聴いてみた 第164回 ポール・マッカートニー&ウィングス その4
五輪直前ポール・マッカートニー緊急連続鑑賞シリーズ、今回はウィングスとして最後に残った未聴盤「Wild Life」を聴いてみました。
「Wild Life」は71年12月発表で、名義はウィングス。
鑑賞前に制作経緯を金融機関からの働きかけにより拙速学習。
2枚のソロアルバム発表後、ポールは新バンド結成に向けて動き出す。
「Ram」に参加していたドラマーのデニー・シーウェルと、ギターのヒュー・マクラッケンに、ポールはバンド参加を打診。
デニー・シーウェルは承諾したが、ヒュー・マクラッケンは拒否。
ポールは元ムーディー・ブルースのデニー・レインに声をかけ、さらに音楽経験ほぼゼロの写真家リンダを加えてウィングスを結成した。
その後のウィングス成功を思えばポールには先見の明があったと言えなくもないけど、ド素人リンダをよく加入させたもんだと思う。
失敗すれば夫婦ごと炎上だろうし、それで夫婦仲が悪くなるリスクも当然あったはず。
揺るがない自信が道を切り開いた典型である。
まあリンダではないしっかりしたプロが参加しても、成功はしてたとも思いますけど。
レコーディングは71年8月から始まる。
出版社の年末進行っぽい日程に驚くが、それで年末にはリリースしてるんだからすごいよなぁ。
8曲中5曲は1テイクというセッションっぽい録音で、場所はアビイ・ロード・スタジオ。
トニー・クラークとアラン・パーソンズがエンジニアを務めた。
オリジナル盤のジャケットにはバンド名もタイトルも記載されていなかったとのこと。
今回聴いたのは「ポール・マッカートニー・コレクション」シリーズの一部として93年に発売されたリマスター盤。
果たしてウィングス最初にして最大の問題作はどんなワイルドな演奏を聴かせてくれるでしょうか。
・・・・・聴いてみた。
1.Mumbo
どこか「Birthday」のような、キレ気味のロックナンバーでスタート。
リズムやメロディは終始同じで、時々聞こえるキーボードが安っぽくてなんかいい。
タイトルは音楽ジャンルのマンボではなく、ちんぷんかんぷん意味不明という意味・・らしい。
2.Bip Bop
ゆったりしたアコースティックギターに、ザラザラでワイルドなボーカル。
これポールの声?
一度聴いただけではわからないくらい、絞り出すように歌っている。
これもずっと同じリズムとメロディが4分も続き、少し長い。
ベスト盤「夢の翼」では「Bip Bop / Hey Diddle」のメドレーで聴いているはずだが、これも全然覚えていない。
3.Love Is Strange
50年代に全米1位を獲得したミッキー&シルヴィアというデュオのカバー。
長いイントロの後で歌が始まり、ポール登場はさらに後。
この曲はその後もケニー・ロジャース&ドリー・パートンや、エブリシング・バット・ザ・ガールもカバーしている。
エブリシング・バット・ザ・ガールのカバーは聴いていたが、ウィングス版はレゲエ調のアレンジになっており、一度聴いても同じ曲だとはわからなかった。
4.Wild Life
タイトル曲はややブルース調の物悲しい調べ。
ポールがやはり絞り出すように歌う。
シャウトに続きコーラスが当たり、ギターが鳴る。
タイトルは野生動物の意味で、歌詞は動物にも人間と同じように生きる権利があると訴える内容。
5.Some People Never Know
LPではここからB面。
ようやくポールらしいバラード。
シンプルな演奏に安心感が漂い、リンダとのハーモニーもまあなんとか聴ける。
解散後ずっと険悪だったジョン・レノンへのメッセージソングで、この曲に対するジョンの回答が「I Know」という曲だそうだ。
6.I Am Your Singer
ポールとリンダが歌うが、リードはリンダ。
ウィングスではバックコーラスでこそ力を発揮してきたリンダだが、この曲ではリードでも健闘している。
