読んでみた 第40回 デザインノート
今回読んでみたのは「デザインノート」。
誰もが一度は手に取るような大衆雑誌ではなく、デザイン関連の仕事や勉強をしている人たち向けのムックである。
これまで読んだことはおろか手に取ったことは一度もない。
自分を知る人からすれば「どうしちゃったんだよ」「なにスカしてんだオマエ」的な雑誌である。
「デザインノート」、コンセプトは「デザインのメイキングマガジン」。
要するに各種デザインの現場における企画発想から仕上がり・完成までのプロセスを、デザイン視点で紹介する感性充満芸術爆発な雑誌である。(違うかも)
版元は誠文堂新光社。
この「読んでみたシリーズ」においては、「天文ガイド」に次いで2回目の登場となる、子供のころからなじみの深い出版社である。
就職しようとは思いませんでしたけど・・
読もうと思った理由は、今回のテーマが「雑誌のデザイン」だったからだ。
「トップアートディレクターの雑誌デザインの世界」というアオリがついているが、ふだん書店で目にする雑誌の「デザイン」がどのように行われているのか、興味がわいたのである。
デザインも含めて、雑誌編集は基本的には未知の世界だ。
ムダに長く出版社に勤めているが、雑誌編集の経験は全くない。
クソ不況のさなか雑誌デザインなんて業務自体がもしかするとクライシスな局面に来てるのかもしれないが、どんな人がどんな仕事をした結果どんなデザインの雑誌が生まれているのか、少しでもわかればありがたい。
そんなぬるい発想のまま値段もよく確認せず購入。
書店の店員に「1680円になります」と言われてたじろいだが、つとめて冷静を装いシレっと精算。
高いよ・・・
買ったのはNo.41、128ページ、判型はA4変型。
調べたところ発行部数は50000部だそうだ。
思ったより多いが、デザイン会社や学校など法人単位でかなりの部数が買われているのだろうか。
果たしてあたしはこの雑誌で自分の余生をデザインできるでしょうか。(迷惑)
・・・・・読んでみた。
目次はこんな感じだ。
■TOPICS
佐藤可士和×ユニクロ
トップクリエイターが魅せる!エディトリアルデザインの世界
■特集1
野口孝仁
平林奈緒美
森本千絵
細山田光宣
川村哲司
佐々木香
峯崎ノリテル
アマナインタラクティブ
原史和
■特集2
人気雑誌の編集長&アートディレクターに聞く「売れる雑誌の作り方」
「GQ JAPAN」
「WIRED」
「Hanzo」
「Tarzan」
「SWITCH」
「COURRiER Japon」
「Meets Regional」
「リンネル」
■特集3
「WHAT'S ZINE?」
トップクリエイターの「ZINE」を一挙公開!
特集1がクリエイター単位、特集2が雑誌単位でデザインの詳細を紹介している。
ムックなので辛口快調連載コラムや読者お便り欄やお友達募集コーナーなどといったムダなページはなく、特集が誌面の全てを占めている。
で、特集1のトップクリエイターのお仕事紹介なんだが、失礼ながら内容よりも彼らのビジュアルのほうが気になって仕方がなかった。
人を見た目で判断してはいけないとは思うが、21世紀もすでに10年以上経っている今、机の前でタバコをくゆらせたり、いまいち清潔そうには見えない長髪だったり、わりとオールドな雰囲気の一流クリエイターが多いように感じた。
少なくとも人物紹介の小道具にタバコを持たせるという演出は、正直もう古いと思う。
クリエイター本人がたとえヘビースモーカーだったとしても、写真撮る時はタバコが写らないようにしたらいいんじゃないかなぁ。
自分の偏見かもしれないが、どうもこうした写真からは「雑誌や書籍の出版なんてものはタバコや徹夜や出張校正や脂肪肝が当たり前」という昭和な発想や感覚が透けて見えるような気がするのだ。
自分はデザインに関しても素人だが、「spectator」という雑誌の表紙デザイン過程の説明ページにはなぜか非常に共感した。
峯崎ノリテル氏による、虹色ハートをデザインした表紙なのだが、検討段階ではいくつかの案を作り、その中からベストなものを選択する。
案を作って検討する過程では相当苦労があったようだが、最終的に選択されたものは、示された案の中で確かにベストなものだと感じた。
もちろん感覚的なものでしかないのだが、最終決定には自分も「納得」できたのだ。
確かにこの中から表紙に選ぶとしたらこれだよなぁ、という納得。
うまく説明できないのだが、詳細はぜひ誌面を見ていただきたいと思う。
