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聴いてみた 第173回 フリートウッド・マック その2

フリートウッド・マック学習講座2限目、今回はボブ・ウェルチ期の「Bare Trees(枯木)」を聴いてみました。

前回「噂」を聴いてから9年(!)も経過しており、マック学習は完全に手遅れ状態。
しかも次回は「ファンタスティック・マック」「Tusk」「Mirage」のどれかを聴いてみようかなどとほざいておきながら、突然ウェルチ期作品に手を出すという計画性も脈絡もない発作的鑑賞。
でも名盤とのことなので開き直って聴いてみることにした。

Baretrees

「Bare Trees」は72年発表で、フリートウッド・マックのアルバムとしては6枚目。
ウェルチ期としては2作目となる。
ピーター・グリーン中心のブルースロックバンドだったマックは、ピーターが脱退した後ダニー・カーワンとボブ・ウェルチ、クリスティン・マクビーによりポップ路線に転換。
それぞれの才能が開花し、変革が成功したことを証明する名盤がこの「Bare Trees」とのこと。
しかしダニー・カーワンは後輩芸人ボブの才能にプレッシャーを感じてアルコールに依存していき、アメリカツアーで楽屋流血ステージ拒否事件を起こしてバンドをクビになる。
なのでこの「Bare Trees」はダニー在籍の最後のアルバムでもある。

ウェルチ期ではあるが、ダニーやクリスティンの仕事も聴きどころのはずだ。
3人の個性は楽曲やサウンドにどのように反映されているのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Child of Mine
ノリのいいロックナンバーでスタート。
ダニーの作品でボーカルもダニー。
曲調はロックだが、ダニーはわりと軽やかに歌う。
ベースやキーボードがかなり主張している。
ギターの音がなんとなく曇って聞こえる。

2. The Ghost
ボブ・ウェルチの曲で、やや哀愁を帯びたサウンド。
バックで流れ続けるフルートのような音が、間奏で左右に動くという演出?がある。
必要なのか?とも思うが・・

3. Homeward Bound
再びテンポのいい曲で、クリスティンがボーカル。
やはり声が若い。
ギターやキーボード、ドラムなど各楽器の一体感はさすがにマックである。
クリスティンが飛行機やツアーを嫌っていることを暗示しているとのこと。

4. Sunny Side of Heaven
ギター中心の美しいメロディなインスト。
ここでインストとは意外な気がするが、温かみのあるサウンドが印象的。
これならクリスティンのボーカルがあってもよかったと思う。

5. Bare Trees(枯木)
タイトル曲がここで登場するが、枯木を思わせる音ではなく、ちょっと変わった曲。
楽しそうなリズムにギターが乗るが、いまいちつかみどころがない・・
枯木が寂しい冬に恋人と別れた孤独・・を歌っているらしい・・のだが、やはりメロディとは合ってない気がする。

6. Sentimental Lady(悲しい女)
ボブ・ウェルチの作で、後にボブはソロとして再録しヒットさせている。
おだやかな調べで、確かにヒットしそうないい曲である。
ボブが最初の妻ナンシーを思い浮かべて書いた曲だそうだが、内容は「悲しい女」というより「悲しいボブ」だと思うけど。

7. Danny's Chant(ダニーの歌)
突然始まるイントロのノイジーなメタルっぽいギターがやや騒々しい。
セッションのようで唐突な感じ。
まともな歌詞もなく、当時の邦題がかなり適当だとわかる。
というか、こんな邦題いる?

8. Spare Me a Little of Your Love(あなたの愛を)
一転クリスティンの安心するボーカル。
やはりマックにはこの人の声が不可欠だと思う。
どこかイーグルスを思わせるようなメロディだが、ギターのゆがみが少しやり過ぎに聞こえる。

9. Dust(土埃)
これもボーカルとコーラスの組み合わせがイーグルスっぽい。
ダニーの作品で地味だが味わいのある曲。

10. Thoughts on a Grey Day(灰色の日に)
ラストになぜか歌ではなく詩の朗読。
神様をたたえる内容とのことだが、読んでいるのはメンバーが共同生活していた家の近くに住んでいたスカーロットというおばあさんだそうだ。
「With trees so bare, so bare」という一節があるので、アルバムのタイトルとも何か関連してるようだが、よくわからない。
どういう意図で朗読を入れたのだろう・・?

