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聴いてみた 第93回 レインボー その7

ここんとこベックストーンズを精力的に聴くようにしてましたが、さすがにムリしてるところもあって少々疲れ気味。
そこで肉体疲労時の栄養補給バンドとして名高いレインボーを聴くことにしました。
レインボーの音はやはりどこか不思議に落ち着くというか、あたしにとっては心のふるさとミュージックとして効果を発揮するのです。

そのレインボー、ようやく最後のスタジオ盤までたどりついた。
83年のアルバム、「ストリート・オブ・ドリームス」。
同名のシングルも収録されているが、原題は「Bent Out Of Shape」。
厳密にいうと再結成パープルの後にリッチー御大はブラックモアズ・レインボーを結成しているが、メンバーは全く違うし、セールス的にはサッパリだったので、ファンの間でもレインボーの歴史はこの「Bent Out Of Shape」で終わりとする、というのが暗黙の了解事項だ。

Streetofdreams

メンバーは世界の御大リッチー・ブラックモア、ベース兼プロデューサーの好々爺ロジャー・グローバー、鍵盤の正社員デビッド・ローゼンタール、ふつうの顔面ドラマーのチャック・バーギ、そして北キツネ系哀願ボイスボーカリストのジョー・リン・ターナーである。
前作でドラムを叩いていた大顔面ドラマーのボブ・ロンディネリが「バンドに合わない」というリッチーの裁きによりクビになり、チャックが登場している。
ちなみにデビッド・ローゼンタールとチャック・バーギの二人は、レインボー解散後はそろってビリー・ジョエルのツアーサポートメンバーも務めていて、2008年の日本公演にも同行しているそうだ。

そもそもジョー時代の3枚のアルバムは、80年代アメリカ市場向けの左ハンドル的チャラいサウンドのため、日本での評判は良くないとされている。
しかもこのアルバム発表のあと、ご存じのとおりリッチーがパープル再結成のため株式会社レインボーをたたんでしまい、そっちの話のおかげでこのアルバムの評価もろともふっとんでしまったという不運な作品でもある。
もっとも自分はそんな世間の評価なんか全く気にしてないので、今回も聴く前の不安は一切ない。
果たしてあたしは左ハンドルなレインボーのサウンドを堪能できるでしょうか。

・・・・・聴いてみた。

1. Stranded
評判どおりフォリナーっぽい神経質サウンドでスタート。
ボーカルがルー・グラムに替わったとしても何の違和感もないだろうという曲。

2. Can't Let You Go
イントロはELPのようなパイプオルガン。
雰囲気はわりと初期の中世様式美楽曲に近く、ジョーも心なしかロニーのように吠える部分がある。
間奏でのリッチーのギターは驚くほど短いし、エンディングもわりと淡泊にフェードアウト。

3. Fool For The Night
これぞ80年代アメリカのふつうのロック。
嫌いな路線ではないけど、あーあーこんな音なら何もレインボーでなくたってなぁ・・という感じ。
御大のギターは意外にキーが低く、ますますレインボーの特徴が霞んでいる。

4. Fire Dance
疾走感に満ちたレインボー本領発揮の名曲。
ノリは「Kill The King」と同じで、ジョーはどう考えてもロニーの歌い方を意識してるとしか思えない。
つうかこれロニーが歌ってたらきっと後世に残る名曲だったんじゃないの?
でもジョーもこんな曲をここまで歌えるとは思わなかった。

5. Anybody There
もの悲しいキーボードとリッチーのむせぶギターがからむインスト。
レインボーはたまにインストがあるが、この雰囲気は結構めずらしい。
ラストは賛美歌のような旋律で終わる。

6. Desperate Heart
「Stone Cold」を少し力強くしたようなナンバーである。
ここでもジョーの歌い手としての力量が最大限に発揮されており、名門バンドのボーカルを務めるプライドが感じられるようだ。

7. Street Of Dreams
アルバム中、リアルタイムで聴いていたのはこの曲だけ。
楽曲にそれほど凝った演出などはないが、ジョーの情けなく哀れなボーカルが最も光る名曲である。
このヒトはやはり低い声で吠えるより、高いキーでサビを歌うほうがいいとつくづく思う。
ただリッチーのギターワークが思ったほど頭に残らない・・・
なおヨーロッパの「ファイナル・カウントダウン」はどこかこの曲に似ていると思う。

8. Drinking With The Devil
第3期で顕著になってきたアメーリカンなロケンローサウンドそのもの。
安いLAメタルみたいでファンクなんだが、むしろこの曲のリッチーが一番はじけていて良い。
ジョーも器用に歌いこなしてるけど、これはやっさんが歌ったほうがおもしろかったかもね。

9. Snowman
再びインスト。
「どんぱぱぱ・どんぱぱぱ」と重たく繰り返されるリズムにキーボードとフルートのような調べ。
そこにリッチーの粘るギターが登場する。

10. Make Your Move
ラストはハイスピードの80年代ポッピーなロック。
ジョーはわりと軽めにのびのび歌っていて、リッチーのギターもナイト・レンジャーみたいに聞こえる。
もちろんこのノリは好きだが、一方で「いやーすいませんレインボーも来るところまで来てしまいまして・・」となぜか頭を下げたくなる妙な感覚。
しかもエンディングの処理がけっこう雑で、せっかくリッチーのギターがぱりぱり鳴ってるのにすうっとフェードアウト。
平日昼間に聴くCM手前のAMラジオ番組のようで、これはもう少し丁寧に作って欲しかったなぁ。

