聴いてみた 第87回 ジェフ・ベック その4
先日聴いた「ジェフじゃないほう芸人」ベックの「Mellow Gold」だが、実は同時に購入したのが「ジェフのほう芸人」ベックの「Flash」である。
そう、いい歳こいてベックとジェフ・ベックを同時にレジに持っていくという、ダジャレ買いをしてしまったのだ。
いや、特にウケをねらったわけではなく(本当か?)、気がついたら両方手にしていたのよ。
店員もそのあたり全く無反応で(当たり前や)極めて事務的に精算。
でも「いやー冗談かと思ってたらホントにダジャレ買いするヤツが今日来たよ」とか「もしかしてあのおっさん、どっちもジェフ・ベックだと思って間違えて買ってんじゃないの?」なんてユニオンの全店舗で笑われてるんだろうなぁ。(←気にしすぎ芸人)
そんなダジャレ購入の「Flash」。
プロデューサーにナイル・ロジャースを迎えた85年の作品である。
安心材料はもちろんリアルタイムで聴いていた「Escape」とロッド・スチュアートがボーカルの「People Get Ready」が収録されている点だ。
だが。
このアルバム、ネットで調べてみるとまー評判が悪い悪い。
「最も悪名高きアルバム」「陳腐」「参加ミュージシャンの個性がいい方向に作用していない」「なぜボーカルが必要?」「失敗作」「あえて聴く必要性を感じない」など、辛辣な言葉に彩られたキツイ評価をするサイトやBLOGが多い。
ある程度覚悟はしてたけど、そこまであしざまに言われるほどだとは・・
要はジェフ・ベックのアルバムとしてはあまりにもサウンドが80年代風でチャラいのだろう。
でもすでに自分の好みと世間の評価は整合しないことが多いので、気にせず聴くことにした。
実はベック自身も全然気に入っていないようで、ベック的には「やっちまった」というクールポコ状態なアルバムらしい。
果たしてあたしはそんな傷心のベックをなぐさめることができるでしょうか。(上から目線)
・・・・・聴いてみた。
1. Ambitious
最初の曲はナイル・ロジャース作のちょっとストーンズっぽいボーカルもの。
ノリのいいリズムにベックのギターが低めにうなる。
ギターソロもわりとはじけていていい感じだ。
2. Gets Us All in the End
いかにも80年代の音で、ボニー・タイラーとかスターシップなんかを思い出させる。
こういう音が70年代のファンからは嫌われるんだろうと思う。
でもベックのギターはこういう音楽でもふつうにマッチしていると感じる。
3. Escape
ヤン・ハマー作のインスト・ナンバー。
この曲はリアルタイムで聴いていたが、ヤン・ハマーの作曲だとは知らなかった。
サウンドやリズムはけっこう気に入っている。
ドラムの音と打ち方に特徴があるのだが、ベックのギターよりも安い音で、「打ち込みのよう」という意見もあり、評価は高くないようだ。
4. People Get Ready
ロッド・スチュアートとの再会ソングとして有名。
というかロッドの曲だと思ってる人もいるようだ。
なお実際はカーチス・メイフィールドという人の作品。
まあさすがにロッドなので存在感は非常に大きい。
これならベックのギターでなくてもヒットしただろう・・と意地悪い感想を述べたくなる。
ボーカルをものすごく小さいレベルで輪唱のように遅らせ、メインを追っかける・・という、文字にするとわかりにくいけど凝った演出がある。
知らなかった人はヘッドホンで大音量で聴いてみてください。
ロッドのボーカルが、ものすごく小さい音で輪唱のように後から追っかけて聞こえます。
5. Stop, Look and Listen
これもナイル・ロジャース色が強く出たアメリカンな80年代サウンド。
ギターはやや濁った音がするが、悪くない。
6. Get Workin'
これはなんとジェフ・ベックのボーカル。
ベックがナイル・ロジャースにそそのかされて歌った、という話らしいが、当時の雑誌でも「ベックのヘタクソなボーカルが・・」といった表現で紹介されており、まあ確かにウマくはない。
タイトルを連呼する部分もバックコーラスに助けられているといった感じ。
7. Ecstasy
この曲もいかにも80年代だ。
ダンスっぽいリズムだがあまり徹底しておらず、サウンドは全体的にしゃらしゃらしていて軽い。
ベックのギターがどこかに埋もれてしまったような印象。
8. Night After Night
再びベックのボーカル。
しかしやはり歌唱力は今ひとつ。
声が低いしツヤがないので、コーラスやエコーなどの処理でなんとか聴けるレベルに持ってきている。
もう少しロッドに頼めばよかったのにねぇ。
9. You Know, We Know
ラストはミドルテンポのインスト。
この曲ではベックのかろやかなフュージョンスタイルのギターが聴ける。
中盤のソロも粘りがきいていて主役としてのポジションを保持している。
10. Nighthawk
ボーナストラックの1曲目。
なんとなくサバイバー風のプロレスチックなロック。
電子音っぽいアレンジのせいかベックのギターは全然目立たない。
嫌いではないけど、このトラックは必要だったのかな?
