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読んでみた 第48回 文藝別冊「ポール・マッカートニー」

今回読んでみたのは「文藝別冊 ポール・マッカートニー」。
これまで読んできた文藝別冊の洋楽シリーズでも古いもので、2001年発行。
先月神保町の古本まつりで購入した。
2011年に増補新版が出版されている。

正式書名は「KAWADE夢ムック 文藝別冊 総特集 ポール・マッカートニー ~世紀を越えた音楽家~」。
版元はおなじみ河出書房新社、判型はA5判、200ページ。
本体価格は1,143円。
自分が購入した古本は800円だった。

Paul

同じシリーズにジョン・レノンやジョージ・ハリスンもあって図書館で読んだような気もするが、このポール本は読むのは初めてである。
ビートルズ関連の書籍は世の中にたくさんあるが、たいていはポールの情報に最も多くページを割いている。
理由は簡単で作品もメディアの露出もポールが一番多いからだ。
しかもジョンやジョージは故人なので情報は全て過去の掘り起こしだが、ポールは今なお現役であり、版元にとって話題に事欠かないありがたいスターである。

この本は偶然古本まつりで見つけたのだが、最近ポール未聴作品の学習を始めたこともあり、教材としても使えそうなので買ってみた。
果たして中高年再履修の指針となる内容なのだろうか。

・・・・・読んでみた。

目次はこんな感じ。

【巻頭カラー・グラビア】
ポール・マッカートニー ライブ・ヒストリー
 
【独占掲載 ロング・インタビュー】
LISTEN TO WHAT THE MAN SAID
ポール・マッカートニーが語る
昨日(イエスタデイ)、今日(ヒア・トゥデイ)、明日(トゥモロウ)
 
PART 1 音楽家ポール・マッカートニー その魅力を語る
【インタビュー】
財津和夫・林哲司・奥田俊作(ザ・ブリリアントグリーン) 
 
【対談】
杉真理×松尾清憲
ポールと同じ時代に生まれて、みなさんラッキーですよ
 
評論
あらゆる要素を包み込むポールの音楽性 藤本国彦
リトル・ボーイのビッグな体験 ジム・オルーク
ポールのベース革命 鈴木佳昌
リンダ・マッカートニー 淡路和子
ポールのクラシック音楽作品 山川真理
 
PART 2
音楽家ポール・マッカートニー その足跡と音楽活動の記録
・音楽家ポール・マッカートニーの誕生 / 藤本国彦
・ビートルズ、ライブ活動の時代 / 広田寛治
・ビートルズ、新たな挑戦の時代 / 広田寛治
・産声をあげたウイングス / 山川真理
・はばたきはじめたウイングス / 山川真理
・ウイングスで世界制覇 / 淡路和子
・ウイングス最後の夢 / 淡路和子
・本格的なソロ活動時代 / 吉野由樹
・20世紀の総括と新たな挑戦 / 及川和恵
 
PART 3
音楽家ポール・マッカートニー 全作品
・音楽作品 音楽作品の全体像とベスト盤紹介
・映像作品 映像作品の全体像と公式ヒストリー
・本、インターネット
 ポールを「正しく」知るためのブック・ガイド
 インターネット・ガイド

全体は三部構成で、ポール本人や日本のミュージシャンのインタビュー、ポールの音楽家としての履歴紹介、作品紹介、となっている。
まさに偉大な音楽家ポール・マッカートニーを知るための正調な企画である。

判型はA5だが、ムックなので中身は雑誌としての編集になっている。
特にコアなポールのファンではない自分には気楽に読める内容である。
上級者には少し物足りないというところだろうか。
ジョン・レノンとの対比はこの手の本での常套手段だが、その点もそれほど鋭く切り込んではいない。
結果論だが、ビートルズ解散後の二人の決定的な違いは、「ビートルズではないバンドを組んだかどうか」である。
二人とも解散は後悔していたが、リンダやデニーとウィングスを結成したポールに対し、ジョンは残りの生涯でついにバンドを組むことはなかった。(ヨーコとバンドを組んだ、という見方もあるが)
どっちがいい悪いという話ではなく、ポールというミュージシャンはバンド志向・ライブ重視だった、ということが書いてある。