7.Bip Bop Link
2曲目のリプライズのインスト。
発売当時はタイトルもないシークレット・トラックの扱いだったが、CD化の際に初めてタイトルが付けられたそうだ。
8.Tomorrow
タイトルが「Yesterday」と対になっていて、しかもコード進行も同じらしい。
ただメロディやサウンドは全く違うし、自分には聴いてもコードが同じかどうかはわからなかった。
この曲もベスト盤「夢の翼」で聴いていたはずだが、やはりあまり印象に残っていない。
エンディングは壮大でやや大げさに終わる。
9.Dear Friend
ビートルズ解散直後に作ったバラードで、前作「Ram」のセッションで録音は済んでいたとのこと。
暗いメロディだが、ジョンとの和解を表している曲で、ポール自身リマスター盤発売時に「この曲はビートルズ解散に関する様々な論争の後に、僕がジョンに語りかけているような曲」「今聴くととても感情的になってしまって、涙が込み上げてくる」「歌詞はジョンに「ワインでも飲んで仲直りしよう」と話しかけているようなもの」と明かしている。
そういう情報を仕入れて聴くと味わいが違うのも不思議だ。
10.Mumbo Link
1曲目のリプライズのインスト。
これもアナログ盤ではタイトルなしトラックの扱いだったとのこと。
演奏はやや乱暴で、ポールらしい終わり方とも言えるけど、アルバムのラストに必要だったのかは疑問が残る。
以下はボーナストラック。
11.Give Ireland Back to the Irish(アイルランドに平和を)
この曲は初めて聴いた。
72年にアイルランドで起きた「血の日曜日事件」に衝撃を受けたポールが1日で書き上げたとのこと。
BBCでは放送禁止となったが、全英チャートでは16位を記録。
やや騒々しい印象だが、力のこもった歌と演奏だ。
ジョン・レノンは「歌詞が幼い」と批判したらしい。
厳しいけど、この頃もジョンはやはりポールのことをいつも気にかけていたんだろう。
12.Mary Had A Little Lamb(メアリーの子羊)
これはベスト盤で聴いていた。
タイトルと歌詞は童謡から取られているが、メロディはポールのオリジナル。
13.Little Woman Love
ジャズっぽいピアノに乗せてメンバーがワイワイと歌う。
思ったより短く、エンディングも突然終わる。
「Ram」のセッション時に録音された曲で、「Ram」リマスター盤にもボーナストラックとして収録されている。
14.Mama's Little Girl
「Red Rose Speedway」制作時に録音された、ボートラの中では一番静かな曲。
おだやかな調べにポールが高いキーで歌い、メンバーがコーラスを当てる。
シンプルだが、バンドの一体感がありいい曲だ。
聴き終えた。
うーん・・・・
そもそも大ヒット曲やシングル曲が収録されておらず、初めて聴く知らない曲が大半だったが、第一印象としてはそれほど好みの曲がなかったのが正直な感想。
特にA面はポールの良さ・バンドの良さがあまり感じられず、まだなじめない。
もう少し聴きこんでいけば展望が開ける・・ような気もするけど。
逆にB面はジョンへのメッセージという話題性や、ポールらしい美しいメロディ、リンダとのハーモニーなど聴き所は多く楽しめる。
ネットでも「B面ばかり聴いている」という意見が見つかるので、同じように感じている人も多いようだ。
そう考えると、前回聴いた「Back to the Egg」同様、ボーナストラックの存在が大きい。
ボートラ4曲はどれもいい曲ばかりだ。
ビートルズ解散後のキャリアの中でも、このアルバムの評価は総じて低いようだ。
解散直後のセッションを含め、トータル制作期間が2週間、録音は実質3日程度というラフな造りで、バンドとしての一体感や厚みもなく、ヒット曲もない。
申し訳ないけど、自分みたいな三流リスナーが聴いてもそれは感じる。
なぜそんなに急いで作る必要があったんだろうか?
