聴いてみた 第153回 ピンク・フロイド その2
プログレ社会人学校シリーズ、今日はピンク・フロイドの「炎」を聴いてみました。
フロイド学習は完全に中退しており、「狂気」「原子心母」は悪くはなかったものの定着せず、ベスト盤ばかり聴いている。
今回もモンスリー師匠から直々に更生プログラムとして「炎」の強い推薦があり、「このままでは何も聴かないうちに人生が終わります」というぷく先輩の啓示を胸に、心を入れ替えて政府として適切に「炎」を聴くことにしたものであります。(官房長官の記者会見調)
「炎」は1975年の作品。
全米も全英も1位を記録という鬼アルバムで、原題は「Wish You Were Here」、日本語副題は「あなたがここにいてほしい」。
前作「狂気」で人気も名声もおこづかいもがっちり獲得したピンク・フロイド。
超傑作の次をどう作るかというプレッシャーに、彼らもまた悩むこととなる。
で、考えていたのが「家の中にある食器やら雑貨やらといった楽器ではないものを使って音楽を作る」という実験的な試み。
だがその企画は「やっぱやめよう」ということになり、ふつうの曲作りを開始。(なぜ?)
その時にテーマとしたのが、音楽ビジネスでの大成功における選ばれし者の恍惚と不安。
これをそのまま歌うことにしてできあがったのが「炎」という話。
なんかあまりよくわかりませんけど。
結果的にこの作戦は成功して英米1位も獲得したので、まあよかったのだろう。
食器や雑貨を使った実験的音楽だったら、おそらくは英米1位なんかとてもムリで、自分も一生聴かずにいたと思われる。
そんな運命的名盤を、このトシになって初めて聴くことにした。
・・・・・聴いてみた。
1.Shine on You Crazy Diamond (Part1~5):狂ったダイアモンド(第1部)
元メンバーのシド・バレットに捧げた曲だと多くのサイトに書いてあるが、ウィキペディア日本語にはロジャー・ウォーターズが「決してシドのみに向けたメッセージではなく、すべての人間に当てはまることだ」と語った、とある。
「シドだけに宛てたメッセージ」は否定してるけど「シドへのメッセージでもある」ことは確かなようだ。
この曲はベスト盤で聴いていたが、オリジナルアルバムでは9つのパートから成り、最初がパート1から5まで、残りの6から9まではアルバムの最後に収録されている。
・・と言ってもどこからどこまでが1なのか2なのかはよくわからない。
甲高く響くブルースの調べはデイブ・ギルモアのギターだが、これは名演だと思う。
8分以上過ぎてようやく歌が始まる。
終盤にはサックスが鳴り響く渋い構成で飽きない。
2.Welcome to the Machine:ようこそマシーンへ
初めて聴く曲。
タイトルに合わせたような機械的なサウンドに、物悲しいボーカルが乗る。
歌詞は物わかりの良さそうな父親がロックスターを夢見る息子に語りかけるような感じで書かれているが、オチもなく意味もよくわからない。
ロックスターを夢見て成功しステーキ食ってジャガー乗っても、結局ミュージック・ビジネスというシステムに取り込まれるしかない、というフロイド自身の現状を皮肉った歌らしい。
終盤突然演奏が止まり、電子音や笑い声などが聞こえて終わる。
3.Have a Cigar:葉巻はいかが
これも初めて聴く曲。
フォーク歌手ロイ・ハーパーのボーカル。
ロイ・ハーパーはツェッペリンの「Hats Off to Roy Harper」でタイトルになってるその人であり、84年にペイジとのライブ盤も発表している。
で、偶然フロイドと同じスタジオにいたところをロジャー・ウォーターズに頼まれて歌ったらしいが、突然メインボーカルでフロイドの曲を歌うってスゴイ話だなぁ。
ロイ・ハーパーはアルバムの雰囲気を壊すことなく誠実にボーカルを務めており、違和感は全然ない。
大ヒットもしたので結果としては成功だったんだろうけど。
楽曲としてはやはり明るくはない辛口のブルースで、リズムも微妙で難しい感じ。
歌詞はバンドの売上だけにしか興味のないレコード会社の偉い人のとんちんかんなセリフがそのまま書かれているそうだ。
そのまま歌詞にしたら皮肉でもなんでもなく、その人にバレてしまうのでは・・
エンディングはフェードアウトではなく突然音が小さくなり、右側に寄って終わる・・んですけど、それでいいんですよね?
