聴いてみた 第130回 エリック・クラプトン
関東有数の珍奇BLOGを続けて12年になるが、この12年間で三大ギタリストのうち学習が最も遅れてしまったのがエリック・クラプトンである。
意図的にそうしてきたわけでもないのだが、ツェッペリンやベックやヤードバーズの鑑賞を優先してきた結果、クラプトン関連で聴いたのはブラインド・フェイスのみという状態である。
「このままでは何も聴かないうちに人生が終わります」というぷく先輩の啓示を胸に、遅ればせながらクラプトン集中強化学習を決意。(薄い)
というわけで年末に久しぶりに渋谷レコファンに行ってみた。
クラプトンのCDなんてなんぼでもあるやろとナメていたのだが、渋谷は意外に品薄であった。
選んだのは「461 Ocean Boulevard」。
聴く前にネットで概略を調査。
「461 Ocean Boulevard」は74年の作品。
タイトルは録音に使用したマイアミのスタジオの住所に由来する。
(借りていた家の住所だと書いてあるサイトもある)
Boulevardは並木道という意味らしいが、日本人にはなじみの薄い英単語なので、「オーシャン・ブルーバード」と堂々と書いてあるサイトもけっこう見つかる。
このアルバムを紹介するサイトにはほぼ必ず書いてあるのが「復活」である。
クリーム解散後、デレク・アンド・ザ・ドミノスとして「いとしのレイラ」を発表したが、薬物やアルコールに依存し心身ともにダメージを負ったクラプトンは、4年近く活動を停止していた。
周囲の人々に支えられながら徐々に回復したクラプトンは、73年にようやくライブを行う。
その後プロデューサーのトム・ダウドの提案により、アルバム制作にとりかかる。
メンバーはクリームの面々ではなく、カール・レイドル(B)、ジェイミー・オルデイカー(D)、ディック・シムズ(K)、イボンヌ・エリマン(Vo)、ジョージ・テリー(G)といったミュージシャン達であった。
しかしクラプトンが作ってきたのは「Give Me Strength」「Let It Grow」の2曲くらいで、アルバム1枚を埋めるには曲数が全然足りなかった。
そこでトムやメンバーもアイディアを出し合い、様々なカバー曲を演奏し、いい感じのものを順次録音。
この中に後に全米1位となるボブ・マーリーの「I Shot The Sheriff」が含まれていた。
単にセールスとしての復活ではなく、クラプトン自身の薬物依存や心身耗弱からの復活という、ターニングポイントなアルバムなのだった。
カバーが多いのも、おそらくは回復途上にあるリハビリ的な期間であったためではないだろうか。
もっとも素人の自分にはオリジナルとカバーの違いなんかわかるはずもないので、どういう構成であってもクラプトンの作品として聴けばいいのである。
時代背景で言えば、73年にツェッペリンは「聖なる館」を発表し、続く74年にクラプトンがこの「461 Ocean Boulevard」をリリース、さらに翌75年にはジェフ・ベックが「Blow by Blow」を発表している。
果たして復活のクラプトンはどんな音がするのだろうか。
・・・・・聴いてみた。
1.Motherless Children
初めて聴く曲である。
軽快なリズムに乗せた明るいナンバー。
ブルースとともにカントリーの香りもする。
2.Give Me Strength
一転スローテンポなけだるいブルース・バラード。
暗くはないが、あまりつかみどころのない曲である。
3.Willie And The Hand Jive
レゲエ調のリラックスした雰囲気。
これも暗くはないけど、今一つ好みに合わない感じ。
4.Get Ready
引き続きレゲエなリズムに乗せて流れるクラプトンのボーカルと女性の声。
あまり抑揚がないまま繰り返されるタイトルコール。
ここまでの4曲はどうもみんな同じように聞こえる。
5.I Shot The Sheriff
ようやく知ってる曲の登場。
超有名なので誰でも知ってて当たり前なのだが、クラプトンの長いキャリアで唯一全米1位を記録したのがこの曲だそうだ。
レゲエのリズム、憂いに満ちたキーボード、物憂げなバックボーカルが秀逸な構成なのだが、それがゆえかクラプトンの武器であるギターが思ったほど印象に残らない。
6.I Can't Hold Out
これも初めて聴く。
少し辛めのブルースで、キーボードが左奥に下がっているからか、これはギターがよく聞こえる。
7.Please Be With Me
静かなアコースティックギター、女性バックコーラスがどこかイーグルスを思わせるようなおだやかなバラード。
8.Let It Grow
この曲もベスト盤で聴いている。
ゆったりした進行。
あんまし明るくないので好みからはやや遠いのだが、エンディングのギターはいいと思う。
9.Steady Rollin' Man
ロバート・ジョンソンのカバー。
といっても原曲は知らず、この曲もどこかで聴いたことがあるかな程度。
軽快なリズムだが、それほど激しい曲ではない。
クリームでやっていたら、もう少し大胆なアレンジがあったんじゃないだろうか。
10.Mainline Florida
ラストも比較的軽い調子のブルース。
なんとなくストーンズっぽい音がする。
さて聴き終えた。
