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聴いてみた 第124回 ローリング・ストーンズ その15

50年も活動していれば、作品ごとの出来や評価もいろいろ格差があって当然のストーンズ
今回は数あるアルバムの中でも最も問題作とされる「Their Satanic Majesties Request」を聴いてみました。

Satanic

「Satanic Majesties」と略して呼ばれるこのアルバム、1967年の作品。
制作開始直後にミックとキースとブライアンが麻薬所持で逮捕される(キースは無罪)というアクシデントの中、クスリにまみれながらもなんとか作り上げたという因縁の名作である。
メンバーが相次いで逮捕されてもアルバムは出たのだ。
今では考えられないし、日本では飛鳥涼のCDが店頭から引っ込められたことも記憶に新しい。
クスリをやったミュージシャンは人格から作品までまるごと否定されるのが21世紀の日本である。(どうかと思うが)

そんな問題作「Satanic Majesties」、内容も極めて実験的で評価は今も二極化してるらしい。
ちなみにXTCのアンディ・パートリッジはこのアルバムについて「ずば抜けて大好きなサイケデリックレコード」と絶賛してるそうだ。
アルバムの存在はうっすら認識していたが、こうした背景や評価については今回調べてみて初めて知った、という状況。
曲目を見ても知っている曲は全くない。
果たしてどんな音がするのでしょうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Sing This All Together(魔王賛歌)
オープニングはガヤガヤした感じで始まる。
冒険アニメのテーマソングのような曲だ。
あちこちからいろいろな音が聞こえ、実験的な香りがする。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーがコーラスで参加してるそうだが、残念ながら注意して聴いても二人の声はわからない。

2. Citadel(魔王のお城)
前の曲のノリをふまえたサウンドだが、楽器の音はブルース寄りだ。
ある意味この曲が正調ストーンズサウンドに一番近いかもしれない。

3. In Another Land
どこか初期のパープルを思わせる妙な音がする。(知ったかぶり)
暗いボーカルはビル・ワイマンだそうだが、この曲も言われなければおそらくストーンズだとはわからない。

4. 2000 Man
アコースティックギターとドラムのシンプルなフォーク、続いてエレクトリックなブギー調の二部構成だが、これはどちらもなかなかいい。

5. Sing This All Together (See What Happens) (魔王賛歌・二部)
いろいろなサウンドが延々流れるクスリっぽい曲。
長い。
月並みだがやはりビートルズの「Revolution9」を思わせる。

6. She's A Rainbow
名曲とあがめる記述がネット上にたくさんあったので、期待して聴いてみた。
イントロは少しごちゃごちゃして気持ち悪いが、本編?はピアノの調べにミックのボーカルと女性コーラス、ストリングスがマッチしていて非常にいい。
どこかで聴いたことがあるような・・と思ったら、昔iMacのCMで使われてたんですね。
この曲にはジョン・ポール・ジョーンズもアレンジで参加しているそうだ。

7. The Lantern
前の曲のエンディングに重なる形で始まる。
リズムはやや遅いが、印象は「She's A Rainbow」に似ている。
ちょっとつかみどころのない曲だ。

8. Gomper
インドっぽいリズムにサイケなキーボード。
ミックの控えめなボーカルは前半だけで、後半はやはり薬香高い音が絶え間なく流れ、逆回転と不協和音。

9. 2000 Light Years From Home(2000光年のかなたに)
これもけだるいリズムにブライアンの怪しいメロトロン、脈絡のない構成。
だんだん難しくなってくる。

10. On With The Show
楽曲としてはちょっとオールドな雰囲気。
ミックの投げやりなラップっぽいボーカルと人々のざわめきが交差して、古い映画の音声みたいなイメージ。
唐突に終わるので、置き去りにされた感が満載。

さて聴き終えた。
評判どおりサイケでケミカルでフラワーなサウンドが全体を覆う。
ロックンロールやリズム&ブルース、ミックの猥雑なシャウト、キースのガラ悪いカッティングといったストーンズの得意技はほとんど表面には出てこない。
ゆがんだりひねったりのヘンなアレンジも多く、ヴァニラ・ファッジヤードバーズを思わせるような音だ。
60年代のレコードなんでそういうもんなのかもしれないけど、全般的に音が曇っていてAMラジオのライブ番組のように聞こえる。

