聴いてみた 第174回 スティクス その2
渋谷のレコファンが場所を変えて再オープンのニュースに驚愕したSYUNJIといいます。
渋谷レコファンと言えばあのぷく先輩との初対面の日にお連れした都内屈指の中古CDの名店である。
中古CD店なんて閉店はあっても開店はもう永久にないんじゃないかと思ってましたが、意外に早く渋谷レコファンは復活したようです。
というわけで今日聴いてみたのは渋谷レコファンではない店で購入したスティクス「Pieces of Eight」。
毎回どうでもいいマクラですいません・・
「Pieces of Eight」は78年9月1日にリリースされたスティクス8枚目のアルバム。
参加メンバーは前作同様以下のみなさんである。
・デニス・デ・ヤング
・ジェイムズ・ヤング
・チャック・パノッツォ
・ジョン・パノッツォ
・トミー・ショウ
トミー・ショウが加入して産業ロック(褒め言葉)転換後の3作目になる。
タイトルは「八角形のコイン」という意味で、邦題は「古代への追想」。
テーマとして「永遠の若さ・美しさは金では買えない」「お金や物質的な所有物を追求するために夢をあきらめない」という格言のようなことを表現している。
全米年間チャート7位を記録し、300万枚を売り上げた70年代スティクスの名盤である。
・・・などと毎度のことながら受け売りを並べているが、実はこのアルバムも聴いたかどうかよくわからないのだ。
ジャケットにも見覚えはあるし、80年代になってから貸しレコード屋で借りたような気もするんだが、テープは残っていないし曲名もあまり覚えていない。
イーグルス同様「聴いた気になっていた」記憶錯誤の問題作である可能性も高い・・・ということで、真相を確かめるべく鑑賞に赴いた次第。
ライブ盤やベスト盤で聴いている曲もあるので、それほど緊張は感じていない。
果たして自分はこのアルバムを聴いていたのだろうか。
・・・・・聴いてみた。
1. Great White Hope
オープニングは歓声とアナウンスに続いて始まる、ジェイムズが歌うノリのいいロック。
実際のライブ音源ではなく、「Sgt. Pepper's」のように臨場感を出すための演出と思われる。
2. I'm O.K.
デニスお得意の壮大でドラマチックな曲。
日本でのみシングルカットされたそうだが、聴いたことはなかった。
キーボードもギターもいかにもスティクスな音がする。
中盤のパイプオルガンもコーラスもやや大げさでオーバーな気もするが、このサウンド・世界観は好きである。
このパイプオルガンはシカゴ最古のセント・ジェームズ大聖堂で録音されたものだそうだ。
3. Sing for the Day(この一瞬のために)
トミーの作品。
歌詞にあるハンナという女性の名はトミーの娘ハンナにちなんで付けられたと思われていたが、トミーがこの曲を書いた時にはまだハンナは生まれておらず、ファンが勝手に誤解していたようだ。
これもイントロに流れるキーボードからしてがっつりスティクスの音。
トミーとデニスのコーラスでタイトルコールを繰り返し、メインはトミーが歌う。
やはりトミー・ショウはこういう明るい曲のほうがいい。
4. The Message
1分ほどの謎めいたインスト。
この後の曲とほぼつながっている。
5. Lords of the Ring(指輪物語)
再びデニスによる壮大で荘厳な楽曲。
タイトルの通り、J・R・R・トールキンによる小説「指輪物語」をモチーフにした曲。
映画になる前からスティクスはこんな曲を作ってたのね。
デニスが好きそうなメロディだが、メインボーカルはなぜかジェイムズ。
この曲ならデニスの声のほうがいいと思うが・・・
6. Blue Collar Man
この曲はベスト盤やライブ盤で聴いていた。
トミーの作品で全米チャートでは21位を記録している。
イントロの濁ったキーボードが印象的で、ライブでもこの音が流れると大歓声というお約束の曲。
でも歌詞の内容は当時の世相を反映した、無職の男の悲しい叫びという社会派な曲である。
ちなみにTOTOのスティーブ・ルカサーは、スティクスで一番好きな曲が「Blue Collar Man」だと発言している。
7. Queen of Spades(スペードの女王)
静かに始まりやがて激しく進むロック。
終盤にメタルっぽいギターソロもある。
「Blue Collar Man」のノリにも似ているが、デニスの作品。
8. Renegade(逃亡者)
これもベスト盤で聴いており、全米16位のヒット曲。
歌詞もメロディも明るくはないがトミーの自信作のようで、アメリカではフットボールチームのプロモーション映像などにも使用される人気の曲とのこと。
9. Pieces of Eight
静かに歌う部分と壮大な合唱が交互に繰り返される、モロにスティクスなタイトル曲。
盛り過ぎ感はあるが、これぞスティクスな名曲である。
10. Aku-Aku
ラストは3分弱のピアノ中心のおだやかなインスト。
タイトルはイースター島にまつわる伝説から来ているそうだ。
聴き終えた。
やはりこのアルバムは聴いていなかったようだ。
ただどの曲も自分が知っていたスティクスの音であり、想定通り楽しめた。
他のアルバムで時々現れるトミーの暗い曲も、このアルバムにはそれほどない。
前回聴いた「The Grand Illusion」よりもいいと感じた。
聴いていた「Blue Collar Man」「Renegade」よりも、初めて聴いた「I'm O.K.」「Sing for the Day」「Pieces of Eight」のほうが全然いい。
若い頃に聴いていたら、「Cornerstone」「Paradise Theater」と並んで愛聴盤になっていたはずである。
当時のスティクスを「ハード・プログレ」などと評する人が多いが、個人的にはこのアルバムにはあまりプログレの香りは感じなかった。
自分がプログレをよくわかっていないだけかもしれないが、少なくともサウンドはポップだし、変拍子や冗長組曲といった高嶋政宏好みのプログレな展開はない。
ハード・プログレってそういうのとは違うの?
