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聴いてみた 第131回 ポール・マッカートニー&ウィングス その2

シニア洋楽再履修の旅、今日の課題もポール・マッカートニー&ウィングス。
76年発表の「Wings at the Speed of Sound」を聴いてみました。

Speedofsound

邦題は「ウィングス・スピード・オブ・サウンド」で、名義はただのウィングスである。
メンバーはポールとリンダ、デニー・レイン、ジミー・マッカロク、ジョー・イングリッシュ。
なおジミーの「マッカロク」という表記は、「マカロック」「マクローチ」「マッカロー」などいろいろあるそうです。
ところで、ジョーさんは本名なの?
日本人だったら「日本人よしお」とかそういう名前になるってことか?

前回聴いた「Red Rose Speedway」、その次の「Band on the Run」「Venus and Mars」でいずれも全米1位を獲得しており、「Wings at the Speed of Sound」も時期的にはウィングス絶頂期と言って差し支えない。
実際このアルバムもまた全米1位を記録しており、スタジオ盤4枚連続全米1位という不滅の金字塔的名盤である。

・・・のだが、なんかネットで見ると思ったより評判は良くない。
全米1位ほどに売れたから人気アルバムなんじゃないのかと思ったのだが、シングル「心のラブソング」のセールスに牽引されただけとか、アメリカでのライブ成功に影響されただけとか、シビアな評価も多い。
「振り返ってみたらそんなに良くもなかった」ということだろうか。

ポイントとしては、ポールが歌う曲が11曲中6曲しかないことだ。
ポールが「ウィングスはバンドであること」を実証してみせた、という話らしいが、ファンからすれば少し損した感じになるのも無理はない。

このアルバム、姉はリアルタイムで聴いている。
レコードを友達から借りてテープに録音しており、インデックスの手書きの曲目がいくつか自分の記憶にも残っている。
ただし我が家は姉弟間でのテープの共有を一切していなかったため、自分のコレクションとすることはできなかった。
従って曲自体全て覚えてはいないのだが、姉が聴いていたその音が自分にも聞こえていたはずである。

というわけで、知ってる曲もいくつかあり、緊張感は全然ない。
余裕を持って聴くことにした。
果たしてどんなアルバムなのだろうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Let 'Em In(幸せのノック)
この曲は昔から知っており、ウィングスのベスト盤「Greatest Hits」「Wingspan」にも収録されている。
聴き慣れているためか、あまりいいとか悪いとかを考えたことがなかった。
行進曲風のリズムが面白いが、前半に時々「キュッ」という変な音が聞こえたり、わざとはずした不協和音があったりでちょっと変わったサウンドである。
歌詞はあまり意味のない内容だが、「Brother John」とはジョン・レノンのことらしい。

2. The Note You Never Wrote
ボーカルはデニーだが、作ったのはポール。
どこかで聴いたことがある曇った物憂げなサウンドは、後の「London Town」を思わせる。

3. She's My Baby(僕のベイビー)
聴いてみてわかったが、長いことこのタイトルを別の曲のものだと勘違いしていた。
この曲自体は初めて聴いた。
ポールの作品でボーカルもポール。

4. Beware My Love(愛の証)
軽快なロックナンバーだが、これは聴いたことがある。
中盤のポールのシャウト気味のあたりに聴き覚えあり。
最近出たリマスター盤では、ジョン・ボーナムがドラムを叩いているバージョンが収録されているそうだ。

5. Wino Junko
ジミーのボーカルで、ジミーとコリン・アレンという人の共作。
以前からなぜこの曲のタイトルは関西弁なのだろう・・と不思議だったのだが、実際は「Wine Junky」の変形で発音も「ワイノ・ジャンコ」だそうだ。
確かにジュンコとは聞こえない。
ジミーはあんまし歌がうまくないように思う。

6. Silly Love Songs(心のラブソング)
ウィングスの中でも名曲中の名曲で、全米1位・全英2位の最大のヒット曲。
自分もこの曲は好きである。
ジョン・レノンやマスコミからの「ポールの作る曲はバカげたラブソングばっかし」という批判に応えたものだが、「バカげたラブソング?それで何が悪いんだよ」という曲でちゃんと大ヒットさせるんだから、どこまでもマーケットをわかっていたポールなのだった。
歌いだしのソの連打や終盤の三重奏など、何度聴いても秀逸な構成。

7. Cook Of The House
リンダが歌うコミック・ソング。
彼女の歌はあちこちで評判が悪いが、まあその通りだろう。
「Silly Love Songs」ではなかなか味のあるコーラスを聞かせてくれるのだが、メインをとった時の落差はかなりのものだ。
作ったのはポールだそうだが、なぜリンダに歌わせたんだろうか?