特集2の雑誌単位でのデザイン紹介は、なじみのない雑誌ばかりだったせいもあり、それほど共感するものはなかった。
表紙や見開きページ全体のデザインを伝えるため、誌面を縮小して掲載しているのだが、それがちょっと小さすぎる。
もう少し大きく載せてもらうと、インパクトもあってデザインの重要なポイントもうまく伝わるんじゃないかなと感じた。
老眼が進んだせいもあるかもしれませんけど・・
特集3はトップクリエイターの「ZINE」を紹介。
ZINEて何?と思ったら、主にアート系な有志で作る、営利目的ではない少部数の出版物のことだそうだ。
誌面では昨年開催された東日本大震災の被災者支援チャリティ・イベント「NIPPON ZINE(ニッポンジーン)」を紹介している。
それぞれの作品の表紙や作者コメントが掲載されているが、特集3なのでそれほど多くのページを割いていない。
これはもう少しページの量があってほしかったと感じた。
通して読んでみたが、掲載された絵や写真やレイアウトなどデザインそのものは直感的にとらえることができても、その仕事のプロセスは素人の自分には全然わからない。
雑誌にもよるが、編集工程においてクリエイターやデザイナーの登場する場面がどんなところで、どんなタスクとスケジュールで動いているのか、編集サイドとどんな調整や交渉が行われるのかなど、ビジネスのプロセスを理解するのは誌面からだけでは当然不可能だ。
今さらだが、これは上級者向けのハイレベル雑誌なのであり、大げさに言うと「免許をとってから読む」くらいの覚悟がいるものだと痛感した。
書体や級数やレイアウトについては、気になった点はあまりない。
ただ特集1で各クリエイター紹介のトップページほぼ全面に濃いめの黄色を使っており、ここに文字が乗ると少しきつい印象だ。
デザイン誌なので光沢のないマットな少し厚い紙を使っているが、これは当然だとも言える。
従って本自体は少し重い。
今回電車の中で立って読んでみたが、片手で読む雑誌ではないと痛感。
こういうのはサロンでソファに座って紅茶を飲みながら足を組んで読む雑誌だよね。(イメージが貧困)
むしろこれからはiPadなどタブレットで華麗に読むべきものなのかも・・・
表紙は今回のテーマに合わせた「書棚」をイメージしたデザインである。
センスは今風な感じだが、思ったよりも無機的で色のパターンも整然としていて、雑誌というワイルドな分野を想起させるには少々おとなしい感じがする。
「デザインノート」は広告が少ない。
デザイン学校や美術大学、デザイン会社の広告が少しあるだけ。
ブランド品やサラ金や風水ネックレスや警察無線傍受機器や強い男になるクスリなどの広告は一切ない。
そういう雑誌とは資本形成が根本的に違うようである。(当然か)
バックナンバーを見ると、書籍・雑誌のデザインや、文字組やロゴやタイポグラフィーなどの特集号もあったようだ。
このあたりには少し興味があるので、機会があれば読んでみたいと思う・・・のだが、値段はさすがに高い。
業界においては標準なレベルなのだろうか?
この「デザインノート」は今回たまたま雑誌デザインを特集しただけで、雑誌そのものをとりまく出版不況問題については特にふれていない。
雑誌は販売収入よりも広告収入で成り立っている特殊な商品なのだが、その特殊さがゆえに、意地悪く言えば版元は今もクライアントのほうばかりを見ていて、読者のほうに顔を向けていない。
広告ページの隙間に記事があるような雑誌が全然珍しくないのが実情である。
非常に困った問題だが、どこの版元も確かな方向性や対策を打ち出せていない。
「デザインノート」はそういう問題とは無縁の雑誌なんだろうか?
50000部というが、それで採算はとれているのだろうか?
自分自身も本当はのんきに雑誌のデザインなんか眺めて感心している場合じゃないのだが・・・
というわけで、読んでみた「デザインノート」。
いろいろ勉強にはなりましたが、そもそもとてもこんなジャンルに手を出せるガラではありません。
気まぐれに立ち寄った展示会のセミナーの内容があまりに高度で、講師が専門用語にからめたジョークを言ったとたん会場がドッとわいたのに、自分だけ意味がわからず周りに合わせてヘラヘラと作り笑いをしてしまった・・・ような心境。
とにかくレベルが高かったことは確かです。
次回はもう少し身の丈に合った雑誌をチョイスしようと思います。
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