一瞬プレーヤーが故障したのかと思った・・
4.Wish You Were Here:あなたがここにいてほしい
これもベスト盤で聴いており、フロイドの曲の中では好きなほうである。
イントロに古いレコードをかけたような小さなノイズ混じり音が入っていて、後からアコースティックギターでメインの演奏が始まる。
この演出もいいと思う。
ロジャー・ウォーターズのやや濁った投げやりなボーカルも秀逸だ。
終盤ギターに合わせて高い声で歌詞なく歌っているのはギルモアだそうだ。
5.Shine on You Crazy Diamond (Part6~9):狂ったダイアモンド(第2部)
第1部とは違ったメロディで、リズムも早い。
やたら高音のギターが競うように重なり、やや耳障りだなぁと感じていたところで第1部と同じサウンドが戻ってくる。
後半はまた2部独自のメロディが長く続く。
エンディングも長く続くフェードアウト。
聴き終えた。
スタジオ盤としては「狂気」「原子心母」に次いで3枚目となるが、その中では一番聴きやすいと感じる。
収録曲の半分くらいはベスト盤で聴いていたので、慣れもあるだろう。
少なくとも難解だったり恐怖だったり舌打ちだったりのついていけない感覚は全くない。
どれも冗長ではあるが楽曲として比較的おだやかであり、落ち着いて聴ける。
この雰囲気は悪くない。
もっと言うと他のプログレにある絶叫とか変拍子とか方向転換といった傲慢な置き去り展開が思ったほどないので、わりと初心者にもありがたい内容である。
比較は無意味かもしれないが、クリムゾンやイエスよりもフロイドの音は自分に合うのだろう。
エラそうに分析できるほどどれも鑑賞してないが、やはりグレッグ・レイクのがなり声やジョン・アンダーソンの凍結した甲高いボーカルは苦手なのだ。
とりあえずフロイドにはそれがない。
判定ポイントとしては実に幼稚なのだが、これが正直な感覚である。
さてこのアルバム。
シド・バレットを想って作った美しき友情と絆の物語・・なのかと思ったら、ウィキペディアを含む多くのサイトに書いてあった「シド本人の登場」話が笑えて泣ける。
このアルバムのレコーディング中にシド・バレット本人がまさかのアポなし登場。
しかしすっかり太ってハゲ散らかしたシドを見てもメンバーは本人だと気づかず、リチャード・ライトはロジャーのお友達かと、またギルモアもEMIのスタッフかと思ったそうだ。
シド自身は久しぶりのスタジオに上機嫌でギターも弾く気でいたそうだが、シドのあまりの変わりようにメンバーは引いてしまい、結局録音に参加することもなくシドは帰っていったとのこと。
しかも以降メンバーは誰もシドと会うこともなく、これが今生の別れになろうとは・・
「あなたがここにいてほしい」ってその願いがかなった展開になったのに、お互いに気の毒な話だなぁ。
「人は見た目が9割」って至言ですね。(なんだそのまとめ)
ジャケットは、二人の男が握手をしているが一人は火だるまという怖い絵。
「狂気」と同じくヒプノシスのデザインだそうだが、「狂気」の幾何学的で無機質な絵とは全く違った直情的な恐ろしさである。
フロイドのアルバムジャケットは怖いものが多いが、この「炎」は今風に言うと無敵なヤバさである。
やはりメンバーの顔がろうそくになって火が着いてたり、メンバーが火の玉になって宇宙空間を飛び回るようなどっかのバンドのポンチなジャケットとはセンスが違うのだ。
というわけで、ピンク・フロイド「炎」。
これはかなりよかったです。
これまで聴いてきたプログレの名盤の中では、おそらく最も自分に合う作品だと感じました。
次回は「アニマルズ」「おせっかい」あたりも学習してみようかと思います。
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コメント
SYUNJIさん、こんばんは。そしてビンゴです!!(笑)
私としてはフロイドは「狂気」でもなく「原子心母」でもなく
この「炎」がフェバリットです。
SUNJIさんも書かれている通り一番聴きやすいフロイドの作品ではないかと・・・
私も専門的な批評は出来ないのですが、各曲のクオリティが高くて
面白いメロディが随所に出てくるところが好きです。
「ようこそマシーンへ」「葉巻はいかが」など、こんな楽曲が75年にあったの?って思ってしまう。
プログレの作品では1番か2番目に好きなアルバムです。
投稿: bolero | 2019.11.24 23:05
boleroさん、コメントありがとうございます。
>私としてはフロイドは「狂気」でもなく「原子心母」でもなくこの「炎」がフェバリットです。
おお、そうですか!
やはりこの3作品の中では聴きやすいですよね。
>「ようこそマシーンへ」「葉巻はいかが」など、こんな楽曲が75年にあったの?って思ってしまう。
確かにそうですよねぇ・・
もちろんこの曲に限りませんけど、70年代の創造性や芸術性というものに今更ですが驚かされますね。
>プログレの作品では1番か2番目に好きなアルバムです。
自分もここまで聴いたプログレ名盤の中では最上位クラスですね。
と言ってもプログレは両手で数えられるくらいしか聴いてませんけど・・
投稿: SYUNJI | 2019.11.25 22:20
SYUNJIさん、こんばんは。
かつて、日本では「24時間戦え!」といって、カフェインが
どっさりと入った栄養ドリンクを売りまくっていました。
時は変わって21世紀。
もはやエナジー飲料を飲んでも回復しない疲労がたまって
います。そんなとき、
「疲れた」と愚痴をこぼせば、
「オレも。疲れたよなあ」
といって寄り添ってくれる存在が必要とされています。
この存在こそフロイドの「炎」です。
ウォーターズやギルモアのもの悲しい歌声。ブルースをベースに
したギルモアの泣きのギター。
以前、自分のホームページで「フロイドの演奏力は高くない」と
何かの受け売りを書きました。しかし、これは間違い。
演奏をひけらかさないこと(ただしギルモアを除く)が、
「炎」の「侘び・寂び」へと結実しています。
これはもうプログレではなくて、演歌。
プログレは理系の音楽とも言われて、精神論ではあまり語られません。
しかしフロイドの「炎」は別。だって日本人の心「演歌」ですから。
>>だがその企画は「やっぱやめよう」ということになり、
>>ふつうの曲作りを開始。(なぜ?)