さて、これでレインボーのスタジオ盤は全て聴き終えた。
このアルバムには思ったよりいろいろな曲がある。
第1期のような中世様式美メロディもあれば、インストありフォリナーありナイト・レンジャーあり。
日本での評判は良くないという話だが、自分としては充分楽しめる内容だ。
大半の曲はリッチーとジョーの作品であり、たまにデビッド・ローゼンタールやロジャー爺さんの名前がクレジットされている。

通して聴いてみて感じるのは、このアルバムでジョー・リン・ターナーの歌い手としての才能が最高地点に達していることだ。
この数年後にパープルに加入した時にはすでにジョーの声ははっきりとヘタリが来ており、ボーカリストとしての頂点がレインボー末期にあったことがよくわかる。
吠えるおっさんロニー・ジェイムス・ディオや、叫ぶやっさんグラハム・ボネットという人間ばなれしてる二人のボーカリストに比べ、どうしても見劣り聴き劣りしてしまうジョーだが、レインボーのラストアルバムにおいて、器用に各曲を歌いこなしている。
もともと線の細い哀れな声が魅力なんだが、「Can't Let You Go」「Desperate Heart」のような重厚な曲も、「Drinking With The Devil」「Make Your Move」といったチャラい80年代ポップも、違和感なく聴けるのは素晴らしいと思う。

一方でリッチーのギターは案外抑えめで、ソロもなんとなく短い気がする。
第1期でのキーボードやドラムとのバトルもあまりなく、パートに関してはメンバーの一人としての存在感しか感じない。
これは比較的第3期のアルバムに共通しており、方向性としてリッチーはこれをよしとしたのだろう。
それでも作品のクオリティは非常に高い。
第3期の3枚の中ではこの「Bent Out Of Shape」を最も高く評価したい。

さて、パープルよりはマシだけどそれほどイイとも思えないレインボーのアルバムジャケット。
このアルバムも女性がびろーんとゆがんだ壁の穴?から姿を現すという、怖くないオカルト映画のパンフみたいな絵なんだけど、微妙すぎて評価のしようもない。
裏ジャケットではその女性の足が長く伸びてゆがんでねじれていて、でもそれが何か?という感じ。
パープルのようなおポンチな絵ではないのでツッコミにくいし、「アイ・サレンダー」のようなステキなアートとも言い難い。
デザインはヒプノシスだそうですけど。

というわけで、レインボー最後の作品「Bent Out Of Shape」。
これは良かったです。
パープル再結成の話題にばかり注意が行ってしまい、当時きちんと聴いてなかったのは悔やまれるところです。
そのパープルもまだ聴き残してるアルバムがありますんで、もう少し補習しておこうと思います。

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コメント

SYUNJIさんこんにちは。
このアルバムは思い入れあります。
何故かと言うとレインボーはこの作品から入ったもので・・・(超後追い谷間世代です)

SYUNJIさんが書かれているとおり完成度が高いと思いますね。
リッチーは自己主張を抑えてバンドとしての完成された作品、私の感想です。
それが面白くないと言えばそれまでですけど(笑)

一番のお気に入りは【スノーマン】です。
リッチーにしては珍しくエフェクト処理したギターソロ・・・
多分、フランジャーとディレイ処理なのかなぁ~(残響)
リッチーのソロでは【バビロンの城門】と【ミストリーテッド】と同じ位好きなソロです(笑)

投稿: ボレロ | 2012.06.11 11:02

ボレロさん、コメントありがとうございます。

>何故かと言うとレインボーはこの作品から入ったもので・・・(超後追い谷間世代です)

おや、そうでしたか。
自分もリアルタイムは「アイ・サレンダー」からですが・・

>リッチーは自己主張を抑えてバンドとしての完成された作品、私の感想です。
>それが面白くないと言えばそれまでですけど(笑)

同感ですね。
御大のギターが聴きたかった人には物足りないんでしょうね。

>一番のお気に入りは【スノーマン】です。

意外な選曲(笑)。
レインボーのインストってあまり共通性ないですよね。
リッチーのギターとしては、このアルバムでは「Drinking With The Devil」が好みですね。

投稿: SYUNJI | 2012.06.12 22:39

> ファンの間でもレインボーの歴史はこの「Bent Out Of Shape」で終わりとする、

さいざんす。

> 第3期の3枚の中ではこの「Bent Out Of Shape」を最も高く評価したい。

全く同意見。意見が合うのは珍しい。いいアルバムです。でも、ちょっとインパクトに欠ける・・・

投稿: ルドルフ | 2012.06.16 07:17

ルドルフさん、コメント感謝どす。(京都弁?)

>全く同意見。意見が合うのは珍しい。いいアルバムです。でも、ちょっとインパクトに欠ける・・・

第3期全体がそんな感じですね。
シングル志向というか、80年代全般に言える傾向かもしれませんけど。
全アルバムを聴いてみて、一番いいと思うのはやはり「虹を翔る覇者」でしょうか。

投稿: SYUNJI | 2012.06.16 21:10

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