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読んでみた 第54回 文藝別冊 ジェフ・ベック

三大ギタリストの中で、その人物像について一番情報量の少ないのがジェフ・ベックである。
作品はクラプトンよりは聴いてるはずだが、どんな人なのか、誰と仲良しなのか、誰と競演NGなのか、お金をいくら持っているのか、実はよく知らない。
そんなベック情弱を解消するため、今回読んでみたのが「文藝別冊 ジェフ・ベック」。
ジェフ・ベック個人について書かれた本を読むのは初めてということになる。

Jeff_beck

副題は「超人的ギタリストの伝説」、版元は河出書房新社、A5判224ページ、本体1,300円。
発売日は2017年11月28日。
版元のサイトでは「デビュー50年を過ぎて第一線で活躍する生ける伝説的ギタリストの軌跡と魅力をさぐる」とある。
この表現だとクラプトンでも当てはまりそうな気はするので、もう少しベックならではのアオリを工夫すべきでは・・と偉そうなことを感じました。

文藝別冊シリーズでベックなので、それほど尖った内容やヒネた編集ではないと予測したが、果たしてどんな本なのだろうか。

・・・・・読んでみた。

目次はこんな感じ。

■対談
佐藤晃彦×大鷹俊一 ギターを弾くために生まれてきた男
■インタビュー
是方博邦 音楽と人生を学ばせてもらった人
野村義男 革命児ではなく唯一無二
Rei また新しい彼に出会ったという嬉しさ
■ジェフ・ベック入門
突っ走ってきた孤高のギタリスト 立川芳雄
ジェフ・ベック/ヒストリー 船曳将仁
ストラトキャスターを最も弾きこなしたギタリスト 佐藤晃彦 
■ディスコグラフィ
セッション・ワークス50選
JAPAN TOUR 1973-2017 ジェフが残した日本の足跡 佐藤晃彦
 
・音色戦慄と変調の平面 江川隆男
・ジェフ・ベックは誰の影響を受けたのか 大鷹俊一
・超人ベックはロックンローラー 川﨑大助
・ジェフ・ベックとギターヒーローの文化史、あるいはギターというメディア 長澤唯史
・保守と革新のフュージョン 或いはそのどりらからも自由なギタリスト 松井巧
・ギターの肉声 後藤幸浩
・若さが生む艶やかなギターサウンド 林浩平
・まだヘヴィ・メタルが嫌いなのか 武田砂鉄

これまで読んできた文藝別冊シリーズで最も正調音楽教本だと感じる。
ギタリストなんで当然だが、ほぼ全てがベックとギターで起こした文章や対談である。
当然音楽やギターに精通する人たちによる対談や寄稿ばかりなので、章によってはほとんど理解できないのもあった。

特にギターそのもの(メーカーやモデルなど)の解析やテクニック論を基盤として語る文章は、自分のようなド素人には全然わからない。
まあこれまでの文藝別冊シリーズでもおおむねそうだったので、ある程度は想定していたが、やはりジェフ・ベックというスーパー・ギタリストが素材の場合、書き手は当然として、読者側の教養ステージもそれなりのレベルが要求されるのである。

逆に言うとベックの私生活やオフステージや幼少期を採り上げた文章は皆無。
もちろん他のミュージシャンとのいさかいやお金や女にまつわるゴシップなんてのもナシ。
この出版不況のさなか、ベックに関する音楽以外の話題はやはり企画として通らないようだ。
そもそもベック本にそんな話を期待するほうが間違っている。
「ベックは本当に夜道でペイジを殴って逃げたのか?」なんて特集があっても、たぶんAmazonレビューが大荒れするだけで売り上げには全くつながらないだろう。

タイトルの通りジェフ・ベック入門としての「突っ走ってきた孤高のギタリスト」は、ベックの経歴をハードロック期・クロスオーヴァー時代・試行錯誤の時代・再充実期に分けて解説しているので、入門テキストとして非常にわかりやすく構成されている。

