聴いてない 第276回 アイアン・バタフライ
60年代後半から70年代にかけて、サイケやヒッピーといった文化が音楽にも多大な影響を及ぼしたことはなんとなく知っているが、実際にそうした音楽を聴いてみたりベルボトムのジーンズはいてゴーゴー喫茶に通いつめたり六本木のハウスでヤバいクスリをやってみたりしたことはない。
あったら困るけど。
なので今日採り上げるアイアン・バタフライも、名前と有名なアルバムだけは知っているが、聴いたことは一切ないバンドである。
学生の頃プログレ好きな友人の家でELPの細かすぎる特徴を延々聞かされ、実際に曲をかけて説明されたことがある。
しかし当時自分が聴いていた80年代産業ロックとはあまりにも乖離しており、プログレに対しては難解なイメージしか持てなかった。
今もその感覚はあまり変わっていない。
で、その時友人が持っていたレコードコレクションに、アイアン・バタフライの名盤「In-A-Gadda-Da-Vida」もあり、友人は「B面はタイトル曲だけで17分もある」と誇らしげに説明した。
結局その日はアイアン・バタフライ鑑賞までには至らず、難しいELPだけ聴いて友人宅をあとにした。
自分のアイアン・バタフライに関する体験は以上である。
(レコードを見ただけ)
あれから30年以上は経過しているはずだが、現時点でも興味は全然わいていない。
アイアン・バタフライは、日本では主に「団塊の世代」に支持されていたようだ。
コロナ禍でどの世代とも話をする機会はもうほとんどないが、あの世代の方々と話を合わせるために知っておくと便利なバンドだと思われる。
ということで、来たるべき団塊の世代との邂逅に備え、自己批判しつつアイアン・バタフライ学習を決起邁進。(適当)
ところが。
聴いてないシリーズではまずバンド略歴をウィキペディアで調べることにしてるんだけど、日本語版を見てびっくり仰天(死語)。
バンドの歴史はそれほどの文章量でもないが、旧メンバーが60人以上もいる。
英語版はさらに詳しく、文章量は日本語版の倍以上。
ページの後半ほとんどで旧メンバーとラインナップ(期)、メンバー別タイムラインをカラーグラフで紹介。
ラインナップは細かく言うとたぶん40期以上ありそうだ。
こんなの見たらイエスやパープルの離合集散なんてカワイイもんである。
アイアン・バタフライについて、期ごとのメンバーを正確に言える日本人なんているんだろうか?
バンドの歴史サマリーをアジェンダかレジュメに記そうと思ったけど(適当)、この量を見て急速に意欲減退。
仕方なく三流セミナーのプレゼン資料のごとくパワポ1ページ分程度に箇条書き。(雑)
・1966年カリフォルニア州サンディエゴで結成
・メンバーは、ダグ・イングル(V)、ジャック・ピニー(D)、グレッグ・ウィリス(B)、ダニー・ワイス(G)
・結成直後ダリル・デローチ(V)が加入
・68年のセカンドアルバム「In-A-Gadda-Da-Vida」は1年以上ビルボードチャートに残り、最終的に累計3000万枚以上の売り上げとなった
・次作「Ball」発表後にメンバー交代を経て71年にいったん解散
・74年、エリック・ブラン(G)、ロン・ブッシー(D)、フィリップ・テイラー・クレイマー(B)、ハワード・レイツェス(K)で再結成
・以降85年までメンバーチェンジを重ねながら活動、85年に再度解散
・87年にロン・ブッシー、エース・ベイカー(K)、ケリー・ルーベンズ(B)、マイク・ピネラ(G)で再々結成
・以降2012年までメンバーチェンジを重ねながら活動、2012年にまた解散
・2015年にロン・ブッシー、エリック・バーネット(G)、マイク・グリーン(Pa)、デイブ・メロス(B)、フィル・パラピアーノ(K)、レイ・ウェストン(D)で再々々結成
・2021年現在も全く異なるメンバーで活動中
・2021年8月29日、最も長く在籍してきたドラマーのロン・ブッシーが79歳で亡くなった
・スタジオアルバムは6枚
ものすごく大雑把だが、ヒストリーはこんな感じ。
アイアン・バタフライの音楽は、ブラック・サバス、AC/DC、ラッシュ、アリス・クーパー、ユーライア・ヒープ、サウンドガーデンなど、数多くのバンドやアーチストに影響を与えたとされる。
歴史も長いが、実績も影響範囲も広いバンドである。
なおアルバム売り上げ実績は「In-A-Gadda-Da-Vida」が最高だが、チャート順位では最高4位で、「Ball」が最高3位を記録している。
通算で6枚しかアルバムを出していないが、この2枚が突出して売れたようだ。
しかしだ。
最新のアルバムは75年の「Sun and Steel」。
46年間新曲も新作アルバムも出ていない。
2014年にライブ盤が3枚発表されているが、音源はいずれも67年や71年のもの。
でもバンドは2021年現在も継続中。
・・・では76年以降活動としては何をしてるの?
