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読んでみた 第55回 文藝別冊 マイケル・シェンカー

今回読んでみたのは「文藝別冊 マイケル・シェンカー」。
前回のジェフ・ベック以上に聴いてないマイケル・シェンカーだが、文藝別冊シリーズで昨年8月に出版されたので図書館で借りてみました。

Michael_schenker

マイケル・シェンカー・グループのアルバムを聴いたのは10年以上前になる。
その時はさほど拒絶感はなかったはずなのだが、その後全く定着せずUFOも含めた他のアルバムにも一切手を出すことなく今に至る。
中古で買ったMSGのファーストアルバムCDも手元に残っているかどうかすら不明。
「ストーンズやパープルなどの学習に忙しかった」という中学生みたいな言い訳しか出てこないが、実態はこんな有様である。

そんなつれない扱いしかしてこなかった自分が、マイケル本を読んで理解できるわけもないのだが、河出書房新社の寛容な社風に感謝しながら読むことにした。(買ってないけど)

・・・・・読んでみた。

正式な書名は「KAWADE夢ムック 文藝別冊 マイケル・シェンカー」。
サブタイトルには「永久保存版 総特集」とか「神、降臨――永遠のフライング・アロウ」などといった勇ましいアオリが並ぶ。
版元は信頼の企画と安心の編集で名高い河出書房新社。
176ページ、本体価格1,300円。
他の文藝別冊シリーズに比べると若干ページ数が少ない。

目次はこんな感じ。 

【ロング・インタビュー】
伊藤政則
「伊藤政則が語るフライングV伝説」(聞き手:武田砂鉄)
 
【スペシャル・インタビュー】
松本孝弘(B'z)
「神には感謝しかない――もはや血肉となっているその音と技」(聞き手:伊藤政則)
 
【特別寄稿/エッセイ】
堂場瞬一「この神はどちらの神か」
 
【特別寄稿/マンガ】
喜国雅彦「Vの神様」
 
【インタビュー】
マーティ・フリードマン
「HR/HMのクオリティを押し上げたメロディアス・ギタリストの元祖」
 
【ヒストリー】
舩曳将仁「神の軌跡」
 
【論考】
大鷹俊一「マイケル・シェンカーは来なかった!――UFO襲来の衝撃」
増田勇一「彼のギターが歌うのだから」
山﨑智之「マイケル・シェンカーとギタリストたち」
 
【エッセイ】
五十嵐太郎「アイコン楽器としてのフライングV」
武田砂鉄「その不機嫌を観たい」
本郷和人「滝廉太郎とマイケル・シェンカーの遠くて近い関係」
吉川浩満「部屋に到来する神について」
鈴木輝久「「ゲイリー・バーデン版ダンサー」の始末」
 
【アルバム・セレクト】
マイケル・シェンカーと響き合う10枚(舩曳将仁)
マイケル・シェンカーの遺伝子を受け継ぐ10枚(武田砂鉄)
 
【徹底解題ディスク・レビュー 1972~2018】

構成自体はいつも通りの文藝別冊シリーズである。
インタビューも書き手も「なぜこんな人が?」という例はおそらくなく、王道の企画と鉄板の編集。
巻頭には信頼と実績の伊藤政則インタビュー。
さらに他のインタビュー記事はB'zの松本孝弘、そしてマーティー・フリードマン。
この人選はマイケルのファンとしても良かったんじゃないでしょうか?
ジェフ・ベックを語るのにヨッチャン呼んじゃうよりは全然いいのでは・・・

ただし。
インタビューも書き手も、現業こそ違えど大半は「リスナーとしてマイケル・シェンカーにふれてきた日本人」という立場の方々である。
マイケルご本人のインタビューはなく、バンドメイトやプロデューサーといった関係者の話もない。
関係者の談話が絶対必要なのかと言われるとそうでもないが、やはり新たな発見を読者としては求めたいはずである。
今はネットで海外ミュージシャンの最近の動向や関係者の裏話も簡単に得られるので、編集側としてもあえてそういう企画は起こさなかったということだろうか。