正直に言うとそれほど大きな感情の高ぶりはなく、「ああこういう音楽なんだ」という粗末な感想がまずある。
クラプトンをそもそも全然聴き慣れていないので、これがクラプトンらしい名盤なのか一般教養的扱いなのかもよくわからない。
たぶん誰からも支持されないとは思うけど、個人的にはイーグルスを聴いた時の感覚に近い。
クリーム時代のような疾走感あふれるロックやどっぷり重いブルースや絶叫や火吹きなどはなく、どの曲も比較的穏やかでリラックスしたオトナの音楽という趣きである。
「I Shot The Sheriff」という大ヒット曲の印象が強いので、ついレゲエに彩られたアルバムととらえがちだが、レゲエ調ではない曲もちゃんとある。
復活のアルバムではあるが、あちこちのサイトに書いてある通り「回復途上」という評価もわかる気がする。
「会心の出来」「気迫十分の力作」という採点にはあまりなっていない一方、駄作とこきおろす人もほとんどいないようで、わりと暖かい評価が多い。
スタッフもリスナーも、みんなクラプトンの復活を心待ちにしていたのだね。
で、わたくしの感想としては、非常に微妙である。
歴史的名盤に対してなんちゅう言いぐさやこのボケ死ねやサルというお叱りは当然あろうが、なんつうか今後愛聴盤になる予感がまだ全然ないのだ。
楽曲や演奏や歌はどれも全く悪くはないんだが、感動も高揚も意外に少ない。
せっかく歳をとったんだからこのくらいの音楽をたしなむことができて当然なんだろうけど、それもどうやらまだ難しいようだ。
あらためて思ったが、やはりクリームのほうが自分の好みに合う音が多い。
まあクリームはそもそもバンドであってクラプトンのソロではなく、しかも曲の多くはジャック・ブルースによるものだ。
自分はクリームの3人によるガチなド突き合いの総合系サウンドが好きなのだろう。
だいたい自分が好きな音楽って仲悪い人たちのものが多いしね。(←少し違う)
これからもっとクラプトンのソロ作品をたくさん聴いていけば、もう少し良さがわかってくるのかもしれない。
とりあえず拒絶感や玉砕感はないので、このアルバムももっと聴き込んで行こうと思う。
次もまた70年代の作品にトライしようと思います。
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コメント
SYUNJIさん、こんばんは。
このアルバムはSYUNJIさんも少し触れられているとおり、
復活を待っていた当時のファンには不評だったようです。
クラプトンがレイドバックしすぎ、というのがその理由です。
このアルバムの前のスタジオ作品が、デレク&ドミノズ名義の
「レイラ」です。これですら、当時は「ぬるい」と評された
そうです。
いかにファンの期待が大きかったのか=それがクラプトンに
とって重いものだったのかが、よくわかるエピソードです。
さて私はこの作品がとても好きです。
>>どういう構成であってもクラプトンの作品として聴けばいい
至言ですねえ!
私もそう思うのです。最近の作品に比べると、圧倒的な
オリジナリティを感じます。
(スタイルにブルースやカントリーが多いのは認めますが)
レイドバックしていても十分にかっこいいロックがある、
と思うようになったきっかけもこのアルバムです。
「Motherless Children」や「Mainline Florida」の
スライドのかっこよさはクラプトンならでは。
「Let It Grow」はクラプトンのバラード作品では
群を抜いて好きです。なおこの曲をはじめとして、
「クラプトンがメロウに走るときは必ずシンセを使う」と
いう評を読んだことがありますが、それがどうした(笑)
というわけで、70年代の作品はおおむね「461」のような
感じです。次は是非「スローハンド」を。
投稿: モンスリー | 2016.02.23 21:30
モンスリーさん、こんばんは。
ご指導ありがとうございます。
>復活を待っていた当時のファンには不評だったようです。
>クラプトンがレイドバックしすぎ、というのがその理由です。
そうでしたか・・確かに自分も多少「ぬるいかも」と感じた部分はあったんで、わかるような気もしますが、ネットではそんなに評判悪くないですね。
長い時間をかけて評価が高くなっていったということでしょうか。
>レイドバックしていても十分にかっこいいロックがある、と思うようになったきっかけもこのアルバムです。
なるほど・・
まだそのレベルには達してませんので、もう少し聴きこんでいこうと思います。
>というわけで、70年代の作品はおおむね「461」のような感じです。次は是非「スローハンド」を。
おおむねこんな感じですか・・となるとやや不安だなぁ・・
でも曲目を見ると「Slowhand」のほうが知ってる曲がまだ多いです。
「Wonderful Tonight」はけっこう好きですので、聴きやすいかもしれないですね。
次回挑戦してみようと思います。
投稿: SYUNJI | 2016.02.23 22:50
柏村武昭さんがクラプトンをどう?紹介したかは・・・
わたしは、”レイド・バック”した世界(感覚)がいいとしています。
より地味ながら、
『安息の地を求め』
これこそ、クラプトンの生涯ベストでありますと思っています!
