« やってない 第38回 徹夜 | トップページ | 聴いてみた 第134回 ポール・マッカートニー »

観てみた ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK

相変わらず映画を全然観ないあたしですが、そのモノグサ野郎(←表現ダサすぎ)を動かす力を持った作品が日本にも上陸しました。
「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years」。
ビートルズのライブを中心に構成されたドキュメンタリー映画です。

Eight_days_a_week

監督は「アポロ13」「ダ・ヴィンチ・コード」「ビューティフル・マインド」などの名作で知られるロン・ハワード。
・・・というのは受け売りで、実はどの作品も全然観ていません。
ウィキペディアで監督作品を調べたら、かろうじて86年の「ガン・ホー」を観たことがありました。

さて自分が観たのはTOHOシネマズ六本木。
ここで映画を観るのは初めてです。
新宿で観るつもりでしたが、ネットでチケット販売状況を見たらすでに完売。
やむを得ずなじみのない街である六本木に方向転換。
結果的にはこれが正解で、平日夕方の上映でしたが、客の入りは半分程度。
自分の左右と後ろには誰も来ませんでした。

これより先、映画の内容にふれる記述となりますので、鑑賞前の方はご注意ください。

・・・・・観てみた。

Beatles_2

基本的な構成はコンサート映像と、当時の記者会見の模様、メンバーおよび関係者の回想。
さらにライブ周辺の様々な混乱と騒動を採り上げた記録映像の切り取り、映画撮影の話やスタジオ内の画像と音声などを織り交ぜて紹介。
ドキュメンタリーの手法としてはわりと普通で、話はおおむね時系列に沿って進行します。

とにかくビートルズがいかにすごかったか、そして彼らに夢中になった世界中の若者がいかに多かったか、行く先々で起こる騒動と鎮圧の状況がいかにすごかったか、の連続です。
ハンブルグでの修業時代、リバプールの熱狂、ブライアン・エプスタインによる統率とプロモーション、チャート制覇、アメリカ進出、キリスト発言騒動、映画制作と興行失敗、スタジオへの回帰・・
短いカットですが、プレスリーやモハメド・アリとの交流シーンもありました。
映像も50年前のものなので凝ったカメラワークなども少なく、企画としては極めてシンプルな造りです。

教科書どおりの進行ですが、この映画の基本はライブ演奏です。
リンゴも言ってましたが、やはりビートルズは世界で一番ライブがうまいバンドだったことを再認識させられる映像が続きます。
サービス精神も旺盛で、あるライブではステージの後ろ側の客にもよく見えるように?、途中でドラムやアンプの位置を180度回転させて再び演奏、なんてことをやっていました。

ただし。
確かに当時の騒動のすごさは伝わりますが、初めて知るようなエピソードはそれほど多くありませんでした。
ややエラそうな表現になりますが、過去に見た映像や本で得た情報を再確認していくといった感じです。
だからといって中身が退屈であるとか物足りないといったことではもちろんなく、なんつうか予定通り安心して見ていられる内容です。
昔観ていた懐かしいテレビ番組の再放送を久しぶりに楽しむような感覚。

当時の映像と音声は、いずれも処理によりクリアな品質になっているようです。
もっとも元の映像や音声と比べる手段がないので、自分のような素人には「ああ美しくなったなぁ」と実感するようなことはなく、ふつうの映画を観ているのと同じ印象でしかありません。
このあたりは今後DVDやブルーレイになった時に確認できるものなのでしょう。

当然存命であるポールとリンゴの回想が多いですが、ジョンとジョージも当時の混乱ぶりを語るシーンがあります。
ジョンの回想は解散前後の頃と思われますが、ジョージはもっと後の時代のインタビューが使われていました。
回想する人たちの中には当時のツアー同行記者やローディ担当者のほか、ウーピー・ゴールドバーグやシガニー・ウィーバーなどの女優、また作家・映画監督もいました。
各々がビートルズの公演について思い出を語るのですが、ウーピー・ゴールドバーグは今なおテンションが高く、またシガニー・ウィーバーは今も感動のあまり泣きそうな表情で、二人とも純粋に夢見る少女ファンのままです。
ミュージシャンではエルビス・コステロが登場し、「ラバー・ソウル」での音楽性の変わりように最初聴いた時は受け入れがたかったことを正直に述べていました。