それでも中盤までは変わった曲も多いながらもなかなか楽しい。
特に「2000 Man」「She's A Rainbow」など他のアルバムでは聴けないようないい感じの曲がある。
後半はサイケ色が一段と強まり、かっこいいとも楽しいとも思えないサウンドが続くので、正直飽きる。
慣れないプログレを聴いた時の感覚に近い。

当時の世相を色濃く反映した実験的大作・・という評価がある一方、あっさり「駄作」「大失敗」と切って捨てられたり「存亡の危機」「バッド・トリップ」「中途半端」などと酷評もされたようだ。
ストーンズのメンバーは誰も「Satanic Majesties」を気に入っておらず、本国イギリスでもシングルカットは1曲もなく、収録曲をライブで披露したこともあまりないそうだ。
なのでストーンズのみなさんとしても「やっちまった」状態のクールポコ的作品で、なかったことにしたい経歴なのかもしれない。
この後ストーンズはプロデューサーにジミー・ミラーを起用し、原点回帰盤「Beggars Banquet」を発表する。
胸をなでおろしたファンも多かったことだろう。

ウンザリするほど比較されたビートルズとストーンズだが、この「Satanic Majesties」もどうしてもビートルズの「Sgt. Pepper's」と比べられることが多く、結局は「Satanic Majesties」のほうが分が悪いらしい。
なお両方のアルバムジャケットの写真を撮影したのは同じ人物で、「Satanic Majesties」にはビートルズの4人の顔がコラージュされている。

ストーンズがビートルズの「Sgt. Pepper's」をマネて作ったのが「Satanic Majesties」だという説がある。
ネットの「Satanic Majesties」評を見ると「『Sgt. Pepper's』に強い影響を受けたことがわかる」「ビートルズへの対抗意識が色濃く表れている」などといった表現が目立つ。
うーん・・・どうなんだろう?それって本当なのかな?
これも当時のマスコミが相当あおっただけじゃないんだろうか?
メンバー同士は仲が良かったので、それぞれアルバム作成時にアイディアや情報を交換していた、という程度じゃないかとも思うのだが・・
個人的には「Sgt. Pepper's」は子供の頃から聴き慣れたアルバムなので、公平に比較するにもムリはあるのだが、「Satanic Majesties」はさすがに作り込みの緻密さにおいて「Sgt. Pepper's」にはかなわないように思う。

他のアルバムとは決定的に異なるということは、万年ド素人の自分にもわかった。
変な話だが、今聴いておいてよかったと思う。
もしこのアルバムをストーンズ鑑賞として最初にチョイスしてしまったら、その後の展開はかなりマズイことになっていたはずである。
おそらくは「なんじゃこれは・・こんなん聴いてられへんわ」と感じてストーンズはそれっきりになっていた可能性が高い。
未だストーンズ初心者感覚から全然離脱もしていないけど、ある程度ストーンズの名盤を聴いておいたからこそ、多少余裕を持って鑑賞できたと確信する。
間違いなくストーンズ入門編ではないアルバムである。

というわけで、「Satanic Majesties」。
正直好みの音楽ではありませんでしたが、ストーンズの多面性がさらにわかって勉強になりました。
なお60年代の未聴作品は「Out Of Our Heads」「Between The Buttons 」「Flowers」が残っているので、どれかを聴いていこうと思います。

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
奇遇ですけど、私も最近このCDを東京に行ったときに買いました。
実はなんとなく欲しくなったものですから(笑)。

有名だけど聴いていないってのは数多くあって
中々CDも買わなくなってきたのですが
私的には夏はやっぱりストーンズなのです・・・(意味不明)