聴き終えた。
バラエティに富んだ構成だが、全体のイメージとしては、その後のリンジーとスティービー加入後のマックよりも一回り小さくまとまった印象である。
あの尖った二人がいないので当然でもあるが、突出した強力なナンバーもない代わりに、トータルでは拒絶感もあまりなく、聴きやすい音楽ではあった。
後のマックに通じる一体感や音の豊かさは、こんな自分にも十分伝わるものがある。

好みとしては「Homeward Bound」「Sentimental Lady」「Spare Me a Little of Your Love」がいいと感じた。
自分はマックの中にクリスティンの安心する声を求める傾向があるようだ。
一方で「Danny's Chant」「Thoughts on a Grey Day」は違和感というか異物感のような感覚がある。
末期ビートルズのような仕込みにも思えるが、全体のバランスを考えたら不要だったのではないかと思う。

ボブ・ウェルチはそれまでのブルースバンドだったマックをポップでおしゃれなグループに変革した立役者だが、このアルバムでは半分がダニー・カーワンの作品で占められており、バンド内のパワーバランスは微妙で絶妙というところだろうか。
いずれにしろウェルチ期の隠れた名盤という評価はその通りだと思う。

ジャケットはジョン・マクビーによるタイトルそのものの枯木の幻想的な写真。(絵?)
マックのジャケットはアルバムごとにホントにバラバラで、リアル宮殿からりぼんのふろくみたいなイラストまで様々だが、このジャケットはいいと思う。

というわけで、「Bare Trees」。
さすがに黄金期のゴージャス感はないものの、悪くはなかったです。
その黄金期の宿題「ファンタスティック・マック」「Tusk」「Mirage」の学習が優先なのはもちろんですが、機会があればウェルチ期の他のアルバムも聴いてみようと思います。

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聴いてない 第293回 G・ラヴ&スペシャル・ソース

聴いてないアーチストを19年近く量産し続ける珍奇絶滅危惧種BLOGのSYUNJIといいます。
今日のお題はG・ラヴ&スペシャル・ソース。
聴いてなくて当然ですが、「そもそもお前よう知らんやろ」的な題材。(毎度のこと)

G・ラヴ&スペシャル・ソース、確かにご指摘のとおりよく知らないんだけど、1曲だけ聴いているという貴重なパターン。
95年の「Kiss And Tell」という曲だけ録音している。
90年代半ばだったので、柏村武昭の指導からは卒業しており、FMエアチェックではない。
映像は全然記憶にないが、MTVの音声をテープに録った・・ような気がする。
以来この1曲だけ繰り返し聴いてきたはずだが、特に気に入った感覚はなく、アルバム鑑賞や周辺情報調査や人物考察に発展はしなかった。

G・ラヴという人がスペシャルなソースを集めて作ったバンドなんやろということくらいは想像がつくが、G・ラヴが何者なのか、スペシャルなソースは何人組なのか、日本での人気はいかほどなのか見当もつかない。
あらためてG・ラヴ&スペシャル・ソースについて捜査開始。

G・ラヴ&スペシャル・ソースはフィラデルフィア出身のオルタナティブ・ヒップホップバンド。
えっそうなの?
アメリカの人たちだとは思ってたけど、ヒップホップな音楽という認識はなかった・・
やはり1曲だけだとなんにもわからない。
デビュー当時は「ヒップホップを通過したブルースバンド」と紹介されていたらしい。
もう少し詳しく言うと、ブルースやヒップホップ、ロックやソウルを包含する、ユニークで気だるくレイドバックしたサウンドで知られている、とのこと。
さらにオーガニック系サーフロックというくくりに入れられることもあり、これはファンの間でも意見が分かれるそうだ。
やはりあまりよくわかりませんけど・・・

G・ラヴことギャレット・ダットン3世は1972年10月3日にフィラデルフィアに生まれた。
ギャレット少年は8歳でギターを弾き始め、ハイスクール時代には早くも作曲を始める。
ボブ・ディランやジョン・ハモンド・ジュニア、ランDMC、ビースティ・ボーイズなどに影響を受けたと述べている。

ギャレットはフィラデルフィアでストリート・ミュージシャンとして活動を始めた。
カレッジには1年通うが中退してボストンに移り住む。
ボストンのバーでG・ラヴと名乗って演奏していた時に、ドラマーのジェフリー・クレメンスと出会う。
その後ベースのジム・プレスコットが加わり、G・ラヴ&スペシャル・ソースを結成。

1994年、彼らはセルフタイトルのデビューアルバムをリリース。
シングル「Cold Beverage」がMTVで繰り返しオンエアされ、アルバムは「期待の新人チャート」とも称されるヒートシーカーズ・アルバムチャートで32位まで上昇した。

95年にセカンドアルバム「Coast to Coast Motel」を発表。
自分が聴いた「Kiss And Tell」も収録されている。
ヒップホップ色を抑え、南部寄りのサウンドにシフトし、多くの評論家からは高い評価を受けたが、前作ほどには売れなかった。

この後のツアーでグループ内に意見の相違が勃発。
一時は解散寸前までなりながらもなんとか調整し、97年10月には3作目の「Yeah, It's That Easy」をリリースした。
このアルバムには、オール・フェラズ・バンドやフィリー・カルテルなど、他のバンドやミュージシャンとコラボした曲もあり、ブルース界の重鎮ドクター・ジョンがキーボードで参加している。