そういう意味ではかつて70・80年代にあった洋楽雑誌のような「懐かしい」編集である。
巻頭インタビューで政則氏が「当時はネットなんてないから、みんな想像も膨らませつつ書いてたんだ。その分書き手の思いが入ってくる」と話しているが、この本はまさにそういうノリである。
その「書き手の思い」が心にスイングするかどうかは読者側の問題なので、当然だが評価は割れると思う。
まあこれはマイケル・シェンカーだけでなく、この「文藝別冊シリーズ」に共通することかもしれないが。

ちなみに他のシリーズにはあったカラーグラビアページも、この本にはない。
意図は不明。
フライングVを手にするマイケル・シェンカーなんて文字通り「絵になる男」ではあると思うのだが・・
権利関係とか予算の問題だろうか?

また全体としてはわりと平易でわかりやすい文章が多い。
これは「文章がわかりやすい」という意味であり、「そんな話はオレでも知っている」ということではもちろんない。
マイケル・シェンカーを全然聴いてない自分でも、「ちょっと何を言ってるのかわからない」といった富澤状態になるような難解な内容や文体はあまり出てこない。
マイケル神を崇拝するあまり延々と知識自慢を繰り広げたり他のアーチストを見下したりというクセのすごい文章は見当たらなかった。

なのでマイケル・シェンカー入門書としての体裁は問題ないと思う。
逆に言えば大笑いや大発見といった尖った話も思ったほど書かれていない(と思う)。
前述のとおり現場関係者の談話がないので、日本のファンでも「えっ知らなかった」という類のエピソードは載っていないんじゃないかと思われる。
Amazonレビューにはかなり厳しい評価が並んでいるが、詳しいファンや長くマイケル・シェンカーを聴いてきたリスナーから言わせると「物足りない」ということになるのかもしれない。

自分はやはり山﨑智之の「マイケル・シェンカーとギタリストたち」が一番面白かった。
業界に居並ぶ名ギタリストに対するマイケルの評価は非常に興味深い。
まずマイケルは「レッド・ツェッペリンディープ・パープルブラック・サバスのディストーション・サウンドを愛している」という。
その前提?で、ジミー・ペイジについては「ギタリストとしては過大評価されている」と辛辣な意見。
一方でトニー・アイオミを「最高のリード・プレイヤーではないが、魂とスペシャルな個性がある」と評価している。
さらにリッチー・ブラックモアに対しては「ロック界で彼だけの個性を確立している」と絶賛。
ただし「リッチーに影響を受けた」とは言っていないそうだが。

このギタリスト評をまとめると、なんとなく言ってることはイングウェイ・マルムスティーンに近い気がする。
さらに興味深いのが、そのインギーとエドワード・ヴァン・ヘイレンについて「無視できない存在だった」としている点。
神と呼ばれたマイケルも、後輩二人の突出した才能は認めていたということのようだ。

あちこちに書いてあるのがマイケル・シェンカーの「不安定」な部分。
ハードロック業界には他にもそんなアーチストはたっくさんいるはずだけど、とにかくマイケルは体調不良やドラッグやアルコールなどで精神も就業に対しても不安定になることが多発しており、バンド脱退や解散、コンサート中止・中断なんかしょっちゅうというステキな人物で通ってきている。
一時期は「今回はちゃんと日本に来た」ってのがファンの間で話題になるくらいだったそうですが・・

単純に言えば社会人としてちょっと一緒には仕事したくはないと思うレベルなんだけど、コアなファンはそういう不安定なところも含めてマイケル・シェンカーを追っているフシがある。
無事に来日してくれて無事にコンサートやってくれてという普通の展開に安堵しながらも、どこかで「ああああやっぱ今回もダメだったマイケル・シェンカー」を期待している・・という、一般人には理解しがたい感覚を持って臨んでいる人が必ずいるのだ。
まあ故障だらけの外車の話を楽しそうにしてるオヤジってのもいますけど、あれに近いのかな?

