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聴いてみた 第157回 ボブ・ディラン その2

今日聴いてみたのは予想外のボブ・ディラン
1975年発表の2枚組アルバム「The Basement Tapes(地下室)」を聴いてみました。

The-basement-tapes

ボブ・ディランの未聴作品を聴くのは15年ぶりである。(場内騒然)
「Blonde on Blonde」を勢いで聴いてみたものの、全く定着せず15年間学習から遠ざかっていた。
聴いてないシリーズの初回で恥も外聞もなく世界中に宣言したにもかかわらず、未だに聴いてないままだ。
並み居る聴いてない強豪アーチストの中でも苦戦している代表のような存在。
今回もモンスリー師匠の必修名盤学習指導要領に従いオロオロしながら聴くことにした。
初心者のくせにこんな上級者向けを聴くとは・・という古参ディランファンの舌打ちが世界中から聞こえる気もするが、どのみち何を聴いても初心者なのであまり深く考えないようにする。(開き直り)

鑑賞前に馬のマークの参考書を手にアルバムに関する情報を一夜漬け学習。
ところがそんな一夜で覚えられるほど生易しい話じゃなかった。
まずこのアルバム、ディランの他のスタジオ盤とは少し制作経緯が違う。
いっしょに作ったり歌ったりしてるメンバーが後のザ・バンドであることだ。
ゲスト参加ではなく、ディランとザ・バンドの共作。
厳密には録音当時のグループ名は「リヴォン&ザ・ホークス」であった。
ザ・バンドに改名したのは少し後の68年である。

カナダやアメリカで活動していたリヴォン&ザ・ホークスは、ロビー・ロバートソンがディランのライブサポートを担当したことをきっかけに、ディランやマネージャーから信頼され、バックバンドに抜擢された。
そして1965~66年のワールドツアーで、ホークスはエレキ路線に転換したディランを強力にサポートする。
路線変更に対するファンの反応は賛否両論だったそうだが、ディランはメンバーの力量や音楽性などをいたく気に入り、ツアー後も交流を続ける。

ところが66年7月にバイクの事故でディランは大けがを負ってしまい、予定してたツアーはキャンセル。
ホークスの仕事もなくなり、ディランは治療と静養のためしばらく表舞台から遠ざかる。
静養当時ディランはあのウッドストック周辺に住んでいて、音楽や映画のプロジェクトの仕事を少しずつ再開。
そこにホークスのメンバーがやって来て、またディランの活動をサポートし始める。
いい話だなぁ。
「あんたがケガしたおかげでオレたちも失業だよ!」と抗議行動のためディラン邸に押しかけた・・という展開じゃなかったんですね。

こうしてさらに交流を深めたディランとメンバーは、67年にウッドストック近くにあったディランの家:通称「ビッグ・ピンク」でセッションを行う。
他のミュージシャンへの提供曲のデモテープ作成だったり、ほぼ本人たちが楽しむための半分プライベートなセッションだったが、相当盛り上がったとみえて100以上のトラックを録音した。 (150曲以上と書いてるサイトもある)
ロビー・ロバートソンによれば、初めの2ヶ月くらいはカバー中心のセッションだったが、そのうちディランもメンバーも次々と新しいメロディや歌詞を生み出していったそうだ。

この時録音された曲はどこからか流出してしまい、しばらく海賊盤「Great White Wonder」として出回っていた。
海賊盤は確認されてるだけで100種類以上あるそうですけど。
しかもディラン自身は「どうせみんな海賊盤聴いてるんやろ」と、録音の成果を正式に発表することにはあまり乗り気ではなかったそうだ。
ところが75年になって突然ディランが公式アルバムとしてリリースすると意志表明。
詳細は不明だが、権利関係などの問題が解決したためとも言われているらしい。
で、ロビー・ロバートソンが編集を担当し、公式アルバム「The Basement Tapes(地下室)」として発売することになった。

