読んでみた 第59回 炎 Vol.3「エドワード・ヴァン・ヘイレン特集」
今回読んでみたのはシンコー・ミュージック・ムックのBURRN! PRESENTS 炎 Vol.3「エドワード・ヴァン・ヘイレン特集」。
前回読んだ文藝別冊同様、エドワード・ヴァン・ヘイレンの死を受けて出版された、HM/HR専門誌である。
版元はシンコーミュージック・エンターテイメント。
価格は本体1,200円、発売日は2021年1月26日、判型はA5判、212ページ。
表紙のアオリは全然ヒネリのない「ギターの革命家エドワード・ヴァン・ヘイレンの人生を祝福する一冊!」。
文藝別冊よりも発売日が少しだけ早い。
エドの死から半年も経っていない中、これだけの内容で出版したということは、当然編集も進行も相当キツかったはずである。
印刷・製本は大日本印刷なので、きっと校正部屋を河出の編集者と奪い合いながら校正したんだろう。
ちなみに本文の紙質はかつての月刊炎と同様、ややザラッとした感触。
HM/HR専門誌を名乗るからには、極東のリスナーが初めて知るような情報がたくさん書かれているはずだ。
果たしてどんな内容なのだろうか。
・・・・・読んでみた。
目次はこんな感じ。
・エディ・ヴァン・ヘイレン写真館
・エディ・ヴァン・ヘイレン年表
・特別読み物
エディ・ヴァン・ヘイレンという「分岐点」
・独占インタビュー
エディを愛し、影響を受けた仲間達に緊急取材
ゲイリー・シェローン
スティーヴ・ルカサー
ドゥイー・ジル・ザッパ
ヌーノ・ベッテンコート
ビリー・シーン
スティーヴ・ヴァイ
ザック・ワイルド
ジョー・サトリアーニ
ニール・ショーン
マーク・フェラーリ
ジョン・5
ウォーレン・デ・マルティーニ
スティーヴン・パーシー
・作品解説
ディスコグラフィ
・緊急アンケート
私の好きなエディのベスト5曲
・追悼コラム
エディが語った言葉に込められていた想い
『5150』スタジオ探訪の思い出
エディのプレイ・音・曲、ここが凄い!
・特別インタビュー
野村義男
高崎 晃[ラウドネス]
この本の編集スタンスは文藝別冊とは異なり、基本的に「共感」ではなく「情報供給」である。
日本の評論家や業界人が集まってエドワードの思い出を語るのではなく、米英のギタリスト仲間や内外のミュージシャンに取材したインタビュー記事が中心。
ミュージックライフや月刊炎での過去記事の再録もなし。
なので日本のファンがすでにおおむね知ってると思われる、兄弟の生い立ちや略歴といった基礎情報は非常に少なく、冒頭に年表があるだけ。
ディスコグラフィも至極まっとうな構成と内容。
特に思い入れが強すぎてほとんど共感できないような評論や、なぜか他のバンドを見下すような比較記事もない。(ツェッペリン本だとどっちもよくある)
当たり前だが喜国雅彦の脱力漫画もない。(安堵)
やはりすごいのはインタビュー記事である。
バンドメイトとして登場しているのはゲイリー・シェローンだけだが、スティーヴ・ルカサーやヌーノ・ベッテンコート、スティーヴ・ヴァイやザック・ワイルド、ジョー・サトリアーニにニール・ショーンといった名だたるギタリストたちが、エドワードについて語っている。
話の中心はその人しか知らない(と思われる)エドとのエピソードなので、出版意義としてはやはり日本の読者への「情報供給」ということになる。
インタビュアーは全てジョン・ハーレルという「BURRN!」現地特派員が担当。
これだけの短期間にこれだけのビッグネームにインタビューできた、という点だけ見ても、シンコーの底力と機動力を感じる。
まあ欲を言えば、アレックスやウルフギャングへの取材はムリだとしても、デイヴやサミーやマイケル・アンソニーにも一言語って欲しかったが。
あとできれば先輩芸人としてリッチー・ブラックモアやマイケル・シェンカーやジミー・ペイジにも取材してくれたらよかったのに・・と思いました。
インタビューではほぼ全員がエドワードは革命的な存在だったと語っている。
唯一無二のテクニック、革新的なサウンド、ファンや業界に与えた影響など、エドワード登場前と登場後の大きな変化を感じたと口をそろえる。
ザック・ワイルドはバスケットのマイケル・ジョーダンを引き合いに出して「どの世界にも、皆を向上させるプレイヤーがいる」と述べている。
メンバーの個性や力量を称賛している人も多いが、ヌーノ・ベッテンコートとニール・ショーンはテッド・テンプルマンの功績も大きいと発言している。
なお「エドがドラムについて文句を言っているのを聞いたことがあるか?」との問いに対し、ビリー・シーンは「アレックスについては何とも言いかねる」と答えている。
「その凄さがわからないこっちがバカなんだろうけど」と一応気を使いながら話しているが、アレックスはスゴイ!と思ったことは一度もないそうだ。
日本の評論家や芸能人でなく、本国のプロミュージシャンからのアレックス評(しかも低評価)は初めて見たが、やっぱそんな感じなのね。
インタビュアーによればエド本人も「ドラムの音がひどいんだ」とこぼしたことがあるとのことです。
そんなひどい音でも、さすがにお兄ちゃんをクビにしたりはできなかったんでしょうね。
また共通しているのは「エドワードは暗いところがない人だった」という点。
昔から演奏中も基本笑顔の変わったギタリストで、この本に掲載されている写真も笑顔が多いが、表情そのままの人柄だったのだろう。
アレックスは弟に比べて内向的で、それほど明るさが全面ににじみ出るようなタイプではないらしい。
もしマイケル・シェンカーとインギーとエドワードがそれぞれ東京でラーメン屋をやっていたら(久しぶりのラーメン屋例え。何年経ってもバカなBLOG・・)、やっぱエドワードの店に行きたくなると思う。
そう思いません?
