聴いてみた 第132回 ヴァン・ヘイレン その2
今日聴いてみたのはヴァン・ヘイレンの「Tokyo Dome Live in Concert」。
2013年の東京ドーム公演のライブ盤である。
ライブ盤マイスターのモンスリー師匠からの指導を受け、聴くことにしました。
ヴァン・ヘイレンを記事にするのは久しぶりである。
最も好きなバンド、と言ってもいいと思っているし、聞かれればそう答えることにしている。
ただし全ての作品を制覇しているわけでもなく、何より自分はファンの中では少数派のサミー派なのである。
なおおそらくゲイリー派というのはほとんどいないような気がする。
そもそもゲイリーがいたことなんか忘れていた人も多いんじゃないだろうか。
世の中にはいろいろなバンドが存在するが、ヴァン・ヘイレンはやはりちょっと変わっている。
超絶ギタリストとそうでもないドラマーとデタラメボーカルというアバウトな組み合わせ、家族経営、カバー好き、ボーカルごとの音楽性の激しすぎる転換。
部分的には似たようなバンドも多いが、こういう要素を全部持ち合わせて30年以上やってるケースは珍しいようにも思う。
今回のライブ盤はもちろんデイヴ・リー・ロスがボーカルである。
デイヴが歌う初めての公式ライブ盤となるが、それもなんだか意外な話だ。
実はヴァン・ヘイレンのライブのブート盤CDを1枚持っている。
サミー加入直後の86年頃のものだが、ジャケットはデイヴという適当な造り。(でも内容はすんごくいい)
さて今回の「Tokyo Dome Live in Concert」、音源は2013年6月21日の東京ドーム公演だが、実はこの公演は前年の11月に予定されていた。
しかしエドワードが大腸憩室炎という病気になり、半年ほど後に延期になったそうだ。
昔からエドはあちこち体が悪くなることが多く、その都度ファンは再起不能や引退を心配したが、今回もなんとか復活してヘラヘラしながらすごいギターを鳴らすという、毎度ありがたい展開。
果たしてどんな音が聴けるのだろうか。
・・・・・聴いてみた。
曲目は以下のとおり。
[Disc one]
1. Unchained
2. Runnin' With The Devil
3. She's The Woman
4. I'm The One
5. Tattoo
6. Everybody Wants Some!!
7. Somebody Get Me A Doctor
8. China Town
9. Hear About It Later
10. (Oh) Pretty Woman
11. Me & You (Drum Solo)
12. You Really Got Me
[Disc two]
13. Dance The Night Away
14. I'll Wait
15. And The Cradle Will Rock…
16. Hot For Teacher
17. Women In Love…
18. Romeo Delight
19. Mean Street
20. Beautiful Girls
21. Ice Cream Man
22. Panama
23. Eruption (Complete Guitar Solo)
24. Ain't Talkin' `Bout Love
25. Jump
思ったより知らない曲が多い。
またわかってはいたが、やはりサミー時代の曲はない。
まあサミーが歌った曲をデイヴが歌えるはずもないし、歌ったらどうせ痛いことになるだけで、会場のファンも喜ばないだろうし、それは致し方ない。
デイヴの声については、加齢による衰えをほとんど感じない。
もともと歌がうまいという評価をあまりされないボーカリストだし、ノドに気を使ったり節制したりというイメージも全然ないんだけど、アレンジやコーラスにも頼らずこれだけの声がまだ出せるというのはやはり驚きだ。