そんなわけでどのページも比較的おだやかに楽しめるこの本だが、自分でもわかる残念な点はやはりある。
それは読者全員が共感するであろう、喜国雅彦のマンガ「Vの神様」。
喜国雅彦と言えばメタルファン(確かモトリーの大ファン)で有名な漫画家であり、編集側としても間違いのない人選だったはず。
しかし。
非常に残念なことに、この「Vの神様」は文字にすることすら億劫なほどレベルが低く、マイケル・シェンカーにはほとんどふれず、ダジャレとダ落ちに終始するという大学生の同人誌以下な内容。
これはダメでしょう。
「特別寄稿」として発注した以上掲載しないわけにはいかなかった版元側の都合もあっただろうけど、この内容で掲載を決断しちゃったのは編集の落ち度でもある。
それにしてもどうした喜国雅彦?
もしかしてあんましマイケル・シェンカーには興味なかったのか?

というわけで、「文藝別冊 マイケル・シェンカー」。
初心者の自分からするととてもためになる内容だと思います。
本文はもとより巻末のディスク・レビューなど今後の学習(するのか不明だけど)には大変役立つ資料になると感じました。
一方でファンからの厳しい感想も、なんとなくわかる気はしました。
今後もし増補版が出るようなら、もう少しマイケル本人や近い人の談話を掲載してもらえたらと思います。

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コメント

なんなんですか?この企画

【ロング・インタビュー】
伊藤政則
「伊藤政則が語るフライングV伝説」(聞き手:武田砂鉄)って

わたしは、【伝説】って言葉に心動かされるので、おおいに気になります。

投稿: かまぼこRock | 2019.02.11 07:45

かまぼこRockさん、おはようございます。

>わたしは、【伝説】って言葉に心動かされるので、おおいに気になります。

うーん・・「伝説」というとやや大げさな印象ですが・・
内容はぜひ本をお読みいただけたらと思いますが、日本人の中ではおそらく一番長くマイケル・シェンカーに取材してきたであろう政則氏ならではの談話ですね。
全面的にほめまくっているわけでもなく、マイケル・シェンカーの危うい部分も含めて、けっこういろいろな話が書いてあります。

投稿: SYUNJI | 2019.02.11 10:35

こんばんは、JTです。

マイケル・シェンカー、ほとんど知りませんが、曲は何曲か知っています。
私の大学時代の音楽サークルで「Cry for the nations」や「Armed and ready」を演奏しているバンドがあったので。

SYUNJIさんの以前のマイケル・シェンカーの記事(のリンク先)で、調子が悪く4曲位でライブ終了、ってのを読んで驚きました。振替公演もなし。殆どの観客も、しゃーないな、と。
ムラっ気のある「神」だなぁ、感心していました。

>それにしてもどうした喜国雅彦?

渋松対談で挿絵(?)書いてた相原コージに依頼してもよかったのでは。山本直樹はマイケル・シェンカー聴いてなさそうだし。

投稿: JT | 2019.02.16 22:56

JTさん、コメントありがとうございます。

>SYUNJIさんの以前のマイケル・シェンカーの記事(のリンク先)で、調子が悪く4曲位でライブ終了、ってのを読んで驚きました。

自分もあらためてリンク先の記事読みましたけど、まあつくづくヒドイ人ですね。(笑←笑い事でもないけど)
今だったら批判殺到で炎上間違いなしですけど・・
ただ書いてる人もなんとなくどこか楽しそうなのがまたすごいですね。

>渋松対談で挿絵(?)書いてた相原コージに依頼してもよかったのでは。

うーん・・確かにこの3人なら誰が書いても面白いマイケル・シェンカーになりそうですが・・
喜国雅彦に依頼した編集の判断は良かったとは思います。
ただしその期待には全然こたえていない出来なので、なおさらがっかりでした。

投稿: SYUNJI | 2019.02.17 17:13

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