当たり前だが2001年の本なので情報もそこまでで止まっている。
日本人ミュージシャンのことは全然詳しくないのでわからないのだが、インタビューや対談に登場する奥田俊作(ザ・ブリリアントグリーン)、杉真理や松尾清憲といった人たちは最近も活躍しているのだろうか?(大きなお世話)
あ、CMでおなじみの「ウイスキーが、お好きでしょ」という歌は杉真理作曲だそうです。

ちなみに2011年に出版された増補新版では、2000年以降の10年間の活動や作品紹介が追加されているらしい。
増補なので基本は変わっておらず、インタビュー記事もそのままだそうだ。

その「独占掲載 ロング・インタビュー」で、「あなたの影響を受けていると思われるアーティストは?」という問いに、ポールは「スティングやビリー・ジョエルには同じような色を感じる」と答えている。
なんとなく意外な回答。
2015年の今でも、この質問には同じ回答をするんだろうか。
スティングやビリー・ジョエルを聴いて、ポール・マッカートニーを感じたことは全然なかったんですけど。
一方で「オアシスの曲の中にはビートルズの影響が色濃く表れたものがある」という、世界中が納得するふつうの回答もある。

記事内容そのものではないが、気になった点。
履歴紹介の部分は見開きごとの章になっているのだが、このタイトルが今ひとつゆるい。
特にウィングス時代の章は「シングル・ヒット曲あれこれ」「俺たちはバンドだ!」「ラブ・ソングで何が悪い!」「ロックショー!」といった昭和の雑誌みたいなノリでタイトルが付けられている。
またこの履歴紹介のあちこちに、見開きでコラムが挟まっているのだが、コラムで紹介される曲が履歴紹介の流れの時系列に合っておらず、これも今ひとつリズムのよくない編集だと感じた。

「インターネット・ガイド」とわざわざ紹介ページが設けられているのも時代(というほど前の話じゃないが)を感じさせる。
2000年当時はまだインターネットが特殊なメディアであり、今のように動画や音楽が誰でもスマホでふつうに楽しめるなどといった状況ではなかったので、先端を行く情報公開の場として掲載されているのだった。
ここでも章のタイトルが「ポール流『電脳空間』の楽しみ方」という、今口にしたら赤面しそうな表現になっている。

全体を通して言えるのは、どの評論も当たりが柔らかい点だ。
人気者ポールを語るのに皮肉や揶揄や罵詈雑言は不要。
いいじゃんみんな好きなんだから。
ねえ?
そういう感じの文章ばかりである。

巻頭から巻末まで終始ポール礼賛。
しかも表4(裏表紙)は当時発売されたばかりのウィングスのベスト盤「WINGSPAN」の広告である。
なので「アンチ」な人や「ジョン派」な人にとっては、当然退屈な本かもしれない。
作品紹介の中でも厳しい批判などは一切なし。
セールス的には不調だったアルバム「Press To Play」についても「チャートでは低迷したが、再評価の待たれるアルバム」という表現。
そこまで気を使わんでも的な書きっぷりである。

この当時の編集ポリシーはこうだったのだろうし、ポールの本だから2015年の今出版しても同じようなテイストになるのかもしれない。
これがのちのパープルツェッペリンニルヴァーナといった企画になると、辛辣な批評やしょうもないゴシップという話も混ぜての内容になっている。
ポール・マッカートニーだって掘り起こせばもっと人間くさいネタもいっぱいあるはずだし、書こうと思えばポールをこきおろしてジョン・レノンを称賛することもできるわけで、事実そういうテイストの書籍はいくつも出ていると思う。
でもこの本はやはり日本のファンに向けておだやかに読まれるべき本なのだ。

ということで、「文藝別冊 ポール・マッカートニー」。
古本だったので増補新版でなかった点は残念でしたが、読めてよかったです。
まあもう少し辛口な意見やダークな話題があってもバランスがとれてよかったんじゃないかとも思いましたが、あらためてポール・マッカートニーの未聴盤学習に取り組みたいという気にさせてくれました。
今後も学習参考書として利用したいと思います。

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コメント

SYUNJIさん、お久しぶりです。

>本体価格は1,143円。
自分が購入した古本は800円だった。

私も実際に行くまでは知らなかったのですが、神保町の古本っていうのは別段安くはないですよね(笑)
古本だから価値があるっていうのか、イメージとしては高い気がします。

