聴いてみた 第114回 ディープ・パープル その9
首都東京において、パープルを聴くといえばふつうは第2期の作品を鑑賞することを指し、広義では第3期も含まれる。
・・・などとエラそうに講釈たれてる自分も、最初に聴いたアルバムは実は第4期のものだったんだけど。
ということでツェッペリンよりもはるかに遅れているパープル学習講座なのだが、第2・3・4期をひととおり聴いたんでもういいかしらくらいに考えていた。
で、先日マルーン5なんか初めて買って聴いてみたのだが、その時同時に購入したのが実はパープルであった。
タイトルは「Shades Of Deep Purple」。
ディープ・パープルのデビューアルバムで、邦題は「ハッシュ」である。
(最初は「紫の世界」という邦題だったが、一度廃盤となっている)
値段は閉店セールでの値引きもあって倒錯の523円。
パープルの歴史がこの作品で始まったことくらいは知っていたが、曲は「Hush」しか知らない。
「Hush」も第2期以降のパープルの音楽とは違い、ハードロックの領域にはないものである。
なのでこれまで「ハードロックをやってない」第1期パープルにはあまり興味はわかなかった。
今回もたまたま閉店セールに行って安かったから買ったわよというウチの母親みたいな非常に失礼な動機である。
さてデビュー当時のメンバーは以下のみなさんである。
リッチー・ブラックモア(g)
ジョン・ロード(k)
イアン・ペイス(d)
ロッド・エヴァンス(Vo)
ニック・シンパー(b)
第1期のみ参加のロッド・エヴァンスとニック・シンパーについては、名前以外何も知らない。
パープル検定必勝のため、この二人について拙速に学習。
すると意外な経歴が浮かび上がってきたのである。(表現が安い)
ロッド・エヴァンスはパープル結成前はイアン・ペイスとともに「The Maze」というバンドを組んでいた。
ただしパープル参加順序はロッドのほうが先らしく、音楽雑誌にジョンとリッチーが出した「バンドやろうぜ」広告を見て応募してきたのがロッドであった。
オーディションでめでたくロッドは合格。
リッチーはイアン・ペイスのことを以前から知っており、ロッドにイアンを呼ぶように言い、すでに決まっていた別のドラマーがいないスキにイアンに採用通知を出したという、スタートから中二っぽい展開がやはりパープルである。
ロッド・エヴァンスは第1期の3作品制作に参加後、リッチーによってバンドを解雇される。
解雇後は元アイアン・バタフライのラリー・リノ・ラインハルトとリー・ドルマンと共に、キャプテン・ビヨンドというバンドを結成。
ここまではロッドの栄光の経歴として記される話だが、この後が非常に安っぽくも香ばしいあたし好みの展開。
本家パープルが分裂解散してるのをいいことに、80年になんとディープ・パープルを名乗り活動を開始したのである。
もちろんロッド以外のメンバーは全員別人(しかも見た目が似ている人を集めてみたという・・)。
このインチキパープル、ロッド自身が考えた企画ではなかったらしいんだが、結局ライブを見に来た客が怒って暴れたり本家パープル側から訴えられたりというコントみたいな騒動に発展。
敗訴したロッドは賠償に加えて印税の権利も剥奪され、芸能界から消えてしまったという、まさに一人でパープルというバンドを体現するかのような人生である。
ジョン・ロードはパープル結成以前にフラワーポット・メンというバンドを組んでおり、この時バックバンドを務めたメンバーにニック・シンパーがいた。
それ以前にもリッチーとも面識のあったニックのパープル加入はわりとすんなり決まったらしい。
しかしニックもロッドに続いてロジャー・グローヴァーと入れ替わる形でバンドを去る。
で、その後ウォーホースというバンドを結成するのだが、ネットで調べていくとこのウォーホースがなかなか評価が高いのである。
ウォーホースもパープル同様ハードロックに傾倒していったそうだが、このサウンドがかなりいいという話。
90年代にニックはミック・アンダーウッドやドン・エイリーとともに再結成クォーターマスに参加。
そして現在はウォーホースで一緒だったピート・パークスとともにグッド・オールド・ボーイズという5人組バンドでプレイしているそうだ。
やはりやってることはパープル血の掟のとおり離合集散なのだった。
ちなみにリッチーはニック・シンパーのベースはわりと高く評価していたが、その後の再結成パープルやレインボーでも呼ばれるのはロジャーばっかでニックを入れようよという話は全くなかったそうだ。
リッチーはロジャーのプレイについては長年苦楽をともにしてきたにもかかわらず全然気に入っておらず、いっつもダメ出しばかりしてたらしいが・・・
だいぶ前置きが長くなったが、とりあえずパープル夜明けのサウンドを聴いてみることにしよう。
果たしてどんな音楽なのでしょうか。
・・・・・聴いてみた。
1. And The Address
2. Hush