8. Time To Hide(やすらぎの時)
デニーの作品でボーカルもデニー。
少し重い雰囲気で、さすがに曲も歌もポールに比べるとどうも・・という感じ。

9. Must Do Something About It
前の曲とつながっているが、今度はジョーのボーカル。
楽しくていい曲なんだが、いまいちインパクトが弱く印象に残らない。

10. San Ferry Anne
ポールのボーカルで、ジャズ風の短い曲。

11. Warm And Beautiful(やさしい気持ち)
ピアノの弾き語りバラード。
中盤からホーンやストリングスも加わってくるが、これは全編ピアノだけで聴きたい気がする。

以下はボーナストラック。

12. Walking In The Park With Eloise
カントリー調の楽しいインストナンバーだが、50年代にポールの父親のジェームズが作った曲だそうだ。
コメディ映画のテーマソングみたいな曲である。

13. Bridge On The River Sweet
さらに続くインスト。
これもミステリー映画の主題歌のような感じ。

14. Sally G
本格的なカントリーソングで、録音されたのもナッシュビルとのこと。
ポールの器用さが如実に表れた曲だと思う。

聴き終えた。
全体的にはアメリカ市場を意識したサウンドだと感じる。
ジャズやブルースやカントリーのテイストがあちこちに置かれ、バラエティ豊かな構成ではある。
どんなジャンルもうまいこと作れるポールの才能、加えてデニーやジミーの高い演奏技術があらためて披露されているアルバムだ。
特に何度聴いても「Silly Love Songs」は楽曲・演奏・歌ともに素晴らしいし、あらためて歌詞を見てもポールのこの曲に込めた想いが伝わってくる内容である。

ただし。
やはりポール以外のメンバーの歌は、どれも今一つ好みに合ってこない。
デニーもジミーもジョーも歌えるメンバーではあるけど、ポールも思ったほどコーラスを乗せていないし、リンダの歌はお遊びのレベルだ。
バンドの一体感が感じ取れるのは「Silly Love Songs」以外にはあまりないように思う。

キツイ言い方になるが、もしも曲は全て同じだったとして、ポールが1曲も歌っていなかったとしたら、果たしてウィングスのアルバムとして商業的に成功しただろうか?
答えはすぐに出るように思うのだ。
こういうことを書くと「オマエは何もわかっていない」と思われる方も多かろうが、自分の三流な感想としてはこうなる。

全米1位は記録したけど、この後バンドとしては徐々におかしくなっていく。
77年にはジミーとジョーが脱退。
残ったデニーとポールでアルバム「London Town」をリリースするが、全米1位はならず2位、全英も4位に終わる。
なお脱退したジミーはスモール・フェイセズやワイルド・ホーセズに参加した後、79年に亡くなっている。
ウィングスは新たなメンバーとしてローレンス・ジュバー(G)とスティーヴ・ホリー(D)を加入させ、79年に「Back To The Egg」を発表するが、この後ポールの日本での逮捕・ウィングス日本公演中止騒動が発生し、結局再結成することなく解散する。
結果的には今回聴いた「Wings at the Speed of Sound」は、バンドのターニング・ポイントになっているような気もする。

ポールはこのアルバムの売り上げとアメリカ公演の成功を非常に喜んでいたそうで、「もうビートルズ再結成の話なんか必要ない」とまで発言した。
ところがやはり世間とマスコミはポールの思いとは逆の反応ばかりで、雑誌ローリング・ストーンはアルバムを「謎に満ちたおよび腰の珍品」と批判し、アメリカのプロモーターは「ビートルズ再結成公演に2億ドル以上出すぞ」といった新聞広告を打ったりした。
結局ポールがどんなにウィングス成功を証明して見せても、ファンもマスコミも「ほな再結成ビートルズならもっと成功するやろ」といった反応ばかりなのだった。

