聴いてみた 第92回 ローリング・ストーンズ その6
中年になってから合宿免許みたいに急いでストーンズ学習してる状態ですが、今日は80年代の問題作「ダーティ・ワーク」を聴いてみました。
「ダーティ・ワーク」は86年の作品。
ファンの間では常識のようだが、ミックとキースの仲が最も悪い時に作られ、キース主導で進められたアルバムとされる。
このアルバム作成の前後にミックはソロアルバム作成も行っており、バンド活動を軽んじたミックの考えや態度にキースがキレた、という図式らしい。
ストーンズとしては異例だそうだが、ロン・ウッドがクレジットに名を連ねた曲もいくつか存在する。
また後年明らかになった話だがチャーリー・ワッツは当時アル中で治療が必要な状態にあり、メンバーそれぞれが一致団結とはほど遠い中で作られたという因縁のアルバムである。
プロデューサーは80年代の洋楽界には欠かせない存在であるスティーブ・リリーホワイト。
自分は当時、このアルバム(確かまだLPだった)を吉祥寺にあった友人のアパートで一度だけ聴いたことがあった。
今回26年ぶりに聴くことになったのだが、CDは三軒茶屋で中古購入。
特にキズや傷みがあったわけでもないのに、値段は驚きの500円。
この中古市場における500円という値段が、なんとなく世間での人気を表しているのではないかとぼんやり思った。
安心材料としては、リアルタイムで聴いていた「One Hit」「Harlem Shuffle」が収録されていることだ。
特に「One Hit」はストーンズの曲の中で一番好きだ。
まあこんな感想自体がすでにド素人なんだが、とにかく聴いてみることにした。
・・・・・聴いてみた。
1. One Hit (To The Body)
ギターのじゃらーんとした粗野なサウンド、ミックの終始不機嫌なボーカル、ヤケクソなドラム。
70年代の音を継承しつつ、80年代のチャラい音もまざっていい感じである。
後から知ったのだが、ギターでジミー・ペイジが参加しているそうだ。
なお当時FMでエアチェックしたのはロング・バージョンだったようで、イントロの本編までの長さやアウトロがアルバム・バージョンよりも長い。
2. Fight
1曲目よりもさらにテンションの上がったロックナンバー。
やはりストーンズではこういうノリが自分は好きである。
3. Harlem Shuffle
これも当時FMでエアチェックしたヒット曲。
ただ好みかというとやや微妙。
オリジナルではなくカバーだそうだ。
訳詞を見たけど、そもそも「ハーレム・シャッフル」の意味が不明。
「そうだ、いいぞ、ハーレム・シャッフルをやってくれ」って、全然訳になってないんですけど。
4. Hold Back
再びばしばしと叩きつけるドラムに重いギター、吠えるミック。
ただボーカルがない部分だけ聴くと、どこかアメリカのメタルバンドっぽい音がする。
歌詞は命令形が多く若干説教くさいが、「人生を大切にしろ」「大胆になれ」といった相反する指示が繰り返される。
「Hold Back」を「おさえろ」って訳しているけど、合ってるのか?
5. Too Rude
これも彼らのオリジナルではなくカバー。
レゲエのリズムに乗せて遠くからエコーをかけて歌う不思議な曲。
6. Winning Ugly
いかにも80年代な音だなぁ。
リズムの取り方とかバックコーラスとか、ストーンズでなくても聴けるサウンドに、ミックが無理矢理ボーカルを乗せている感じ。
7. Back To Zero
前の曲よりもさらにチャラい。
全体的にマイケル・ジャクソンみたいな造りなんだが、ミックの叫びでかろうじてストーンズであることを保っているという印象。
8. Dirty Work
再び「One Hit」路線に戻る。
「One Hit」もそうだが、この曲もミックとキースに加えてロン・ウッドがクレジットに記載されている。
ということは、このノリはロン・ウッドの意向が働いているものなのか?
9. Had It With You
60年代のロカビリーみたいなリズムに、まさしくダーティでワルなミックの声が響く。
中盤でテンポがぐっと落ちる部分があるが、ここでのミックがすんげえ適当。
音もリズムもどうでもいいって感じでダラダラ歌い、再び元のスピードに戻る。
なおこの曲にはベースがないそうだ。
ビル・ワイマンは不参加?
10. Sleep Tonight
最後はキースのボーカルによる壮大なバラード。
このヒトは歌はうまいとは思わないけど、こういう曲をやらせるとビシっとはまるところはさすがだとあらためて思う。
海に落ちる夕日なんか見ながら聴くと最高だね。
全体として感じるのは、やはり80年代っぽいサウンドを採り入れているところだ。
コアなところにはもちろんストーンズならではの黒いリズムがあるのだが、他のアーチストでも聴けそうな音はそこかしこにころがってるという気がした。
なので自分のような80年代ミーハー中年リスナーにとっては、非常に聴きやすいアルバムである。
「One Hit」が一番好きだと宣言してきたが、これは全く揺るがない。
ただし。
60年代・70年代からのファンからはいまいち評判が悪いというのもわかる気がする。
どこかムリして80年代の音を追いかけたようにも思えるし、楽曲の雰囲気に構わず、ミックのシャウトはとにかくどれも傍若無人で尊大なので、作り込みとしてはやや中途半端なイメージもある。
2002年のベスト盤「フォーティ・リックス」には、「ダーティ・ワーク」からは1曲も収録されていないそうである。
なので感覚的にはジェフ・ベックの「フラッシュ」とかエイジアを聴いた時の喜びと後ろめたさに近い。
「80年代の恍惚と不安、二つ我にあり」である。(なんだそれ)
ジャケットにはドギツイ色の服に身を包んだメンバーが、バラバラな格好とイラついた表情で写っている。
なんか昔のベネトンの広告みたいなアートだが、このジャケットも嫌いではない。
ここでもキースが中心に位置しており、キース主導の作品であることを見事に表している・・・なんて評価が多いそうだが、どこまで本当なのかはわからない。
なお原語の歌詞カードは全部手書きで、裏にはヘタウマ(死語)な漫画がついている。
あくまで素人の憶測でしかないんだが、不仲の話もキース主導という設定も、もしかして全部ストーンズ側の演出だったりするんじゃないだろうか?
