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聴いてない 第197回 エニグマ

今日採り上げるエニグマ、少なくともロックやメタルとは全く違うジャンルのはずである。
プログレが若干近いような気もするが、ヒーリングとかグレゴリオ聖歌といったキーワードで紹介される音楽である。
そもそも自分はヒーリングなミュージックをたしなむガラではないですが・・・

エニグマ、実は2曲ほど聴いている。
聴いたのはNOW2という名のオムニバスCDに入っていた「Return To Innocence」。
エニグマの代表曲であり、日本でも知っている人は多いと思われる。
もう1曲「Beyond The Invisible」も聴いたことがあり、聴いてない度は3。

さてエニグマ。
ヘンな名前だが活動も実績もかなり変わっていて、ナゾの多い不思議な団体のようだ。
エニグマという言葉も「謎」という意味があるとのこと。
中心人物はマイケル・クレトゥという人だが、エニグマはバンドというよりはプロジェクトユニットのようなゆるやかな集団で、様々な人たちが参加してきたらしい。
というわけで、謎のエニグマを秘密裏にネットで調査。

マイケル・クレトゥはルーマニア出身で、もともとはクラシックのピアニストを目指していた。
70年代後半頃から西ドイツでスタジオ・ミュージシャンやアレンジャーを始め、ヒューバート・カーやマイク・オールドフィールドのアルバムのプロデュースを手がける。
90年に元アラベスクのサンドラ・アン・ラウアーとともにエニグマとして「Sadeness PartⅠ」を発表。
この時点ではエニグマの正体は明らかにされておらず、その後も謎の音楽集団としてアルバム「MCMXCa.D.(サッドネス:永遠の謎)」や「The Cross of Changes」をリリースした。

「The Cross of Changes」のライナーで参加メンバーが明らかになり、エニグマはようやく正体を現す。
その後は数年おきにアルバムを発表。
マイケル・クレトゥが中心であることは変わらず、アルバムごとに参加メンバーは異なるが、参加人数は減少傾向にあるようだ。
1枚のアルバムにかける制作期間が2年から4年と長く、またエニグマとしてライブは行ったことがない。
「イメージを大切にしたい」との理由からだそうだが、スタジオで作った楽曲の再現が大変だからということもあるらしい。
果てしなくインドアなユニットである。

で、自分が聴いた「Return To Innocence」という曲については、権利関係をめぐるトラブルがあったことでも有名である。
このことは2曲しか聴いてない自分でもうっすらと知ってはいた。
ネットで調べると、細部には違いも見られるが、このトラブルについての記述はすぐに多数見つかる。

大まかに言うと以下のような経緯のようだ。

台湾先住民アミ族のディーファン(日本統治時代の名前は郭英男)という人が歌う民族音楽が、主にヨーロッパの音楽専門家の間で評判となり、氏は1988年にはフランスで公演も行った。
このディーファン氏の歌を、フランスの教育省が氏に無断で録音。
(実際に録音したのはテレビ局・大学教授など諸説あり)
教育省はその音源を使って台湾原住民民謡CDを発行したが、ライナー等にディーファン氏らに関する記載は一切なし。
さらに教育省は音源をこれまた無断でEMIに売却。
エニグマはEMIから許諾を受け、権利関係はクリアなものだと認識して「Return To Innocence」に音源(ディーファン氏の歌う「老人飲酒歌」)を使用。
「Return To Innocence」はアトランタ・オリンピックのプロモーションにも使われ、世界中でヒットした。

ディーファン氏は著作権侵害であるとエニグマやEMIを相手に訴訟を起こす。
その後和解が成立し、EMIからディーファン氏にはダブルプラチナムが贈られることとなる。
ディーファン氏はあらためて民族音楽を歌ったCDを発表し、世界にアミ族の音楽を広めるという長年の夢を実現した。
なおディーファン氏は2002年に亡くなっている。

ネットでは「エニグマ側にはディーファン氏の曲や歌声を勝手に使ったという意識はなかったと思う」といった記述が多い。
エニグマはEMIから許諾を受けて使ったのだから、EMIとフランス教育省の管理に落ち度があったことになる。
しかし、「知らなかったので許される」ということではないのが、著作権や芸術産業の難しいところだ。
まあ和解が成立してディーファン氏も自らの民族音楽CDを発表できたので、結果としてはよかったのではないだろうか。
見方はいろいろだと思うし、自分も別にエニグマを擁護する立場にはないのだが、おそらくエニグマ騒動がなければ、ディーファン氏の民族音楽を世界へ発信するという夢の実現については、もっとハードルが高かったはずである。

いずれにしても「Return To Innocence」、楽曲そのものに罪はなく、味わい深くいい曲だとは思う。
「老人飲酒歌」には歌詞がないので、民族音楽としてどんな意味が込められているのかは不明だが、ヒーリングというカテゴリーにあって何ら違和感はない。

聴いていたもう1曲の「Beyond The Invisible」はもっと悲しげなサウンドで、歌詞も抽象的で深いイメージである。
どちらの曲も好みかと問われると難しいが、悪くはない。
アルバムまるごと聴いていたら14分過ぎあたりで寝るような予感はしますけど。

ということで、謎の音楽集団エニグマ。
アルバムはベスト盤を含めて9枚発表されている。
たぶんベスト盤を聴いたら他のアルバムは聴かないような気がするので、聴くとしたら「Return To Innocence」収録の「Cross of Changes」が王道だとは思いますが、他のアルバムでおすすめはありますでしょうか?

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コメント

SYUNJIさん、おはようございます
エニグマは名前をどこかで聞いたような気がしていましたが、
90年代のバンドでしたか。
バンド名からしてプログレを想像させられますが、

>>ヒーリングというカテゴリーにあって何ら違和感はない。

全く違うようですね。私には難しそう(^^;)。
無理矢理70年代にからめますと、アルバム制作期間の長さは
もう少しがんばればボストン級になりますし、メンバーが
アルバムごとに異なるというのはスティーリー・ダン的です(^^;)。

ちなみに、「謎」めいたバンド名ということで以前から気になっていた
「? and The Mysterians」というのがあります。今回、アマゾン
で初めて試聴しましたが、これまた想像とは全く異なる
サイケ&ヒッピー風でした(^^;;;)

投稿: モンスリー | 2014.10.25 07:19

モンスリーさん、こんばんは。
エニグマ、自分からするとプログレもそう遠くない気がします。(どっちもよくわかっていない)

>メンバーがアルバムごとに異なるというのはスティーリー・ダン的です(^^;)。

ウィキペディアによれば、マイケル・クレトゥを含めてこれまでのエニグマ参加メンバー総数は16人となっていました。
この人たちもエニグマ・ファミリーとか呼ばれてるんですかね?
スティーリー・ダンはGoogleで検索するとメンバー画像が13人分出てきますね。多いなぁ。
ウォルター・ベッカーの顔写真がなぜか宮崎駿になってますけど・・

「? and The Mysterians」は初めて知りました。
少し試聴してみましたが、エニグマよりもずっとハードルが高いと感じます・・

投稿: SYUNJI | 2014.10.25 21:03

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