ザ・バンド担当の8曲には、ディランは参加していない。
またそのうちの「Bessie Smith」「Ain't No More Cane」は発表直前に録音されている。
さらに後からオーバーダビングしたりアレンジされたりの曲も混在してるようだ。
そういう意味では海賊盤は当時の音だけをより純粋に?反映しており、むしろ公式盤のほうがコアなディランのファンから厳しい評価を受けているらしい。

ということで結構複雑な経緯と状況のもとで制作された問題作「The Basement Tapes」。
自称ディランのファンは当然先に海賊盤で学習を済ませていたであろうから、この公式盤は答え合わせみたいなものだろう。
実際公式盤よりも海賊盤を高く評価するファンも多いとのこと。
自他共に認める最強素人の自分にとっては、教科書より先に教科書ガイドを買ってしまったバカ学生みたいな状態だが、明鏡止水の心境で聴いてみることにした。

・・・・・聴いてみた。

Disk1
1.Odds and Ends
2.Orange Juice Blues (Blues for Breakfast)
3.Million Dollar Bash(100万ドルさわぎ)
4.Yazoo Street Scandal
5.Goin'to Acapulco(アカプルコへ行こう)
6.Katie's Been Gone(ケイティは行ってしまった)
7.Lo and Behold!
8.Bessie Smith
9.Clothesline Saga(物干しづな)
10.Apple Suckling Tree(リンゴの木)
11.Please, Mrs. Henry(おねがいヘンリー夫人)
12.Tears of Rage(怒りの涙)

Disk2
1.Too Much of Nothing(なにもないことが多すぎる)
2.Yea! Heavy and a Bottle of Bread(おもいぞパンのビン)
3.Ain't No More Cane
4.Crash on the Levee (Down in the Flood)(堤防決壊)
5.Ruben Remus
6.Tiny Montgomery
7.You Ain't Goin' Nowhere(どこにも行けない)
8.Don't Ya Tell Henry(ヘンリーには言うな)
9.Nothing Was Delivered(なにもはなされなかった)
10.Open the Door, Homer(ドアをあけて)
11.Long Distance Operator(長距離電話交換手)
12.This Wheel's on Fire(火の車)


全24曲のうち、ディランの作品が16曲、ザ・バンドのメンバー作品が5曲(1-2、4、6、8、2-5)、共作が2曲(1-12、2-12)。
楽曲は思いの外バラエティに富んでいて、50年代の色を残すロックやブルースの他、フォークやバラードが次々に登場。
ザ・バンドの人たちも曲ごとにボーカルを変えているので、長いことは長いが飽きない造りである。

ディランのボーカルはやはりこの時期も投げっぱなしで、正直なじめない曲もかなりある。
特に「Lo and Behold!」「Clothesline Saga」「Please, Mrs. Henry」など低い語り調の放り投げ声はやや苦手だ。
ここを超えないとディラン学習の意味がないのはわかってはいるが、苦戦感情はそう簡単に消してはもらえないのがボブ・ディラン。
メンバーもディランに「すいませんもう少し音取ってもらえます?」とは言えなかったのだろうか。(素人の戯言)

逆に高いキーで歌う「Goin'to Acapulco」「Tears of Rage」は意外にいいと感じた。
バックと声を合わせる曲もあるが、調和がとれた美しいハーモニー・・ではない。
好みや慣れの問題だろうが、ムリヤリ言えば味わい深いコーラス。
いずれにしろこのあたりの克服がディラン攻略のカギである。
相変わらず難しいディラン。

ただし何もかも受け入れがたいというわけではなく、楽しくセッションする彼らの喜びや希望みたいなものはかすかに感じとれる・・ような気がする。(本当か?)
全編アコースティックな朴訥サウンドかと思ったらそうでもない。
かなりの割合でキーボードが鳴っており、武骨な男どもの歌声を違った角度で支えている。
これはかなりいい感じだ。
他の楽器と調和してるかどうかは微妙だけど、もしこのキーボードの音がなかったら、印象は相当違ったものになっていたと思う。