気になったのは一曲目の変なテンションの感じが
「えっ、これもストーンズ」って思いましたが、他の
「シーズ・ア・レインボウ」も「2000光年の彼方」もいい曲だと思います。

>「ビートルズへの対抗意識が色濃く表れている」などといった表現が目立つ。
対抗したが相手にもされなかった・・・って感じでしょうか?
「サージェント~」はサイケな部分もあるがそれ以上のトータル的なポップスの印象が強いです。
外道さんに言ってもらいましょう・・・
「レヴェルが違うんだよぉぉぉぉぉぉ~」って。
(ストーンズファンの皆様ごめんなさい・・・)

投稿: bolero | 2015.08.02 17:30

ボレロさん、コメントありがとうございます。

>奇遇ですけど、私も最近このCDを東京に行ったときに買いました。

おお、まさに奇遇ですね!
と言っても実はあたしは図書館で借りたんですけど・・(貧乏人)

>「シーズ・ア・レインボウ」も「2000光年の彼方」もいい曲だと思います。

「She's A Rainbow」は確かに名曲ですね。
アルバムとしては難しいですけど、この曲があって救われた気がします。

>「サージェント~」はサイケな部分もあるがそれ以上のトータル的なポップスの印象が強いです。

そうですねぇ・・
「Sgt. Pepper's」も人によっては「ヒット曲がない」「変な曲ばかり」といった評価にもなるようですが、ポップスの基盤を保持しながら最大限の実験を試みている点ではやはり名盤なんだと思いますね。
素人考えですけど、「Satanic Majesties」ももう少しR&B色を濃くしておけば、評価はまた違ったんじゃないかと思います。

投稿: SYUNJI | 2015.08.02 20:21

こんばんは,JTです。

このアルバム、高校生の時ヘッドフォンで聴きながらよく爆睡してました(笑)。アナログの各サイドの最初の方は起きてるんですけど。

実家離れてから、かなり長い間聴いてなくてCDを中古屋で探していたのですが、つい一ヶ月前に見つけて購入しました。奇遇ですね。

で今聴くと楽曲もそんなに悪くなく、最後まで起きて聴けました。「ペパーズ」よりサイケ度は強いですね。どっちかというと「ミステリーツアー」に近いかと。

しかし、ビートルズもストーンズも1968年に入るとパタッと、サイケな音作りをまったくやらなくなる。1967年という年が生んだ産物だった?

>なお60年代の未聴作品は「Out Of Our Heads」「Between The Buttons 」「Flowers」が残っているので、どれかを聴いていこうと思います。

実は私、「サタニック・マジェスティーズ」より前のアルバムはベスト盤だけで済ませて、オリジナルアルバム聴いたことありません(汗)。V.J.さんに怒られそう...。


投稿: JT | 2015.08.03 00:01

JTさん、こんばんは。

>つい一ヶ月前に見つけて購入しました。奇遇ですね。

これまた奇遇ですね!
ブーム再燃の予感がします。(適当)

>「ペパーズ」よりサイケ度は強いですね。どっちかというと「ミステリーツアー」に近いかと。

言われてみるとそんな気もしますね。
ただ「Magical Mystery Tour」もサイケ一辺倒でなく「Hello Goodbye」「Penny Lane」「All You Need Is Love」といった美しいメロディの曲がほどよく散りばめられているところがやはりビートルズですね。

>実は私、「サタニック・マジェスティーズ」より前のアルバムはベスト盤だけで済ませて、オリジナルアルバム聴いたことありません(汗)。

ここに一番驚きました。
本当ですか?
JTさんでもそんなことがあるんですね。
「12×5」「Aftermath」は良かったですよ。(偉そう)
V.J.若に気づかれる前に、こっそりぷく先輩に借りて聴いておいたらどうでしょう?(勝手)

投稿: SYUNJI | 2015.08.04 21:03

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