実績も全英11位・全米12位・・・は健闘したほうじゃないのかとも思うけど、これも当時は各方面から酷評だったんだろうなぁ。
ジョン・レノンだけは「悪くない。いい方向に進んでいる」と評価してたそうですけど。
これジョンの本音なのか皮肉なのかもよくわかりませんが・・
このアルバム発表後、ポールは英国内の田舎の大学などで地道にライブを行い、ウィングスの名を世界レベルにすべく奮闘を開始する、というストーリー。
実際それでバンドは成功につながっていくのだから、やはりポール・マッカートニーはすごい人なのだ。(単純)
ジャケットは水辺を背景にポールがギターを持って水中に立ち、メンバーは木に腰掛けるという観光記念写真みたいな絵。
タイトルに合ったデザインで悪くはないが、ウィングスのファーストとしては少し地味だと感じる。
さてこれで一応70年代のポール・マッカートニーとウィングスのオリジナルアルバムは全て聴いたことになる。(遅すぎ)
誰でもそうだと思うが、やはり明確な好みの序列はあるものだ。
自分としては、やはり「Venus And Mars」が最高傑作で、次点は「Band On The Run」。
後は「Wings At The Speed Of Sound」「London Town」「Red Rose Speedway」「Ram」と続き、現時点では「Wild Life」「McCartney」「Back To The Egg」がほぼ横並びといったところ。
「Wild Life」はもう少し聴きこめば上昇する可能性もある・・ような気もする。
実は80年代以降にも未聴盤はまだ残っているので、早いうちに片付けようと思います。
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コメント
こんばんは、JTです。
>ド素人リンダをよく加入させたもんだと思う。
まぁ、これはジョンとヨーコに対抗したんだと思います。
>これもずっと同じリズムとメロディが4分も続き、少し長い。
全体的に長い曲が多いですね。曲数が少ない事もあって水増し的な。もう少しコンパクトに出来たでしょう。
>3.Love Is Strange
カバーのこの曲、気に入っていますし、演奏もこれが一番まとまっているように思えます。
>暗いメロディだが、ジョンとの和解を表している曲
「怖いの?、本当なの?」と歌っているので弱く挑発しているのかな、と思っていました。
>11.Give Ireland Back to the Irish(アイルランドに平和を)
これのシングルのB面が同じ曲のインストバージョン。というか別テイクの歌なし版。メロディを弾いている楽器がないのでカラオケの様にも聞こえます。
で、この地味地味B面曲をJunkさんがかつてブログで取り上げていて、ちょっとびっくりしました。
>なぜそんなに急いで作る必要があったんだろうか?
それは「McCartney」にも言えることですね。ジョンに対抗してバンドを立ち上げたかったのかな。ライブも早くやりたいとか。
>ジョン・レノンだけは「悪くない。いい方向に進んでいる」
アメリカのバラエティー番組に1週間ホストとしてジョンとヨーコが出た事があって、最終日にスタジオの客にジョンに質問があればどうぞ、みたいなコーナーがあったんです。
これは、とある少年が「ポールの新作(本作)どう思う?」と質問した時の答えです。さらにジョンは「親友の評価はしにくい。君はどう思った?」と続け、少年は「いまいちだね」と(笑)。
さらに別の客が「親友なのになぜHow do you sleepを作ったのか?」おー、核心をつく鋭い質問。アメリカの一般人は恐れを知らないというか。
ジョン曰「あれは自分の事を歌ったんだ」
おいおい。彼は気分屋さんなんで作った時と違うこんな答えをしたりします。
>後は「Wings At The Speed Of Sound」「London Town」「Red Rose Speedway」「Ram」と続き
あ、「Ram」意外と評価低いんですね。
>実は80年代以降にも未聴盤はまだ残っているので、
80年代以降は最低「フラワーズ・イン・ザ・ダート」と「フレミング・パイ」だけでも良いかと思います。
投稿: JT | 2021.07.12 23:35
JTさん、コメントありがとうございます。
>まぁ、これはジョンとヨーコに対抗したんだと思います。
それはあるでしょうね。
ヨーコもプロの音楽家とは言いがたいですが、商業的にはリンダ加入は成功したのでポールとしてはよかったんでしょうね。
>全体的に長い曲が多いですね。曲数が少ない事もあって水増し的な。もう少しコンパクトに出来たでしょう。
ご指摘のとおりです。
同じメロディの繰り返しも多いですね。
>それは「McCartney」にも言えることですね。ジョンに対抗してバンドを立ち上げたかったのかな。ライブも早くやりたいとか。
「McCartney」は解散後の様々な事情で急ぐ必要があったようですが、「Wild Life」ではやはりバンド結成を早く世間に伝えたかったんですかね。
>これは、とある少年が「ポールの新作(本作)どう思う?」と質問した時の答えです。
なるほど・・
テレビ出演でしかも子供相手だと、さすがのジョンもあまり変なことも言えない・・と気を使ったんでしょうか。
>ジョン曰「あれは自分の事を歌ったんだ」
やはりジョンも後悔してたんだと思います。
それにしてもアメリカの一般人質問は鋭いですね。
>あ、「Ram」意外と評価低いんですね。
まだ評価を高めるほど聴いてないというか・・
日替わりで順位が入れ替わる可能性もありますけど。
>80年代以降は最低「フラワーズ・イン・ザ・ダート」と「フレミング・パイ」だけでも良いかと思います。
すいません、どっちも聴いてないです・・
「フラワーズ・イン・ザ・ダート」はエルビス・コステロと組んで作ったアルバムですよね。
そういう話題にはふれてましたが、ヒットシングルもなかった(と思う)ので聴きませんでした。
「フレイミング・パイ」のほうが、ジェフ・リンの音なら自分には合ってるかも・・と少し期待していますが・・
投稿: SYUNJI | 2021.07.13 18:13