チャーリーのアル中状態や、ミックのソロ活動の谷間といった、事務所的にはやや不利な状況の中、一定のセールスを確保するためには、「不仲」「解散の危機」「キース主導」などといった話題づくりが必要とミックは考えた・・・なんて話だったんじゃないでしょうか?
何の根拠もありませんが、そんなことを思ったりしました。
というわけで、「ダーティ・ワーク」。
個人的にはかなり良かったです。
少なくとも自分にとっては、同じ80年代の「刺青の男」よりもはるかに聴きやすいアルバムだと確信しました。
ただこれがストーンズ本来の魅力だというわけでもないと思いますので、次は再び70年代の名盤に戻って学習を続けていこうと考えております。
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コメント
SYUNJIさんこんばんは。
【Darty Work】リアルタイムで聴きました・・・
これもなかなか聴かないアルバムですねぇー
私はジャケット写真のロゴが信号機の色なので
「シグナルアルバム」って呼んでました(笑)
好きな曲は【ダーティ・ワーク】かなぁー
ロック界最高のボーカルとギターが不仲です・・・
そんな状態でもアルバムが出来るって凄いです(笑)
多分、そんな事も話題にしようぜ!!っていう
側近たちの戦略もあったと思いますね。
実際に前作の【アンダーカバー】では
プロモーションビデオでテロリストのキースがミックを誘拐して殺害していますし(笑)
ジャケットはかっこよくて好きです。
【ONE HIT】を聴くと「あぁー80年代だなぁー」って思います。
投稿: ボレロ | 2012.06.02 23:58
ボレロさん、コメントありがとうございます。
>これもなかなか聴かないアルバムですねぇー
やはりそうでしたか・・
あたしはキライじゃないんですけど、ファンであるほど聴かないアルバムでしょうかね。
>ロック界最高のボーカルとギターが不仲です・・・
>そんな状態でもアルバムが出来るって凄いです(笑)
確かにそうですね。
まあロック界にはそもそも始終不仲でも作品を出し続けたパープルみたいな人たちもいますが・・・
>プロモーションビデオでテロリストのキースがミックを誘拐して殺害していますし(笑)
You Tubeで見てみました。
ストーンズのビデオは当時ほとんど見たことがありませんでしたが、こんなストーリー仕立ての映像だったんですね。
「One Hit」のビデオもキースがミックに向かってギターを振り回すシーンがありました。
やはりストーンズのイメージ戦略だったんじゃないかと思いました。
投稿: SYUNJI | 2012.06.03 18:06
オジキ。オツトメご苦労様です。
山羊に続きDirty Workたぁ、敢えてStonesを嫌いになるための苦行の様で、ある意味感動しております。
まぁ、全て、ゲートエコーの鬼。スティーブ・リリーホワイトのせいとも言えます。こいつの音作り=80年代って感じですよね(´Д` )
曲単位では、それ程嫌いでも無いのですが、いかんせん音が…
でも、ここで不仲で、最後の最後に30秒程収録されているピアノソロが、Stonesの絆を繋ぎ止めていた、スチュのPianoでして…彼がこのレコーディング中(だっけ?)に亡くなって、ミックとキースがあの状態でほぼ解散決定…状態で沈黙。。。その後、奇跡の再開~レコーディング風景が公開されて、感動のStill Wheels~初来日となります。
周到なマーケティングに乗っかって、転がって行くこれ以降は…
実は、個人的に、良い悪いは別にして、Stonesはこのアルバムで終わった。
そんな想いが強いので、好きでは無いけど、思いいれは強いアルバムです。
長文すみませんでした~
投稿: V.J. | 2012.06.03 21:59
V.J.若、コメント感謝です。
>山羊に続きDirty Workたぁ、敢えてStonesを嫌いになるための苦行の様で、ある意味感動しております。
うーん・・やはりそういう評価ですか・・
どっちもあたしとしては悪くなかったスけど。
やはりあたしの耳がスティーブ・リリーホワイトの音に慣れているということでしょうかね。
>彼がこのレコーディング中(だっけ?)に亡くなって、ミックとキースがあの状態でほぼ解散決定…状態で沈黙。。。
この展開を考えると、演出とするにはやはりムリがありそうだなぁ・・
じゃあ奇跡の再開のきっかけは何だったんだろう?
>良い悪いは別にして、Stonesはこのアルバムで終わった。
深いコメント・・・
でもこう考えるストーンズのファンはきっと多いんでしょうね。
まだまだ60~70年代を学習する必要がありそうです。
投稿: SYUNJI | 2012.06.03 22:28