はい。ご想像のとおりで大したことがないからです。
私は公式高額レア音源ボックス……のばら売り廉価盤で1曲
聞きました。時間のムダでした(^^;
投稿: モンスリー | 2019.11.26 21:15
モンスリーさん、今回もご指導ありがとうございます。
・・・しかしすごい高評価ですね。
なんか歌番組の前口上のような解説がお見事です。
あ、だから演歌なんでしょうか・・?
>ウォーターズやギルモアのもの悲しい歌声。ブルースをベースにしたギルモアの泣きのギター。
やはりここに尽きますね。
プログレではあるけど伝わりやすい・わかりやすい特徴だと思います。
>はい。ご想像のとおりで大したことがないからです。
あ、音源は入手可能なんですね。
まあたとえフロイドの技量があっても、楽器じゃないものを使って音楽作ろうとしても無理がありますよね。
聴きたいとも思いませんが・・
投稿: SYUNJI | 2019.11.27 21:48
もはや本人かどうか怪しい存在のぷくちゃんと言います。ああ、おばか選手権から何年経つのか(←本人らしい)
僕は最初に買ったのは「アニマルズ」がリアルだったので一番思い入れがあるのはそちらですが、このアルバムも好きです。モンスリー先輩がほとんど言い表してくれたので余計な言葉はやめておきますが、このアルバムを聞いていた時ほど真剣に音楽を聴いていたことはありません。
投稿: | 2019.12.04 18:38
ぷく先輩、久々のコメントに涙が止まりません。
先輩の啓示を胸に日々精進を続けております。(棒読み)
ウルトラSYUNJIの続編が早く読みたいです。(本音)
>僕は最初に買ったのは「アニマルズ」がリアルだったので一番思い入れがあるのはそちらですが、このアルバムも好きです。
「アニマルズ」は「炎」の次のアルバムですよね。
「Sheep」しか知りませんが、先輩がそうおっしゃるのなら聴いてみたいです。(薄っぺらい)
>このアルバムを聞いていた時ほど真剣に音楽を聴いていたことはありません。
そうスか・・やはり若い時の感性は重要ですね。
そういう自分は、77年当時はビートルズとアバを聴いてました・・
投稿: SYUNJI | 2019.12.05 22:26
お久しぶりです(2度目の書き込みです)
このアルバムは私にとっても高ポイント作品なので、お聴きになったというのがチョット嬉しいです。
ところで記事中に有った、
>家の中にある食器やら雑貨やらといった楽器ではないものを使って音楽を作る」という実験的な試み…
ですが、本作の5年ぐらい後にデビューした、アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンというドイツのグループがこれを実際にやってのけちゃったんですよ (コチラは食器や雑貨ではなく鉄屑やパイプのような部材を組み合わせて楽器っぽく音を出したんですが…)
もしフロイドが実現していたら(売れるかどうかは別として)“プログレの神髄を極めた!!”とかチョット違う評価が得られたかも??
投稿: echigo-buta | 2019.12.14 23:23
echigo-butaさん、ごぶさたしております。
ジャパンも結局あれっきり放置ですいません・・
>このアルバムは私にとっても高ポイント作品なので、お聴きになったというのがチョット嬉しいです。
やはりみなさん評価が高いですね。
思った以上に名盤だったんスね・・それをこの歳で初めて聴いてるってのもかなりヤバい気がしてきました。(遅い)
>アインシュテュルツェンデ・ノイバウテンというドイツのグループがこれを実際にやってのけちゃったんですよ
へぇーそんなことがあったんですね。
あまり一般受けはしないような気もしますが・・
>もしフロイドが実現していたら(売れるかどうかは別として)“プログレの神髄を極めた!!”とかチョット違う評価が得られたかも??
まあ正規のアルバムとして発表していたら、きっとものすごい問題作になったでしょうね。
そもそもこれは「狂気」で富と名声を確立してこその試みだったんでしょうかね?
カネもないのにそんな無謀なことはしないでしょうし。
音源は入手可能だそうなので、やはりコレクター向けなんでしょうね。
投稿: SYUNJI | 2019.12.17 21:15