« 聴いてない 第282回 ウォーターボーイズ | トップページ | 聴いてみた 第170回 リンゴ・スター »

聴いてない 第283回 ガース・ブルックス

本国と日本での人気が大幅に異なるアーチストの最たる例であろう、ガース・ブルックス。
ロックではなくカントリーの歌手なので、日本では人気以前に知名度がかなり厳しい状況にあると思われる。
皆さんはご存じでしょうか?

ガース・ブルックス、聴いているのは「Shameless」だけ。
こんな自分でも1曲聴いているのがむしろ自慢でもあるが、ガース・ブルックスを知らなくてもこの曲を知っている人は多いはずだ。
作ったのはビリー・ジョエル。
89年のアルバム「Storm Front」に収録された曲である。

ガース版「Shameless」はMTVの音声をテープに録音しており、厳密にはライブバージョンである。
何度か繰り返し聴いているうちに「あれ?これビリー・ジョエルの曲じゃないの?」と気づいた。
ガース・ブルックスが実はカントリーの超大物歌手だと知ったのはずっと後のことだ。

しかしそれ以降他の曲を録音する機会もなく、当然アルバム鑑賞に発展することもなかった。
当時の日本の(中古含む)CDショップでガース・ブルックスのアルバムを入手できたのかどうかもわからない。
聴いてない度は2である。

カントリー界の超大物・・という情報はその後なんとなく入ってきたが、具体的にどうスゴイ人なのかは全然知らない。
そこで今回生涯で初めてガース・ブルックスを調べてみたが、その実績は想像を超えるスゴさだった。

ガース・ブルックスはアメリカのカントリー・ミュージックの歌手である。
カントリーを基盤にポップやロックの要素を取り入れたことで、アメリカにおいてチャートでの成功を収め、記録破りのライブパフォーマンスなどを行い、ポップスの分野にも進出した・・というのが、だいたいどこの紹介サイトにも書いてある。

ガースは1962年2月7日オクラホマ州タルサで生まれた。
本名はトロイアル・ガース・ブルックス。
父親は石油会社の工員、母親はアイルランド系のカントリー歌手。
母親の影響もあって子供の頃からギターやバンジョー演奏に親しんだ。

89年にカントリーの本場ナッシュビルから歌手としてデビュー。
ファーストアルバム「Garth Brooks」はビルボードのカントリーアルバムチャートで2位を記録。
またシングル「If Tomorrow Never Comes」「Not Counting You」「The Dance」も大ヒットとなり、デビュー早々にケニー・ロジャースのオープニング・アクトに起用される。
続く90年のセカンドアルバム「No Fences」は、カントリーアルバムチャートで23週連続1位を獲得し、全米で1700万枚を売り上げた。

ここまでは伝統的なカントリーミュージックを歌う純朴な青年歌手だった。
しかしその後ガースはカントリーの枠を超えたスタイルを次々に展開していく。
特に彼が強い影響を受けたのは、ジェームス・テイラーダン・フォーゲルバーグ、ビリー・ジョエルやブルース・スプリングスティーンなどの70年代フォークやロックの芸人たちだった。
またステージでのパフォーマンスも、カントリーミュージックのコンサートではあり得なかったワイヤレスヘッドセットマイクを使い、ステージを自在に駆け回って歌い、客席と一体となって大合唱という形に変えてみせた。
この点についても、フレディ・マーキュリーやキッスから影響を受けたと明かしている。

その後2001年までに11枚アルバムを発表。
全てが大ヒットとなり、シングルもカントリーチャートのベスト10常連を続けていた。

しかし。
大スターの栄光と引き換えに、家族との時間を失うことになったガース。
2000年10月に音楽活動からの引退を正式に発表する。
実はその時妻との離婚協議が始まっていた。(翌年末に正式に離婚)
ラストアルバム「Scarecrow」は2001年11月13日にリリースされたが、引退という話題性もあってビルボード200とカントリー・アルバムチャートで1位を獲得した。

離婚と引退でこのまま過去の人か・・と思われたが、復活は意外に早くやって来た。
背景はやはり女性の存在が大きかったと思われる。
ガース・ブルックスは2005年12月10日、カントリー歌手であり料理研究家のトリシャ・イヤーウッドという女性と再婚。
トリシャさんはガースが考えた料理レシピを元に「ガースの朝食ボウル」と題して雑誌や書籍に掲載したこともあるそうだ。

