聴いてみた 第150回 フェイセズ その2
今日聴いてみたのはフェイセズ「Long Player」。
1971年発表で、全英31位・全米29位を記録した、フェイセズとしては2枚目のアルバム。
フェイセズ結成の経緯をおさらい。
まずスモール・フェイセズからスティーブ・マリオットがハンブル・パイを結成するため脱退。
残ったロニー・レーン、イアン・マクレガン、ケニー・ジョーンズの3人が呆然としていたところに、ジェフ・ベック・グループ解散後のロン・ウッドが気まぐれに参加。
一方同じくJBG出身のロッド・スチュワートはソロでやっていくことを決意してソロアルバムも出したが、これが思ったほど売れず暇をもてあまし、ロンに誘われてスモール・フェイセズのレコーディングに来てみたらそのままボーカルとして採用されたという、案外適当なフェイセズのスタート。
バンドは1970年3月に最初のアルバム「First Step」をリリース。
イギリスではフェイセズとしての発表だったが、アメリカではまだスモール・フェイセズのほうが通りがよかったため、スモール・フェイセズ名義となっている。
その半年後にはロッドがまたもソロアルバム「Gasoline Alley」を発表。
フェイセズのメンバーも参加しており、この頃はソロとバンドの間をわりとみなさん自由に行き来していたようだ。
さらにその半年後に出たのが、今回聴いたフェイセズとしての「Long Player」である。
アルバムタイトル「Long Player」はLPレコードの意味だそうだが、「それはわかってますけど」というタイトル。
当時発売されるアルバムレコードはフェイセズ以外もみーんな「Long Player」だったはずで、「だから正式なタイトルは何なんだよ」とファンは思ったんじゃないだろうか?
何か意味や意図があってのタイトルかな?
なおジャケットは2枚のボール紙をミシンで縫い合わせるという凝った造りだったそうだ。
前回聴いた「馬の耳に念仏」で、フェイセズは自分にとって信頼と実績のバンドだと確信したので、今回も不安材料は全然ない。
世界最強のB級ガレージバンドなんて評価もあるようだが、あの楽曲とロッドのボーカルがあれば大概は大丈夫なはずだ。
ふんぞり返って聴くことにした。
・・・・・聴いてみた。
1. Bad 'N' Ruin
オープニングはイアンとロッドの共作で軽快なロック。
ロッドのボーカルが相変わらず魅力全開だが、後半の間奏部分でそれぞれの楽器も主張しあう。
うまいかどうかはよくわからないが、ノリは非常によい。
ラストはテンポを落として終わる。
2. Tell Everyone
前の曲のエンディングから続くようなスローバラード。
ここまでの2曲がアルバムのハイライトと評する人も多いようだ。
ロッドの味わい深いボーカルの見本のような曲だが、後半に登場するキーボードが意外にいい感じ。
ロニー・レーンの作品だが、本人は歌っていない(と思う)。
3. Sweet Lady Mary
引き続きフォークっぽいバラード。
6分近くあって結構長い。
右のオルガンと左のアコースティックギターが不思議な調和を奏で、ロッドのざらつくボーカルが乗る。
ドラムは出てこない。
どこかで聴いたような音だが、たぶんこの路線は後のロッドのソロ「Sailing」「Maggie May」につながっている気がする。
4. Richmond
なんとなくストーンズっぽいカントリー調のサウンド。
ここでようやくロニー・レーンが歌う。
この人の声はやはりジョージ・ハリスンに似ている。
いい曲だし、ジョージっぽい頼りなさげなボーカルも悪くないが、もしロッドが歌ってたらやはり相当引っ張られてさらに名曲になっていただろう。
5. Maybe I'm Amazed(恋することのもどかしさ)
ポール・マッカートニーの作品がなぜかこんなところでライブで登場。
意外な選曲に少し戸惑う。
これポール本人もライブで歌ったことないんじゃないだろうか?
初めはロニーのボーカル。
続いて楽器のボリュームも上がったところでロッドが歌い、中盤は二人で声を合わせる。
ロッドはところどころ音をはずしており、ちゃんと聴けばロニーのほうが歌がうまいんだが、魅力的かどうかといえばやはりロッドにはかなわない。
ポールの歌とはまた違った、聴きどころの多い曲。
6. Had Me A Real Good Time
LPではB面がこの曲でスタート。
A面にはないブルージーなロックで、ロッドが本領発揮。
ロニーとロッドとロン・ウッド、バンドの「3R」共作。
これも後の「Hot Legs」なんかにつながっていく名曲だと思う。
後半からサックスやトランペットも加わりファンク度がアップしている。
なおサックスはボビー・キーズ、トランペットはハリー・バケットという人が担当。
7. On The Beach
ボーカルはロニーだと思うが、ややまとまりのない異質なサウンド。
ブルースを軸にフォークのように比較的おだやかに進行するが、楽器も声もあえて調和を少し乱しているようなイメージ。
8. I Feel So Good
この曲もライブで、ニューヨークでのコンサートが音源とのこと。
前半はわりとふつうに進行するが、中盤で臨場感あふれるロッドと観客の掛け合いがあり、後半はそれぞれのパートが目いっぱい主張し合う。
ロックバンドのライブの見本のような構成。
9. Jerusalem(エルサレム)
エンディングはロン・ウッドによるインスト。
原曲は讃美歌でイギリスでは「第二の国歌」と言われており、ELPも「恐怖の頭脳改革」で1曲目に収録している。
2分弱しかなく、ラストにしては少し物足りない。
聴き終えた。
全体的な印象としては、バラエティ豊かなアルバムである。
ロック・ブルース・フォークといった当時の音楽シーンを基軸に、ライブやインストも収録。
ポール・マッカートニーのカバーをライブでという意外なチョイスは誰の発案なのかわからないが、曲の良さをさらに引き出した秀逸なライブである。
「馬の耳に念仏」よりも散漫な感じもしないではないが、ロッドもロニーもそれぞれの得意な曲で歌っているように思う。
このアルバム制作時点ではまだグループは安定していたのだろう。
フェイセズのサウンドに慣れたせいか、ロニーの頼りないボーカルもそれほど気にならなかった。
ロッドの突出した個性に対してはもちろん分が悪いが、ロニーの声もバンドの顔である。
「馬の耳に念仏」同様、やはりロッド在籍時のジェフ・ベック・グループよりもいいと感じる。
少しずつわかってきたのだが、フェイセズはツェッペリンやパープルといった突き抜けたギタリスト・ボーカリストを擁するバンドとは少し違うようだ。
ロッド・スチュワートという突き抜けたボーカルは確かにいるが、ロバート・プラントやイアン・ギランのような金属系ボーカリストではない。
ロッドは変わった声なので「個性的」という評価になるのだが、ミック・ジャガーのように力で押し通すような歌い方はしておらず、基本は楽しくやろうぜ的なガヤ系バンドだと思う。
簡単に言うと「毒のないバンド」である。
ツェッペリンなんてそもそもメンバー全員毒キノコだし、ストーンズもパープルもフグっぽい人が多く混ぜると危険な毒だらけだ。
で、このフェイセズの毒のなさ、聴いてみるとかなり心地よいのだ。
残念ながらバンドとしては長続きはしなかったようだが・・・
というわけで、「Long Player」。
これもかなりよかったです。
フェイセズのスタジオ盤はあと2枚残っていますので、早いうちに聴いておこうと思います。
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