3. One More Rainy Day
4. Prelude: Happiness/I'm So Glad
5. Mandrake Root
6. Help
7. Love Help Me
8. Hey Joe
9. Shadows (Album Out Take)
10. Love Help Me (Instrumental Version)
11. Help (Alternate Take)
12. Hey Joe (BBC Top Gear Session)
13. Hush (Live US TV)
(9~13はボーナストラック)
うーん・・・
あちこちのサイトで見られる意見と同じになるが、感覚的にはヴァニラ・ファッジのような音だ。
しかもパープルもヴァニラ・ファッジ同様、ビートルズをカバーしている。
正直パープルの「Help!」はアレンジもいまひとつであまりいいとは思えないが・・
インストもカバーも多いし、サイケでキーボード中心のサウンドもヴァニラ・ファッジによく似ている。
年代的にもヴァニラ・ファッジとパープルの登場は1年くらいしか違わないようなので、当時英米ではこういう音がトレンドだったのだろう。
なお「Hush」もアメリカのジョー・サウスという人が作った曲のカバーである。
ジョンのキーボードがバンドを牽引しているのはよくわかる。
リッチーのギターはまだサウンドをサイドから支える状態であり、第2期以降の狂気はまだない。
ロッド・エヴァンスはギランのような尖ったボーカルではなく、わりと正統派な感じ。
あまり明るい声ではなく、どこか影のある渋い歌い手である。
「Hush」もなんとなく深夜にやってる古い映画みたいな雰囲気の曲で、第2期以降のパープルを思わせるところはほとんどない。
好みの点では第2期以降のハードロック路線には遠く及ばず、音楽性としては全く異なるが、ツェッペリン前夜としてのヤードバーズを聴いた時の感覚に近い。
当時の新人バンドのアルバム制作としてはよくあったことらしいが、録音にかかった時間はトータル24時間程度で、予算も全然なかったそうだ。
そのせいかどうか不明だが、なんとなく音もこもった感じであまりよくない気がする。
ジャケットはいくつか絵柄の異なるパターンがあるようだが、自分が買ったCDは紫を基調としたメンバーの写真と楽譜を上下にデザインしたものだ。
裏面ではリッチーがウルトラ警備隊のヘルメットみたいなヘアスタイルをしている。
パープルのイケてないジャケットはこの時からすでに始まっていたのですね・・・
ということで、「Shades Of Deep Purple」。
パープルの歴史学習教材としては必須の一般教養でしょうけど、感動はほとんどありませんでした。
やはり自分は第2期・第3期の狂気と軋轢と衝突に満ちた楽曲にこそパープルの価値を感じるようです。
第1期にはもう2枚アルバムがあるようですが、よほどの強い意欲がわかない限り、おそらく手を出すことはないものと思われます。
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コメント
SYUNJIさんこんばんは。
私も初期パープルは聴いてきましたがあまり感動というのは無いです・・・(笑)
持っていたのはオリジナル盤ではなくてCDの「パープルクロニクル」でした。初期3作品のベスト盤でしたね。
>曲は「Hush」しか知らない。
これは狼の遠吠えで始まるやつですね。
別バージョンとしてにわとりで始まるやつもあります。(ギランバージョン)別テイクでなにも入ってないやつもあります。
>すでに決まっていた別のドラマーがいないスキにイアンに採用通知を出したという
これってメンバーが使い走りさせて外出させている時だと思います(笑)まさに中学生の感覚ですね。
>やはり自分は第2期・第3期の狂気と軋轢と衝突に満ちた楽曲にこそパープルの価値を感じるようです。
(大爆笑)・・・同感です!!!!
ちょっとフォローしますと私が初期で一番好きな楽曲が
「小鳥は去った」っていう曲です。
投稿: ボレロ | 2014.03.03 00:08
ボレロさん、こんばんは。
>私も初期パープルは聴いてきましたがあまり感動というのは無いです・・・(笑)
やはりそうですか。(笑)
まあやってる人たちは同じですけど、ハードロックとは全然違う音楽ですよね。
>これってメンバーが使い走りさせて外出させている時だと思います(笑)まさに中学生の感覚ですね。
なんでもリッチーが先に決まってたドラマーにタバコを買いに行かせたという話のようですけど・・・
タバコ買って戻ったら「オマエはクビ」って言われたんですかね。(気の毒・・)
>ちょっとフォローしますと私が初期で一番好きな楽曲が「小鳥は去った」っていう曲です。
これ、調べたら3枚目のアルバムにある曲ですね。
なんだかパープルっぽくない邦題ですけど、聴きたくなってきました。
やはり第1期も全部聴かねばならないかな?