11. Back On The Street
ボーナストラック2曲目はハイスピードなロック。
ラヴァーボーイとかナイト・レンジャーがやりそうな感じの比較的軽い曲だが、ベックのギターはちゃんと対応している。
単体で聴くとベックの曲だと気づかない人も多いんじゃないだろうか。
全体的に80年代特有のキラキラしたサウンドである。
当時はこういう音が流行っていたし、ベックに限らずクラプトンもフィル・コリンズもイエスもレインボーもみーんなそっち方面に行ってたくさんオカネをかせいでいたのだ。
発表当時のベックのインタビュー記事をFMステーションで読んだが、前作から5年ぶりとなったことを質問されるとベックは冗談で「銀行口座の残高が少なくなったからさ」と答えていた。
で、自分のような80年代にまみれたミーハーなリスナーにとっては「聴きやすい」音であることは確かだ。
ボーカルものとインストが適度に混在しており、多彩な印象・バラエティに富んでいるという評価もできる。
なにしろプロデューサーはナイル・ロジャースである。
どっちから言い出した話なのか知らないけど、ナイルさんの色は間違いなく、というかふんだんに表れている。
しかしだ。
ベックのアルバムとしてファンから支持されていない理由もなんとなくわかったような気もする。
ロッドが登場したりナイル・ロジャースが音を作ったりしたことで、ベックの個性が薄まってしまった、という見方をされても致し方ない。
歌うベックを歓迎したファンもそう多くはないだろうし、多彩な音は裏返せば散漫な印象でもある。
ギタリストのジェフ・ベックを評価するのに、このアルバムでは余計な情報が多すぎるのだろう。
結局のところベックはこのアルバムで残高を増やすことができたのかは不明だが、ナイル・ロジャースにいろいろ頼んだりロッドに歌ってもらった時点で原価が相当ふくれたんじゃないだろうか。
超人気プロデューサーのナイル・ロジャースが来たのにお昼は街角の立ち食いそばで済ます・・というわけにはいかんだろうし、事務所的にもせめてロッドのお弁当はまい泉のとんかつサンドくらいご用意しなきゃ・・とか、それなりに気もお金も使ったアルバムではないかと思いますけど。
というわけで、ようやく聴けた「Flash」。
聴く前から世間の評価と自分の感想にはきっと隔たりがあるだろうなと想定してましたが、果たしてその通りとなりました。
リアルタイムで「Escape」「People Get Ready」を聴いていたせいもありますけど、悪くはないです。
というか自分としては「Rough And Ready」よりもいいと思います。
こういうこと書くからド素人なんですけど、ベックのギターにはやはりロッドのボーカルが一番合うんじゃないでしょうか。
次にジェフ・ベックを聴くとしたら評価の高い「There & Back」になると思います。
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コメント
オジキ。
BECKのCDと、BECKのCD
あ”…ジェフのCDをユニオンのカウンターにしらっと持って行くオジキの攻撃に、まだまだ修行が足りないと反省している若僧です。
>悪くはないです。
>「Rough And Ready」よりもいいと思います。
まぢすか…(゜O゜;←使い慣れない顔文字使ってしまう位の衝撃ww
僕はこのアルバムはどうしてもダメですねぇ
自分も80年代ど真ん中世代のクセして、どうしてもムリですねぇ。特に、ロッドじゃないほうのVo.
