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聴いてみた 第146回 ジェフ・ベック その5

久しぶりの聴いてみたシリーズ、今回はこれまた久しぶりのジェフ・ベック
ロンドンにあるライブハウス「ロニー・スコッツ・ジャズ・クラブ」で2008年11月に行われたライブを収録したアルバムで、原題は「Performing This Week: Live at Ronnie Scott’s Jazz」。
モンスリー師匠のおすすめに従って聴くことにした。

Ronnie_scotts

ベックのライブ盤を聴くのは初めてである。
BBAや他のミュージシャンも参加したライブイベントでの演奏は聴いたことはあるが、ジェフ・ベック名義のライブ盤鑑賞はこれが最初となる。
そもそもスタジオ盤も大して聴いてないのにライブなど楽しめるのか不安は当然あるが、先日ベック本も読んだりして多少ベック学習に意欲がわいてきたところだったので、聴いてみることにした。

セットリストはベックの長年のキャリアのあちこちから集められており、新旧のファンを飽きさせない内容となっているそうだ。
果たして自分のような素人にも寛容なライブなのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

収録曲は以下のとおり。

1. Beck's Bolero
2. Eternity's Breath
3. Stratus
4. Cause We've Ended As Lovers
5. Behind The Veil
6. You Never Know
7. Nadia
8. Blast From The East
9. Led Boots
10. Angels (Footsteps)
11. Scatterbrain
12. Goodbye Pork Pie Hat / Bush With The Blues
13. Space Boogie
14. Big Block
15. A Day In The Life
16. Where Were You

基本的にはボーカル曲はなし。
この時のライブはゲストの歌うボーカル曲やクラプトンとの競演もあったそうだが、このCDには収録されておらず、インスト曲のみの構成となっている。
「Beck's Bolero」「Led Boots」といったスタジオ盤で聴き慣れた曲が登場するとやはり安心する。
このあたりはわりとスタジオ盤の音を丁寧に再現しているように聞こえた。

時代ごとの名曲をとりそろえたというセットリストだが、それぞれの曲の雰囲気はかなり違う。
ロックありレゲエありフュージョンありジャズありブルースあり。
ベックが長いキャリアの過程で様々なジャンルに傾倒していたことが、この16曲だけでもわかる気がする。
そもそもベックにそれほどなじんでもいないし、知ってる曲のほうが少ないが、退屈とか拒絶といったマイナスな感情は全くなかった。
バラエティに富んだ名演であることは間違いない。

この時のバンドメンバーは以下のみなさんである。
・タル・ウィルケンフェルド(B)
・ヴィニー・カリウタ(D)
・ジェイソン・リベロ(K)

いずれも自分は全然知らない人たちだが、ベックのバンドメンバーとしてはおなじみの面々だそうだ。
ベースのタルさんは当時21歳という超若い(言い方がおっさん)オーストラリア出身の女性ベーシスト。
ヴィニー・カリウタは様々なミュージシャンのサポートを務めており、ビリー・ジョエルの「ザ・ブリッジ」やデュランの「ザ・ウェディング・アルバム」などの参加実績を持ち、松任谷由実や中島みゆきなど日本人アーチストの曲でも演奏したことがあるとのこと。
「Blast From The East」の後半でそのカリウタさんのドラムソロがあるが、メンバー個人の目立ったソロパートはここくらいだったと思う。

期待して聴いたのはやはり「A Day In The Life」である。
この曲は本家ビートルズはもちろんライブで披露していないし、BBCでは放送禁止にもなったりしており、歌い継がれる名曲という趣きではない。
あまりカバーもされていないと思うので、ライブでこの曲を演奏したことがあるのは世界中でもベックくらいなんじゃないだろうか。
なんでこの曲を選んだんですかね?

