聴いてない 第288回 スウィート
その昔姉がよく聴いていたカセットテープに入っていたある曲。
自分もメロディやサウンドは今でもほぼ脳内再生が可能なほどがっちり記憶してるが、残念なことに誰の何という曲かが全くわからない。
姉に聞いてみるのが早いんだろうけど、メロディを姉の前で歌わねばならず、もし姉の記憶が喪失してたら全くの歌い損である。
そんな面倒な展開はイヤだ。
今なら歌詞をネットで検索してみるという手はあるが、その歌詞は「アーイ!」とか「ユー!」「オケーイ!」くらいしかわからず(全然ダメじゃん)、結局不明のまま45年以上経過。
手がかりは「1975年頃のヒット曲」くらいしかない。
姉が聴いていたのが75年頃であり、同じテープにあったのがジョージ・ハリスンの「二人はアイ・ラブ・ユー」やレインボーの「虹をつかもう」、ミニー・リパートンの「Lovin' You」などだったのだ。
いずれも確かに75年頃のヒット曲である。
あの曲も75年のヒットで間違いない。
そこで2年ほど前からYou Tubeにある「1975年頃の洋楽ヒット曲集」みたいな動画を探して見ていた。
すぐに見つかるかと思いきや、なかなかあのメロディは出てこない。
前後の年のヒット曲にも広げて捜索してみたが、全然見つからず、いったんはあきらめた。
そして1年ほど経った先週。
ふと思いついて再度「1975年頃の洋楽ヒット曲集」を検索。
ついにあの曲にたどりついた。
それはスウィートの「Fox On The Run」。
長年不明だった曲はこれだったのか・・・
ということでいつにも増して長くつまんない前置きですが、スウィート。
バンド名も今回初めて知りました。
知ってたのは「Fox On The Run」だけやなと思ったら、73年の「Blockbuster」も聴いてることが判明。
安売りオムニバスCDに収録されてたのを聴いてただけで、サイレンの音がうっとうしいめんどくさい曲という印象しかない。
まあ長年の疑問が解明されてめでたいことは確かなので、スウィートについてもう少し調査することにした。
バンド結成の中心はブライアン・コノリー(Vo)とミック・タッカー(D)。
二人はウェインライツ・ジェントルメンというバンドに在籍していたが、脱退後にスティーブ・プリースト(G)、アンディ・スコット(B)を加えてスウィートを結成した。
実はアンディ加入の前にフランク君というギタリストがいて、スウィートショップという名でシングルをいくつか出したが全然売れず、フランク脱退・バンド名変更・レーベル変更という小刻みな変遷もあったそうだ。
なお源流であるウェインライツ・ジェントルメンには、イアン・ギランとロジャー・グローバーも参加していた・・と書いてあるサイトが複数見つかる。
ただブライアン・コノリーとミック・タッカーが在籍したのはギランが脱退した後で、みんないっしょにバンドやってた時期はないようだ。
デビューは1968年。
いくつかシングルを発表するも全然売れず、71年にRCAレコードに移籍。
このレーベル変更がバンドの転機となる。
ここで登場するのがマイク・チャップマンとニッキー・チンというコンポーザー・コンビ。
彼らが作った曲「Funny Funny」や「Co-Co」「Little Willy」がイギリスで大ヒット。
73年の「Blockbuster」でついに全英1位を獲得する。
・・・そうなの?
自分にはあまりいいと思えない曲だったんですけど・・・
しかしチャップマンとチンの力は絶大で、続く「Hell Raiser」「The Ballroom Blitz(ロックンロールに恋狂い)」「Teenage Rampage(ティーン・エイジ狂騒曲)」も大ヒットを記録した。
いずれも二人の共作である。
レコード会社やプロモーターは、スウィートを当時流行のグラムロックバンドとして売り出そうという戦略だったらしい。
驚くのは72年から73年にかけて早くもベスト盤が出ている点。
スウィートとしてはオリジナルアルバム1枚しか出てない時点でもうベスト盤が出るという、なんかジャニーズの新人バンドみたいな展開だが、それだけ当時人気があってヒット曲も多かったということだろう。
74年にセカンドアルバム「Sweet Fanny Adams」を発表。
チャップマン&チンの人気コンビは他の仕事でスウィートに手が回らなくなり、またメンバーもこの二人の音楽性に飽きてきたところだったので、大半の曲はバンドのメンバーの手で作られた。
チャートでは全英27位とまずまずの出来だったが、これは前作までの人気の反映とみられ、実際シングルでヒットした曲はない。
しかしこの自立が次の成功につながる。
75年にメンバー4人の共作である「Fox On The Run」が全英2位・全米5位を記録する大ヒットとなる。
これが日本でもオンエアされ、姉のカセットテープに収まったというわけか・・
バンドはこのヒットによって自立を確信し、76年のアルバム「Give Us a Wink(甘い誘惑)」はチャップマン&チンの力を一切借りることなく制作。
前年ヒットした「Action」も収録され、全米では27位を記録。
中にはズバリ「Cockroach(ゴキブリ野郎)」という曲もあるんですけど、これヒットしてたんでしょうか・・・?
ちなみに「Action」はデフ・レパードがカバーしているそうだ。
78年にアルバム「Level Headed(甘い罠)」をリリース。
邦題がまだグラムっぽいのが気になるが、本国では引き続き人気となりシングル「Love Is Like Oxygen」が全英9位のヒット。
しかし残念ながらこれがスウィートとしては最後のトップ10入りとなる。
翌79年にアルバム「Cut Above The Rest(標的)」を発表するが、全英全米とも100位にも入らず惨敗に終わる。
この年にブライアン・コノリーが脱退。
バンドは残った3人で活動を継続したが、ブライアン脱退のダメージは大きく、81年には解散してしまう。
ところが85年に過去のヒット曲メドレーのシングル「It's the Sweet Mix」が全英45位のヒットとなった。
そうなの?・・・・知らない・・・
日本のFMでもオンエアされたんだろうか?
