読んでみた 第57回 文藝別冊「リンゴ・スター」
今回読んでみたのは文藝別冊「リンゴ・スター」。
図書館に置いてあったのを借りてみました。
2003年11月19日発売、200ページ、本体価格1,143円。
版元は河出書房新社、編集・制作はフロム・ビー。
フロム・ビーとは、ビートルズ研究家の広田寛治氏が運営する、音楽書・雑誌を中心に制作する編集プロダクション。
文藝別冊シリーズではビートルズの4人について、それぞれ個別に出版している。
・ジョン・レノン(2000年)
・ジョン・レノン その生と死と音楽と(2010年)
・ジョン・レノン フォーエバー(2020年)
・ポール・マッカートニー(2001年)
・増補新版 ポール・マッカートニー(2011年)
・ジョージ・ハリスン(2001年)
・増補新版 ジョージ・ハリスン(2011年)
・リンゴ・スター(2003年)
上記のジョン・ポール・ジョージ本はいくつか読んできたが、リンゴ本だけ未読だった。
致し方ない話ではあるが、このラインナップを見ても、やはりリンゴの企画は4番目でしかない。
版元のサイトでは品切・重版未定となっていて、表紙写真もなく、当面重版・増補版予定はなさそうである。
自分は未だにリンゴ・スターを全然聴いていない。
4人の中でもジョンはベスト盤、ジョージも「All Things Must Pass」とライブ盤しか聴いておらず、ポール・マッカートニーの学習ですらまだ全作品まで手が回らない状態。
これまでリンゴ情報は全て「ビートルズ」に関連する本や雑誌、ネット記事から仕入れている。
リンゴ・スターだけを扱った本・雑誌は読んだことがない。
なのでおそらくはこのリンゴ本には知らない話がたくさん書かれているはずだ。
情報は2003年時点でのものなのでやや古いが、とにかく読んでみることにした。
・・・・・読んでみた。
目次は以下のとおり。
Part 1 Let us talk about Ringo Starr
リンゴの話をしよう
《インタビュー》
上田雅利★リンゴは革命児であり、クリエイティブなテクニシャン
大間ジロー★「楽しい」というものが伝わってくるリンゴのオーラ
城間正博★テクニックだけではない、絶妙なタイミングとグルーブ感
《評論・エッセイ》
星加ルミ子☆思いやりあふれるリンゴとの思い出
広田寛治☆リンゴ・スター加入がもたらしたビートルズの世界的成功
和久井光司☆ビートルズのエンタテイメント性を継承・発展させるリンゴ
藤本国彦☆プロデューサーとの出会いとリンゴの音楽
加藤正人☆今この瞬間を最も大切に生きるリンゴ
山川真理☆「リンゴ語」にみる言語感覚とユーモア
《リンゴの足跡を訪ねて》
リンゴのセンチメンタル・ジャーニー☆越膳こずえ
《リンゴ・スターの名曲7》
♪ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ ♪オクトパス・ガーデン
♪明日への願い ♪想い出のフォトグラフ ♪ユア・シックスティーン
♪アイム・ザ・グレーテスト ♪ノー・ノー・ソング
Part 2 With a lot of Help from RINGO STARR
大交友録/リンゴとロックと仲間たち
リンゴの交友録、それはロックの歴史☆淡路和子
Part 3 Biography...so far
リンゴの誕生から現在まで☆山川真理
Part 4 Discography, etc
リンゴ・スター作品集
《音楽作品》
《映像作品》
《ウェブサイト》
リンゴ本人も含めてのインタビュー、バイオグラフィー、ディスコグラフィーといった構成は、他の文藝別冊シリーズと同じ。
文藝別冊シリーズはあまりシビアな論調がなく柔らかい編集が多いが、この本もまさにそんな感じだ。
編集方針以上にリンゴの人柄や交友の広さがそうさせていると思う。
インタビュー記事では上田雅利(チューリップ)、大間ジロー(オフコース)、城間正博(バッド・ボーイズ、リボルバー)の3人のプロドラマーが、リンゴのドラミングについて語っている。
話のポイントはそれぞれだが、総じて指摘しているのはリンゴが左利きである点。
ドラムセットは右利き用だが、それを左利きのリンゴが叩くリズムやテクニックは独特のもので、完璧にコピーできてるドラマーはほとんどいないそうだ。
世界一のテクニックや手数ではないけど、クリエイティブさ・引き出しの多さ・タイミングやグルーヴ感などは他のドラマーにはない、リンゴ独特の演奏スタイルとのこと。
楽器のことはよくわからないが、この記事はどれも面白かった。
なお上田雅利は「The End」のドラムソロを絶賛しているが、リンゴ本人はあのソロは大嫌いだと公言してるそうだ。
というかそもそもリンゴはドラムソロ自体が嫌いで、それが理由でビートルズの曲では「The End」以外にドラムソロがないんだそうです。
星加ルミ子は66年の全米ツアーに同行した時の、リンゴの思いやりあふれる配慮について語っている。
