読んでみた 第58回 文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」
今回読んでみたのは文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」。
エドワード・ヴァン・ヘイレンの死を受けて出版された、ヴァン・ヘイレンの「永久保存版 総特集」である。
今回は珍しく書店で定価購入してみました。
版元は河出書房新社、ムックA5判、192ページ、発売日は2021年2月8日、定価1,430円(本体1,300円)。
200ページもないので、文藝別冊シリーズとしては薄め。
副題は「革命を起こしたギター・ヒーローと時代に愛されたスーパー・バンド」とややダサめ。
もう少しいい感じのアオリが書けなかったのだろうか。
まあそういうアオリこそが一番似合わないバンドではあるが。
エドワード・ヴァン・ヘイレンは2020年10月6日に亡くなったことが、息子のウルフギャングによって公表されている。
そこからコロナ禍と年末進行のクソ忙しい中、とりあえずライターや評論家など片っ端から声をかけ、デタラメな日程と予算の中、正月返上で印刷会社の校正部屋に泊まりこんでどろどろになりながら必死に出版までこぎ着けた、執念の一冊である。
(編集の人たちと知り合いじゃないけど、たぶんだいたい当たってると思う)
果たしてどんな内容なのだろうか。
・・・・・読んでみた。
目次はこんな感じ。
【ロング・インタビュー】
「伊藤政則が語る ハード・ロック史のなかのヴァン・ヘイレン」(聞き手:武田砂鉄)
【スペシャル・インタビュー】
高崎晃(LOUDNESS)「衝撃の出会いからずっと憧れの存在 エディのテクニックとスピリットを継承したい」
【スペシャル・インタビュー】
マーティ・フリードマン「エディこそ、唯一無二の「ザ・ギター・ヒーロー」」
【スペシャル・インタビュー】
「小説家・平野啓一郎が語るヴァン・ヘイレンの魅力」
【特別寄稿/エッセイ】
堂場瞬一「ブラウン・サウンドが出ない(泣)」
【特別寄稿/マンガ】
喜国雅彦「エディくん」
小林克也「エディ・ヴァン・ヘイレンを悼む」
【ヒストリー】
舩曳将仁「炎と爆撃のハイウェイ――The History of VAN HALEN」
【論考】
大鷹俊一「70年代のロック・シーンとヴァン・ヘイレン登場の衝撃」
増田勇一「顔で笑って、心で弾いて」
五十嵐太郎「ブリコラージュの楽器、フランケンシュタイン」
武田砂鉄「その緻密な楽天性について――エディ・ヴァン・ヘイレンと志村けん」
山﨑智之「ヴァン・ヘイレンに受け継がれるオランダの血」
武田昭彦「ヴァン・ヘイレンの音」
鈴木輝久「失われた拍を求めて――マイケル・アンソニーとアレックス・ヴァン・ヘイレンのこと」
御法川裕三「初期ヴァン・ヘイレンを支えた二人――テッド・テンプルマンとノエル・モンク」
【エッセイ】
春日武彦「初来日の頃」
松田行正「エディとウィリアム・モリス」
吉川浩満「ヴァン・ヘイレンと私」
【サイド・ストーリー】
山﨑智之「ソロとしてのデイヴィッド・リー・ロス――ダイアモンドの軌跡」
舩曳将仁「ソロとしてのサミー・ヘイガー――VOAの軌跡」
●本書執筆陣が選ぶ エディのこのギター・ソロがすごい!