60人以上のミュージシャンが入れ替わり立ち替わり参加しながら、ひたすら過去の作品をライブで演奏している・・ということ?
これまでいろいろな聴いてないバンドを調べてきたが、ここまでメンバーチェンジを重ねながらも50年以上も継続してきた(一時期解散していたようだけど)事例も珍しい気がする。
バンドのメンバーだけで累計60人超なのだから、周辺のスタッフもカウントしたら200人は超えるだろう。
これはバンド継続というより、伝統楽団をみんなで運営し続けているような状態なのか?
それとも「アイアン・バタフライ保存会」のみなさんが屋号を守るため必死に楽曲を伝承している・・ような感じだろうか?
その情熱は賞賛すべきだろうけど、原動力は何?
これだけ長い期間にこれだけ多くの人が関わっているとしたら、よほど事業として魅力的でなければおかしい気がする。
今のメンバーは過去の楽曲をライブで演奏して、それで儲かってるの?
過去のメンバーの間で、ギャラや印税の配分とかで混乱はないのだろうか?
例えば今自分が「In-A-Gadda-Da-Vida」の新品CD(って買えるの?)をタワーレコードで買ってみたら、誰に印税が入るんですかね?
事務所やレコード会社にとってアイアン・バタフライはどういう存在なのだろう?
謎は深まるばかり。
アイアン・バタフライの本とか出てるんでしょうか?
とりあえず名曲「In-A-Gadda-Da-Vida」を部分的にYou Tubeで鑑賞してみた。
どこのサイトにも書かれているが、「ドアーズやヴァニラ・ファッジを安くしたような音」は確かにそう感じる。
聴いてて楽しくなる音楽ではないが、思ったほど拒絶感もわいてこない。
「In-A-Gadda-Da-Vida」という噛み合わせの悪そうなタイトルは、旧約聖書に登場する楽園を意味し、「生命の庭」「エデンの園」「安息の地」などという言葉に訳されたそうだ。
これ普通にアメリカ人に言って通じる言葉なのだろうか?
造語じゃないの?
というわけで、謎の伝統芸能団体アイアン・バタフライ。
鑑賞するなら当然「In-A-Gadda-Da-Vida」でいいと思いますが、それよりバンドの実態や継続の秘密について、詳しい方がおられましたらぜひご教授いただきたく存じます。
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コメント
秘密というほどの事ではありませんが、燃えよ鉄蝶という邦題のアルバムが出たというのを当時FMfanで見ました。
ブルース・リー便乗商法ここにもと思っただけで聞いていません。
アイアンバタフライ、マウンテン、ジェファーソン・エアプレインの苦業3兄弟に比べたらELPはみんなのうたレベルの親しみやすさです。
投稿: nr | 2021.10.02 18:30
nrさん、コメントありがとうございます。
>燃えよ鉄蝶という邦題のアルバムが出たというのを当時FMfanで見ました。
これ「Scorching Beauty」というアルバムの邦題ですね。
当時の邦題はかなり自由でしたけど、こんなのもあったんですね。
ただ検索すると「燃えよ」だけでなく「燃える」「燃えろ」と微妙に異なる表記も見つかりますけど・・
>アイアンバタフライ、マウンテン、ジェファーソン・エアプレインの苦業3兄弟に比べたらELPはみんなのうたレベルの親しみやすさです。
ええ~??そうなんですか?