再婚して元気を取り戻したガース。
直後に引退を撤回したわけではなかったが、ボックスセットをリリースしたり、チャリティーコンサートに出演するなど、徐々に活動を再開する。

そして2007年11月、カンザスシティでのコンサートを実施。
当初は1公演の予定だったが、あまりの人気で急遽9公演に拡大し、約14万枚のチケットが完売となった。
さらに2009年リンカーン・メモリアルで行われたオバマ大統領就任祝賀会に出演。
「We Shall Be Free」を演奏し、ドン・マクリーンの「American Pie」とアイズレー・ブラザーズの「Shout」も披露した。

この頃ようやくガースは引退撤回を決意する。
ただしまた家庭が崩壊するようなツアースケジュールは組まず、平日はオクラホマの自宅で過ごし、週末はプライベートジェットで移動してラスベガスでのコンサートに出演というスタイルを取った。
プライベートジェットで移動・・・やはり大スターはスケールが違う。

ラスベガス公演の好評に気を良くしたガースは、2013年に「Blame It All on My Roots」というコンピレーション・アルバム(6CD+2DVDのボックスセット)をリリースした。
カントリー・ポップというジャンルを発展させた原点とされるジャンルおよび楽曲で構成されている豪華なカバー+オリジナル曲集である。
「Country Classics」ではハンク・ウィリアムスの「Jambalaya」(ジョン・フォガティやカーペンターズもカバー)、「Classic Rock」ではスティービー・ワンダーの「Superstition」やクイーンの「Somebody to Love」、エルトン・ジョンの「Don't Let the Sun Go Down on Me」、ビリー・ジョエルの「Goodnight Saigon」も収録されている。

翌2014年についにカムバックを正式に表明。
9月にシングル「People Loving People」、11月にアルバム「Man Against Machine」をリリース。

現時点で最新アルバムは2020年11月20日にリリースした「Fun」。
2021年1月20日のジョー・バイデン大統領就任式で「アメイジング・グレイス」を演奏している。

経歴はもちろん全く知らなかったが、さらに驚くのが実績である。
・ヒットシングルが70曲以上
・カントリーチャートインしたアルバムは15枚
・アメリカ国内で1億2800万枚以上、全世界では1億7000万枚以上のアルバムを売り上げた
※ガース・ブルックス以外にアメリカ国内で1億枚以上のアルバム売り上げを達成しているのは、プレスリー、ビートルズレッド・ツェッペリンイーグルスだけ
※アルバム総売上ではビートルズに次いで2位
・アメリカでダイヤモンドディスク(売り上げ1000万枚以上)を獲得したアルバムは史上最多の9枚
※ビートルズは6枚
・2012年10月21日にカントリーミュージックの殿堂入り

すんごい売れてる人、というのはうっすら認識してはいたが、1億枚以上だとは知らなかった。
1億枚以上はプレスリー、ビートルズ、レッド・ツェッペリン、イーグルスだけ・・ってウィキペディアに書いてあるけど、マイケル・ジャクソンは入ってないの?

「Shameless」しか聴いてないけど、「いかにもカントリー」なツヤのある通る声・・とは少し違うように聞こえる。
カントリー自体よくわかってないので当たっていないかもしれないが、ジョン・デンバーやアラン・ジャクソンのようなクリアな声質ではないと思う。

ちなみにアラン・ジャクソンも同じ頃MTVで知ったカントリーの人である。
当時のMTVは人気があればジャンルを問わずロックの中に混ぜてオンエアしていたのだろう。
ガースとアランはほぼ同じ89年頃にナッシュビルでデビューした、いわば同期芸人同士だそうだ。
ただアランはハデなパフォーマンスで人気を集めたガースとは違って、自分こそがトラディショナルなカントリーの正統継承者であると自負していたらしい。
ウーマン村本とキンコン西野みたいな関係だろうか。(たぶん違う)

「Shameless」はガースがビリー・ジョエルの関係者に連絡して、カバーが実現した曲だそうだ。
ガースは70年代のビリーの曲はよく聴いていたが、「Glass House」以降はほとんど聴いていなかった。
ツアーで半年ほど家を空けていて、帰ったらたまたま届いていたCDの中に「Storm Front」があり、その中の「Shameless」に非常に感動。
シングルカットもされていない隠れた名曲だと知り、だったらぜひ自分が歌いたい・・と、ビリー側に交渉。
やがてビリーの関係者から「ビリーはあなたのことを知っていて、カバーしてくれることを光栄に思っている」と書かれた手紙が届いたとのこと。

