« 聴いてない 第270回 カジャグーグー | トップページ | 読んでみた 第58回 文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」 »

聴いてみた 第161回 ブルース・スプリングスティーン その2

今日聴いてみたのはブルース・スプリングスティーンの「Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)」。
1年半ぶりの中高年ボス赤点補講である。

「闇に吠える街」は78年発表の4枚目のアルバムで、前回聴いた「明日なき暴走」の次の作品。
「明日なき暴走」発表後、元マネージャーのマイク・アペルとの訴訟問題が起こり、これに時間と労力とお金を費やしてレコーディング開始が大幅に遅れたそうだ。

Darkness-on-the-edge-of-town

さらにいったん「Badlands」という名前でアルバムが77年10月にほぼ完成したものの、ボスは内容に納得がいかず、最終的にレコーディングは78年1月までかかってようやく終了。
この期間にボスが書いて録音した曲は50曲以上にのぼったとのこと。

実績としては前作「明日なき暴走」の全米3位にはわずかに及ばなかったものの、全米5位を記録。
逆に日本では「明日なき暴走」の52位を超えて33位となった。

他に名盤があり過ぎるためか、ボスの作品の中ではやや地味な扱いを受けているらしい。
95年に発売されたベスト盤でも、このアルバムからは「Badlands」しか収録されていない。
そんな意外な位置づけの「闇に吠える街」。
日本語の文字面だけだとただの近所迷惑にも取れるが、果たしてどんなアルバムなのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

1.Badlands
この曲だけはベスト盤やFM番組で録音したライブで聴いていた。
ほぼ全編にわたりツインボーカルのように声が重ねられている。
歌詞は厳しい内容だが、それでも希望を失わず前に進むしかないというボスお得意の世界観。
タイトルの「Badlands」は草木や作物が育たない不毛な土地という意味だが、「不況で荒廃した・荒れ果てた街」と人文的に訳したほうが伝わるようだ。

2.Adam Raised a Cain(アダムとケイン)
やや重めのサウンド。
旧約聖書にある父と子をテーマにした歌詞だが、そもそも知識や感覚が自分に土台として備わっていないので、訳詞を読んでもあまりよくわからない。

3.Something in the Night
スローなバラード。
ボスの力を込めたボーカル、遠吠えのような叫びがいい。

4.Candy's Room
静かな立ち上がりからテンポアップして軽快に飛ばす。
中盤以降のギターは少し意外な感じがする。

5.Racing in the Street
これも静かなバラード。
ピアノで始まり、徐々に他の楽器も加わってくる教科書どおりの展開。
途中聞こえるキーボードが印象的。

6.The Promised Land
LPではここからB面で、A面の「Badlands=不毛な地」と「Promised Land=約束の地」が対になっているらしい。
そのせいか雰囲気は「Badlands」に似ていて、ややパワーをゆるめた感じ。
歌っている内容も通じるものがある気がする。
構成はいつものボスの曲のとおりだが、間奏のサックスとハーモニカが効果的なアクセントになっている。

7.Factory
ゆったりとしたリズム、シンプルなサウンド。
工場で働く労働者を歌った内容で、「これが仕事、働くしかない人生」という身につまされる歌詞だが、メロディは決して暗くないところにかすかな希望を感じさせるというパターンだと思う。

8.Streets of Fire
さらにゆるいリズムでやや気だるそうにボスが歌う。
ギターが少し辛口で騒々しい気がする。

9.Prove It All Night(暗闇へ突走れ)
この曲はアルバムに先行してシングルカットされたそうだ。
典型的なボスの楽曲だが、中盤のサックスの後のギターソロは切れ味が鋭すぎて少々聴きづらい。

10.Darkness on the Edge of Town(闇に吠える街)
ラストはミドルテンポなタイトル曲。
歌詞はやっぱり金も妻も失った男が街外れの暗闇(賭場?)に行くしかないという厳しい話。
リズムもサウンドも、どこかで聴いたことがあるような気がするが、おそらく後のヒット曲であちこち採用されているのだと思われる。

聴き終えた。

「明日なき暴走」に比べてやや静かで控えめという評価は、確かにその通りだと感じる。
前回感じた「スタジオ盤なのにライブ感」も、今回は思ったほど感じなかった。
もちろん明るい曲・力強い曲もあるが、トータルでは落ち着いた雰囲気の曲が多い。
一度は完成したアルバムを不満に思ってレコーディングをさらに続けて作り上げたそうなので、この雰囲気はボスの意図したもののはずだ。
「明日なき暴走」との優劣はつけにくいが、この落ち着きは聴きやすいことは確かだ。

歌詞の内容は前作と同様、金にも運にも女にも恵まれず荒れた街でもがく労働者の男が基本。
ボスの描く労働者は決してファンタジーではなくリアルな社会問題であり、それが当時のアメリカの若者の共感を呼んでいたのだろう。(毎回知ったかぶり)

聴いた限りでは全くわからないのだが、意外なことにパンクの影響を受けた作品でもあるそうだ。
レコーディング当時はパンク全盛期であり、ボスも含め同世代のミュージシャンにとって無視できない存在がパンクだった。
サウンドそのものやスタイルをパンクに寄せたわけではなく、アルバムの根底にはパンク同様のエネルギーがある、ということらしい。
なんか勝手にパンクとは縁遠い人かと思ってましたが、そういうことのようです。