一時期バンドを離れて芸能活動もやめて救急救命士になるといった報道もあったりしたが、いやーやめないでよかったよ、デイヴ。
ロック・ボーカリストがライブにおいて加齢や体調悪化でやむを得ずキーを下げて歌うのは珍しくもない話だが、このライブ盤を聴いてみた限り、デイヴがキーを下げて歌う場面はほとんどない。
つーかこの人の場合キーなんてあってないようなもんかもしれないけど、ラストの「Jump」などはむしろキーを勝手に上げて歌っていた。
2時間歌い続けてラストでこういうことができるというのもすごい才能だ。
で、時々デイヴは日本語で客席に向かって叫ぶのだが、「ニホンゴガヘタクソデスミマセン!」とか「ナニヲカンゲーテイタンダ?」とか「イシノウエニモサンネン!」とか、果ては「ヤキイモ!カキゴオリ!アイスクリーム!」など、どれもデタラメで適当で脱力なところがいかにもデイヴらしい。
最近まで数年間日本に住んでいたらしいけど、日本語は基本しゃべれないみたいですね。
エドのギターは全盛期に比べるとやはり多少はおとなしくなっている気はする。
それでも元々の技量レベルが超人的なので、不安になるような音は全然ないのがやはりすごいところである。
自分は楽器全般についてもド素人なので、具体的にエドのプレイの何がどうすごいのかは説明できないのだが、サウンドに限ってはやはり他のどのギタリストとも違うのだ。
「And The Cradle Will Rock...」の途中でパープルの「湖上の煙」のイントロを弾く場面があって思わず笑ってしまった。
本人に聞いてみたことはないが、エドはたぶんギタリストとしてのリッチーもペイジも好きなんだと思う。
アレックスのドラムについては、特に感想はないです。
・・・ってひどい物言いなんだけど、この人のドラミングが未だにすごいのか大したことないのかもよくわからんのですわ。
ネットでは昔から厳しい評価が多いことは知ってるけどね。
アレックスはこの時まさに還暦を迎え、そろそろ節々が痛くてリズム刻むのもしんどくなって来る頃なのではないかと思うが、今んとこネットでも「またヘタになった」といったキツいダメ出しはまだ見当たらない。
あくまで個人的な感覚でしかないが、ロックバンドのドラムにしてはどこか平坦というか、スタジオでもライブでもなんとなくぺたぺたした音がしてるような気は少しします。
さて、問題?のウルフギャング・ヴァン・ヘイレン。
昔のSF映画の悪役軍団みたいな名前だが、モーツァルトにちなんで命名されたというご存じエドワードの息子さん。
彼のプレイを聴くのは初めてである。
マイケル・アンソニーと比べてどうなのか、というとこれもよくわからない。
ただ身内とはいえこんだけの名門バンドに加入して、東京ドームで大観衆を前に父親と伯父とともに演奏するというのは、ものすごく勇気のいる話だ。
少なくとも素人の自分にも「げぇーヘッタクソ」と思わせるようなレベルでは全くなく、由緒あるバンドの名を汚すことなく誠実にプレイしている。
またこれはモンスリー師匠も指摘していたが、ウルフィーのコーラスは思ったよりもしっかりしており、これまたバンドの魅力の部分を損なうことなく歌っている。
マイケル・アンソニーが脱退(実質クビ)してウルフィーが加入した時、拍手喝采で喜んだ日本のファンてたぶんいないんじゃないかと思う。
よそのバンドで修行してきた熟練ベーシストならともかく、よりによってマイキーをクビにしてまで息子(しかも当時15歳)を加入させたエドワード。
インタビューでの発言もどこか芸能界をナメてるような感じがしたウルフィー。
こうした親子の行動言動に、どこか野村克也や落合福嗣っぽいニオイを感じたファンも少なくなかっただろう。(自分だけ?)
