聴いてみた 第148回 ポール・マッカートニー その2
中高年ポール・マッカートニー手遅れ補講シリーズ、今回は「Ram」を聴いてみました。
「Ram」は1971年5月発表で、名義としてはソロではなくポール&リンダ・マッカートニーで、プロデュースもこの二人。
主な参加ミュージシャンはデビッド・スピノザ(G)、ヒュー・マクラッケン(G)、デニー・シーウェル(D)。
また「Uncle Albert/Admiral Halsey」「The Back Seat of My Car」の2曲でニューヨーク・フィルハーモニー楽団を起用するなど、前作に比べ力の入った造りのアルバムとのこと。
セールスとしても全英1位・全米2位を記録。
曲の大半をスコットランドの農場に引きこもった時に作ったので、その農場の丘にたくさんいた羊をタイトルやジャケットに使ったらしい。
自分が聴いたのは1993年発売のリマスター盤で、ボーナストラック2曲が追加収録されている。
このアルバムこそがポールの作品で最も「ジョン・レノンの存在」を意識して作られているそうだ。
果たしてどんなアルバムなのだろうか。
・・・・・聴いてみた。
1. Too Many People
いちおう以前から聴いてはいた曲でスタート。
ジョン・レノンに対する批判と、ビートルズへの決別を表現した曲とされる。
そういう情報をふまえて聴くと、ポールのボーカルもなんとなく不機嫌でキレ気味に思えるから不思議だ。
メロディは楽しそうでいいけど。
2. 3 Legs(3本足)
この曲は初めて聴いた。
アコースティックなブルースだが、これもまたジョンに対する失望を歌っているそうだ。
終盤リズムが変わるところはやはりポールらしいと思う。
3. Ram On
ウクレレで始まる意外なイントロ。
楽曲自体は後世に歌い継がれる名曲・・ではなく、感動もあまりない。
むしろリンダのコーラスがいい味わいであることに気づく。
4. Dear Boy
ここからようやくポール・マッカートニー本領発揮。
美しいメロディや構成、コーラスとの調和はやはり秀逸である。
5. Uncle Albert/Admiral Halsey(アンクル・アルバート~ハルセイ提督)
LPではA面最後のこの曲はベスト盤で聴いていた。
個人的には「Yellow Submarine」に似ていると思う。
雷雨効果音や不思議なメドレーが物語を感じさせる。
アルバムではエンディングも次の曲とつながっている感じ。
ポールのシングル(厳密にはポール&リンダ名義だけど)としての最初の全米1位を記録。
アンクル・アルバートとはポールの叔父の名前で、父親の仕事仲間だった人物とのこと。
6. Smile Away
重低音が腹に響くロック。
これは面白い。
ジョンや評論家からの批判を「笑い飛ばせ」と押し返した曲とのこと。
7. Heart Of The Country(故郷のこころ)
これもベスト盤で聴いていた。
田舎暮らしを歌った曲だそうだが、ただのカントリーにならないのがポールらしいところ。
8. Monkberry Moon Delight
「Smile Away」をさらに野蛮にしたような雰囲気。
これもキレ気味なボーカルだが、メロディ自体は悪くない。
ポールがもっと普通に歌ったらヒットしたんじゃないだろうか。
ところどころで入るリンダの合いの手?も多少雑な感じだが、二人の声や調子は意外にマッチしている。
コーラスには娘のヘザーも参加してるそうだ。
9. Eat At Home(出ておいでよ、お嬢さん)
軽快で楽しいナンバー。
リンダは合いの手ではなくきっちりバックボーカルを務めている。
10. Long Haired Lady
曲の雰囲気は「Heart Of The Country」に似ているが、結構いろいろな楽器の音がする。
リンダがバックでなく前に出て歌ったり一人で歌うパートがあるが、やはりポールと合わせたほうがいいなぁ。
リードシンガーとしてはやはり不安だ。
11. Ram On
LPではA面にあった曲のリプライズ。
この辺の作りはやはりビートルズを思わせる。
12. The Back Seat Of My Car
ネットではこの曲を一押しする意見がたくさんあるが、個人的にはそれほど印象には残らない。
以下はボーナストラック。
13. Another Day
ビートルズの曲と同じように何度も聴いてきた曲である。
ボーナストラックではあるが、これが一番ポールらしい名曲。
なぜ発売当時にアルバム収録されなかったのか不思議だ。
14. Oh Woman, Oh Why
終始「Oh! Darling」のようなヤケクソなシャウト。
終盤で銃声のような音が聞こえるのが不気味。
聴き終えた。
まず率直な感想として、前作よりもレベルが上がっているという評価は当たっていると感じた。
曲を作った時期は前作各曲と同じく田舎に引きこもった頃のものが多いらしいが、「Ram」のほうが歌い方にも力がこもっているし、楽曲としての完成度が高いと思う。
そう感じる明確な理由はもうひとつあって、リンダの存在感が飛躍的に向上している点。
どの曲でもポールのボーカルをしっかりサポートする見事なコーラスを当てている。
ただし。
ポールのロックンロールやブルース趣味が全面的に好みに合致するかというとそうでもない。
自分の場合、ビートルズでのポールのロックでも好みはわりとはっきりしており、「のっぽのサリー」なんかは大好きだが、「Why Don't We Do It In The Road?」「Oh! Darling」のシャウトや「Hey Jude」のアウトロなどはそれほどいいとも思わない。
なのでこのアルバムでも、もう少し落ち着いて歌ってほしい曲がいくつかある、という感想になる。
さてウィングスも含めて70年代のポールの作品は、どれもジョン・レノンとの関係をふまえて鑑賞するというのが世界標準の規定になっている。
前述の通りこの「Ram」もそうした情報抜きには語れず、A面の4曲はいずれもジョン・レノンに対する批判皮肉が歌詞に込められた曲とされている。
これらに対するジョンの反撃・返答が「How Do You Sleep?」で、あえてジョージ・ハリスンを参加させてポールの気持ちを逆なでようとするえげつない意図が強烈に表れている。
この曲を作っている場面にはリンゴも立ち会っていたが、元の歌詞のあまりのひどさに次第に不愉快になり、ジョンに「いい加減にしろよ」と忠告したため、ジョンは渋々?婉曲な表現に歌詞を変えたそうだ。
さらに「How Do You Sleep?」が収録されたアルバム「Imagine」には、ジョンが豚を捕まえている写真がおまけで付いていた。
ジョンが「Ram」のジャケットをからかって作ったのは明らかで、ここまで露骨な構図を見れば、やっぱり当時の二人の関係は険悪だったというのが一般的な解釈だろう。
「How Do You Sleep?」についてのジョンのコメントをどこかで読んだが、「当時の心の中の怒りやフラストレーションをぶつけた曲で、結果としてポールを利用させてもらった」「結局は自分のことを書いていたのかもしれない」というようなことを言っていた。
後付けの言い訳のようにも思えるが、やや後悔の心境が表れたジョンの本音だと感じた。
いずれにしてもポールもジョンも、互いを攻撃する曲を作って歌っても、話題にはなるけど歌い継がれる名曲にはやっぱりならなかったようだ。
というわけで、「Ram」。
トータルでは決して悪くないが、やはりウィングスのアルバムに比べるとやや物足りない印象でした。
もう少し聴きこんでいけば、評価は変わってくるかもしれません。
ウィングス作品では「Wings Wild Life」「Back to the Egg」が未聴で残っているので、早いうちに聴いておきたいと思います。
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