Space Boogie
行き急いだドラムで始まるせわしない曲。
サイモン・フィリップスとトニー・ハイマスの作品で、とにかくドラムが忙しく、終盤はドラムだけ先に行ってるような危ない速度。
二人がやりたかったあおり運転なリズムにベックがかなりムリして合わせた感じがする。
8.The Final Peace
ラストは唯一クレジットにベックの名がある、どこか中近東っぽい調べで静かに始まる曲。
長い長いイントロがそのまま曲になっているイメージ。
ベックの伸ばしたギターも突出しておらず、まとまっている印象。
聴き終えた。
知ってる曲が2曲あったというのもあるが、華やかで聴きやすいと感じた。
トータルでも個々の曲でもまとまった印象があり、ソロなんだけどバンドとしての一体感がある。
この時期のベックはジャズ・フュージョン路線と言われるようだが、音やリズムにはロック色も残っていて自分にも安心して聴ける。
ファンの評価は「Wired」のほうが高いらしいが、個人的には「There and Back」のほうがいいと思う。
まあこの次の「Flash」も結構いいなと思ってるので、こんなド素人な自分の評価なんて全然アテになりませんけど・・・
調べて驚いたのが、収録曲でベックの作品は8曲目「The Final Peace」だけ(しかもトニー・ハイマスとの共作)という点。
でも「Blow by Blow」も9曲中4曲しか作っておらず、「Wired」は全曲他人の作品なので、たぶんベックは作曲よりは演奏が好きな人なんだろう。
曲順で言うと1~3曲目がヤン・ハマー、4~7曲目はトニーとサイモンの作品である。
ヤンと録音した3曲のどこが気に入らなかったのかはよくわからないが、レコーディング再開にあたっては、ベックは自分のやりたい方針をトニーにかなり厳しく説明して理解させたそうだ。
トニーさんて人はかなりマジメで実直な性格らしく、ベックのきつい指示もいちいちメモに書き留めてたそうです。
さて日本の元少年にはなじみの深い「Star Cycle」。
誰がこの曲をチョイスしたのか不明だが、秀逸な選択だったことは確かだ。
ベック本人はこの曲が日本のプロレス番組で使われてることは知ってたんでしょうかね?
ちなみにベックとは関係ないが、同時期の全日本プロレスでも次期シリーズ予告のBGMにコモドアーズの「Machine Gun」というインストを使っていた。
昭和のプロレスは洋楽と非常に相性がよかったことがわかる話。
ジャケットは黒地に白抜きのでかい字で「JEFF BECK」と大書きされ、裏ジャケがタイトル。
演奏姿の「Blow by Blow」「Wired」とは雰囲気が大幅に異なり、中身とは違って威圧系のワイルドなデザイン。
ベックのアルバムの中では「Rough and Ready」と並んで好きなジャケットである。
というわけで、「There and Back」。
これはよかったです。
リアルタイムで聴いていれば、その後のベック鑑賞も変わっていただろう・・と後悔させられました。
次回は同じフュージョン期の「Blow by Blow」を聴いてみようと思います。
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