で、ベックはこの曲をどう表現するのだろう・・と思って聴いてみたが、ボーカルの旋律をわりと丁寧にギターでたどっている。
ただしジョンの部分はボーカルのけだるい雰囲気をおおむね忠実にギターで再現していたが、ポールの部分は結構ベックの好きな音に引っ張っていたように聞こえた。
ポールのボーカル部分の独特な行き急ぐリズムにもあまり合わせておらず、そこだけ切り取って聞かされたら1回では「A Day In The Life」だと気づかないかもしれない。
大幅なアレンジもないが、単なる譜面どおりの演奏でもない、ベックならではの絶妙なカバーだと思う。

なおこのライブ盤は2014年にCD2枚組+DVD2枚組限定盤が再発され、音源も映像も追加されているようだ。
ゲストの歌うボーカル曲やクラプトンとの競演の他、映像には客席にいたロバート・プラントやジミー・ペイジの姿も収録されており、さらに充実した内容となっているらしい。

そんなわけであちこちのサイトに「やはりこのライブは映像で楽しむべきだ」という意見が書いてあったので、You Tubeでいくつか探して見てみた。
音だけ聴いていてもそれほど大きな会場ではないんだろうなと思っていたが、やはり客席とステージの距離はビルボード東京並みに近い。
サングラス姿のベックはこの時63歳だが、やはり若く見える。
何よりバックの3人との演奏を心から楽しんでいるのがわかるような表情だ。

さて男子注目のタル・ウィルケンフェルド。
このライブ以外の競演も含めて映像を見たが、ジェフ・ベックという大スターの横でベースを奏でるという、貧血起こしそうなプレッシャー・・なんか全っ然感じていないようなゆるやかな雰囲気。
多くの男性が「ベースのボディに片胸乗せて弦を弾く姿がたまらない」といったコメントを残してますけど、まあ同感ですわね。
ご指摘どおり見た目は確かに若くてセクシーな女性だが、演奏はもちろん体の中心でリズムをとる様子とか、ベックやメンバーに時々向ける視線など、存在感は完全にベテランの領域であると思う。
個人的には映像から受ける印象は大坂なおみに似てるように感じた。
ほわっとした力の抜けた表情でワールドクラスのすごいことをやってのける・・といったあたりが大坂なおみのようだ・・と思ったんですけどね。
まあこの時のタルさんの髪形も大坂なおみに似てたというのもあるが。

すでにこのライブから10年経過したことになるが、ベックの活動は今も変わらず積極的に続いている。
クラプトンはベックと競演しペイジは客席で見物という当時の状況は、3大スーパーギタリストの未来をそのまま投影していたようだ。

そんなわけでジェフ・ベックのライブ盤「Performing This Week: Live at Ronnie Scott’s Jazz」。
これはかなり良かったです。
もともとライブ音源をそれほど好まないほうで、しかもスタジオ盤ですら聴き慣れていないベックの作品でしたが、ベックの躍動感やバックバンドとの調和など、聴かせるポイントは随所にありました。
機会があれば追加音源や映像も鑑賞してみたいと思います。
その前にスタジオ盤の学習もしなければいけませんが・・・

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聴いてない 第243回 クリス・デ・バー

長くこんな珍奇BLOGをやってると、時々発覚するのが「本国(主に英米)と日本での人気に差があり過ぎる人」である。
今日採り上げるクリス・デ・バーもおそらくはそんな人ではないかと思われる。

クリス・デ・バー、聴いてない度は2。
1986年の「The Lady in Red」が唯一聴いている曲である。
この曲は全英1位・全米3位を記録し、映画「ワーキング・ガール」や日本のテレビドラマ「HOTEL」などに使われたそうだが、その話は全然知らなかった。
というかクリス・デ・バーについてはこの曲以外の情報は一切ない。
クリス・レアとの区別も全く自信がない状態である。

「The Lady in Red」は「サンスイ・ベストリクエスト」ではなく、たぶん「クロスオーバー・イレブン」で録音したと思う。
アルバムは聴いておらず、雑誌で記事を見かけたこともないため、顔もよく知らない。
自分にとっての洋楽三大講師である柏村武昭・小林克也・東郷かおる子のいずれからも、クリス・デ・バーに関する情報を一切教えてもらえなかった。
自分の場合、80年代当時にこの三講師から情報が得られていないと、結局今に至るまで情報量はほぼゼロなのである。
生涯初のクリス・デ・バー検索で得られた情報アジェンダをレジュメにしてお配りします。

・・・ところが出だしから衝撃の情報に遭遇。
調査のため真っ先にウィキペディア日本語版を見たら、「ジャンル:プログレッシブ・ロック アート・ロック ソフトロック ポップ・ロック」とあるけど、本当?
今までプログレについて様々な情報にふれてきたが、クリス・デ・バーがプログレの人だと書いている文章には出会ったことがない・・
あとプログレの他にアートやソフトやポップといったジャンル横断してるみたいですけど、そうなの?