投稿: SYUNJI | 2014.03.03 21:33
SYUNJIさん、こんばんは。
パープルの黄金期が第2期であることは知っていましたが、
第2期と第1期でメンバーが異なるのは、記事を拝見して
初めて知りました。
第1期にはロジャー・グローバーがいないのですね。名作
「Live In Japan」でかっこいいリードベースを弾いた
グローバーのいないパープル・・・・第2期の成功はグローバーの
加入のおかげ、とパープルをろくに聴いてもいないのに
勝手に邪推してしまいます。
手持ちのベスト盤「Deepest Purple」(12曲入り)には、
このアルバムからの曲が入っていません。なんとなく、
パープルにおけるこの作品の立ち位置がわかるような
気がします。
>>感覚的にはヴァニラ・ファッジのような音だ。
バニラ・ファッジはカバーの天才(?)でしたから。
ちなみに再結成ファッジはZEPのカバーアルバムを出して
います。怖いもの見たさで聴いてみたいです(笑)
投稿: モンスリー | 2014.03.04 22:32
モンスリーさん、コメントありがとうございます。
>第2期の成功はグローバーの加入のおかげ、とパープルをろくに聴いてもいないのに勝手に邪推してしまいます。
いえ、見方によってはそれも当たりだと思います。
リッチーからは全然ほめられなかったというロジャーのベースプレイですが、この人はどっちかっつうとアレンジとか編集とかプロデュース業にチカラを発揮してきたと言われてますんで、ロジャーの功績は意外に大きいんじゃないでしょうか。
>なんとなく、パープルにおけるこの作品の立ち位置がわかるような気がします。
確かにそうですね。
自分もベスト盤から入りましたので、第1期は未だに知らない曲だらけです。
ちなみに現在は第9期らしいんですけど、6期以降はどの作品もあまり評価の対象になっていないようです。
>ちなみに再結成ファッジはZEPのカバーアルバムを出しています。怖いもの見たさで聴いてみたいです(笑)
え、そうなんですか?
でも確かに聴いてみたい気はするなぁ・・
後悔もするとは思いますが・・
投稿: SYUNJI | 2014.03.05 21:50
SYUNJIさん、こんばんは。
私もこの作品を聞くことが出来ました。
「ディープ・パープル」という偉大な名前をとりあえず抜きにして
聞くと、決して悪くありません。むしろよかったです!
ロードのオルガンプレイは、黄金期のインストパートを十分に予見させ、
多分ライブテイクの「スペーストラッキン」のアイデア(他のパートも含む)
はもう頭の中にはあったなと思わせます。
SYUNJIさんご指摘のとおり、ヴァニラ・ファッジのイギリスハード版
として楽しめます。
しかしおもしろいのは、
ボガード&アピスという強力なリズムセクションを擁して1stからいきなり
完成度の高かったファッジ、一方で1stはパッとしないながらその後世界的に
ハードロックの代名詞的存在に至るパープル。一体何が両者を分けたのか。
カバーも大げさ度もファッジの方ができがいいのに、です。
やはり、ロードという完成されたメンバーを核にして、ブラックモア
のギタリストとしての魅力の開化、そしてこれに拮抗するギランという
たぐいまれなボーカルの存在ということになるでしょうか。
パープルのほとんど話題に上ることがない1stを聞きながら、ファッジびいきの
私としては「無念!」と思った次第です。
ちなみに、パープルの方のカバーは「I'm So Glad」がよかったです。この曲
でのペイスのドラムはクリームのジンジャー・ベイカーを意識していたと思い
ます。
投稿: モンスリー | 2014.11.26 20:57
モンスリーさん、先日はお世話になりました。
>「ディープ・パープル」という偉大な名前をとりあえず抜きにして聞くと、決して悪くありません。むしろよかったです!
そうでしたか!
まあ自分も最初に聴いた時よりも徐々に抵抗は少なくなっています。
最近はむしろヤードバーズよりもなじんだ感じですね。
>一体何が両者を分けたのか。
>カバーも大げさ度もファッジの方ができがいいのに、です。
確かにそうですね。
好みは別として、楽曲のインパクトはヴァニラ・ファッジのほうが強かったですが、その後の展開は大きく違いますね。
ベックと組んでのBBAも短命に終わってますし。
メンバーの個性もありますけど、パープルの場合ギラン加入とともに路線を大幅に変更したことが吉と出たのは間違いないですね。
投稿: SYUNJI | 2014.11.27 22:06