ガースがカバーした「Shameless」は、めでたく91年後半カントリーチャート1位の大ヒットとなった。
他にも多くのロックのヒット曲をカバーしてきたガースだが、「Shameless」はその中で最も成功したカバーだと言える。
このカバーが縁で、ガースは2008年のビリーのコンサートで「Shameless」を共に歌い、2011年にガースがソングライターの殿堂入りを果たした際、再びこの曲を一緒に演奏している。
・・・こういう話を知ると、オリジナルよりカバー集から鑑賞したくなりますけど。

というわけで、ガース・ブルックス。
そもそも自分が親しんできたジャンルとは違う人であり、日本で熱心に聴いてるファンがどれくらいいるのか見当もつきませんけど、おすすめの作品をご存じでしたら教えていただけたらと思います。

| |

« 聴いてない 第282回 ウォーターボーイズ | トップページ | 聴いてみた 第170回 リンゴ・スター »

コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
そういえば名前だけ&カントリー系ということだけ
知っていました、ブルックス。

しかし、名実ともに超大物ということを今回初めて
知りました。何度か引退しては復帰していますが、おそらくは
周囲が引退を許さない、とりあえず短期間でいいから復帰して
ほしい=売上がほしいという強い要望だったのではないかと
思います。ブルックス自身は孫の代まで遊んで暮らせるくらいの
お金を貯め込んでいたでしょうから。

ちなみに、カントリー系の大物でしたら、ヴィンス・ギルを
知っています。しかし本人のCDなどを聞いたことは一度も
ありません。ドゥービーやシンディ・ローパーの作品へのゲスト
参加、最近ではイーグルスに正式加入してライブ盤発売で、
こちらを聞いています。我ながら、ギルに失礼な聴き方です(笑)

投稿: モンスリー | 2022.03.13 20:25

モンスリーさん、コメントありがとうございます。
さすがにガース・ブルックスをくまなく聴いてる人は日本だと少ないんでしょうね。

>何度か引退しては復帰していますが、おそらくは周囲が引退を許さない、とりあえず短期間でいいから復帰してほしい=売上がほしいという強い要望だったのではないかと思います。

これはあったでしょうね。
引退撤回して曲出せば必ず売れることは本人も周囲もわかってたでしょうし。
それにしてもここまで実績がすごいとは思ってませんでした。

>カントリー系の大物でしたら、ヴィンス・ギルを知っています。

イーグルスにグレンの息子が加入したのは知ってましたが、同時に加入したのがヴィンス・ギルだったんですね。
カントリーの人だとは知りませんでした。

投稿: SYUNJI | 2022.03.13 21:37

こんばんは、JTです。

ガース・ブルックス、全く知りませんでした。

私の知人で「カントリー」をよく聞く男がおり、その男の「カントリー」コーナーのCDを見ると、ジャケットが全てテンガロンハットを被って、にっこり。

丁度上のamazonの「Garth Brooks by Garth Brooks」みたいなジャケットばっかりです。
演歌における着物(和服)みたいなものでしょうか。

amazonの最後の広告「冷徹と誠実 平成の宰相」って、何の関係か?あ、ガースーか(笑)。

投稿: JT | 2022.03.13 22:03

JTさん、こんばんは。
ガース・ブルックス、ご存じなかったですか。
日本だとどういう人が聴いてるんでしょうね?

>ジャケットが全てテンガロンハットを被って、にっこり。

ガースのアルバムジャケットもほとんどはテンガロンハットですけど、あまり笑顔はないですね。
カメラ目線でイキった表情が多いのも、ロックの影響なんでしょうか・・
同期芸人のアラン・ジャクソンもほぼテンガロンハットのジャケットですが、こちらは表情もおだやかで背景もいかにもカントリーな風景ですね。

>あ、ガースーか(笑)。

すいません、こんな寒いボケオチを拾っていただいて・・
我が国のガースーは最近すっかりテレビで見なくなりましたけど・・

投稿: SYUNJI | 2022.03.15 21:08

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 聴いてない 第282回 ウォーターボーイズ | トップページ | 聴いてみた 第170回 リンゴ・スター »