>ポールは「スティングやビリー・ジョエルには同じような色を感じる」と答えている。
ビリーはたしかビートルズファンだったような・・・
メロディはどことなくポールよりだと思います。

>人気者ポールを語るのに皮肉や揶揄や罵詈雑言は不要。
確かにそんな空気がありますよね(笑)
私はどっちかっつーとジョン派なんですけど・・・
でも最近またビートルズを聴きだしています。
たしかにバンドの音楽を追及したのはポールの人間性(協調性や仲間と作る音楽)の才能だと思います。
ジョンはビートルズを辞めたら仙人みたいに神格化されちゃったイメージが強いですから(笑)

>まあもう少し辛口な意見やダークな話題があってもバランスがとれてよかったんじゃないかとも思いましたが
SYUNJIさんやっぱり求めるのはそこですか?(笑)
とてもSYUNJIさんらしいです。

ちなみにポールのビートルズ以降は「パイプス・オブ・ピース」しか聴いたことがありません。

またお邪魔します。

投稿: bolero | 2015.11.14 16:32

ボレロさん、お早いコメントありがとうございます。

>古本だから価値があるっていうのか、イメージとしては高い気がします。

確かに神保町はブックオフみたいに安さを求める場所ではないですね。
今回の本のようにブックオフにはまず出回らないような場合に探しに行く、という感じです。

>ビリーはたしかビートルズファンだったような・・・

あ、確かそうでしたね。
数年前に見たポールのドキュメンタリー映画でも
ビリーが出てきてましたし。

>私はどっちかっつーとジョン派なんですけど・・・

おっと、そうでしたか。
じゃあこの本はやや退屈かもしれません・・
自分は派を名乗るほど強固なものはありませんが、ポール以外の3人のソロ作品は全然聴いてませんので、ポール寄りということになるんでしょうね。

>SYUNJIさんやっぱり求めるのはそこですか?(笑)

そこです。(バカ)
まあさすがにビートルズやポールはプロレスの香りがあまりしませんよね。(何言ってんだか)
パープルファミリーのみなさんなんてほぼ全員プロレスラーだと思っています。

>ちなみにポールのビートルズ以降は「パイプス・オブ・ピース」しか聴いたことがありません。

あれ、そうでしたか?
さすがはジョン派ですね。(笑)
三流リスナーの自分が言うのもナンですが、ウィングスの「Venus And Mars」はおすすめですよ。

投稿: SYUNJI | 2015.11.14 17:17

SYUNJIさん、こんにちは。
河出書房新社は、文芸書はいい本を出しますね。
私も好きです。
たまにロックのムック本を出すので気になっていましたが
先日初めて読みました。こちらです。
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309978642/

扱っているミュージシャンは違いますが、SYUNJIさんの
おっしゃるとおり、
>>偉大な音楽家ポール・マッカートニーを知るための正調な企画
>>特にコアなポールのファンではない自分には気楽に読める内容である。

入門書としても上級者向けにもどちらにも向いている、
よい内容だと思いました(私は入門者)。
1点気になりましたのは、よい内容のためか、途中から
少し飽きてしまうことでしょうか。一気に読もうとせず、
少しずつ読むのがよいようです。

>>まあもう少し辛口な意見やダークな話題

キンクリの本も、そのあたりは少なかったように思われます。
そこは、2015年の電脳空間事情を勘案して、適当にツイート
してください、ってことですかね(^^;)

投稿: モンスリー | 2015.11.22 11:32

モンスリーさん、コメントありがとうございます。
クリムゾンの本も出てるのは知ってましたが、もう読まれたんですね。
モンスリーさんが入門者ってことはないと思いますが・・
機会があれば読んでみたいですけど、自分には難しいかもしれないと勝手に怖れています。
プログレ本だと読者も知識が豊富な人が多いですから、あまりゆるい内容だとなめられてしまうのではないですかね。
このポール本はそこまで緊張感のある編集ではなく、気楽に読めました。
2015年の電脳空間事情を勘案して、SNSで拡散せよということだと思います。(適当)

投稿: SYUNJI | 2015.11.23 20:03

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