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読んでみた 第53回 文藝別冊「イーグルス」

今日読んでみたのは「文藝別冊 イーグルス」。
毎度おなじみの河出書房新社の文藝別冊シリーズだが、副題がいまひとつ垢抜けない「アメリカン・ロックの神話」。
加えて表紙には「グレン・フライ追悼」と記載されている。
定価は1300円、178ページ。
業界の展示会で版元のブースに置いてあったのを見つけて15%OFFで購入した。

Eagles_2

「The Long Run」までのイーグルスについては、いちおう全アルバム鑑賞は終えている。
しかし全盤聴いたあとでもそれほど深い感動もなく、一番好きなのは「The Long Run」で変わらなかったという脱力なリスナーである。

イーグルスも活動中から解散後に至ってもメンバー間のいさかいが絶えず、ロックバンドのモメ事見本市のようなパープルっぽい人たちであったことはよく知られている。
・・・のだが、実はイーグルスに関するモメ事学習もそれほど熱心には行ってきていないのだった。
ロックバンドのモメ事マニアを名乗る者として非常にゆゆしき事態である。
なぜかイーグルスのモメ事についてはさほど学習意欲もなく、主体的にこの本を買ったわけでもない。
結局たまたま見つけて買ってみたという失礼な動機だが、果たしてどんなモメ事が書いてあるのだろうか。

・・・・・読んでみた。

目次はこんな感じである。

・対談 小林克也×萩原健太 イーグルスという変革者 
・中川五郎インタビュー ぶち壊される側になった、象徴的バンド 
・久保田麻琴インタビュー 音楽的ゴールドラッシュの果て 
・五十嵐正インタビュー イーグルス入門 
・「ならず者」にならず!? テヘッ。 綾戸智恵 
・墓探しにて 湯浅学 
・火照るカリフォルニア 佐藤良明 
・LA/アメリカを演じ続けること 長澤唯史 
・イーグルズ大阪公演 中村とうよう 
・サウンドをハードに変化させるにあたって 若月眞人 
・イーグルスに会ったあの日 松尾一正 
・ディスクガイド

まず巻頭にメンバーのステージ写真(ただしモノクロ)、続いて対談・インタビュー記事が4本あり、イーグルスに関する文章、イラスト集、曲の対訳などのページがあり、最後にディスクガイドといった標準的な構成である。
表紙は「Hotel California」、裏表紙は「ならず者」のアルバムジャケットを使用。
他の文藝別冊シリーズにあったカラー写真ページはなく、表紙と目次以外は全て単色。
しかもスミ100(黒)ではなく、セピアな古くさい色をしている。

先に書いてしまうが、グレン・フライ個人に特化して書いたり話したりしている文章・記事はない。
当然バンドの核であるグレンとドン・ヘンリーに関する記述の割合は多いが、あくまでバンドとしてのイーグルスを語る書物である。
インタビュー記事はいずれもグレン・フライの死についてふれてはいるが、どれもほぼ「ひとこと」程度にとどまっている。

グレン・フライは2016年1月16日に亡くなっている。
この本は同年9月30日出版だが、訃報を受けて急遽企画されたのか、企画進行中に訃報が飛び込んだのかはわからない。
追悼版と付けたのであれば、もう少しグレンの最期の詳細やメンバーのコメントなど、またグレン個人のヒストリーなんかもあってもよかったのではないかと感じた。

インタビューでも文章でも、イーグルスの活動を時代背景とともに分析・考察するものが多い。
陳腐な言い回しだが、70年代アメリカ文化を代表するスーパーグループとしてのイーグルスを語る場合、当時の世相や若者文化などを前提に考えるのは当然なのだろう。
このあたりは極東の中学生だった自分には理解も共感もしづらい部分なので、あまり頭には入ってこない感じがした。

またロサンゼルス・カリフォルニア・西海岸といった地理的要素からバンドを語る文章もいくつかある。
デビュー当時から「ロサンゼルスから来ましたイーグルスでーす」という自己紹介をしていたそうだが、実は結成時の4人にロサンゼルス出身者はいない、ということがあちこちに書いてあった。
真のロサンゼルス出身者は、解散直前になってようやく登場したティモシー・B・シュミットだけである。

