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聴いてみた 第170回 リンゴ・スター

映画「Get Back」配信によりにわかに高まった、三流中高年ビートルズ再学習熱。(映画見てませんけど)
再学習強化課程として昨年はポールジョンジョージのソロ作品を地味に少しずつ鑑賞してきたが、そうなるとやはり無視できないのがリンゴ・スターである。

リンゴのアルバムは1枚も聴いておらず、シングルもエアチェックしたことがない。
ビートルズ時代は4人の中で極端に露出も作品数も少ない立場だったが、解散後に真っ先にヒット曲を連発し、3人と共作共演してきたのがリンゴなのだ。(聴いてないけど)
ということで、解散後に4人の歌と演奏が1枚のアルバムで聴けるというお得な「Ringo」を安直姑息に鑑賞することにしました。

Ringo_20220321090001

鑑賞前に背景などを事前学習。
「Ringo」は73年リリースの3枚目のスタジオ盤。
全英7位、全米2位を記録し、カナダでは1位も獲得している。

ビートルズ解散以降、ダメージの大きかったジョンとポールとは対照的に素早く活動し始めたリンゴ。
70年にスタンダード・ナンバーのトリビュートアルバム「Sentimental Journey」と、カントリー曲集「Beaucoups of Blues」を発表。
翌年にはジョージ・ハリスンとの共作で、シングル「It Don't Come Easy」「Back Off Boogaloo」を発表し、どちらも全英チャートでトップ10入り。
ファンもレコード会社もアルバムを期待したが、リンゴはこの時期俳優活動に集中するためアルバム制作に時間を取らなかった。

73年になってようやくソロアルバム制作を決断。
ただし売れたシングルを安直に収録することはせず、全曲を新しく録音することにし、リチャード・ペリーをセッションのプロデューサーに指名した。

録音は3月からロサンゼルスで始まった。
リンゴの呼びかけに応じたのは、マーク・ボランザ・バンドのメンバー4人、ビリー・プレストン、クラウス・フォアマン、ニッキー・ホプキンス、ハリー・ニルソン、ジム・ケルトナー、ジェームズ・ブッカーなどの大物芸人たち。
さらにビートルズの3人も曲と歌と演奏を提供し、解散後にアルバム内で4人が集まるというファン歓喜の状況を作り上げた。

アルバムは前述のとおり大ヒット。
普段は辛辣な評論家たちも絶賛し、ローリング・ストーン誌では「ジョン・レノンのように極端で擦れた感じでもなく、ジョージ・ハリスンのように辛辣でもなく、ポール・マッカートニーのように薄っぺらでもなく、バランスが取れている」と称賛された。

リンゴ絶賛の一方で3人はなんか散々な言われようだけど、じゃあ3人はこの73年に何をしてたかっつうと、ポールは4月にウィングスとして「Red Rose Speedway」、ジョージは5月に「Living in the Material World」、ジョンは10月に「Mind Games」をそれぞれ発表している。
評価は様々と思うが、4人は解散ダメージからやっと脱却し、互いを攻撃することもやめて個々の活動に専念し始めた時期・・と言える。
その中でリンゴの呼びかけに3人が応じて協力したので、これは再結成も近いと誰しもが期待を寄せたに違いない。

企画盤ではなく、リンゴの最初のソロ作品と言える「Ringo」。
3人の参加も含め聴きどころ満載のアルバム、果たしてどんな音がするのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

1. I'm The Greatest
ジョン・レノンの作品で、ジョン自身もピアノとバックコーラスで参加。
ジョージもギターを弾いている。
言われてみればジョンらしくクセの強いメロディだ。
終盤はほとんどキレ気味にリンゴがシャウト。
モハメド・アリの言葉にインスピレーションを受けたジョンは、ビートルズ解散以前にすでにこの曲を書いていたが、リンゴのために歌詞を書き直し、リバプールやビリー・シアーズといったビートルズ由来の言葉を入れたそうだ。
ジョンは「こんな歌詞でもリンゴが歌えばカドも立たんやろ」と思ったらしい。
「Sgt. Pepper's」の歓声や笑い声も再現されており、ホワイト・アルバムにあってもおかしくない構成。