投稿: かまぼこRock | 2016.02.25 23:18
かまぼこRockさん、コメントありがとうございます。
>柏村武昭さんがクラプトンをどう?紹介したかは・・・
そういえば「サンスイ・ベストリクエスト」ではクラプトンはそれほどオンエアされなかったように思います。
たぶん柏村武昭の好みではなかったんでしょうね。(適当)
ご推薦の「安息の地を求めて」はこの次のアルバムですね。
でも知ってる曲が全くない・・
レイドバックしたクラプトンの魅力を理解するにはもう少し学習が必要なようですので、このアルバムも機会があれば聴いてみようと思います。
投稿: SYUNJI | 2016.02.27 21:51
こんばんは、JTです。
このアルバム、結構好きです。曲でいうと1,2,5,7,8辺りが気に入っています。曲の粒が揃っているというか、外れ曲が少ないのがよいのですが。
1980年頃、初めて聴いたというのも関係しているのでしょうか。今これを初めて聴いたとしたら、SYUNJIさんと同じようにぼんやりした感想を抱いたかもしれません。
あとCDでは分かりにくいかもしれませんが、見開きのジャケットの外側(表と裏)が1つの画像になっていますが、表にも裏にもクラプトンがいます。合成ですね。
この時の録音メンバが気に入ったのか、1979年頃までアルバムもライブもほぼこのメンツで行っています。だらだらしたライブ音源が多いのですが、これはこれで面白いかと。
「かまぼこRock」さんも薦めていますが、「安息の地を求めて」もよいです。一般的な評価は地味ですが、こっちもいい曲が多いです。
投稿: JT | 2016.02.28 22:38
JTさん、コメントありがとうございます。
>このアルバム、結構好きです。
>曲の粒が揃っているというか、外れ曲が少ないのがよいのですが。
お、JTさんはクラプトンにはシビアなイメージでしたが、このアルバムは評価高いですね。
ハズレは確かにないと思いますが、自分にはそれほどの衝撃もなかったというか・・
>1980年頃、初めて聴いたというのも関係しているのでしょうか。
自分も同じ頃聴いていたら、感想はもう少し違っていた気はしますね。
若いって重要だなぁ。(手遅れ)
>表にも裏にもクラプトンがいます。合成ですね。
ホントだ、今気がつきました。
どっちのクラプトンも、合成というか切り貼りですかね?
なんか光の当たり方が建物とクラプトンで少し違うように見えますが・・
>「安息の地を求めて」もよいです。一般的な評価は地味ですが、こっちもいい曲が多いです。
そうですか、少し希望がわいてきました。
初心者には難しいかもという不安はありますけど、近いうちに聴いてみようと思います。
投稿: SYUNJI | 2016.03.02 21:29
こんにちは。名前の使用ロイヤリティ、いただきます。近頃、ネットワーク・オーディオに凝っていまして、アルバムをロスレス・ファイルで取り入れています。今、ちょうどEのところでクラプトン入れていたばかりです(どうでもいい)
僕は実はこの頃のクラプトン結構好きです。酒飲んで聞いているのにちょうどいい気楽さ。さすがにクリームじゃあ、マリファナ吸っていないと聞いてられない(やってないけど)
僕の一押しは「アナザー・チケット」タイトル曲一曲だけでも泣けてきます。
投稿: ぷくちゃん | 2016.03.03 10:39
ぷく先輩、お待ちしておりました。ころころ(赤じゅうたんを敷く)
>ネットワーク・オーディオに凝っていまして、アルバムをロスレス・ファイルで取り入れています。
・・ネットワーク・オーディオってあんましよくわかってませんけど、では先輩はCDはもう不要ということですかね?
先輩の膨大なコレクションも、そのうち我が家にどっさり届く、という流れで・・
>さすがにクリームじゃあ、マリファナ吸っていないと聞いてられない(やってないけど)
そうですか・・
なんか意外にクリーム評判良くないスね・・
>僕の一押しは「アナザー・チケット」タイトル曲一曲だけでも泣けてきます。
このアルバムも1曲も知りません・・
つくづくクラプトン聴いてないなぁ。(今さら)
次回中華街でのぷく組マリファナパーティーまでには聴いておくようにします。(すべっている)
投稿: SYUNJI | 2016.03.04 23:14