ベックを表す有名な言葉として「ギタリストは二種類しかいない。ジェフ・ベックか、ジェフ・ベック以外だ」というのがあるが、これはポール・ロジャース(またはジョン・ポール・ジョーンズ)の発言とされている。
ところが書き手の立川芳雄という人は「少し調べてみたが、二人ともそんなことは言っていない」と明かしている。
どうやら日本のメディアが作った伝説みたいなもののようだ。
あっそう・・なんかネタばらしされたみたいで少しがっかりだけど、この件については他の文章中にも「真偽は不明」とか書いてあるので、やっぱ日本発の創作なんでしょうね。
まあロックに関する伝説なんてプロレスと似たようなもんで、「全身の血を入れ替えた」とか「ジャック・ダニエルで入れ歯を洗っている」とか「ステージ上で生きたコウモリを食い散らかした」とか「グラハム・ボネットのリーゼントアタマをギターでかち割った」とか、どこまでホントの話なのかわかりませんよね・・

ちなみに日本では知ってて当然の「三大ギタリスト」というくくりも、そうとらえているのは日本のマスコミとファンで、本国イギリスでは全然そういう認識はされていないらしい。
(最近は逆輸入的に本国のメディアでも時折見られるとか・・)
日本人は「三大○○」とか「○○四天王」とか「三頭体制」とか大好きなので、70年代では音楽メディアが作るこうした楽しいセッティングや伝説に、ナウいヤングは相当引きずられたと思われる。

あと同じ立川芳雄の文章の中には、「ニール・ヤングの自伝の3分の1は鉄道模型の話」というのもあって笑ってしまった。
プラモデルや模型など男の子が夢中になる文化とロックの親和性を説く文だったのだが、ニール・ヤングにそんな趣味があったんスね・・という点につい食いついてしまった。

ベック本なので同業者であるギタリストを呼んで対談、という当然な企画がいくつかあるが、登場するのはヨッチャンこと野村義男。
Amazonレビューには「野村義男のインタビューはいらない。ほかにギタリストはいるだろうに」というキツイ意見もあったが、まあ気持ちはなんとなくわかる。
それこそ高中正義とかチャーとか布袋寅泰とかローリーとか、日本を代表するようなギタリストに語らせたらどうだ、ということだろう。
で、当のヨッチャンはベックを心底崇拝してるという感じではなく、他の誰とも違う謎のギタリストととらえているようだ。
ベックの出す音がどういうテクニックによるものなのか、プロのヨッチャンでもわからないらしい。
ライブも見に行ったけど、「『そうやって弾いてるんだ!』という衝撃がなかった。『全然わからないや!』でした。」とのこと。

もう一人のギタリスト対談は、93年生まれの女性ギタリスト、rei。
この人はもちろんベック後追い世代で、作品をどんどんさかのぼって聴いて吸収しているという至極まっとうな展開。
最近ベックが自身と同世代の若いミュージシャンと組んでアルバム作ったりステージに立ったりしてることはやはり気になるようで、「ジェフ・ベックのバンドに入ることは、夢のひとつ」という勇ましい発言もあった。

ただし。
reiさん、一番好きなアルバムを問われると「フラッシュ」と答えていたのには少々驚いた。
自分もあのアルバムは嫌いではないが、決して評判がいいと言えないことはもちろん知っているし、ベック自身も気にいっておらず「レコード会社が作ったアルバム」とまで言ってることもわかっている。
古参のファンからはド素人扱いされかねない大胆な意見だが、そういう人もいるんですね。
個人的には少しうれしいです。

三大ギタリストの中で現役感がもっとも強いのはベックである、という点についてはファン全員満場一致全会一致で可決するところだろう。
この本でも複数の書き手がベックの「若さ」について高く評価している。
林浩平は北京五輪閉会式に登場したペイジを「うわあ、すっかりお婆ちゃんだ(笑)」、クラプトンの近影については「ダンディ」としながらも「老けたなあ」、ベックに対しては「七十歳前後にはまるで見えない」という万人共感の感想を記している。
ベックがギタリストとして現役なのはもちろん事実だが、体つきが締まっていて腕の筋肉が落ちていない、それを誇示するかのようにノースリーブで演奏する、髪の毛が多いわりに白髪が少ない、若いミュージシャンとも積極的に競演しているなど、現役でいることを裏打ちする「若さ」がビジュアル的にわかりやすいのもベックの特徴である。
ファンにとってはステージや映像で力強く演奏するベックの若さも大きな魅力なのだろう。
ちなみにこの本の表紙も、まさにノースリーブで力強く演奏するベックの姿です。

というわけで、「文藝別冊 ジェフ・ベック」。
大半の話を理解できないくせに言うのもナンですけど、読んでみてよかったです。
まあどこかに少しでもベックのギター話じゃない人間くさいエピソードがあればなおよかったですけど・・
しばらくベック学習から遠ざかってましたが、これを機に未聴盤である「Blow by Blow」「There & Back」を聴いてみようかと思います。