2. Have You Seen My Baby?
ランディ・ニューマンの作品。
楽しそうなリズムにリンゴがノリノリで歌う。
マーク・ボランがギターで参加しているが、リンゴといっしょに演奏ではなく、別録りで後から足されたとのこと。

3. Photograph(想い出のフォトグラフ)
この曲はジョージ追悼コンサートでリンゴが披露していたので知っていたが、スタジオ版を聴くのは初めてである。
おだやかな調べだが、歌詞は結構悲しい内容。
71年にリンゴとジョージはミック・ジャガーの結婚式に出席した後、南フランスでヨットを借りて楽しんだが、そのヨットの中でジョージが書いたのがこの曲。
録音にはジョージも参加し、クレジットはリンゴとの共作になっている。

4. Sunshine Life For Me (Sail Away Raymond)
ジョージの作った曲で、ザ・バンドの4人も参加。
どこかカントリーっぽいサウンド。

5. You're Sixteen (You're Beautiful And You're Mine)
ジョニー・バーネットが1960年にヒットさせたオールディーズ曲のカバー。
ボブ・シャーマンとディック・シャーマンという兄弟の作品。
このシャーマン兄弟はディズニーの映画音楽を数多く手がけたことでも有名だそうだ。
(テレビで浅倉大介が紹介していて知りました)
これも楽しいリズムとサウンドで、ポールも紙に口を押し当てて音を出すという「マウス・サックス」で参加している。

6. Oh, My My
リンゴとヴィニー・ポンシアという人の共作。
3枚目のシングルで全米5位を記録。
ジム・ケルトナーがドラム、ビリー・プレストンがピアノ、クラウス・フォアマンはベースを演奏。
バックボーカルにはモータウン女性シンガーのマーサ・リーブス。
ファンクで黒っぽく、どこかストーンズのような音がする。
全米5位の快挙にジョンはリンゴに「おめでとう。よくもまあ・・(大したもんだね)。じゃあ今度はオレにヒット曲を書いてくれよ」と電報を打ったそうだ。

7. Step Lightly
リンゴが書いた曲で、タップ音も聞こえる。
リンゴが録音前に運転手に頼んでタップ靴を用意させたそうだが、リンゴが踏んでいるかどうかはわからない。
リズムは朗らかだが、なんとなく気だるいメロディ。

8. Six O'Clock
ポールの作った、アルバム中唯一といっていいピアノバラード。
ピアノとシンセサイザーもポールが弾いている。
リンダもコーラスに参加しているので、雰囲気はほぼウィングスである。

9. Devil Woman
これもヴィニー・ポンシアとの共作。
なんとなくジョン風の急いだロックにリンゴは割と平坦に歌う。

10. You And Me (Babe)
ラストはジョージとマル・エバンズの共作。
マルはビートルズのローディーを長く務めた人で、ジョージはギターでも参加。
ゆったりしたテンポにリンゴ節がマッチしている。
エンディングではリンゴがラジオ番組のようにアルバムに協力してくれた人々(ジョージ、ジョン、ポールも含む)に向けてお礼を言い、最後に「リンゴ・スターでした!」と言って終わる。

聴き終えた。
曲の大半にジョンとポールとジョージが関わっていてボーカルもリンゴなので、トータルなイメージはこれまで聴いてきた4人のソロアルバムの中では最もビートルズの香りが強い。
4人全員が揃った曲はないので、評判どおり「ホワイト・アルバム」のような感じ。

4人がそれぞれ参加しながら、思ったほどインパクトのある曲もなかったが、全部安心して聴けるのはリンゴの歌の良さである。
もしリアルタイムで聴いていたら、話題性もあったため間違いなくローテーション入りしていたはずだ。

少し意外だったのはリンゴのボーカルがかなりはじけている点。
ビートルズではどの曲でもほのぼの調の鼻声でなごませたリンゴだが、このアルバムでは曲のテーマやメロディ印象に合わせて、器用に変幻ボーカルを駆使している。

