聴いてない 第162回 ドン・マクリーン
本日採り上げるドン・マクリーン、日本での評価は見当もつかないが、聴いてない度は2。
「アメリカン・パイ」しか聴いていない。
さらに言うと、この曲を知ったのは萩尾望都の同名の漫画によってである。
おそらく自分と同じ状態の方もおられると思います。
さてドン・マクリーン。
1945年ニューヨーク州出身で、70年から現在に至るまで活動を続ける、息の長いミュージシャンである。
70年代にはほぼ毎年、80年代以降も2~3年に1枚というペースでアルバムを発表している。
ライブ盤やクリスマスものなどの企画盤も多いようだが、本国では現役で精力的に活動しているそうだ。
最大のヒット曲はもちろん「アメリカン・パイ」。
8分半の大作で、バディ・ホリーの死を歌っているのだが、歌詞が非常に謎めいており、現在でも解釈の議論は続いているそうだ。
あまりの解釈の多さや議論の多さからか、本人が公式サイトで「歌詞の意味を自分から説明することはない」と表明するほどの作品となっている。
ドン・マクリーンの主張としては、「ソングライターというものは、自分のメッセージを発信したあとは名誉ある沈黙を保つのだ」ということらしい。
歌詞の解釈はリスナーのみなさんにお任せしますよ、ということですかね。
なんだかこの主張を見て、つげ義春のような人だと思ってしまった。
「アメリカン・パイ」の訳詞が載っているサイトをいくつか見たが、確かに何を言いたいのかはっきりわかるような歌詞ではないようだ。
ビートルズやストーンズを表していると思わせる言葉があったり、彼らの曲名を歌詞の中に採り入れたりしている。
柔らかなメロディとは思ったほど整合しておらず、モテない若者の屈折した心情を、様々なエピソードに乗せて表現しているようだ。
なおこの曲は2000年にマドンナがカバーしており、FMで聴いた記憶がある。
マドンナのほうは全米チャートで29位まで記録している。
自分の場合、80年代にFMを聴いていてドン・マクリーンの曲に巡り会ったことは一度もない。
「アメリカン・パイ」は失礼ながら日本の「一発屋特集」のような企画盤CDで仕入れたのだ。
同じCDにはK.C. &ザ・サンシャイン・バンドの「ザッツ・ザ・ウェイ」やジェリー・ウォレスの「男の世界(マンダム)」の他、シェリル・ラッドの「ダンシング・アメリカン」なんかも収録されていた。
従ってドン・マクリーンに関しては「アメリカン・パイ」以外の情報は一切ない。
ということでドン・マクリーンについて書けるのはここまでなのだが、「アメリカン・パイ」を知るきっかけになった同名の漫画作品についてふれておきたい。
この漫画を読んだのは高校生の頃だ。
前後して萩尾望都の作品をたくさん読んでいるが、自分にとってはこの作品が最高傑作だと断言できる。
舞台はこの人の作品にしてはめずらしいマイアミでの現代劇なのだが、ストーリーとしては当時の少女漫画にはよくある「不治の病」ものである。
不治の病に冒されたフランス人少女のリューと、顔は悪いが面倒見のいいミュージシャンのグラン・パがマイアミで出会い、リューの出生と病気を知ったグラン・パの苦悩と、リューにとっては最後の、人間としての交流を描いたものだ。
毎度のことながら漫画の内容を文字にするのはヤボ(死語)の極みだが、とにかく名作なのだ。
ドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」を知っていて、この漫画をまだ読んでいない方は、必ず読んでほしいと思う。
この漫画のすばらしさはいろいろあるが、自分が感動したのはやはりセリフ回しだ。
面倒見のいいグラン・パは、突然目の前に登場したリューにとまどいながらも交流を深めていき、一度は故郷フランスから駆けつけたリューの両親に代わる形で、最期までマイアミでリューの面倒を見る。
死期が近づいているリューは、自分が死んだあとグラン・パが自分を忘れてしまうことを恐れているが、気持ちとは裏腹に「忘れちゃっていいよ」と言ってしまう。
グラン・パはもちろんリューの本心はわかっている。
そこで説明にかかるのだが、ここのグラン・パのセリフは日本の漫画の歴史の中でも最上級なものだと確信する。(日本の漫画を全部読んでないけど、そんなことはどうでもいいんだよ!)
詳細は作品をぜひ読んでいただきたいのだが、グラン・パのセリフが「・・・あのなあ、」から始まるのだ。
特にこの「・・・」のタメの部分、これがグラン・パの人柄とか人生観とか、そうしたもの全てを非常に雄弁に物語っているのである。
グダグダ書いちまいましたけど、とにかく名作なんでドン・マクリーンだけ聴いて満足してた方にはぜひお勧めいたします。
正直、漫画の中で使われたドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」が、このストーリーを盛り立てるのにベストな選曲だったのかどうかは、自分にはわからない。
自分は曲のほうを後から聴いたので、漫画から受けるイメージが、実際に曲(特にメロディ)と合致したかというと、実はそうでもない。
主人公リューはいつも「アメリカン・パイ」を口ずさみ、ラジオで聴いていたこの曲について、「この人、とてもやさしい声をしてる・・」と繰り返し言う。
で、実際に聴いてみたドン・マクリーンの声は、確かにやさしい声ではあるが、フランスの少女をここまで感動させるほどのやさしさなのか?という感じがするのだ。
もっとやさしい声のアメリカ人歌手はたくさんいただろうし、「不治の病」という設定に合うバラードもたくさんあったはずだ。
歌詞の内容も、不治の病の少女を救えるようなものとも思えない。
なので、漫画を先に読んでしまった自分としては、ドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」は「あれ?」という感じだったのだ。
今風に言えばリューの表層的なキャラクターは「不思議ちゃん」なので、それを示す意味でドン・マクリーンの「アメリカン・パイ」が好きな変わった子、という設定になっているのかもしれない。
ベタなバラードなどを使うよりもこの曲で・・という作者の意図があっての選曲なのだろうか?
というわけで、ドン・マクリーン。
漫画ばっかり語ってしまい、相変わらずひどい記事になってしまいましたが、「アメリカン・パイ」以外に名曲があれば、教えていただきたいと思います。
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