パーティー会場で世界中の記者がビートルズのメンバーそれぞれに群がる中、入り込めず立ち尽くしている星加ルミ子のところにリンゴがやってきて「ジョンはあとまわしにして、僕からはじめたら」と言ってくれたり、「ジョンの所、だいぶ人がいなくなったよ。行っておいでよ」と気を使ってくれたりしたそうだ。
星加ルミ子が4人から気に入られていたのは有名だけど、中でもリンゴは気配りのできる心底やさしい人だったとのこと。
会ったことないけど、そうだろうなあとなぜか納得できる話である。
リンゴならではの特集が「Part 2 With a lot of Help from RINGO STARR」。
「リンゴとロックと仲間たち」という副題で、時代を6つに区分してリンゴの交友を詳細に紹介している。
これを読むだけでも、4人の中でも最も幅広い交友関係を築いてきたのがリンゴだとわかる。
様々なメディアで語られてきたことだが、やはりジョン・ポール・ジョージの3人はそれなりにクセがスゴく、それを受け入れられる人だけが交流できるという人物像だが、リンゴ・スターは人との間の垣根がさらに低く、人付き合いに苦労のなさそうなタイプなのだろう。
スター集団を引き連れて世界中を回ることを30年も続けられるのは、4人の中ではやはりリンゴ・スターなのだ。
この本のあちこちに書いてあり、全然知らなかった話だが、70年代前半でソロとして残した実績は、少なくともジョンやジョージよりも上だという点。
全米10位以内に入る曲を、「You're Sixteen」「Photograph」など7曲も発表している。
ビートルズ解散前後から、実はソロとして最も順調だったのはリンゴだった。
解散問題でバンドや会社が大揺れの最中に、ジョージ・マーティンをプロデューサーに起用し、ポールの協力も得てアメリカのスタンダードカバー集「Sentimental Journey」を発表。
リリース直後の2週間でアメリカで50万枚を売り上げ、全英7位、全米も22位を記録した。
同じ70年に、今度はテネシー州ナッシュビルでカントリーのミュージシャンたちとアルバム「Beaucoups of Blues」を録音。
リンゴの快進撃は翌年も継続。
初のソロシングル「It Don't Come Easy(明日への願い)」を発表し、全米4位の大ヒット。
続く72年のシングル「Back Off Boogaloo」にはジョージも参加し、全英2位、全米9位の大ヒットを記録した。
そしてソロアルバム「RINGO」が73年に発表され、全英7位、全米2位を記録。
シングル「Photograph」「You're Sixteen」が全米1位という実績。
このアルバムにはビートルズの3人、ニッキ―・ホプキンス、ジム・ケルトナー、ビリー・プレストン、マーク・ボラン、ザ・バンドのメンバーなどが参加。
アルバム・ジャケットにも参加したメンバーのイラストが書かれている。
この期間の活躍ぶりは、4人の中でもやはり先頭を行っている。
解散トラブルの中のリンゴの立ち位置はよくわからないものの、混乱の時期にあっても好きなことを好きな人たちとやっていけるということが、リンゴの人柄を表していると思う。
比較はあまり意味がないが、ジョン脱退のショックで農場に引きこもったり、リンダとともにイギリス国内の大学でのライブ(ドサ回りとも言われる)からソロ活動を始めたポールとはかなり様子が違う気がする。
リンゴもソロ活動をしてたことはなんとなく知っていたが、こうして実績や協力者人数を数字で示されると、あらためてリンゴのミュージシャンとしての実力・人気のほどがよくわかる。
すいません、「よくわかる」とか書きましたけど全然わかってませんでした・・・
歴代のリンゴ・スター&ヒズ・オールスター・バンドのメンバーも詳細に紹介されている。
これも自分が知らなかっただけだが、ジャック・ブルースやグレッグ・レイク、ロジャー・ホジソンやジョン・ウェイトも参加したことがあるんですね。
この本の出版以降もオールスター・バンドは世界中を巡っていて、現時点では第14期を数え、昨年はスティーヴ・ルカサー、コリン・ヘイ、グレッグ・ローリーらが参加して日本公演も行われた。
リンゴによれば「全員がヒット曲を持っているから楽しい」のが、オールスター・バンドを続ける理由のひとつだそうだ。
巻末にはリンゴのソロ作品や参加作品レビューが掲載されている。
出版時点の最新作「Ringo Rama」も評価が高い。
やはりソロ作品の中では「Ringo」「Goodnight Vienna」「Ringo Rama」は聴いておかねばならないようだ。
というわけで、文藝別冊「リンゴ・スター」。
とにかく70年代の実績を全く知らず、作品はおろかエピソードにも全くふれて来なかったので、この本に出会えてよかったです。
これを機にソロアルバムを聴いてみようと思います。
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