またバラードがポール作の「Six O'Clock」だけというのもなんとなく意外。
自分はリンゴが歌うビートルズの曲の中では「Good Night」が最高だと思うのだが、ああいう感じの曲がもう1つあればよかったのに・・と感じた。

時系列で言うと、73年3月にロスでジョンやジョージとレコーディングし、4月にはロンドンでポール&リンダと録音を行っている。
ジョンやジョージとの楽しいレコーディングの最中、「この後ポールを誘わないままアルバム作ったらきっと大騒ぎになるし、ポールもいい気はしないやろなぁ・・」とリンゴは考えたんだろう。
リンゴえらい。(知り合いかよ)
この判断は非常に正しく、リンゴのアルバムにポールだけ不参加だったら、その後の事態はまた深刻になっていた可能性が高いと思う。

アルバム発表前から、ジョンとジョージとリンゴがロスでレコーディングしてることはもうニュースになっていたらしい。
音楽雑誌「メロディメーカー」は、「今週元ビートルズの3人が再結成のためにロスでチームを組んだ!後任ベーシストはクラウス・フォアマンか?」と東スポっぽく報じている。

結局この時も4人による再結成はなかったが、リンゴによれば76年に一度4人で再結成のオファーをマジメに検討したことがあったそうだ。
だが公演イベントの内容を聞くと、前座に「でかいサメとプロレスラーの戦い」が予定されており、4人は互いに電話で意志を確認し合い、「そんな話なら断ろう」となった。

・・・世界中が待ちわびるビートルズ再結成の前座に、どうしてサメ対プロレスラーというたけしプロレス軍団超えのスベリ企画を持ってくるのか理解できないんだが・・
ちょっと考えればわかる気がするんだけど、かの大英帝国でもたまにファンの心理を信じられないほど読みはずす主催者というのも存在した、ということですかね。
こんなポンコツ企画のせいで4人での再結成は幻となった・・と思うと、甚だ残念である。

ジャケットはビバリーヒルズで宝石職人の見習いとして働いていたティム・ブラックナーという人のデザイン。
LPレコードならではの楽しい絵である。
ステージ上の「RINGO」の電飾のIの代わりにリンゴが立ち、脇で天使が同じポーズ。
後ろのバルコニーには「Sgt. Papper's」風に多くの人物が描かれ、ポールの横にはリンダが、ジョンの横にはヨーコがいる・・ように見えるけど、合ってます?

ということで、「Ringo」。
話題性ばかりに気を取られがちですが、それを差し引いても楽曲や歌や演奏はやはり世界中を魅了した4人の成果だったことは、三流の自分にも理解できました。
ジョン自身が評価していたとおり、正直ジョンのソロよりも聴きやすいと感じました。
次は同じように豪華なゲストで作られた「Goodnight Vienna」「Ringo's Rotogravure」を聴いてみようと思います。

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
私の記憶では、あのレコードコレクターズ誌でもスターの
初期作品、特に1st「Sentimental Journey」と今回の
「Ringo」は評価が高かったと思います。特に「Ringo」は発売
直後から人気があって、ビートルズの3人も「なんであいつが」
と結構フクザツな気分だったのではないでしょうか(笑)。

手元に第1次から第6次までのオールスターバンドのライブ
を収録した3枚組ライブ盤があります。48曲中、スターのリーダー曲が
14曲です。さらにこの14曲中、3曲が「Ringo」からです。
私もこの3曲を聴き直しました。「You're Sixteen」は、スターの
楽しいボーカルにこれまたバックがごきげんなコーラスをつけます。
「Photograph」はdisc1の最後を飾っており、それほどの寂しさを
感じさせません。「You're Sixteen」より重厚な感じです。
「I'm The Greatest」は、タイトルから想像するに他の人が歌うと「おいおい」
になるかもしれませんが、スターが少しだるく歌っていて、ボーカルの
表現力の高さを感じます。

日本ではビートルズ時期ばかりが語られますが、欧米ではマッカートニーも
スターも最新の活動が話題になるそうです。そういう意味でも、スターが
オールスターを集めてロックンロールレビューライブを続けるのは
意義があります。今回、3枚全部を通して聞き直しましたが、やっぱり
楽しいです。