この頃本気で再結成したがっていたのは、実はジョン・レノンだったという話もある。
ポールほどハデに活動してなかったジョンは、ヒマな時にギターを持ってポールの家を突然訪ねたりしたが、ポールの反応は「いいかげんにしろよ」といったつれないものだったそうだ。
若き成功者同士ゆえの苦悩と言えば簡単だけど、ポールとしてもウィングスを率いている間中ずっと心乱れる日々だったんじゃないだろうか。

ジャケットはEXCELっぽい格子模様にタイトルロゴという、なんとなくプログレのようなデザイン。
ヒプノシスによる作品だそうだが、無機質でどうもいまいち好きになれない。
当時発売の実際のLPレコードジャケットはイギリス盤とアメリカ盤で微妙に色合いが違うそうだ。
(アメリカ盤は格子模様の地色が白っぽい)
自分が買ったCDはいちおう東芝EMIのものだが、どうやらイギリス盤を使っているようだ。
95年再発の安価盤で、裏ジャケットには絵もなく、曲目が淡泊に並んでいるだけである。

ということで、「Wings at the Speed of Sound」。
確かに評判のとおりいまひとつ物足りないと感じました。
やはりポールのボーカル曲が少ないのは大きな要因ではないかと思います。
ただあまり意味はないけど、「Red Rose Speedway」よりは楽しめたような気もします。

さてバンドも含めたポール・マッカートニーの70年代未聴盤、残るは「McCartney」「Ram」「Wings Wild Life」「Back to the Egg」の4作品となりました。
特に順序にこだわらず、聴けるものから聴いていきたいと思います。

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コメント

こんばんは、JTです。

>ところで、ジョーさんは本名なの?

ジョーさんは本名かどうか知りませんが、アメリカ人です。日本人よしおが中国人だった、というところでしょうか(何のこっちゃ(笑))。

>全体的にはアメリカ市場を意識したサウンドだと感じる。
ジャズやブルースやカントリーのテイストがあちこちに置かれ、バラエティ豊かな構成ではある。

なるほど。発表当時はライブを意識したアルバム、という話を聴いた事があります。「Venus and Mars」と比べるとダビング少ないし、地味な印象がありました(好きでけど)。

>ヒマな時にギターを持ってポールの家を突然訪ねたりしたが、ポールの反応は「いいかげんにしろよ」といったつれないものだったそうだ。

あ、これ逆ですね。当時、オノ・ヨーコさんと別居中だったジョンの所(ロスやニューヨーク)にポールがギター持って訪ねたそうです。アポなしでポールがやって来た時に「今は1965年じゃないんだから、前もって電話よこせや」、って追い返したそうです。ビートルス解散後、唯一といっていい2ショットの写真も残されています。

>やはりポールのボーカル曲が少ないのは大きな要因ではないかと思います。

客観的に見ると、結局そこに落ち着きますね。メンバーの流出を防ぐ意味もあったかもしれませんが。
でも私はリンダ以外のボーカルトラックもそんなに悪くないと思っています。

>ジャケットはEXCELっぽい格子模様にタイトルロゴという、なんとなくプログレのようなデザイン。

もうちょっと工夫があってもよかったのでは、と思っています。

>最近出たリマスター盤では、ジョン・ボーナムがドラムを叩いているバージョンが収録されているそうだ。

これ聴きました。当然ですが、ボンゾらしさが出たドラミングでよかったです。しかし、正規のドラムがいるのになぜレコーディングしたのかなぁ。スタジオに遊びにきたので、叩いてもらったと思うのですが。

ツェッペリン以外でのボンゾのドラムって初めて聴いたような。


投稿: JT | 2016.03.06 23:01

SYUNJIさん、お邪魔します。

ポール好きの自分ですが、「スピード・オブ・サウンド」はウイングス時代のアルバムの中では2番目に聴かない作品となっております・・・。
その割には収録曲の「愛の証し」が大好きすぎて、ウイングス時代の楽曲の中でも回数的にベスト5には確実に入るぐらい、昔から今もずっと聴きまくっています。ボンゾのヴァージョンが発表されてからは、そればかり聴いている気が。(苦笑)

このアルバム、昔、音楽雑誌で“大ヒットアルバム=名作とは限らない”という例で挙げられていて、ファンとして悲しい思いをしたのを覚えています。
確かに、個人的にも残念ながら名作でも佳作でもないと思います。