このヒットを機にメンバーはそれぞれスウィートとしての活動を再開する。
ブライアン・コノリーは別のメンバーを集めて新生スウィートを結成。
一方アンディ・スコットとミック・タッカーもスウィートを再結成しツアーも行った。
たまにメンバー同士が共演することもあったらしいが、2つのスウィートは合併することもなく別々に活動。
アンディのスウィートはメンバーチェンジをしつつ、オリジナルアルバム制作やライブなども行い、現在も活動中とのこと。
ブライアン・コノリーは97年に亡くなったため、結局元のメンバーでのスウィート再結成は実現しなかった。
2002年にはミック・タッカーが、また2020年にはスティーブ・プリーストも亡くなっている。
スウィートの歴史絵巻は以上である。
そもそも2曲しか知らなかったので、名前も含めてこんなバンドであることも初めて知った。
「Fox On The Run」は改めて聴くとけっこうおもしろい。
イントロにはグラムやテクノっぽい音が聞こえ、リズムはタテノリでガヤ系だが、コーラスも厚くギターソロもちゃんとある。
クイーンに似ているという評価があるが、確かにそのとおりだと思う。
キッスを思わせるサウンドもあり、捜索中は「あの曲はもしかしてキッスか?」と思っていたくらいだ。
スウィートを語るサイトには「レコード会社やプローモーターに利用されたバンド」という表現が書かれていることが多い。
本人たちの音楽性や方向性とは違った曲を歌わされ、ヒットもしたんでこれでいけよという指示のもと活動はしたけど、そうじゃない!と自立して証明したのが「Fox On The Run」というわけだ。
自立前後の作品を比較してみることも、スウィート鑑賞の必修科目のようだ。
というわけで、スウィート。
長年の捜索がようやく終了したんで安心してそれっきりになる可能性が高いですけど、そもそもみなさんはこのバンド、ご存じでしょうか?
「Fox On The Run」以外でおすすめの曲があれば教えていただけたらと思います。
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コメント
きつねダンスに合わせたかのようなナイスタイミングですね。
ネットニュースのタイトルで見ただけで何のダンスかは私は知りません。
何かのCMソングで、女狐オン・ザ・ランというのがあり、これはスイートが元歌だなと思いつつ、
今調べたらタイムラグが10年くらいあったので、パクったかどうかは定かではないです。
お姉さまとテープを共有できるとは、良いですね。
中高時代自分の弟のカセットライブラリを、隠れ見たら、
インデックスに、燃えよドラゴンのテーマはまだしも、
大脱走マーチとか加藤隼戦闘隊とか。
肉親ながら、多分相入れることはなかろうと思ったものです。
そんな弟ですが、大学時代にエレキベース持ってました。
投稿: nr | 2022.06.14 21:30
nrさん、コメントありがとうございます。
きつねダンス、自分もよく知りませんけど、日本ハムファイターズのチアガールが踊ってるダンスのようですね。
>何かのCMソングで、女狐オン・ザ・ランというのがあり
これ調べたらバービーボーイズの歌ですね。
CMは三ツ矢フルーツだそうですが、映像見ましたけど曲も映像も記憶にないなぁ・・
まあタイトルからしてスウィートのパクリというか、シャレなんでしょうね。
>お姉さまとテープを共有できるとは、良いですね。
いえ、共有ではなく強制鑑賞です。
姉は弟が何をしていようが構わずキッスからローラーズからスウィートまで大音量でテープを聴いていました・・
まあおかげで以来洋楽に親しんでこんなBLOGも書いてるんで、結果としてよかったとも思いますが・・
投稿: SYUNJI | 2022.06.16 17:50
SYUNJIさん、お邪魔します。
スウィート「Fox On The Run」大好きです。
この曲のCD音源が欲しい為にベスト盤を購入しました。
>マイク・チャップマンとニッキー・チンというコンポーザー・コンビ
購入したベスト盤は8割がこのコンビの楽曲でした。
思い切りグラムロック的な曲で、ノリは良くて楽しいですが何度か聴くと飽きが来ます。決して嫌いではないですけどね。
「Fox On The Run」のように、バンドのメンバーの手で作られた楽曲はハードロック的で、個人的にはこっちの方が好きです。
個人的には「The Lies In Your Eyes/恋はだましあい」という曲が結構好きです。
とにかくノリが良い楽曲が多いので(ベスト盤に限って)、何も考えずノリを楽しむには最高だと思います。
投稿: まったり男 | 2022.06.20 19:41
まったり男さん、コメントありがとうございます。
スウィートご存じでしたか、さすがですね。
>スウィート「Fox On The Run」大好きです。
>この曲のCD音源が欲しい為にベスト盤を購入しました。
そうでしたか!
自分も「Fox On The Run」のノリは嫌いではなかったんで、もし若い頃にちゃんとスウィートを認識してたら、ベスト盤くらいは聴いてたかもしれないです。
>思い切りグラムロック的な曲で、ノリは良くて楽しいですが何度か聴くと飽きが来ます。
なるほど・・
このグラム期と自立期の対比も、聴き方としては面白そうですね。
>個人的には「The Lies In Your Eyes/恋はだましあい」という曲が結構好きです。
これもメンバー4人による作品ですね。
長年不明だったのがようやく判明したんで、この機会に他の曲も聴いてみようと思います。
投稿: SYUNJI | 2022.06.22 20:37