ビートルズ来日に関する映像もありました。
日本公演のステージ映像の他、飛行機から降りてくるシーンや、武道館使用に反対する圧力団体、会場やホテルが厳戒態勢となったところなど、よく知られた来日時の映像が紹介されました。
ここで日本人回想者として写真家の浅井慎平氏が登場します。
ただ、浅井氏の感想はあまり頭に入ってきませんでした。
浅井氏自身も興奮したり熱狂したりはあったとは思うのですが、なぜ日本の若者までもがこれほど熱狂するのかがよくわからなかったようで、今も混乱しているように聞こえました。

よく知られているとおり、世界中どこでもあまりにも熱狂する観客のため、ステージ上ではお互いの楽器の音や歌も聞こえない状況に、メンバーは次第に嫌気がさしてきます。
またジョンのキリスト発言によりアメリカでは排斥運動が起こり、ビートルズのレコードを割ったり燃やしたりするイベントまで行われる事態に発展。
身の危険を感じたメンバーはますますライブへの意欲を失い、スタジオでの創作活動や映画撮影にシフトしていきます。

そして4人による最後のライブ演奏となった伝説のルーフトップ・セッション。
この映画では「Don't Let Me Down」「I've Got a Feeling」が採り上げられていました。
あらためて見るとジョンもポールも解散寸前のバンドとは思えないほど楽しそうな表情です。
残念ながら「Get Back」はなく、ジョンの「これでオーディションには受かっていればいいけど」という名セリフも出てきませんでした。

今ひとつ盛り上がりが足りないような感じでしたが、エンドロールが流れ始めました。
そしてファンクラブ向けに作られたクリスマス用レコードの音声が流れます。
ジョン、ポール、リンゴ、ジョージの順で、ファンに向けてクリスマスメッセージ。
エンドロールが終わりに近づく頃、出口に近い席から数人が早くも立ち上がり、階段を降りていきました。
自分は出口から一番遠い列に座っていたので、場内が明るくなるまで待つつもりでした。

ところが。
エンドロールが流れ切っても客席が明るくなりません。
なんか引っ張るなぁ・・しばらく余韻に浸れってことかな?などと思っていたら、スクリーンにまた映像が映り始めました。
実はここから第2部のような形で、1965年のニューヨーク・シェイ・スタジアムでのライブが始まったのでした。

意外な展開にちょっとびっくり。
いや、意外と思ったのは自分だけで、大半の人は落ち着いていたと思いますが。
さっき出ていった人たち、まだ映画は終わってないことに気づいていないんじゃないだろうか?
自分はたまたま奥にいたので立ち上がりませんでしたが、もし出口に一番近い席だったら、周りの人の雰囲気に押されて真っ先に出てしまった可能性が高いと思います。
「続いてシェイ・スタジアムのライブ映像をお楽しみください」くらいの案内があってもよかったのでは・・・
第1部終了で出ていってしまった人たちは、第2部開始後結構経ってから戻ってきたようでした。

第2部は純粋に当時のライブを収録したもので、スタジオ風景や関係者回想は一切なし。
狂乱するファンの大歓声の中、4人は誠実に演奏していきます。
これもあちこちで指摘されていることですが、明らかに日本武道館よりも4人のテンションは高いです。
ただし日本公演とアメリカ公演でどちらがメンバーのやる気が高かったのかは、いろいろな意見があるようです。
メンバーは狂乱するアメリカのファンに嫌気がさした、という話も、日本の観客が大人しすぎて受け入れてもらえなかったのかと不安になった、という話も聞いたことがありますが、どちらが真実なのかはメンバー本人たちにしかわからないんでしょうね。

MCではジョンもポールも「みんな聞こえる?」とたずねますが、観衆はそれには反応せず、みんな好き勝手に叫んでいます。
すでに第1部でも何度も出てくるシーンですが、気を失って運ばれる若い女性ファンが続出。
客席からグラウンドに降りて走り回るファンと必死に制止する警備員を見たジョンがMCの途中で「おおお~あれ見ろよ大丈夫か?」みたいなことを言いますが、やはり観衆にはあまり届いていないようでした。

ステージの下で、冷静な表情で場内やメンバーを見つめるブライアン・エプスタインが映ります。
大きな夢だったアメリカでの公演の成功に満足げな様子。
エプスタインこの時31歳。
そんな若さでこんなでかい仕事を成功させることができたんですね。

実はその昔テレビでこの伝説のシェイ・スタジアムの映像を見たことがあります。
1978年日本テレビで放送のビートルズの特番で、解説は大竹しのぶ。
調べたら「木曜スペシャル ビートルズ日本公演!今世紀最初で最後たった1度の再放送」という番組でした。
番組のメインはもちろん日本公演ですが、その前にシェイ・スタジアムの映像も一部紹介されたのです。