謎は深まる一方の中、血を吐きながら続ける悲しいマラソン検索を進める。
クリス・デ・バーはアイルランドの人気歌手だが、国籍はイギリス。
税金はどっちに納めてるんですかね?
1948年アルゼンチン生まれ(ブラジル生まれと書いてあるサイトもあり)、本名はクリストファー・ジョン・デイヴィソン。
外交官の父の仕事により幼少期をマルタ・ザイール・ナイジェリアなどで過ごす。
アイルランドの首都ダブリンにあるトリニティ大学で学位を取得。
卒業後はイギリスに渡り、ミュージシャンとしての活動を開始。
「デ・バー」は英国王室の家系である母方の姓で、これを芸名に使用。

デビューは74年頃で、スーパートランプのツアーにサポート参加などもしたが、個人としてはなかなかヒット曲が出ず、長く下積み生活を送る。
82年のアルバム「The Getaway」でようやく全英30位を記録し、続く84年「Man on the Line」で全英11位を獲得した。
なお「The Getaway」は日本で初めて発売されたクリス・デ・バーのアルバムでもある。

86年シングル「The Lady in Red」が英米で大ヒット(イギリスで1位、アメリカ3位)し、アルバム「Into the Light」も全英2位を記録。
「The Lady in Red」は「ワーキング・ガール」の他、「ドッジボール」「ベイビーママ」という映画にも使われた。
このアルバムの9曲目「For Rosanna」で歌われた長女ロザンナは、後の2003年ミス・ワールドで優勝するという親孝行娘である。

88年にアルバム「Flying Colours」を発表。
しかし前作ほどの成績は残せず、結果的にここからセールスとしては下降に向かう。
89年には初めてにして今のところ唯一の日本公演が渋谷公会堂で行われた。
90年に初のライブアルバムを発表。
音源は地元ダブリンのコンサートで、日本公演の音は使われていない。

この後アルバムはベスト盤やライブやコンピレーションといった企画ものが増えていく。
全英トップ100位入りシングルは、今のところ99年の「When I Think Of You」が最後で、以降は出ていない。
94年のアルバム「This Way Up」にはアルバート・ハモンドが作曲した2曲が収録された。

2000年以降もコンスタントにアルバムをリリースしており、活動は継続中。
今年の夏もハイデルベルクやドルトムントなどドイツの各都市を巡るツアーが行われている。

例によってことごとく知らない話だった。
イギリス国籍でアイルランド中心に活動というのも初めて知りました。
なんか勝手にイタリアとかスペインとか南欧系の人なのかと思ってましたけど、違うようです。

日本公演は一度きりで、日本盤アルバムもほとんど廃盤らしいので、レコード会社も事務所も日本をマーケットとすることに関しては全然チカラが入らなかったと思われる。
なんでだろう?
「The Lady in Red」はおだやかで美しい曲だけど、当時のナウいジャパンのヤングが好んで聴いてたチャラい洋楽とは雰囲気がだいぶ異なるし、その後のクリスの曲がグランジ台頭にも合致したとも思えないので、戦略としては正解だったのかもしれないが。
アルバムはコンピ盤も含めると20枚以上あるようだが、この中のどれがプログレなんだろうか?

それでも「The Lady in Red」は名曲ではあると思う。
ゆるやかな旋律に愛情あふれる歌詞は、妻のダイアナが赤い服を着ていたのを見て作ったという話。
この曲はやはり夜が似合う。

もちろんクリス・デ・バーは全部こんな感じの曲だということではなく、ハードなロック・ナンバーからAORまでいろいろあるようだ。
アップテンポでシャウトする曲はあんまし評判よくないみたいですけど。

というわけで、クリス・デ・バー。
相変わらず失礼な問いかけで申し訳ないですが、聴いてた人っています?
アルバムを全部聴いてるよなんていう人は相当深いファンではないかと思いますが・・
日本盤は大半が廃盤らしいので、中古も含めてCDが店頭で売ってるのかもわかりませんけど、おすすめのアルバムがあれば教えていただけたらと思います。

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