だが。
親父の英才教育の成果なのか本人の努力の賜物なのかわからないが、ウルフィーは今や立派にベースパートをこなしている。
会場にいた多くのファンがウルフィー加入を心から喜んだことだろう。
バンドではずっとベース担当だが、実はドラム・ギター・キーボードもできるそうです。
写真見るとこの親子は顔はあんまし似てませんね。
親父は昔からヨッチャン顔だけど、ウルフィーはタカやザキヤマをイケメンにしたような感じ。
総合すると、ヴァン・ヘイレンの優れたライブ記録であり、隅々まで聴き所の多い名盤であると思う。
昔の音源発掘ではなく、つい最近の、しかも東京公演であるという点が非常に重要。
とにかくデイヴのボーカルが全然ヘタリがなく、ウルフィーがきちんと役割をこなしていることに驚かされた。
その辺の年寄りロックバンドのライブ盤にありがちな痛い音などがほとんどなく、臨場感あふれる安心の一枚である。(ダサい評価)
しかし。
冒頭に述べたとおり、サミー派の自分としては、デイヴの歌うヴァン・ヘイレンの音楽にふれる度に、サミー時代を合わせて思い出さずにはいられない。
デイヴを否定しているわけではもちろんないのだが、サミー・ヘイガーという歌えて弾けて曲まで書けるボーカルがバンドにもたらした影響は計り知れないものがあると考える。
セールス面は当然だが、サミーの最大の功績は緊張感だと思う。
サミーの音楽家としての才能に一番緊張したのはエドワードであり、サミーに対して「気を抜くとヤツに全部持って行かれる」と11年間常に思っていたのではないだろうか。
この緊張感こそが、バンドの作品やパフォーマンスにはプラスに作用したように思うのだ。
その後のサミーを全然追っていなかったのだが、数年前からジョー・サトリアーニ、マイケル・アンソニー、チャド・スミスとともに「チキンフット」というバンドを組んでいるようだ。
またそれとは別のバンド「ザ・サークル」でも活動しており、こちらはサミーとマイキーとジェイソン・ボーナム、ヴィック・ジョンソンというメンバー。
昨年までは取材を受ける度にエドワードを非難する発言が続いていたようだが、今年に入ってサミー・ヘイガーがツィッターで「誕生日おめでとうエディ」とツィートし、エドワードがそれに「ありがとう。お前も元気だといいな」と返礼したとのこと。
話はそれだけのことだが、それがニュースになるくらい仲悪い人たちだったのだね。
お互い元気なうちに、どこかで一度でもデイヴもマイキーも含めてヴァン・ヘイレン・ファミリーとして同じステージに立ってくれたらいいなぁと思う。
演奏中に全員で殴り合いに発展する予感もしますけど。
さて今回のアルバムのジャケットは、フランスのグラフィックデザイナーであるアドルフ・ムーロン・カッサンドルという人の作品を使用しているそうだ。
巨大な船がこちらに向かって来る絵なのだが、思ったよりは地味な印象。
せっかくのライブ盤なんだし、ウルフィーも含めてのメンバー写真のほうがよかったんじゃないのか?とも思ったが・・
なおCD化にあたってはミックスをボブ・クリアマウンテンが担当。
この人はボスやホール&オーツやロキシー・ミュージックのエンジニアとしても有名であり、80年代洋楽マニアの間では名前をよく知られた人物である。
というわけで、ヴァン・ヘイレン「Tokyo Dome Live in Concert」。
これは非常に良かったです。
アホウな感想だとは思いますが、安心できる内容でした。
これを機にデイヴ時代の作品の再履修にも取り組みたいと思います。
| 固定リンク | 0
コメント
こんばんは、JTです。
このライブ盤聴きたいと思っていました。実はこのツアーの名古屋公演(at愛知県体育館)、私、見に行きました。
東京ドームと比べるとかなり狭い会場(大相撲名古屋場所の会場)でチェット代が同一だったので、名古屋の方がお得かなとも思っていましたが、ライブ盤でるならそっちの方が良かったかも(笑)。
>で、時々デイヴは日本語で客席に向かって叫ぶのだが、「ニホンゴガヘタクソデスミマセン!」とか「ナニヲカンゲーテイタンダ?」とか「イシノウエニモサンネン!」とか、
あと「ツキニカワッテ、オシオキヨ」も何回か言っていましたが、大人の事情でカットされましたかね。
>会場にいた多くのファンがウルフィー加入を心から喜んだことだろう。
うん、うん、コーラスもガンガンやっていて、マイケル・アンソニーと遜色はなかったです(もう少し痩せた方がいい)。
また病み上がりとの話だったエディも往年とまったく変わらないギタープレーでした。
しかし会場のスクリーンで映し出されたエディの左指、意外と太かったです。
「Jump」の前にデイヴが出演するミョーなショートムービーがスクリーンに映し出されました。それは、。。
なぜか銭湯の脱衣場で花札をするヤクザもん(with KONISHIKI)、そこにデイヴが入浴にやって来てヤクザもんにからまれる。でまたデイヴの「ツキニカワッテ、オシオキヨ」のセリフとともに、ヤクザもんをやっつける、というなんだかなぁという寸劇。
英語の字幕も出てたので、欧米のライブでも上映されたのか?