ただ、どうも細かい部分で自分の記憶と少し違う部分があるような気がしました。
ラストは「I'm Down」でしたが、ジョンがキーボードを離れる最後のシーンは、自分の記憶よりも淡泊で「あれ?」と思いました。
ジョンの演奏のラストはもっとハチャメチャだったように記憶しています。
ビートルズは66年にも同じくシェイ・スタジアムでライブを行っているので、自分が昔見たのはこの映画とは別の映像だったかもしれませんし、音声だけ別の日のものだった可能性もあります。
また当時はシェイ・スタジアムではなく「シェア・スタジアム」と紹介されていました。
自分よりも上の世代の方々なら「シェア・スタジアム」のほうがしっくりくることでしょう。

第2部は30分ほどだったと思いますが、無事終了。
曲目は以下のとおり。

Twist and Shout
I Feel Fine
Dizzy Miss Lizzy
Ticket to Ride
Act Naturally
Can't Buy Me Love
Baby's In Black
A Hard Day's Night
Help!
I'm Down

第1部で終了だと思っていたので、なんか得した気分。(貧乏人)
今度こそ本当に終了で客席が明るくなりました。

ライブ映像ではあるものの、どこまでが本当の当時の映像と音声のままなのかは自分にはあまりよくわかりません。
それでもビートルズが世界一の水準にあったライブバンドということはよくわかります。
ビートルズ出現以降ポピュラー・ミュージックは50年間で様々な拡張を遂げ、ビートルズと同じくらいに世界中の若者を熱狂させるミュージシャンは出てきていないと思います。
何を今さらな感想ですけど、楽曲の美しさ・楽しさももちろんありますが、やはり4人の歌と演奏の調和がとにかく取れていると感じました。

自分の前の列には、当時まさに熱狂していたとおぼしき4人組の元若者男女が座っていました。
すでに足元もおぼつかない方もおられましたが、みなスクリーンの演奏や楽曲に合わせて体を揺らし、ジョンやポールのジョークに笑ったり、画面を指さして何か小声で話したりしています。
この方々にはおそらくリアルタイムでのビートルズ熱狂体験があり、すぐ後ろで見ている自分にはそれがありません。
やはり原体験のある人たちとは、この映画の楽しさの本質が違うのです。
そんなの当たり前のことで、言ってどうにかなるものでもないのですが、この「うらやましい」「引け目を感じる」感覚は、映画を観ている間中ずうっと消えませんでした。
まあ逆さに言うと、自分も生きてる間にこうした音楽や映像に出会えてよかったんだとも思います。

というわけで、「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK」。
鑑賞前からある程度予想はしてましたが、やはり良かったです。
もちろんDVDで観てもきっと良かったはずでしょうけど、大きなスクリーンで先輩方とともに鑑賞させていただいた、という記憶は一生残るものです。
これからもこうしてもっと貴重な記録が発掘・公開されればいいなと思いました。

| |

« やってない 第38回 徹夜 | トップページ | 聴いてみた 第134回 ポール・マッカートニー »

コメント

こんばんは、JTです。

私もこの映画見ました。

おまけの「シェイ・スタジアム」のライブ映像の件ですが、本編の最初に「本編終了後にシェイ・スタジアムのライブ映像があります。」との字幕(英語+日本語)がありました。私は事前におまけがあることを知っていましたが、確かに分かりにくいですね。

上映映画の記述を「ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK ‐ The Touring Years」+「シェイ・スタジアム・ライブ」などとすればよかったかもしれません。

>曲目は以下のとおり。

実際のライブではあと2曲あったのですが、今回の映像でもなかったです。(She's a woman,Everybody's trying to be my baby)
元々、テレビ放映用に作られたフィルムなので、その時カットされた曲の映像は現存しないのかもしれません。

日本公演の映像はなぜか、マイクがクルクル回る6/30版が使用されていました。演奏の出来もよい7/1版の映像もアップルは持っているのに。出し惜しみ?将来日本公演の7/1版をリリースするつもりなのでしょうか。

映画そのものは、ライブに対する4人の意識の変遷がテーマなのかな、と思いました。

>ファンクラブ向けに作られたクリスマス用レコードの音声が流れます。

SYUNJIさんもマニアックな事、ご存じですね。エンドロールの直前に流れたジョン・レノンの「最高のエンディングだね」の音声(出典はなんだろう)に、はっ!としました。

