読んでみた 第42回 ウィッチンケア
今日読んでみたのは「ウィッチンケア」。
失礼ながら自分は手にとるまで存在を全く知りませんでした。
みなさまはご存じでしょうか?
「ウィッチンケア」はいわゆるリトルプレスのインディーズ文芸創作誌である。
自分が購入したのはvol.3、2012年4月1日発行、A5判190ページ、定価980円。
版元は「yoichijerry (よいちじぇりー)」という出版社。
ISBNもとっているので、流通にちゃんと乗っている書籍であり、ABC本店や蔦屋代官山店など指定の書店に行くと置いてあるそうだ。
自分と「ウィッチンケア」の出会いは偶然の連続である。
昨年11月に奈良に紅葉を見に行き、宿がある梅田に戻る手前で中崎町というところに立ち寄った。
梅田のとなりなのだが、最近は小さな雑貨店やカフェなどが増えて若い人に人気の街である。
個人的な印象では、東京では根津や谷中が近い雰囲気だと感じる。
で、中崎町のリトルプレス専門書店「Books DANTARION」をたずね、そこでたまたま「ウィッチンケア」を手に取ったのである。
特に表紙や見出しにひかれたわけでもなく、目の前にあったから取っただけだった。
パラパラめくっていくと、書き手の中に見覚えのある名前を発見した。
自分ではなく妻の知り合いなのだが、ライターとして名の知られた人であり、自分も名前を覚えていたのだ。
妻に確認したらやはりその人だった。
「へぇーこんなところにも書いてるんだ。偶然だね」と言うので、じゃあ買っていこうかということになった。
ところがオカネを払っていると店の人から「この店は明後日で終わりなんですよ」と言われた。
えっそうなの?
じゃあもし自分が大阪に来るのが一週間遅かったら、ここでこの本を手に取ることはなかったんだ・・
せっかく来たのに明後日で終わりとは残念な話だったが、店に来て本が買えたのはよかったと思った。
家に帰ってから、実は「ウィッチンケア」のことは放置していた。
忘れたわけではなかったのだが、まあそのうちゆっくり読めばいいやと思っていたのだ。
ところが2月になって妻があのライターさんも含めた昔の知り合い達と会うと言う。
そうかい、じゃあその人の書いた文章だけでも読んでみるかな。
別に自分の直接の知り合いではないんで、自分が読んでも何か話がつながるというわけでもないんだが、読むきっかけになったのは確かだ。
妻はそのライターさんと会った時に、「ウチのだんなが大阪のリトルプレス書店で偶然あんたの名前を見つけて本買ってたよ」みたいな報告をしたそうだ。
ライターさん本人はたくさんの著書や寄稿がある人なのだが、その中から偶然手にした「ウィッチンケア」で自分に名前を見つけられたことはかなり驚きだったらしい。
ということで前置きが異常に長くて恐縮だけど、このような経緯で読むことになった「ウィッチンケア」。
ちなみに「ウィッチンケア」というタイトルは、「キッチンウェア」のKとWを入れ替えた造語とのこと。
果たしてどんな本なのでしょうか。
・・・・・読んでみた。
目次は以下のとおり。
006……中野 純/美しく暗い未来のために
014……仲俣暁生/父という謎
020……久保憲司/僕と川崎さん
030……かとうちあき/台所まわりのこと
036……池本良介/Bearpark ?Prefab Sprout と私
044……小田島久恵/スピリチュアル元年
050……武田 徹/お茶ノ水と前衛
054……栗原裕一郎/あるイベントに引っ張り出されたがためにだいたい三日間で付け焼き刃した成果としての「BGMの歴史」
064……浅生ハルミン/あの子
074……多田洋一/きれいごとで語るのは
080……藤森陽子/4つあったら。
084……吉永嘉明/ブルー・ヘヴン
098……大西寿男/棟梁のこころ ─日本で木造住宅を建てる、ということ
108……我妻俊樹/たたずんだり
114……木村カナ/パンダはおそろしい
120……稲葉なおと/段ボール
128……澤 水月/怪談問わず語り
134……友田 聡/手前味噌にてございます
140……やまきひろみ/小さな亡骸
148……高橋宏文/ブルー・ナイルと出逢った人生
154……木村重樹/更新期の〝オルタナ〟
164……多田遠志/電話のお姉さん
186……参加者のプロフィール
感想。
・・・・・非常におもしろい!
文芸誌なんて全然読まない自分にとって、こんなことは滅多にないのだが、どの文章も作品も、非常に読みやすく楽しく、感動する。
もちろん中にはテーマが自分とは無縁の内容だったり難解な話だったりもあるにはあるが、トータルで考えた時に、この物量でさほど拒絶感を覚えなかったのは非常に珍しいことである。
20人くらいの書き手が、エッセイや小説や対談など思い思いの文章を寄せているのだが、自分が詳しくない分野(ほとんどそうだけど)でも、あまり「置いていかれた」感がない。
インディーズ文芸誌などと書いてあるから全然期待してなかったんだが、これはものすごい収穫である。
エッセイやインタビュー形式の記事はどれもおもしろいが、いくつか小説(ショートショート)もあり、これがまたどれも味わい深くいい作品だ。
ひとつ気づいたのだが、どうやら書き手に自分と同世代の人がわりといるようだ。
文章の中に年齢や世代の情報がはっきりとは書いていなくても、少し読んでいくとなぜか感覚的に「この人はたぶん歳が近いのでは?」と思えることが多く、実際プロフィールを見るとその通りだったりする。
このあたりの世代観の勝手な共有が、文章や書き手に対する親近感にもつながり、ストレスなく読み進むことができたんじゃないかとも思う。
200弱のページ数なのでどの文章もコンパクトで、この点も読みやすさにつながっている。
判型もA5で小さく、書籍や雑誌というよりブックレットな体裁なので、物理的に軽いというのもありがたい。
さてこの記事を書いている最中、さらに後日談があった。
くだんのライターさんにまた妻が会う機会があり、妻はご本人からvol.2をいただいてきた。
今回読んだVol.3は昨年発行で、vol.4は来月発行されるそうだ。
まだ読んでいないが、前後の号も楽しみである。
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