いつかこのライブ盤聴いてみます。
投稿: JT | 2016.05.16 01:11
JTさん、コメントありがとうございます。
名古屋公演行かれたんですね。
>あと「ツキニカワッテ、オシオキヨ」も何回か言っていましたが、大人の事情でカットされましたかね。
そんなセリフもあったんですか?
CDにはなかったと思いますが、いすれにしても適当な日本語ばかりですね・・
>コーラスもガンガンやっていて、マイケル・アンソニーと遜色はなかったです(もう少し痩せた方がいい)。
そう言われてしまうとマイキーがますます気の毒ですが、まあウルフィーが意外?に出来た息子で良かったですね。
ただ確かにウルフィーは体型も親父や伯父さんとは似てないですねぇ・・
>「Jump」の前にデイヴが出演するミョーなショートムービーがスクリーンに映し出されました。
あ、それはこのサイトにある動画ですよね。
http://ro69.jp/live/detail/84133
原案はデイヴだそうですけど、どう反応してよいやらわからない内容ですが・・
ヴァン・ヘイレンて昔からPVも意味不明な内容が多かったですが、デイヴの趣味なんですかね・・?
投稿: SYUNJI | 2016.05.16 22:51
SYUNJIさん、こんばんは。
ヴァン・ヘイレンのドーム公演ライブ、聴かれましたか!
私はヘイレンにはヘヴィメタを感じなくて、アメリカンロック
だと思っています。ロスのワイルドな歌声とエンターテイメント
性のおかげだと思っています。
このドーム公演も、とても楽しいですよね。
さて、ヘイレンとドゥービー・ブラザーズには共通点があります。
両者を育てたのはワーナーの敏腕プロデューサーである
テッド・テンプルマンです。この人のおかげか、コーラスワークの
名手・ドゥービーほどではありませんが(ファンの方、ごめんなさい)、
ヘイレンもバックが結構歌います。
これ、長年の謎でした。「ロス以外のメンバーがこんなにかっこよく
歌えるのだろうか」と(再度、ごめんなさい)。
このライブでは、(知らなかったのですが)SYUNJIさんによると、
ベーシストが新しいメンバーで、しかもヘイレンの息子だ
そうですね。聞いてみると、おお、ライブでもコーラスがかっこいい!
というわけで、楽しさにプラス謎解きができて、しかも
歌もコーラスも演奏もよかったという、満足度の高い
ライブ盤でした。これだから、ライブ盤はやめられない(^^;;;)
投稿: | 2016.06.04 08:02
申し訳ないです、↑のコメントは私です。m(__)m
投稿: モンスリー | 2016.06.04 15:34
モンスリーさん、今回もお世話になりました。
>私はヘイレンにはヘヴィメタを感じなくて、アメリカンロックだと思っています。ロスのワイルドな歌声とエンターテイメント性のおかげだと思っています。
同感ですね。
というかサミー時代でもヴァン・ヘイレンにメタルを感じていた人はあまりいないのではないかと思います。
>両者を育てたのはワーナーの敏腕プロデューサーであるテッド・テンプルマンです。
なるほど・・
コーラスワークの秘密、そういう見方でしたか。
テッドはデビューから「1984」までヴァン・ヘイレンのアルバムを全てプロデュースしてますね。
バンドを育てたスタッフの一人であることは間違いないですね。
>聞いてみると、おお、ライブでもコーラスがかっこいい!
確かに思ったよりウルフィーは歌えてますね。
このバンドの魅力にコーラスワークを挙げるファンはけっこう多いのではないかと思っています。
コーラスの良さを堪能できる曲として、サミー派のあたしより「Cabo Wabo」をおすすめします。
http://mewbo.jp/song/tmpvideo/van-halen-cabo-wabo/YIdJk0otWI8
投稿: SYUNJI | 2016.06.05 10:01