>やはりポールのボーカル曲が少ないのは大きな要因ではないかと思います

JTさんも書かれていますが、不人気なのはやはりそこなのかなと思います。
でも、自分は他のメンバーのボーカルは嫌いではないです。

ポールのボーカル曲が少ないのに加えて、大ヒットした「心のラヴ・ソング」の出来・印象があまりに突出しすぎて、収録曲に地味目の楽曲が多いため、より一層アルバム全体の印象が弱まってしまった感があるアルバムだと思います。

投稿: まったり男 | 2016.03.07 19:07

JTさん、コメントありがとうございます。

>発表当時はライブを意識したアルバム、という話を聴いた事があります。

なるほど・・確かに楽曲は「Venus and Mars」よりもシンプルな造りのものが多い気はしますね。

>あ、これ逆ですね。当時、オノ・ヨーコさんと別居中だったジョンの所(ロスやニューヨーク)にポールがギター持って訪ねたそうです。

やはりそうですか・・
実は自分もご指摘のエピソードやツーショット写真の存在は知っていたのですが、以前読んだジョン関連の本では、ポールにつれなくされたのは実はジョンだったと書いてあり、驚いた記憶があります。
まあジョンとポールを書いた本は山ほどあり、事実でない話のほうが多い可能性もあるんで、自分がデマ本にダマされたのかもしれないですね。

>客観的に見ると、結局そこに落ち着きますね。メンバーの流出を防ぐ意味もあったかもしれませんが。

なんかあまりにもベタな感想ですけど、結局はそこに納得してしまいます。
他のメンバーの歌に聴きなれないだけかもしれませんので、これから感じ方が変わっていくかもしれませんけど。
でも結局メンバーは流出したんですね・・

>これ聴きました。当然ですが、ボンゾらしさが出たドラミングでよかったです。

そうですか!聴いてみたくなりました。
ウィングスの録音にボンゾ登場とは意外な組み合わせのようにも思いますけど、この曲が最初で最後だったんですかね?

投稿: SYUNJI | 2016.03.08 23:00

まったり男さん、こんばんは。

>ポール好きの自分ですが、「スピード・オブ・サウンド」はウイングス時代のアルバムの中では2番目に聴かない作品となっております・・・。

そうでしたか・・
自分もようやく少しずつポールとウィングスのアルバムを聴き進めてますけど、思いのほか作品ごとの印象が違いますね。

>ボンゾのヴァージョンが発表されてからは、そればかり聴いている気が。(苦笑)

いやーさすがにボンゾ版は評価高いですね。
初めからボンゾ版でリリースしていたら、話題もセールスも違っていたのでは・・

>大ヒットした「心のラヴ・ソング」の出来・印象があまりに突出しすぎて、収録曲に地味目の楽曲が多いため、より一層アルバム全体の印象が弱まってしまった感があるアルバムだと思います。

これは全く同感ですね。
前回聴いた「Red Rose Speedway」でも「My Love」がやたら突出してた感じでしたが、今回のアルバムの「Silly Love Songs」の突出感はそれ以上ですね。
本当の良さが味わえるまでまだ時間がかかりそうです。

投稿: SYUNJI | 2016.03.08 23:14

僕は前作までの作品でポールは作曲能力を使い果たしてしまい、この作品以後は曲の出来にすごくムラを感じてしまうぷくちゃんといいます。
実は他の人の作品を入れたのは、曲が出来なかったんじゃないのか?これ以後の作品では、「これポールの曲なの?」ってのが結構あります。そういう意味でも分岐点となる作品だと思います。

投稿: ぷくちゃん | 2016.03.09 04:01

ボンゾ先輩、コメントありがとうございます。

>前作までの作品でポールは作曲能力を使い果たしてしまい、この作品以後は曲の出来にすごくムラを感じてしまう

うーん、厳しい評価ですけど当たってるとも思いますね。
80年代のアルバムもいくつか聴いてますけど、テクノに傾倒したり、ほぼマイケルとの共作だったりで、個人的には「Venus and Mars」以上に聴かせるものではなかったです。

>実は他の人の作品を入れたのは、曲が出来なかったんじゃないのか?

それもあったのかもしれないですね。
ジョンのいないバンドで一人曲を作って歌って・・というのに疲れたので「少しはおまいらも歌えや」と言ったりとか・・(適当)

投稿: SYUNJI | 2016.03.10 22:39

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