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聴いてない 第291回 W.A.S.P.

前回のラットに続くLAメタル聴いてないシリーズ、今日はW.A.S.P.。
カタカナでワスプと書くとなんかイメージが少し違う気がするので、一応英字表記にします。
なおピリオド付きのW.A.S.P.が正式な表記とのこと。
「今までピリオドを使ったバンドはなかった!」と彼らはドヤ顔で豪語したらしいが、実はW.A.S.P.よりも早くR.E.M.がデビューしているのだった。

そんな傲慢なW.A.S.P.。
1曲も聴いてない・・と思っていたが、92年の「Hold on to My Heart」を聴いていたことが判明。
FMエアチェックではなく、MTVの音声をテープに録音している。
聴いてない度は2。

前回ラットの評価が「メタルの暗く汚いイメージを覆したバンド」だったと書いたが、W.A.S.P.はむしろメタルの暗く汚いイメージを押し通したバンドらしい。
ではW.A.S.P.の暗く汚い歴史を学習開始。

W.A.S.P.はラットよりも少し後の82年頃に結成。
源流は、ブラッキー・ローレスとランディ・パイパーを中心としたサーカス・サーカスというバンド。
ちなみにブラッキーはモトリー・クルー結成前のニッキー・シックスとバンドを組んでいたこともあるそうだ。
サーカス解散後、ブラッキーとランディはリック・フォックスとトニー・リチャーズの2人を誘いW.A.S.P.を結成。
W.A.S.P.は観客に生肉を投げつけたり半裸のモデルをステージ上で拷問道具に縛りつけたりといった野蛮で下品なパフォーマンスで知られていった。

84年にデビューアルバム「W.A.S.P.(邦題:魔人伝)」発表。
ファーストシングル「Animal (Fuck Like a Beast)」は、タイトルや歌詞が下品という理由で、アメリカでは大手レコード店での販売禁止を防ぐためにアルバムから省かれたそうだ。
全米チャート74位という実績だったが、キッスのツアーで前座を務めたりサバスのツアーでサポートを行うなど、実力を認められた。
しかしアルバム発表後にドラムのトニー・リチャーズが脱退し、スティーブン・ライリーが加入する。

85年11月に2枚目のアルバム「The Last Command」をリリース。
直後にランディ・パイパーが脱退し、後任としてジョニー・ロッドが参加する。
W.A.S.P.もスタートからメンバーがいまいち定着しないバンドのようだ。
ジョニーが加わったため、ブラッキーはリズムギターに戻ったところ、これがあまり歓迎されなかったらしく、コンサートホールに爆破予告が届いたり、メンバーは殺害予告を受けたりした。
さらにブラッキー本人は2度にわたり銃撃もされる事態となった。
幸い弾丸が命中することはなかったそうだが。
怖い・・・

89年に4枚目のアルバム「The Headless Children」をリリース。
このアルバムでは、ドラムを元クワイエット・ライオットのフランキー・バナリが担当。
ザ・フーの「The Real Me」のカバーを収録している。
全米48位・全英8位を記録し、現在ではバンド史上最も売れた作品とされている。

しかしアルバム発表直後に今度はオリジナルメンバーだったクリス・ホルムスが「妻のリタ・フォードと人生を楽しみたい」というカッコいいのか悪いのかわかんない理由で脱退。
バンドは事実上の解散状態となり、ブラッキーはソロ活動を開始。

92年6月、ブラッキーが作ったコンセプトアルバム「The Crimson Idol」は、レコード会社のアドバイス(圧力と書いてるサイトもあり)により、W.A.S.P.の作品としてリリースされた。
このアルバムに自分が聴いた「Hold on to My Heart」が収録されている。
ブラッキー本人はバンド名義で発表することに不満だったらしいが、ファンからは最高のコンセプトアルバムとして高く評価されているそうだ。

続く95年の6枚目アルバム「Still Not Black Enough」も、前作の世界観を拡張したダークで内省的な曲のコレクションとなった。
ブラッキーが自身の感情について直接語りかけた歌詞は、社会から追放された不適格者、名声と圧力、愛の探求といった暗い内容が多いとのこと。
なおこのアルバムではジェファーソン・エアプレインの「あなただけを」とクイーンの「Tie Your Mother Down」をカバーしている。

この後バンドはクリス・ホームズの出入りに振り回される。
96年にクリスはW.A.S.P.に復帰。
バンドはアルバム「Kill.Fuck.Die」「Helldorado」をリリースした。
さらに2001年にはアルバム「Unholy Terror」を発表。
順調かに見えたW.A.S.P.だったが、発表直後にクリスが今度は「ブルースをやりたい」と言い出し(本当?)バンドを脱退。

クリスの勝手な行動にブラッキーもあきれたようだが、バンドは解散せず2002年にはアルバム「Dying for the World」を発表。
このアルバムは前年起きた9.11同時多発テロを受けて作られ、作曲からレコーディングまで1年かからずにリリースされている。