●徹底解題ディスク・レビュー
構成はいつもの文藝別冊シリーズで、目次の次に在りし日のエドの写真が2枚。
1枚はデイヴとの、そしてもう1枚はマイケル・ジャクソンとのステージ写真である。
書き手の大半はリスナーとしてバンドの音楽にふれてきた日本人であり、実際にエドやバンドと直接仕事で関わった人はいないようだ。
これはマイケル・シェンカー本と同様で、もちろん過去のエドワードご本人のインタビューもなく、他のメンバーやプロデューサーといった関係者の談話もない。
日本人書き手の中で、実際にメンバーに会ってインタビューしたことを明かしているのは山﨑智之だけだ。
文藝別冊シリーズについては基本的に「情報供給」よりも「共感」の編集スタンスをとっているようだ。
ああエドワード死んじゃったなぁ、オレは中学生の頃初めて聴いたんだよ、オマエも?というようなノリで、それぞれの記事が作られている。
方針としてわからんではないけど、やはり新たな発見を読者としては求めたいところもあるはずだ。
このあたりはやはり少し物足りない感じがする。
読者側の勝手な意見だが、これもしシンコーが版元だったら、構成や内容はかなり違っていたのではないだろうか。
目玉記事としては、伊藤政則、高崎晃、マーティ・フリードマンのインタビュー。
実はヴァン・ヘイレンのデビューアルバムのライナーを書いたのは政則氏である。
なのでいくつものメディアが政則氏にコメントを求めてきたそうだ。
ただ予想どおり政則氏のヴァン・ヘイレンに関する感想はかなり淡泊である。
政則氏はもちろんバンドについての様々な知識があり、技術や実績も認めるが、そもそも基本的に語ることがない存在というような表現をしている。
「エディ以外には、影響を受けたという話も出てこない」「ヴァン・ヘイレンって、曲かけてりゃいい、ってことなのよ」「ヴァン・ヘイレンについて、こんなに話すとは思わなかったよ(笑)」なんて感じで話している。
まあそんなとこなんだろう。
これが例えばもし3大ギタリストの誰かが亡くなったりしたら、政則氏の話はこんなぬるいもんじゃ済まないし、頼んでもいないのにもっといろんな話をしてくれるはずだ。
洋楽の世界にも「語りたくなるアーチスト」と「聴いてればそれでいいアーチスト」がいるのである。
このあたり、日本のリスナーでもエドワード・ヴァン・ヘイレンを3大ギタリストより下に見る人は意外に多い。
エドワードの死亡ニュースに対してSNSでもたくさんのコメントが出たが、中には「結局この人の功績はタッピングだけでしょ」なんて切り捨てる人もいた。
特に70年代に3大ギタリストに夢中になった年配のファンに、こういう意見が多く見られるようだ。
そう言いたくなる心理はわからんでもないけど、結局はリスナー個人としての感想でしかないし、「3大ギタリストに心酔するエラいオレ様」のマウント感がにじみ出過ぎて、なんだかなぁと思う。
インタビュー記事の中で良かったのはマーティ・フリードマンの談話。
同じギタリストだし、日本人の評論家や作家なんかよりもエドワードに近いところにいる人だ。
マーティは実際にエドと会ったこともあり、ライブも見に行ったことを明らかにしている。
ただマーティもエドのギターには衝撃を受けたものの、ボーカルがサミー・ヘイガーに代わった以降のバンドには興味がなくなったそうだ。
個人的にはサミー派の自分としてはやや寂しいが、マーティに限らずこういう人は多いんでしょうね。
政則氏の予言?どおり、他の評論やエッセイは、それぞれエドのギターに受けた衝撃やバンドの実績について語るものの、熱量や尖り具合はそれほど強い記事は見当たらない。
楽器や機器類の細かな性能について技術的見地から語るような記事もほとんどなく、比較的一般向けな内容で記されている。
武田砂鉄のエドワードと志村けんを結び付けた文章はかなりムリヤリな印象だけど。
兄弟やバンドのヒストリーは詳しく書かれているが、エドの闘病や死亡前後の模様などについては、公式に伝えられている範囲でしか載っていない。
兄アレックスや関係者などもう少しエドに近い人のコメントなどがあったらと思ったが、日本の出版社でそこまで切り込むのは難しかっただろう。
追悼版なのでエドワードを対象にした文章が当然多いが、サイドストーリーとしてデイヴとサミーのソロキャリアについても別途まとめられているのはいい構成だ。
ヴァン・ヘイレンはエドワードのソロプロジェクトではない。
ボーカルの二人がいてこその実績と人気だったことを、この文章と構成で示している。
逆に言うとアレックスとマイキー、ゲイリーについて書かれた文章はほとんどない。