「闇に吠える街」は、「明日なき暴走」と全米No.1アルバム「The River」の間にはさまれた谷間の作品という評価が多いようだ。
実績は確かに前後のアルバムには及ばないし、ファンの間でも「これぞボスの真骨頂!最高傑作!!」と主張する人もそれほど多くはないんでしょうね。

ただし、ベスト盤に収録されたのは「Badlands」だけではあるものの、ライブでは「The Promised Land」「Prove It All Night」とともに重要なナンバーになっているそうだ。
2010年11月にはリマスター盤と未発表セッション音源の3枚組CDとDVDを含むボックスセット「The Promise: The Darkness on the Edge of Town Story」がリリースされているので、ボスとしても思い入れのあるアルバムだと思われる。

ジャケットはニュージャージー州の自宅で撮ったボスの写真。
タイトルや名前の文字もタイプライターで打ち込んだような書体。
感想は特にないけど、少なくともジャケットデザインにおいては、当時のパンクやサイケといった流行のアートを採り入れるようなことはしていない。
というかボスのジャケットはどのアルバムもあまり凝ったものはなく、中身で勝負の代表的なミュージシャンだ。

ということで、「闇に吠える街」。
これは聴きやすくてよかったです。
70年代の未聴盤は「アズベリー・パークからの挨拶」「青春の叫び」が残っているので、早めに聴いておこうと思います。

| |

« 聴いてない 第270回 カジャグーグー | トップページ | 読んでみた 第58回 文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」 »

コメント

SYUNJIさん、こんにちは。
「闇に吠える街」を気に入られたようでよかったです。

>>時間と労力とお金を費やしてレコーディング開始が大幅に遅れたそうだ。

「明日なき暴走」はロックの名盤中の名盤です。この勢いでもう1枚、2枚
制作してくれれば……とファンならずとも思うところです。しかし、
「闇に吠える街」は、少し趣の異なる作品となりました。「明日なき…」
も陰影のある作品ですが、「闇に…」はタイトルどおり光より闇の部分に
焦点が当てられています。
私は結果的にこれでよかったと思います。スプリングスティーンが「明日なき…」
に固執して同じような作品ばかり発表していたら、そのうちに忘れ去られる
単発ヒットのミュージシャンに終わっていたかもしれません。

>>この期間にボスが書いて録音した曲は50曲以上にのぼったとのこと。

デラックス盤などで発表されたこれらの曲は、「闇に…」収録曲とは違うポップな曲が多いです。
このことから、スプリングスティーンが考えに考え抜いて選曲した上で「闇に…」
を発表したことがわかります。
そして、「明日なき…」に勝るとも劣らない名曲の数々。やはり「闇に…」は「明日なき…」と
双璧をなすスプリングスティーンの傑作です。
もう1つ、このアルバムでEストリートバンドの核となるメンバーがそろった
ことも重要です。

6曲目「The Promised Land」はこれぞEストバンド、という明るい表情の曲と
演奏。ビタンのピアノ、ダニー・フェデリッチのオルガン、クレモンズの
サックスという、Eストバンドの三銃士がそろうソロパートに胸が熱くなります。
9曲目「暗闇へ突走れ」ですが、ワインバーグがここ一番のドラムプレイを
見せ、クレモンズのサックスが吹き荒れます。スプリングスティーンは情熱的に
歌い、ボーカルと一体となったギターソロも熱いです。曲の展開もドラマチック
で、スプリングスティーンの70年代を代表する1曲でしょう。余談ですが、
昨年見た映画「カセットテープ・ダイアリーズ」でも、ロマンチックな場面で
効果的に流れて、「なんと情熱的なラブソングなんだ」と新たな発見が
ありました。
最後のタイトル曲は曲名どおり個人の闇、社会の闇ですが、「The Promised Land」
の主人公の、分岐したその後を歌っているようにも聞こえます。

>>70年代の未聴盤は「アズベリー・パークからの挨拶」「青春の叫び」が残っているので

「青春の叫び」行きましょう! 「アズベリー」は私もほとんど聞いていません(笑)

投稿: モンスリー | 2021.04.04 11:20

モンスリーさん、今回もお世話になりました。

>私は結果的にこれでよかったと思います。
>スプリングスティーンが「明日なき…」に固執して同じような作品ばかり発表していたら、そのうちに忘れ去られる単発ヒットのミュージシャンに終わっていたかもしれません。

これはかなり大胆な分析ですが、わかる気もします。
ボスの歌うテーマはいつの時代も変わらないとは思いますが、楽曲(と取り巻く世相)が想像以上に振り幅が大きいので、アルバムごとの特徴がかなり変わりますね。

>デラックス盤などで発表されたこれらの曲は、闇に…」収録曲とは違うポップな曲が多いです。

あ、そうなんですね。
そうなるとデラックス盤も聴いてみたいですね。

>もう1つ、このアルバムでEストリートバンドの核となるメンバーがそろったことも重要です。

なるほど・・確かに安定感はありますね。
そう考えると、むしろこのアルバムはボスの入門編にふさわしいのかもしれないですね。

>6曲目「The Promised Land」はこれぞEストバンド、という明るい表情の曲と演奏。

同感です。
「Badlands」よりもむしろ聴きやすい気がしますね。
6曲目にこれがある、というのがひとつのポイントであるような気がします。

投稿: SYUNJI | 2021.04.05 21:02

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« 聴いてない 第270回 カジャグーグー | トップページ | 読んでみた 第58回 文藝別冊「ヴァン・ヘイレン」 »