この頃のスティクスはもう来たるべきチャラくてゴージャスな80年代に向けて大衆路線にシフトし始めていたのだと思う。
その経営戦略は「Cornerstone」「Paradise Theater」「Kilroy Was Here」で見事に成功を果たすことになるのだ。
スティクスは2010年に「The Grand Illusion」と「Pieces of Eight」を全曲収録順に忠実に演奏するというライブツアーを行い、この音源で2012年にライブアルバムも発表している。
なのでバンドとしても気に入っているアルバムなのだろう。
売り上げ実績は「Cornerstone」「Paradise Theater」の方が上だが、この2枚はデニス色が強すぎるあまり現メンバーは敬遠している・・ような気もする。
ジェイムズ&トミーとデニスは絶縁状態にあるからだ。
ローレンス・ガーワンが加入し、デニスがジェイムズ&トミーと決別してもう20年以上経っており、裁判でデニス側がスティクスを名乗れないことも確定したため、スティクスにデニスが復帰することももうないと思われる。
ジャケットはヒプノシスによるモアイ像のピアスを付けた中年の女性の顔。
加齢により変化する人間と、長い時間不変のモアイという対比で、アルバムのテーマを表現してるそうだが、どこか化粧品のポスターっぽくもあり、あまりよくわからない。
ただ初期のプログレやってました期のジャケットよりも、この頃のほうがアートとして高い水準にはあると思う。
なおデニスはリリース当時このジャケットは気に入らなかったらしいが、歳を重ねるごとに好きになっていったそうだ。
というわけで、「Pieces of Eight」。
かなりよかったです。
もっと早く聴いていれば・・と後悔させるに十分なアルバムでした。
次回は「Crystal Ball」を聴いてみようと思います。
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コメント
SYUNJIさん、こんばんは。
このアルバムはいいですね。捨て曲がありません。
ハードロックとポップなロックが中心ですが、この中にプログレが
しっかりと根付いていると思います。ですので、この時点でカンサスと
双璧をなすアメリカン・プログレ・ハードの代表的な作品だと思います。
2曲目「I'm O.K.」、5曲目「Lords Of The Ring」、9曲目「Pieces Of Eight」
がプログレ的だと思いました。ハードロックのフォーマットですが、進行が複雑、
演奏も凝っていて、特にクラシカルな展開にプログレを感じます。
また、これらが後年はポップ寄りになるヤングの作品というのが驚きです。
そして「Lords Of The Ring」では、あえてJYがリードボーカルを取るところ、
スティクスがバンドとしてうまく機能していたと思います。
私自身この3曲が特に気に入っています。
この3曲、かなり難しいのか黄金時代のライブ盤「Caught In The Act」に
収録されていないのがつくづく残念です。
ショウのギター、JYのワイルドなボーカルと聞き所の多い作品ですが、
私はやはりコーラスがすごいと思います、ヤングの歌声や2人による重厚な
ギターのリフに、気品すら感じるコーラスが入ることで、ハードロックから一線を画す
作品、そしてバンドになっていると思うのです。
よく考えると複数ライター、複数ボーカル、そしてコーラスと、ドゥービーや
イーグルス、フリートウッド・マックと私の好きなバンドとの類似点ばっかり(笑)
投稿: モンスリー | 2022.12.17 18:07
モンスリーさん、コメントありがとうございます。
やっと聴いてみました・・
>ハードロックとポップなロックが中心ですが、この中にプログレがしっかりと根付いていると思います。
>ハードロックのフォーマットですが、進行が複雑、演奏も凝っていて、特にクラシカルな展開にプログレを感じます。
うーん・・そうですか・・
やはりプログレも根底にはあるんですね。
自分にはその嗅ぎ分けがまだ難しいですが・・
>そして「Lords Of The Ring」では、あえてJYがリードボーカルを取るところ、スティクスがバンドとしてうまく機能していたと思います。
これは同感ですね。
作曲とボーカルを3人が民主的にシェアしていた時期なんだなと感じました。
>この3曲、かなり難しいのか黄金時代のライブ盤「Caught In The Act」に収録されていないのがつくづく残念です。
言われてみればその通りですね。
「Caught In The Act」もデニス主導で作られたライブ盤のようですが・・
>よく考えると複数ライター、複数ボーカル、そしてコーラスと、ドゥービーやイーグルス、フリートウッド・マックと私の好きなバンドとの類似点ばっかり(笑)
なるほど・・
今までそれほどスティクスをそういうお得?なバンドと意識してませんでしたが、確かにそうですね。
まあ歌ってハモって書ける人がバンド内に複数いると楽曲にも幅が出ますから、聴いていて楽しいですよね。(小学生並みのまとめ)
投稿: SYUNJI | 2022.12.21 21:43