さてボブ・ディランと言えばノーベル文学賞受賞者である。
しかも世界中のファンの予想を見事に裏切り、抵抗も返上もせず「まあもらっとこか」とあっさり受賞。
彼の詩の世界を味わわなければ正しい鑑賞とは言えない。(ホントは他の歌手でもそうなんだけど)
いくつかの訳詞をネットで探して読んでみた。

当時のアメリカ文化や世相を理解していないので、訳だけでは何を意味しているのかほとんどわからない。
ただ割と平易な言葉で日常の情景や会話などを物語のように取り込んでいることはわかった。
おそらくはこの言葉の中に政治や経済や社会情勢に対する鋭いメッセージが隠されているのだろう。
さすがはボブ・ディラン。(知ったかぶり)
・・・これ以上は訳詞をなぞるだけではムリで、やはり詳細な解説が必要である。

ジャケットはディランとザ・バンドの人たちが、地下室っぽい部屋で楽器を手にしている写真。
ディランは横を向いてマンドリンをバイオリンのように構えているが、ザ・バンドの面々は記念写真調である。
裏面は表から続いていて、バレリーナやベリーダンサーや重量挙げ男やマツコ・デラックスなど、サーカス団の面々が写っている。
・・これって写真?
人物の立ち位置も変だし、コラージュか絵画のように見えるのだが・・
アートとしての評価はよくわからない、不思議なジャケットだ。

というわけで、15年ぶりのボブ・ディラン鑑賞でしたが、やはりそう簡単にはいかないようです。
ここまで来ると次にどのアルバムを聴いても結果に結びつきそうもないため、ディランにおいてはやはりベスト盤で基礎固めという安直な方法をとったほうがいいような気がしています。

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コメント

SYNJIさん、こんにちは。

ディラン好きな私としても、渋い選択ですね(笑)
えぇ!!持ってます。
持っているのは確かなのですが、どんな曲が入っているか
まったく記憶がありません・・・

ディランってデビューしてコンスタントにアルバムを発表してきましたが、当たりと外れの幅が大きいです(笑)
キリスト教3部作のアルバムも持っていましたが、なんだかなぁ~っていう個人的な感想です。

ジャケットはいいですよね、70年代のアートっぽくて。

投稿: bolero | 2020.06.14 11:15

こんばんは、JTです。

ナイナーノーツによると、3本のマイクと家庭用テープレコーダーで録られた、とあります。改めて聴いてみましたが、音質はローファイですが、バランスや各楽器の分離度はとてもよいです(バランスの悪い曲もありあすが)。
マイクの数やミキサーはレコーディングスタジオ並みだったのではないでしょうか。

>かなりの割合でキーボードが鳴っており、

ザ・バンドのメンバーにはキーボードプレイヤーが2名いますしね。

>裏面は表から続いていて、バレリーナやベリーダンサーや重量挙げ男やマツコ・デラックスなど、サーカス団の面々が写っている。
>アートとしての評価はよくわからない、不思議なジャケットだ。

なんかドアーズの「まぼろしの世界」みたいなジャケットですね。フェリーニの映画のような...。

>バックと声を合わせる曲もあるが、調和がとれた美しいハーモニー・・ではない。

これがザ・バンドの魅力の一つなんですね。割とテキトーにハモる。

自分にとって愛聴盤かといえば、たまに思い出した様に聴く程度だったりします(笑)。

投稿: JT | 2020.06.14 19:54

boleroさん、コメントありがとうございます。

>持っているのは確かなのですが、どんな曲が入っているかまったく記憶がありません・・・

えええ~?!
うーん・・boleroさんはそんな感じでしたか・・
まあ2枚組でちょいと長いですし、誰でも知ってる名曲というのも入ってないようですけど。

>ディランってデビューしてコンスタントにアルバムを発表してきましたが、当たりと外れの幅が大きいです(笑)