>>「この後ポールを誘わないままアルバム作ったらきっと
>>大騒ぎになるし、ポールもいい気はしないやろなぁ・・」

こういう気遣いがイヤミにならないのがスターのよさで、それでオールスターが
集まるのでしょうね。音楽の話だけをするつもりが結局人柄の話に
なってしまうのもスターならではということで、お後がよろしいようで(^^;

投稿: モンスリー | 2022.03.26 19:16

モンスリーさん、コメントありがとうございます。

>特に「Ringo」は発売直後から人気があって、ビートルズの3人も「なんであいつが」と結構フクザツな気分だったのではないでしょうか(笑)。

どうなんでしょうね?
3人はそれぞれ協力して曲も提供してますから、「売れたのはオレのおかげ」と思ってたのかも・・
ジョンは「オレのアルバムよりもいい」と発言してたそうですけど。

>さらにこの14曲中、3曲が「Ringo」からです。

ということはリンゴもこのアルバムは気に入ってるんでしょうね。

>日本ではビートルズ時期ばかりが語られますが、欧米ではマッカートニーもスターも最新の活動が話題になるそうです。

そのようですね。
最近リンゴが新作を出した時も、日本の民放アナウンサーがインタビューする際、事前に「新作のインタビューだから絶対ビートルズの話はするな」と言われたそうです。
リンゴ自身も「新作を出しても日本のマスコミから聞かれるのはビートルズの話ばかりでウンザリしている」と発言したのを聞いたことがあります。

>こういう気遣いがイヤミにならないのがスターのよさで、それでオールスターが集まるのでしょうね。

結局解散後生前の4人の歌と演奏が聴けるのはリンゴのアルバムだけですから、リンゴはやはり貴重な存在だったんですね。

投稿: SYUNJI | 2022.03.27 17:14

こんにちは、JTです。

>1. I'm The Greatest

ジョンのアンソロジーにリンゴのレコーディング時に録音したジョンのボーカルバージョンがあります。ベーシックトラックの録音にジョンが同時に仮歌を歌っているものですが、こちらもなかなかよいです。

>8. Six O'Clock

ポール作のこの曲、「I'm The Greatest」やジョージが曲作りに参加した「Photograph」と比べると曲が弱いかな?
ウィングスの没曲かな?

>3. Photograph(想い出のフォトグラフ)
>おだやかな調べだが、歌詞は結構悲しい内容。

詩がジョージ作なら、パティの事を歌ったのかな。

>こんなポンコツ企画のせいで4人での再結成は幻となった・・と思うと、甚だ残念である。

前後してジョンがヨーコさんと別居時期だったので、1975年までが再結成のチャンスだったのですが...。

>ポールの横にはリンダが、ジョンの横にはヨーコがいる・・ように見えるけど、合ってます?

合っています。ジョージは一人ですね(悲)。

投稿: JT | 2022.04.02 11:14

JTさん、コメントありがとうございます。
ようやく「Ringo」聴いてみました。(遅い)

>ジョンのアンソロジーにリンゴのレコーディング時に録音したジョンのボーカルバージョンがあります。

あ、そうなんですね。
ジョンが自分の歌として発表してたら、やはり「何を偉そうに」と批判が殺到してたんでしょうか・・

>ウィングスの没曲かな?

いい曲ですが、確かにポールの作品としては少し地味な印象ですね。
ポールに与えられた時間があまりなかった可能性もありますね。

>詩がジョージ作なら、パティの事を歌ったのかな。

ジョージとリンゴがこの曲を作り始めたのは71年頃なので、まだジョージがパティと破局する前のようです。
それともこれはジョージの予言なのかな?

>合っています。ジョージは一人ですね(悲)。

やはりそうですか。
こういう実在のスターたちをジャケットにするのは、その後の展開によっては結構リスクになりそうですね・・
ジョンだってもしかしたらこの後ヨーコと別れてたかもしれないし・・

投稿: SYUNJI | 2022.04.03 21:59

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