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コメント

ここ、2~3年の間、盛岡にライブを行っているので、その都度行きたいと思うのですが、どうにも金銭的事情で行けていない私です。

でも、来年来てくれるのならばどうしても行かなくては。
年齢的なこともありますしね、、。

どういった事情で盛岡でやってくれているのかは謎ですが、盛岡に引っ張ってこれるツテでも誰かあるのでしょうか。

実は、ジェフ・ベックのエスケープという曲が結構好きなのですが、これがフラッシュに収録されているはず。
これは、堂々とはこれまで言えない自分の好みでした。邪道と言われそう。

投稿: だいまつ | 2018.10.08 01:10

だいまつさん、コメントありがとうございます。

>盛岡に引っ張ってこれるツテでも誰かあるのでしょうか。

どうなんでしょうね?
昨年も盛岡で公演があったそうですが、強力なプロモーターがいるとか、本人が盛岡好きとか、なんかあるんでしょうかね?

>実は、ジェフ・ベックのエスケープという曲が結構好きなのですが、これがフラッシュに収録されているはず。

自分も「Escape」はリアルタイムで聴いていたので好きな曲ですが、アルバムごと評判が悪いので、表明はしづらいですけど・・
この本を読みながらベックのアルバムを順番に聴き直しましたが、自分はやはり「Wired」より「Flash」のほうがいいと思ってしまいます・・

投稿: SYUNJI | 2018.10.08 09:29

SYUNJIさん、こんにちは。

ジェフ・ベック・・・・好きです!!!
いえ、けしてジミーもエリックも嫌いではないのですが
ただただギタリストとして私の中では「別格」なのです。

ギターをずっと弾いている。
ギターしか興味が無い。
ギターを弾いていれば幸せ。

そんな勝手なイメージです(笑)

現代ではコミュ障害とか中二病とか・・・
本当はそんな人物ではけしてないのかもしれませんが
そんな孤高のイメージが好きです(笑)

もちろん超絶テクニックのギタープレイが好きなわけで
あのツボを刺激するような気持ち良いフレーズがたまりません。

「フラッシュ」は駄作っていうイメージですが
私はリアルタイムの作品なので思い出深い作品です。

「ブロウ・バイ・ブロウ」からダイアモンド・ダスト
「ワイアード」からラブ・イズ・グリーン
「ギター・ショップ」から「スタンド・オン・イット」
「ジェフ」から「プランB」

この辺りがマイ・フェバリット・ソングです。

投稿: bolero | 2018.10.08 12:52

SYUNJIさん、こんばんは。
>>読者側の教養ステージもそれなりのレベルが要求される

爆!
「ベックの奏法を理解せず、やれフュージョンとロックの融合だの、
やれ歌入りはつまらないといっている日本人の、なんと多いことか」
と叱られそうです。(↑森田美由紀アナの声でどうぞ)

今回の記事を拝見して、
クラプトンやヘンドリックスのように、生き様にスポットがよく
当たるミュージシャンがいます。よく考えると、「生き様」が
プロモーションに利用されているだけかもしれません。
ベックにそういうものがつきまとわないのは、ある意味でミュージシャン
(の販促)として健全なのかもしれません。

一番わかりやすいコーナーは、大鷹俊一氏の記事ではなかった
でしょうか。私はこの人の文章が好きです。
また、reiという方は今回初めて知りました。この人のいう
とおりで、最近のベックは若いミュージシャンを従えています。
現役感バリバリです。ひょっとすると、他の若手にライバル心を
燃やしているのかもしれません。手塚治虫先生のようです。
手塚先生のように、いつまでもロックを探求してほしいです。

投稿: モンスリー | 2018.10.08 22:49

boleroさん、コメントありがとうございます。

>ギターをずっと弾いている。
>ギターしか興味が無い。
>ギターを弾いていれば幸せ。

クラプトンもペイジも本当はそういう人なんでしょうけど、ファンに対して上記をわかりやすく表現してるのはやはりベックなんですね。

>現代ではコミュ障害とか中二病とか・・・

これもホントかどうかわかりませんが、ベックって人はギター以外の生活全般についての興味が極端に低く、家のどこに何があるのか全然わかってない、という話ですけど・・

>「フラッシュ」は駄作っていうイメージですが
私はリアルタイムの作品なので思い出深い作品です。

なるほど。
自分もこれまでいろいろ後追いで聴いてきましたけど、やはりリアルタイムってのは想像以上にでかいファクターですね。
よく聴くとそれほどではない曲や評判がいまいちな曲であっても、当時聴いていたので思い入れはある、というケースは自分も多いです。