99年のアルバム「Philadelphonic」では、当時まだ無名だったジャック・ジョンソンが作った「Rodeo Clowns」を本人とともに演奏。
G・ラヴは映像カメラマンのスコット・ソーエンズの紹介でジャックと出会い、スコットの強い推薦曲「Rodeo Clowns」を聴いてジャックの音楽的才能を見抜く。
その後G・ラヴはジャックをスタジオに招き、「Rodeo Clowns」を一緒にレコーディングした。

このG・ラヴ版「Rodeo Clowns」がジャックがインディーズレーベルからCDデビューするきっかけとなり、さらにデビューアルバムがメジャーレーベルのユニバーサルより再リリースされ、全米で大ヒットを記録するという、映画のような展開となったそうだ。
もしG・ラヴがいなかったら、ジャック・ジョンソンもスターになってたかどうかわからないという、アメリカンドリームなお話である。

2001年には、ヒップホップやファンク、ブルースやソウルを意欲的に取り入れたアルバム「Electric Mile」をリリース。

ところが2004年のアルバム「The Hustle」は位置づけがよくわからない。
このアルバムからはジャック・ジョンソンの設立したブラッシュファイアレコードに移籍。
名義はG・ラヴとなっているが、ジェフリー・クレメンスとジム・プレスコットもメンバーとして参加している。
英語版ウィキペディアではソロアルバムとなっているが、日本のファンサイトでは「バンド名をG・ラヴに変更した」と書かれていたりする。
この時点では解散してなかったらしいけど、バンド内には軋轢や混乱が生じたようだ。

2006年の「Lemonade」はG・ラヴ名義、2008年「Superhero Brother」は再びG・ラヴ&スペシャル・ソースとしてのリリースとなった。
しかし2009年1月15日、G・ラヴはバンドのウェブサイトで、ジム・プレスコットがメンバーでなくなったことを発表した。
なので2011年の「Fixin' to Die」はG・ラヴのソロとしてリリースされている。
ややこしい・・・
このアルバムではポール・サイモンの「恋人と別れる50の方法」をカバー。

しかしスペシャル・ソースは案外早く復活する。
2014年1月21日、G・ラヴはジムがバンドに復帰したと発表。
同時に8年ぶりにスペシャル・ソースとしてアルバム「Sugar」もリリースする。
このアルバムには盟友ベン・ハーパーの他、あの「Gimmie Shelter」でストーンズとデュエットしたメリー・クレイトンや、ニューオーリンズのトランペット奏者シャマー・アレン、ロス・ロボスのギタリストのデビッド・イダルゴなどが参加している。
この年の10月には来日して恵比寿リキッドルームや梅田クラブクアトロでライブも行った。
なお2020年にも来日公演を行う予定だったが、コロナ禍の影響で2年連続して延期となっている。

現時点で最新盤は2020年の「The Juice」。
・・・なのだが、これがまたサイトによって名義が割れている。
英語版ウィキペディアでは「with Special Sauce」に分類されているが、日本のファンサイトや音楽関連のページには「10年ぶりのソロ」などと書かれていたり、ブログのタイトルには「G. Love & Special Sauce『The Juice』」となっているのに本文には「ソロ名義では4枚目のアルバム」と書いてあったり。
もうファンも本人たちも「そんなんソロでもバンドでもどっちでもええやんけ」なのだろうか・・

毎度のことながら今回も何ひとつ知らない話ばかり。
バンドのことはもちろんだが、ドクター・ジョンやジャック・ジョンソンといった関係する人物名にもほとんどなじみがない。
ヒップホップやソウルなど様々な音楽要素を取り込んでいるが、キーワードとしてはやはりブルースが根底にあり、ブルース界の大物ミュージシャンとの競演も多いようだ。
いずれにしろ自分が慣れ親しんだ80年代産業ロックとは相当遠いところにいる人たちだと思われる。

「Kiss And Tell」は確かに素朴で楽器の生音そのままっぽいサウンドに、気だるくレイドバックしたようなリズム、G・ラヴのどこかはずしたような投げやりなボーカルが印象的である。
聴いたのはスタジオ盤のはずだけど、小さなライブハウスで歌ってるようなライブ感もある曲。
悪くはなかったけど、特に気に入ったり深掘りしたりという展開にはならなかった。
ジャケットにはG・ラヴの顔写真やイラストが使われているが、なんとなくプレスリーを思わせる。(気のせい?)

というわけで、G・ラヴ&スペシャル・ソース。
みなさんは聴いておられますでしょうか?
これまで採り上げてきたアーチストの中ではかなりハードルが高いのではないかと思っているのですが、もし初心者向けのアルバムがあるようでしたら、教えていただけたらと思います。

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