だってさぁ、「麺屋マイケル」は注文しても作ってくれないままどこかに行っちゃって帰ってこなかったりしそうだし、「らぁめんマルムスティーン」で「鶏塩そばひとつ・・」と言っても「ダメだ!オレ様の店では豚骨背脂中太麺しか認めない!」とか佐野実の3倍くらいの勢いで叱られそうだし。
その点「ラーメンスタジオ5150」ではエドがにこやかに「いらっしゃい、久しぶりだね。仕事忙しいの?」とか聞いてくれそうだもんなぁ。(知らねーよ)
「私の好きなエディのベスト5曲」というアンケートは、昔の明星みたいなベタな企画だが、中身は結構驚く内容になっている。
予想通りではあるが「Eruption(暗闇の爆撃)」を挙げている人が非常に多い。
やはりあの音に世界中が驚愕したのは間違いなく、デニス・デ・ヤングは「ベスト5曲」なのにこの曲に2票入れている。
他には「Ain't Talkin' 'Bout Love(叶わぬ賭け)」「Runnin' With The Devil(悪魔のハイウェイ)」などファーストアルバムの曲を選んでいる人が多いが、「When It's Love」「Dreams」などサミー時代の曲も結構挙がっている。
これは意外だった。
日本でもデイヴ時代のヴァン・ヘイレンを評価する人が多数派だと思うが、インタビューではドゥイージル・ザッパがサミー時代を支持しており、「サミーが来てからエドワードはちゃんと音楽を作るようになった」などと言う人もいるので、プロから見てもサミー・ヘイガーの功績はやはり大きかったのだ、ということがわかる。
サミー派の自分としては少し安心。
革命的なギタリストの追悼本だが、ギターテクニックや構造の秘密を詳細に解き明かすような記事はない。
ギターが弾けない自分には、技術評論記事はどっちみち理解できないので、書いてなくて逆にありがたかった。
まあ文字や絵にしたところでエドワードの凄さも伝わらないだろう。
このあたりは出版物の限界であり、やはり映像と音声で解析すべき話である。
巻末の特別インタビューは野村義男とラウドネス高崎晃。
高崎晃は文藝別冊でもインタビューに応じており、日本のギタリストではエドワードの一番のファンとして名が挙がるのだろう。
問題は野村義男。
ヨッチャンもベックなどギタリストの特集本によく登場するけど、本人も公言してる通りこの人はそもそもペイジのファンである。
なのでエドワードについてのインタビューなんだけど、ペイジに会った時の話を楽しそうにしちゃったり、エドワードに顔が似ているという点について聞かれても「周りが勝手に言ってるだけ」とばっさり切り捨てたりで、なんか編集側が期待してたエド話にはあんましなってない感じ。
でもこれはペイジファンのヨッチャンに罪はなく、エドワードの話をヨッチャンに聞きにいった編集サイドが悪い。
今度ペイジ本の企画が出たら、真っ先にヨッチャンのスケジュールを押さえるべきだ。(何様?)
表紙はギターを笑顔で操るエドワード・ヴァン・ヘイレンのステージ姿。
しかも自慢のギターを模した赤白黒のテーピングデザインが施されている。
表4(裏表紙)はギターを手にジャンプするエドワードのモノクロ写真。
やはりシンコー、スキのない装丁である。
というわけで、炎 Vol.3「エドワード・ヴァン・ヘイレン特集」。
昨年文藝別冊を読んだ時、「これもしシンコーが版元だったら・・」と思いましたが、やはりシンコー、中身は期待どおりでした。
エドワードと交流のあったミュージシャンの発言など、初めて知る情報が満載で(←表現が昭和)、読めてよかったです。
あまり大きな声では言えませんが(今さら)、実はヴァン・ヘイレンもまだ聴いてないアルバムが少しだけ残っているので、この本の評論も参考にしながら鑑賞してみようと思います。
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