2004年には再びコンセプトアルバム「The Neon God: Part 1 - The Rise」「The Neon God: Part 2 - The Demise」を発表。
虐待され孤児となった少年が、人の心を読み操る能力があることを発見するという内容で、2部構成となっている。

2006年に入るとバンドはまたも不安定になる。
ドラマーのステット・ホーランドがまず脱退。
さらにギターのダレル・ロバーツも脱退。
翌2007年にギターのダグ・ブレアーが復帰し、ドラムのマイク・デュプキーが加入する。

本来2006年10月にリリースされる予定だったアルバム「Dominator」は、メンバー交代の混乱もあって2007年4月まで延期され、なんとかメンバーが落ち着いたところでようやく発表となった。

2007年10月、W.A.S.P.はアルバム「The Crimson Idol」の発売15周年を記念して、ギリシャからツアーを開始した。
バンドの最高傑作とされるこのアルバムの10曲が、最初から最後まで忠実に演奏されたのは初めてのことだった。
2009年14枚目のスタジオアルバム「Babylon」を発表。
ここではパープルの「Burn」をカバー。

15枚目のアルバム「Golgotha(ゴルゴダの丘)」は4年の歳月をかけて作られ、2015年10月リリースされた。
アルバムはなんと26年ぶりに全米トップ100入り(でも93位・・・)を果たす。

2018年にはアルバム「The Crimson Idol」の発売25周年を記念した再録音集「Re-Idolized (The Soundtrack To The Crimson Idol)」を発表。
定期的に記念イベントが行われる「The Crimson Idol」は、やはりバンドとしても重要な作品なのだろう。

2020年8月20日、ドラマーのフランキー・バネリが膵臓癌で死亡。

いろいろあったW.A.S.P.だが、現在も活動中。
2021年10月から12月にかけて北米ツアーを行い、なんとマイケル・シェンカーのサポートも受けたステージもあったそうだ。
何かと後輩芸人から頼りにされるマイケル・シェンカー。
・・・ちゃんと会場には来たの?マイケル。
来年には結成40周年を記念したワールド・ツアーも予定されているとのこと。

以上がW.A.S.P.の野蛮で破天荒な沿革と概要。
知ってた話は今日もなし。

総合すると、下品で粗暴なステージと、緻密でストーリー性重視のコンセプトアルバム、という相反するような特徴を合わせ持つバンドということになる。
それぞれの特徴は同時進行というより少しずつ制作志向に移行していったようだ。
最初は凶暴で野蛮なパフォーマンスで注目され、徐々に作品作りに凝るようになっていった、という感じだろうか。
こうした成長過程はなんとなくストーンズを思わせる。(知ったかぶり)
あと結構カバーが好きで、特にイギリスのアーチストの名曲を採り入れているのも興味深い。

前回ラットがグランジの波で粉砕されたと書いたが、W.A.S.P.の歴史を説くサイトには、グランジの影響を受けたとはほとんど書かれていない。
商業的にダメージゼロではなかっただろうが、92年の「The Crimson Idol」はむしろメタル界の名コンセプトアルバムとして高く評価されている。
狙ったかどうかは不明だが、ブラッキー・ローレスの作り出した「社会の型枠にはめられてもがく若者」というテーマが、グランジの持つ内省的な怒りや不満といった感覚に近かったため、当時のナウい欧米ヤングの共感を得た、という説があるようだ。

なので「LAメタル=グランジにより粉砕」という図式は、W.A.S.P.においてはあんまし当てはまらないことになる。
W.A.S.P.の持つ暗さが幸運?にもグランジの波に多少共鳴することができた、ということだろうか。

バンド名のW.A.S.P.は、一般的な意味は「ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント」というアメリカ建国当時の移民の子孫たちで、今もアメリカ社会では主流・支配層を占めることの多いグループを指す。
たぶんメンバーもみんなそこに属しているからだとは思うが、あまり強調すると傲慢でイヤミで問題もあるからだろうか、ブラッキー・ローレスも明確な回答はしていないようだ。
またwaspという単語には「ハチ・怒りっぽい人」という意味もあり、そこからヒントを得たというこじつけっぽい話もあるらしい。

唯一聴いている「Hold on to My Heart」は、アコースティックなサウンドでゆったり進行するバラード。
粗暴な部分は一切なく、ハードロックやメタルの人たちがたまに作るバラードそのものである。
壮大で崇高なイメージは非常によかったが、残念なことに他の曲を聴く機会や意欲はなかった。
この曲しか聴いてないので、W.A.S.P.の本質的な魅力は結局全然知らないままである。

というわけで、W.A.S.P.。
聴くならまずは最高実績の「The Headless Children」か、最高傑作の「The Crimson Idol」だと思いますが、他におすすめのアルバムがありましたら、教えていただけたらと思います。

 

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