投稿: SYUNJI | 2018.10.09 21:53

モンスリーさん、こんばんは。

>「ベックの奏法を理解せず、やれフュージョンとロックの融合だの、やれ歌入りはつまらないといっている日本人の、なんと多いことか」と叱られそうです。(↑森田美由紀アナの声でどうぞ)

すいません、聴いてない人生をボーッと生きてしまってます・・
あの番組でロック特集とかやらないですかね?

>ベックにそういうものがつきまとわないのは、ある意味でミュージシャン(の販促)として健全なのかもしれません。

そうかもしれないですね。
そもそもクスリとか女でダメージ受けたような話を知りませんし、基本的にギターのみで話題になる人ですよね。
マスコミでもネットでも、ベックをイジって笑いをとろうとする文章には滅多に出会わないし。

>最近のベックは若いミュージシャンを従えています。

手塚治虫のような「若い同業者へのライバル心」かどうかわかりませんけど、年齢やジャンルに関係なく腕のいいミュージシャンとは積極的に交流してるのは、好奇心が尽きない=心が若い、ということではないかと感じます。
この本にも書いてありましたが、以前は嫌いだとされていたメタルについても、最近はメタルバンド出身のミュージシャンとも競演しているそうです。

投稿: SYUNJI | 2018.10.09 22:12

こんばんは、JT(5さい)です。

あの番組面白いですね。土曜の朝、見るともなく「ぼーっと」見ていたら面白かったので「ずーっと」見ています。

木村さんと中の人、別人ですよね。よくアドリブの声に動きが一致するなぁ、と感心しています。

このムック本、私も持っています。巻末の日本公演の資料が貴重だったので購入しました。それ以外はパラパラと見たっきりです(爆)。

>reiさん、一番好きなアルバムを問われると「フラッシュ」と答えていたのには少々驚いた。

私の知り合いも「今度、「フラッシュ」買おうと思っている」と言ってました。意外と人気あるのですね。「ピープル・ゲット・レディ」以外はいまいちと思っていたので。

>まあどこかに少しでもベックのギター話じゃない人間くさいエピソードがあればなおよかったですけど・・

3回ほど日本公演見てますが、2009年のツアーでアンコール前に舞台袖に引っ込む際、ギターをローディに渡すのではなく、床に直接置いて行きました(山口百恵か)。

あと途中でギターのチューニングした際、思いっきりアンプから音を出しながら耳で行っていました(40年前の中高生か)。通常は音量をしぼってチューニングメーターで行うですけど。

あまり人がやらないことやるので、逆にかっこいいです。

>これを機に未聴盤である「Blow by Blow」「There & Back」を聴いてみようかと思います。

あら、こちらの広告では「Blow by Blow」は\1,080で買えるのですね。比較するのも何ですが、今度リリースされるビートルズの「ホワイトアルバム」のスーパーデラックスエディションは\20,000越えです....。

投稿: JT | 2018.10.20 21:38

JTさん、コメントありがとうございます。
実はあの番組もそれほど熱心に見てるわけでもありませんが・・

>巻末の日本公演の資料が貴重だったので購入しました。それ以外はパラパラと見たっきりです(爆)。

この本すでにお持ちでしたか。
確かに日本公演記録資料としても詳細で貴重ですね。

>私の知り合いも「今度、「フラッシュ」買おうと思っている」と言ってました。

やはり「今度」扱いではあるんですね(笑)
最優先で聴くアルバムではないと思いますけど、好きだという人もやはりいるんですね。

>あまり人がやらないことやるので、逆にかっこいいです。

なんか天然ギリギリな感じが、かえってかっこいいんですかね。
狙ってやってるとも思えませんが・・

>スーパーデラックスエディションは\20,000越えです....。

そうなんですよねぇ・・
当然興味は一瞬わくんですが、値段がこれでは手が出ません・・
たぶん2年くらい経ったらぷく先輩から回ってくると思います。(具体的タカリ妄想)

投稿: SYUNJI | 2018.10.21 21:07

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