3兄弟どれも聴いてませんが、ELPを難解と感じている次点で不合格ですね・・
ヘタに手を出さないほうがいいかなぁ・・
投稿: SYUNJI | 2021.10.03 17:50
SYUNJIさん、こんばんは。
私は1stアルバム「Heavy」(1968)、2nd「In-A-Gadda-Da-Vida」(1968)、
「Iron Butterfly Live」(1970年)の3枚を聞いています。
サウンドはエレキギターとオルガンのツインリードが拮抗しており、アップテンポの曲が
多くてパワフルです。つまらないバラードは一切ありません。ボーカルも金属的ではない
ワイルドさがあって、しかもコーラスが厚いのです。
……こうして書き出してみると私の好きなサウンドそのもので、改めて驚いています。しかし
実際には全く響いてきませんでした。
まずエレキギターがやたらノイジーです。オルガンはピロピロ~という音が中心で、疾走感は
ありません。ボーカルは確かにパワフルかもしれませんが、大味です。そしてコーラスなんですが、
これとオルガンが融合してハードロックというよりサイケというか、全く知らない世界ですが
ヒッピーのコミューンで流れてきそうな感じになります。
17分の大曲「In-A-Gadda-Da-Vida」ですが、例の有名なフレーズはずっと鳴り続けます。しかし
曲としての起伏に乏しく冗漫な感じです。多分、ジャムセッションがうまくいったので、ちょっと
手を加えて曲にしてしまったのではないでしょうか。この曲が出たのは1968年ですので、フロイド、
イエス、ELPなどの大曲巧者の先達ではあります。「早すぎた大曲」と言えなくもないですが、
プログレ大曲には太刀打ちできません。(←ファンの方、ごめんなさい)
こんな感じですので、CDは全部手放しました。
それで、以前のファッジの記事に私もコメントさせていただきましたが、バタフライに時間を割くより
是非ファッジをどうぞ。1stは名盤で強力におすすめできますし、この何年かのZEPカバーや
ロック名曲カバーは、名曲を完全にファッジ化していてとても良いです。
>>プログレ好きな友人の家でELPの細かすぎる特徴を延々聞かされ、
(中略)
>>友人は「B面はタイトル曲だけで17分もある」と誇らしげに説明
爆笑! わかるわ~。「プログレは高尚」、「プログレは哲学」、挙げ句の果てには
「プログレをロックなどと一緒にしないでいただきたい」と、若いときはつい考えるん
ですよね。私も1993年にはじめて「原子心母」を聞いたときに「これぞ21世紀の音楽だ!」
と勘違いしましたから(笑)
投稿: モンスリー | 2021.10.04 21:05
モンスリーさん、こんばんは。
>私は1stアルバム「Heavy」(1968)、2nd「In-A-Gadda-Da-Vida」(1968)、「Iron Butterfly Live」(1970年)の3枚を聞いています。
たぶんそうじゃないかとは思ってましたが、これはもうファンの領域ではないでしょうか・・・?
>実際には全く響いてきませんでした。
と思ったらそういう感想でしたか・・
ご説明読むと自分にも聴けそうな気は一瞬したんですけど・・
>まずエレキギターがやたらノイジーです。オルガンはピロピロ~という音が中心で、疾走感は
ありません。ボーカルは確かにパワフルかもしれませんが、大味です。
そうスか・・このあたりが微妙だなぁ・・
少し聴いてみた範囲では、悪くはないけど夢中になる予感もあまりしないという感じでしたが。
>バタフライに時間を割くより是非ファッジをどうぞ。
そうですね、ファッジのファーストは今もたまに聴きますけど悪くないですね。
ただそれ以上全く進展もしてませんが・・
アイアン・バタフライよりは先に学習しておいたほうが良さそうですね。
でも自分のファッジの記事は15年前のものですが、「「イン・ア・ガダダ・ヴィダ」とかいう妙なタイトルのアルバムを聴かせてもらった」とか書いてるなぁ・・そうだったっけ・・
15年の間にその記憶も完全に失ってました・・
>「プログレは高尚」、「プログレは哲学」、挙げ句の果てには「プログレをロックなどと一緒にしないでいただきたい」と、若いときはつい考えるんですよね。
産業ロックな自分とは永久にわかり合えない深いプログレの溝ですね。(笑)
まあ友人の場合、そこまでイヤミなプログレマニアでもなかったですけどね。
むしろプログレのコアすぎる音や特徴や人物像なんかを半ばギャグのように紹介してくれる変わったヤツでした。
感覚的にはそいつのノリは大槻ケンヂ(の音楽評論)に近いです。
投稿: SYUNJI | 2021.10.06 21:07