少し気になったのは、アレックス&エドワード兄弟の生い立ちや両親に関する話、バンドを支えたプロデューサーの情報が、複数の記事に書かれている点。
エドの死を受けて各書き手が一斉に情報をかき集めて文章にしたのだろうから、現象として同じ話が重なることはやむを得ないとは思うが、編集側でそこを調整しなかったのは少し惜しい気がする。
読者からすると「それさっきも聞いたよ」という話をまた目にすることになる。
「兄弟はオランダ人の父とインドネシア系の母の間にオランダで生まれた」「初めは兄がギター、弟がドラムだった」なんてファンなら誰でも知ってる話は、今さら何度もこの本で見たくもないと思う。
バンドを支えたプロデューサーとしてテッド・テンプルマンの名前があがっているが、これも武田昭彦と御法川裕三がそれぞれ書いている。
中身は周辺情報として非常にいいものだが、やはり重複した部分もあり、なんとか編集側で調整してほしかったと感じる。
難しいことは承知の上だが、やはり読む側からすると「初めて知った」話が続々登場する紙面を期待するものなのだ。
で、今回も特別寄稿と題して喜国雅彦のマンガ「エディくん」が4ページ載っているが、予想通り滑っていて、大学生同人誌以下のひどいレベル。
せめて4コママンガで8本ほど書いてくれていれば・・と思う。
なぜ編集側は懲りずに喜国雅彦に発注するのだろうか。
というか原稿上がった段階でよく掲載OKとしたもんだ。
いちいち引っかかる自分も狭量だとは思うが、こういうことやってるから本が売れないんだよなぁ。
表紙はギターを操るエドワード・ヴァン・ヘイレンのステージ姿。
いいショットだが、モノクロなので自慢のギターはやはり赤白がわかる写真がよかったかなと思いました。
ということで、文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」。
物足りなさは感じましたが、久しぶりにヴァン・ヘイレンに関するテキストにふれてよかったです。
今後もう少し掘り下げた情報を加えて増補版が出てくれたらと思います。
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コメント
SYUNJIさん、こんばんは。
今回SYUNJIさんの記事を拝見して一番気になったのがライターのみなさん
です。私がレコードコレクターズを読み始めた30年前くらいから、あまり
代わり映えがしないような気がします。
若手の音楽ライターで、70年代や80年代の洋楽ロックを得意とする
人は、もう出てこないのでしょうか。
>>シンコーが版元だったら、構成や内容はかなり違っていたのではないだろうか
シンコーもここ数年ムック本に力を入れているようですが、想定読者が
明らかに私たちの年代になってます。ですので、メインの記事は過去の
ミュージックライフの再録が多いです。
と書いておきながら、実はミュージシャンの当時の様子がわかるので、
個人的には重宝しています(^^;;;
ところで、トップ記事でロングインタビューが伊藤政則さんですか。
なぜハードロックのマエストロ渋谷陽一様のありがたいご託宣をいただかないのでしょう?
渋谷様が巻頭を飾れば100万部いったと思います!
投稿: モンスリー | 2021.04.26 21:20
モンスリーさん、コメントありがとうございます。
>私がレコードコレクターズを読み始めた30年前くらいから、あまり代わり映えがしないような気がします。
レココレはあまり読んでませんが、文藝別冊シリーズに関しては、確かに書き手の顔ぶれは同じような感じですね。
このヴァン・ヘイレン本では、特にマイケル・シェンカー本やパープル本にも書いてる人がかなりいます。
>シンコーもここ数年ムック本に力を入れているようですが、想定読者が明らかに私たちの年代になってます。
まあそうでしょうね。
そもそもロックはもはや完全に中高年の懐古趣味でしかないし、ターゲットはシンコーも文藝別冊も同じだと思いますが、シンコーは再録であっても実際にアーチストや周辺の人に会って取材が中心の、ミュージシャンとの距離が「近い」編集ですよね。
文藝別冊はリスナーの立場で書いてる記事が多いです。
>渋谷様が巻頭を飾れば100万部いったと思います!
いーや、そんなことはない!(逆ギレ)
・・・まあ陽一(呼び捨て)がヴァン・ヘイレン好きだったとも思えないんで、政則氏同様にやや投げやりな談話になってたのではないかと思いますけど・・
投稿: SYUNJI | 2021.04.27 17:54