小林克也と萩原健太の対談はやはり面白く、興味深いエピソードがいろいろ語られている。
小林克也はグレン・フライについて「最初に会った時、こいつ絶対喧嘩っ早いと思った」と明かしている。
萩原健太がその理由を問うと、「頭蓋骨を見ればわかる」「殴り合いの喧嘩をいっぱいしてる」とのこと。
・・・当たってるのかどうか不明だが、克也氏は自信満々である。

他にも「ホテル・カリフォルニア」の有名な一節である「1969年以降スピリットは切らしております」は、70年代ディスコ・ミュージックが化け物になったことに対する皮肉なんだとか、ドン・フェルダーとジョー・ウォルシュがギターをかき鳴らしてドヤ顔で決めたらドン・ヘンリーがダメ出ししたとか、初めて知る話がたくさん出てくる。

イーグルスを語る文献の多くに登場するスタッフの一人がビル・シムジクである。
この本でもビル・シムジクについて複数の人がインタビューで語る部分がいくつかあり、また若月眞人はビルをメインテーマに据えて文章を書いている。
これまでイーグルスの歴史学習はおろか鑑賞もやっと終えた程度だったので、正直ビル・シムジクの名前も知らなかった。
あらためて読んでみると、バンドにとって非常に重要な人物だったことがわかる。

デビューから「On The Border」までは、ツェッペリンストーンズを手がけたイギリス人のグリン・ジョンズがプロデューサーを担当。
ところが音楽の方向性についてメンバーと意見が対立し、グリンはクビとなる。

後任として登場したのが、ビル・シムジク。
若い頃から音感が優れていたビルは、アメリカ海軍で潜水艦をソナーで探知するオペレーター訓練を積み、除隊後は音楽エンジニアに転身。
B.B.キングのアルバム制作に関わり、J・ガイルズ・バンドのエンジニアを務め、ジョー・ウォルシュのソロアルバムをプロデュースした経歴を持つ。

ビルはイーグルスのサウンド面にロックやブルース色を反映させることを提案し、メンバーと意見が一致。
以降「呪われた夜」「Hotel California」「The Long Run」までプロデューサーを担当、というのがビルとバンドのヒストリーだ。

ものすごく簡単に言うと、グリン・ジョンズはカントリーフォークやコーラス、ビル・シムジクはロックやブルースでバンドを売ろうとした、ということらしい。
ロックやブルースもやりたかったドン・ヘンリーとグレン・フライは、ビルと意見が合ったのでグリンを解雇。
この方向性に反対だったバーニー・レドンは脱退・・という展開。

これはこの本ではなくネットで見つけたエピソードだが、ドン・ヘンリーはボンゾのようなドラム音が出せないかグリンに相談したこともあったそうだ。
ドンはツェッペリンやストーンズを手がけた経験を持つグリンの「ロック」な助言を期待していたのだろう。
ところがグリンはイーグルスを「バラードに強いカントリーフォークなバンド」と見ており、実際それで売ってきたんだからわざわざロックなんかやらんでもええやんけと思っていたらしい。
もしドンとグレンがロックをあきらめて引き続きグリンさんのお世話になっていたら、名盤「Hotel California」も生まれなかったであろう・・という話。

グリンは「On The Border」の録音途中でクビになったので、「You Never Cry Like A Lover」「Best Of My Love」以外に録ってあった曲は捨てられてしまい、あらためてアルバム用に足りない曲を録音することになった。
ここでビル・シムジクはドンとグレンが求めていたのがロック色の濃い楽曲だったことを理解し、希望に沿うようなサウンドを作るようにした。
メンバーはビルのことを親しみを込めて「先生」と呼ぶこともあり、ビルの作るサウンドに驚いたり感激したりすることも多かったそうだ。
モメ事の多いバンドだったけど、これはなんとなくイイ話ですね。