これだけは、生理的に受け付けません(笑)
>カーチス・メイフィールド
お、お、お、オジキ
ミッキー・カーチスぢゃねぇんでげす。
カーティスと呼んであげで下さいませ。<(_ _)>←顔文字多用
>輪唱のように遅らせ、メインを追っかける・・
>「There & Back」になると思います。
お願いします。
輪唱の様にVo.とG.がおっかけっこする&ロッドとの絡みなら、やんちゃな時の、TRUTHをこの次は是非聴いて見て下さい。
ゼア&バックなんかの1億倍はカッコイイす。
フラッシュの1京倍以上カッコイイす。
おっかけっこ。
こんな感じです。
http://www.youtube.com/watch?v=U85Eeh1_hcc
↑
最後はあろうことか押しつけ…
長々と失礼致しました。
投稿: V.J. | 2011.11.05 23:17
SYUNJIさんこんばんは。
聴かれましたか、【Flash】 実は高校時代によく聴いた
私にとっては思い出の一枚です。
個人的には悪くない感想なんですが昔からのファンの方からしたらどうもチャライんですかねぇー・・・
80年代の雰囲気全開ですものねぇー
【YOU KNOW WE KNOW】のギターはジェフしか出せない
繊細なギターの音だと思うんですけど・・・
(ジェフしか出せない)の意味はJさんとEさんを否定している事では有りません・・・
【Ambitious】も【Getworkn'】も【Night after niget】もぜんぜんOK、ってゆうかボーカルもいけてなくない?←意味不明・・・・
次は【Rough And Ready】ですか・・・
一番ノリにのっている頃のアルバムですねぇー
私は数少ない【フラッシュ】肯定派です。
投稿: ボレロ | 2011.11.05 23:26
連投稿失礼します。
次は【Rough And Ready】ですか・・・誤
次は【There & Back】ですか・・・正
失礼しました・・・
投稿: ボレロ | 2011.11.05 23:30
V.J.若、衝撃のコメント感謝です。
よく考えたらとても大胆な買い方をしてしまいました。
陣内孝則のCDと陣内智則のDVDをいっしょにレジに持って行くような・・(違うかも)
>僕はこのアルバムはどうしてもダメですねぇ
うーん、そうでしょうなぁ。
ネットでもベックのファンであればあるほど、このアルバムの評価は厳しい人が多かったと思います。
>やんちゃな時の、TRUTHをこの次は是非聴いて見て下さい。
あ、「Truth」と「Beck-Ola」は4年前に聴いております。
http://kotodama.air-nifty.com/essay/2007/09/post_fe3a.html
この2枚はいいですね。
聴いた当初は今ひとつなじめない感覚もありましたが、今ではコージー加入後のアルバムよりも好きですね。
投稿: SYUNJI | 2011.11.06 09:40
ボレロさん、コメント感謝です・・が、「Flash」肯定派ですか??
なんか意外な感じですが、うれしいです。
>80年代の雰囲気全開ですものねぇー
自分が肯定できるのもこの特徴のせいですね。
そもそもずうっとジェフ・ベックを聴かずに80年代のチャラい音楽ばかり聴いてきたので、ある意味当然ではあるんですが・・
>【Ambitious】も【Getworkn'】も【Night after niget】もぜんぜんOK、ってゆうかボーカルもいけてなくない?←意味不明・・・・
あたしはベックのボーカルはあまり・・
つうかなんでベック歌ったんだろう?
全部ロッドに歌わせたらよかったのに。
予算が足りなくなったんスかね?