なんかそういう評価はよく聞きますね。
アルバムによって路線がかなり違うので、ファンもついて行くのが大変という話ですが・・

>キリスト教3部作のアルバムも持っていましたが、なんだかなぁ~っていう個人的な感想です。

そうですか・・さらに難しそうですね。
当時はライブでもこの3部作の曲しかやらなかったそうですが、やはりついていくのが大変な人みたいですね・・

投稿: SYUNJI | 2020.06.14 22:09

JTさん、こんばんは。

>3本のマイクと家庭用テープレコーダーで録られた、とあります。

自分が聴いたCDがどこまで処理した音になっていたかはわかりませんが、音が悪いとは感じませんでした。
少なくとも地下室のような安いイメージはありませんでしたね。

>ザ・バンドのメンバーにはキーボードプレイヤーが2名いますしね。

なるほど、そういう事情だったんスね。
ディランにキーボードというイメージはありませんでしたが、この音は悪くないと思いました。

>なんかドアーズの「まぼろしの世界」みたいなジャケットですね。

ああーそうだそうだ、言われてみればそうですね。
あのジャケットも正直ワケわかんないナゾの写真ですね。

>自分にとって愛聴盤かといえば、たまに思い出した様に聴く程度だったりします(笑)。

JTさんもそんな感じですか・・
ファンの間でもトップに推されることはあまりないアルバムなんでしょうかね。

投稿: SYUNJI | 2020.06.14 22:28

SYUNJIさん、こんばんは。
>>モンスリー師匠の必修名盤学習指導要領

なんと、全く覚えていません。
私自身がディランをほとんど聞いていないにも関わらず、なぜ
これをオススメしたのか……
理由はただ一つ、「知ったかぶり」をした、しか思い当たりません。
反省しています。(^^;

久しぶりに聞き直しました。
アメリカのルーツ音楽をベースにしているためか、思いのほか聞きやすいです。
また、エレクトリック色がさほど強くないので電化前ディランファンの方にも
受け入れられやすいのかな? と思いました。1967年に録音されたとのこと
ですが、この時に発表されていたらこの作品は電化前のファンの方からも
より評価されたのではないか、と思います。といっても電化前/後いずれの
ディランもよく知らない私には判断できませんが……

ただ、この作品はかなりくつろいだレコーディングであることが伝わって
きますので、これが聞きやすい理由ではないかと思います。ザ・バンドの
諸作もレイドバックしていますが、もう少し緊張感を感じます。
もうひとつ、ザ・バンドはライブ志向のバンドですので、ディランがバンドサウンドを
始めるにあたって、最適のバックバンドだった可能性がありますね。この
作品も、セッションというかスタジオライブ的に聞いてもOK! みたいな
感じです。

投稿: モンスリー | 2020.06.17 20:55

モンスリー師匠、今回も監修ありがとうございます・・が、

>なんと、全く覚えていません。

ええーーー!!
なんですと??
・・まあこちらもあまりにもたくさんの必修名盤をおすすめいただいているので、どれをいつすすめられてたかもよく覚えてませんが・・

>アメリカのルーツ音楽をベースにしているためか、思いのほか聞きやすいです。
>この作品はかなりくつろいだレコーディングであることが伝わってきますので、これが聞きやすい理由ではないかと思います。

うーん・・そうスか・・
このアルバムはまだ聴きやすいほうなんですね。
これでまだグダグダ言うのは鍛え方が足りないということで・・

>エレクトリック色がさほど強くないので電化前ディランファンの方にも受け入れられやすいのかな? と思いました。

ディラン聴く場合この「電化」がかなりポイントらしいですね。
電化の前後でどれくらい違うのか、まだわかりませんが・・

>この作品も、セッションというかスタジオライブ的に聞いてもOK! みたいな感じです。

これはその通りですね。
聴く前からそういう情報を仕入れてたからなのかもしれないですけど、ライブみたいな雰囲気は感じました。
しかし、それだけ盛り上がったのに彼らはそのままディランをリーダーとしたグループでずっとやっていく、ということにはならなかったんですね。

投稿: SYUNJI | 2020.06.18 21:54

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