実は個人的に一番面白かったのは、松尾一正という人の文章。
若い頃に友人とあてもないアメリカ放浪の旅に出て、思いつきでエリック・クラプトンに会いに行こうとロサンゼルスのスタジオをアポなしで訪問。
ところがクラプトンはスタジオを引き上げた後ですでにおらず、中から出てきたのがイーグルスだった、という映画みたいな話から始まる。
他のインタビューや評論などとは明らかに調子の異なる読み物なのだが、個々のメンバーの人柄やバンドの内情がなんとなく伝わる、非常に臨場感にあふれた内容となっている。

さて。
この本はこれまで読んできた他の文藝別冊シリーズよりもページ数がやや少ないのだが、通して読むとやはりなんとなく急いだ編集を思わせるものがある。

「Songbook」というページは「Hotel California」「Take It Easy」「Desperado」「Take It To The Limit」「Life In The Fast Lane」「I Can't Tell You Why」の歌詞と対訳が掲載されている。
が、解説や考察は一切ない。
せっかく出版するのであれば、CDの歌詞カード以上の情報が少しでもあってほしかったと思う。

またイーグルスをテーマ?にしたイラストレーターの八木康夫氏の描くイラストがいくつか載っているが、残念なことに全てモノクロで、絵そのものも個人的には良さがよくわからない。
このあたりいろいろ編集側の事情があるとは思うが、申し訳ないけどこういうページを作るくらいなら、やはりもっとバンド内紛やグレン・フライ死亡に関する情報を掲載してほしいと感じた。

ということで、「文藝別冊 イーグルス」。
興味深い記事も多かったですが、それほど印象に残らない部分もかなりありました。
イーグルスというバンドに対する自分の興味というか熱量が、そのままこの本でも同じように再現された感じです。
特に「グレン・フライ追悼」というアオリに対しては少々物足りない内容だった、というのが正直な感想。
もし今後増補版が出版されるようなら、この点に期待したいと思います。

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コメント

SYUNJIさん、こんにちは。
このシリーズは難しいので、イーグルス特集も敬遠していました。
しかし、目次を拝見しますと、

・対談 小林克也×萩原健太
・中川五郎インタビュー 
・五十嵐正インタビュー 

ここはとてもおもしろそうです。全員、アメリカンロックの理解者
ですから。

>>通して読むとやはりなんとなく急いだ編集を思わせるものがある

フライがなくなったとき、特に追悼本が出たりしませんでした。
ですので、この本はその需要を当て込んだ可能性はありますね。
そのためか、今までの文藝シリーズより、SYUNJIさんがおっしゃる
ように内容が「薄く」なった結果、目次から判断するとかえって
読みやすい記事も多くなったような気がします。

私は、「ホテ・カル」40周年デラックスエディションに
合わせて発売された、「ようこそホテル・カリフォルニアへ」
を読みました。
https://www.shinko-music.co.jp/item/pid1645421/

こちらは、過去のミュージック・ライフ誌の記事の再録が
多いのですが、私は読んだことがない記事ばかりでした。
ソロ作品の解説が充実しているのがありがたかったです。

投稿: モンスリー | 2018.03.11 11:51

モンスリーさん、コメントありがとうございます。

>ここはとてもおもしろそうです。全員、アメリカンロックの理解者ですから。

そうですね、モンスリーさんのような正調リスナーであれば、どれも読み応えのあるインタビュー記事だと思います。
自分は小林克也×萩原健太のくだけた対談にだけ反応しましたが・・

>フライがなくなったとき、特に追悼本が出たりしませんでした。

そうなんですよねぇ、イーグルスは誰もが知ってるはずですけど、グレン・フライ追悼だけで本を一冊作るのは難しいのかもしれないです。

>目次から判断するとかえって読みやすい記事も多くなったような気がします。

確かに難解な文章や独善的な音楽評論は、この本にはほとんどないです。
先日読んだクラプトン本もそうでしたけど、ツッコミどころはありません。

>「ようこそホテル・カリフォルニアへ」を読みました。

この本のほうがバンドやメンバー寄りな内容のようですね。
当時のインタビュー記事など、貴重な記録と言えそうですね。

投稿: SYUNJI | 2018.03.11 20:36

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