投稿: SYUNJI | 2011.11.06 10:01
レディオヘッドとキース・エマーソンのcdを一緒に買ってカナさんから驚かれたぷくちゃんといいます。
でも、ベックとジェフ・ベックには負けるかも。v.j.のいうように私もtruthが一番だと思います。zepが好きなら、間違いないですよ(適当。v.j.に怒られそう)
投稿: ぷくちゃん | 2011.11.06 15:04
ぷく先輩、深いコメント感謝です。(浅薄)
以前ツェッペリンとパープルを同時に購入という「ライバル買い」をしたこともあるSYUNJIです。(くだらない)
>v.j.のいうように私もtruthが一番だと思います。
そうですね。
あたしもグループを含むベックのアルバムをいくつか聴いてきた中では、「Truth」が一番いいと思います。
中華街では「私とベック」という議題でG20ばりの激論を戦わせられればと思います。
投稿: SYUNJI | 2011.11.06 17:38
SYUNJIさん、こんばんは。
「Flash」を本当に久しぶりに聞き直しました。
>>もう少しロッドに頼めばよかったのにねぇ。
これは大きいです。といいますか、ロッド・スチュワート
のボーカルと比較されると、他の人はかわいそうすぎです。
ベックのボーカルなど論外です。「People Get Ready」が
よすぎますので、他のボーカル曲がみじめです。ですので、
ボーカルは「People」1曲+他はインストにすれば
よかったかもしれません。
たとえば、「Gets Us All in the End」。ベックの
ギターは荒々しさにあふれ、曲のノリノリでいいです。
ベックは、クラプトンの「いとしのレイラ」に
相当するような決めうち曲が少ないと言われています
ので(曲が悪いというわけではありません)、ひょっと
するとこの曲あたりがアンコールの1曲目で盛り上がる
可能性もあったと思います。が、ボーカルが今ひとつ
のため、できの悪いジャーニーのように聞こえます。
ベック自体は新しいことに取り組むのが好きで、
他の作品では成功しています。しかし、このアルバムは
少しナイル・ロジャースに流されすぎのような気がします。
たとえば1曲目「Ambitious」は、いかにもロジャース
的なギターのリフ(マドンナに入っていてもおかしくない)
にベックのギターが絡むよい演奏だと思います。しかし
残念なことに、他の曲ではそれほどおもしろい仕上がりとは
言えません。
ベック自体はプロデューサーに左右されやすいという噂
です。もう少しベックらしさを前面に出せば、という
残念な作品だと思います。
投稿: モンスリー | 2011.11.06 21:26
モンスリーさん、コメント感謝です。
>ロッド・スチュワートのボーカルと比較されると、他の人はかわいそうすぎです。
まあそうでしょうね。
初期のロッドならともかく、この時はすでにブロンドのお好きなスーパースターになってましたし。
>ボーカルは「People」1曲+他はインストにすればよかったかもしれません。
そうスねぇ・・
でもそれだとたぶん自分は物足りないと感じたはずですね。
歌ものにしたりベック本人が歌ったりってのはベック自身の企画なんですかね?
やはりナイル・ロジャースの発案なのかな?
>ベック自体はプロデューサーに左右されやすいという噂です。
>もう少しベックらしさを前面に出せば、という残念な作品だと思います。
なるほど。
ベックらしさが前面に出た場合、自分の好みに合うのかわかりませんが、このアルバムはそういう評価が多いみたいですね。
投稿: SYUNJI | 2011.11.06 22:34
こんばんは、JTです。
当時、発売前に「People Get Ready」のPVを見て、全編この路線かと思って購入(なぜかカセット)しましたが、他の曲を聴いてがっかりした思い出があります(爆)。
後に読んだジェフベックのインタビューで、「People..」は、キーボードのトニー・ハイマスの自宅に遊びに行った際に宅録した、との話を読みました。元々正規のレコーディングではなかったようです。ロッドの歌も最後に声がひっくり返っていますし。
つまり、他の曲とはプロダクションが全然違っていたようです。
投稿: JT | 2011.11.06 22:51
再びJTです。
『BECKOLOGY』というジェフ・ベックのCDボックスでクレジットを確認した所、「People Get Ready」のキーボードはデュアン・ヒッチングスでした。私の記憶違いでした。
しかもレコーディングはL.Aのレコードプラントとなってました。インタビューも記憶違いかなぁ。
投稿: JT | 2011.11.07 21:20
JTさん、コメント感謝です。
ウチのBLOGではベックよりジェフ・ベックのほうが反応がありますね。
>しかもレコーディングはL.Aのレコードプラントとなってました。インタビューも記憶違いかなぁ。
そうでしたか。
でもなんとなく宅禄したという話のほうが面白そうですね。
ロッドの声がひっくり返っているのも「宅禄だから」というと説得力がある気がしますし。
もし全編ロッドが歌っていたらものすごい名盤になっていたんだろうなぁ・・
投稿: SYUNJI | 2011.11.07 23:31