投稿: JT | 2016.10.11 00:03

SYUNJIさん、こんばんは。
今年のビートルズ祭りは、ご紹介の映画とライブ盤ですね。

>>過去に見た映像や本で得た情報を再確認

これこそビートルズのすごさだと思います。熱心なファンでなくても、
かなりのエピソードを知ってしまっているのです。それこそ、
本人達以上に。

さて私はこの映画を見ませんでしたが、「今回は祭りに乗ろう!」
ということで、ライブ盤を購入しました。
http://www.hmv.co.jp/artist_Beatles_000000000000487/item_Live-At-The-Hollywood-Bowl_7204574

ビートルズのライブについての定説は、

1.観客は騒ぐばかりで演奏を聴いていない。
2.音響設備が悪く、自分達の演奏が聞こえない(まともに演奏できない)

ということで、ライブへの関心をなくしたということ
なっています。
このライブ盤も、観客の歓声、というか、絶叫や悲鳴
でうめつくされています。レココレ誌の解説でも、音響設備は
悪かったようです。
しかし、「これぞロックンロールバンド!」という熱い演奏と
歌声。熱心なファンでない私も興奮しました。
思うに、本人達もノリにのった演奏をしていたのでは
ないでしょうか。
機会がありましたら、是非SYUNJIさんも聞いてみてください。

投稿: モンスリー | 2016.10.11 20:53

JTさん、こんばんは。
JTさんももうご覧になられましたか。

>本編の最初に「本編終了後にシェイ・スタジアムのライブ映像があります。」との字幕(英語+日本語)がありました。

えっ、そうでした?
気がつきませんでした・・
みんな落ち着いていたのはその字幕をちゃんと見ていたからでしょうね・・

>日本公演の映像はなぜか、マイクがクルクル回る6/30版が使用されていました。演奏の出来もよい7/1版の映像もアップルは持っているのに。

調べたら確かにそのようですね。
文中に書いた78年の再放送でも6/30版が使われたようです。(66年の初回放送は7/1版なので厳密には再放送ではないそうですが)
マイクが安定せずポールがしょっちゅう向きを変えていたのは覚えてましたので、同じ日の映像ですね。
撮影は6/30だけの予定が、マイクも含め出来が悪かったのでエプスタインが7/1の撮影も許可したそうですが、これがご指摘のアップルが版権を持っている出来のいいほうの映像ということですね。やはりそっちが見たいなぁ・・

>SYUNJIさんもマニアックな事、ご存じですね。

いや、見ていた時には確証はなく、「たぶんそうなんじゃないかな」程度の認識しかなかったので、後でネットで調べたらやはりファンクラブ向けクリスマスレコードでした。
日本でいうところのソノシートですけど、ソノシートという名称自体が朝日ソノラマの商標だということも初めて知りました・・

>映画そのものは、ライブに対する4人の意識の変遷がテーマなのかな、と思いました。

そうですね。
真相は4人に聞かないとわかりませんけど、観客をコントロールすることができなくなった、という点が、ライブの意欲を失った理由ではないかと思いました。

投稿: SYUNJI | 2016.10.11 22:15

モンスリーさん、こんばんは。
ライブ盤を買われたんですね。
映画もあと10日くらいは上映してるみたいですから、ご覧になってはいかがでしょうか。

>熱心なファンでなくても、かなりのエピソードを知ってしまっているのです。

全くその通りですね。
最近は特にネットで細かいことまで調べられるので、知識を得るのも簡単です。(真偽は別として・・)
この映画を観てても自分みたいな低レベルな極東のリスナーでも知ってる話というのはけっこうありました。

>1.観客は騒ぐばかりで演奏を聴いていない。
>2.音響設備が悪く、自分達の演奏が聞こえない(まともに演奏できない)

シェイ・スタジアムのライブも全部こんな感じですね。
映画の中でリンゴも言ってましたが、互いの楽器の音も声も全然聞こえないので、リンゴは3人の足や尻の動きを見てリズムを合わせていたそうです。

>しかし、「これぞロックンロールバンド!」という熱い演奏と歌声。

確かにその通りです。
つくづく思いますが、ビートルズの4人は音楽(ロックンロール)に対して極めてマジメだったんですね。
なんか変な評価ですが・・
毎晩世界中どこで演奏しても誰も聞いていないような狂乱の中、観客がどれだけ勝手に騒ごうとも、自分たちの好きな歌と演奏をやりとげるだけの誠実さが、他のどのバンドよりも強靱だったと思います。

投稿: SYUNJI | 2016.10.11 22:45

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 観てみた ザ・ビートルズ~EIGHT DAYS A WEEK:

« やってない 第38回 徹夜 | トップページ | 聴いてみた 第134回 ポール・マッカートニー »