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読んでみた 第37回 東京人

出身地の定義や解釈は人によって多少違うだろうけど、以下のいずれかだろう。
・生まれた時に家があった場所
・生まれた場所
・主に幼少の頃育った場所

自分の場合、「出身はどこですか?」と問われると、実はけっこう微妙だったりする。
生まれた時に家があったのは杉並区である。
しかし実際に生まれた土地(産院のあった場所)は札幌市だ。
母親が幼い姉を連れて故郷である札幌市の実家に帰り、自分を産んだのだ。
育ったのはほぼ神奈川県で、幼い頃の都内での生活の記憶は一切ない。
今も神奈川県在住なので「出身地は神奈川県」で問題ないんだが、基本的には北海道とか札幌市などと答えている、ニセ道産子だ。
道系二世と言ったらいいのかな?

高校までは神奈川県内で学び、その後都内の大学に通い、都内の会社に勤めている。
東京以外で働いたことは一度もない。
そんな生粋?の東京サラリーマンが今回読んでみたのは「東京人」。
東京の歴史・文化・風俗・建築物・文学・風景などを紹介する月刊誌である。
存在は知っていたが、買うのは初めてだ。

Tokyojin_2

「東京人」、版元は都市出版
公式サイトによれば、「『都市を味わい、都市を批評し、都市を創る』をキャッチフレーズに新機軸の都会派総合誌として誕生した」とある。
1986年(昭和61年)の創刊、ということは25周年だ。
創刊当初は季刊、その後隔月刊、現在は月刊と進化している。

果たしてあたしのようなニセ東京人も共感できるような内容なのでしょうか。

・・・・・読んでみた。

今回読んでみたのは4月号、900円、146ページ。
目次はこんな感じ。

特集
●潜入!土木工事の現場。
 巨大プロジェクトの「立入禁止」を一挙公開
 ・首都高速中央環状品川線
 ・京急電鉄本線・空港線連続立体交差
 ・東京スカイツリー
 ・東京ゲートブリッジ
 ・東急東横線地下化、渋谷ヒカリエ
 ・小田急下北沢駅周辺地下化
 ・環状第2号線
 
●あの巨大施設が工事中だったころ
 レインボーブリッジ/東京湾アクアライン/羽田空港D滑走路/大橋ジャンクション/都営大江戸線飯田橋駅
 
●大手町・丸の内・有楽町再開発
 東京駅丸の内駅舎保存・復原工事
 
●京橋エリア再開発
 待ってろ!大丸有。「日八京」が動き出す
 清水建設新本社ビル/京橋3-1プロジェクト
 
●土木系女子が行く、現場の最前線
 
●町はこうして生まれた 土木工事は江戸の華
 
●槌音コラム
 ダム、トンネル、地下放水路……土木見学会に行ってみよう!
 
●東京の近代土木遺産16選
 地下鉄銀座線/東京市街高架鉄道/六郷水門、川崎河港水門/
 愛宕隧道/日本橋/旧三河島汚水処分場喞筒場施設/ドックヤードガーデン ほか
 
●新幹線からリニアまで 思い出と夢のミュージアム
 JR東海「リニア・鉄道館」オープン 
 
●ちょいとごめんなさいよ、四時からの悦楽(9)
 人形町「イベリコバル 人形町」の巻
 バルでカヴァ、イベリコでタパス
 文・林家正蔵 写真・川上尚見

特集にあるとおり、今月号は東京の巨大な土木工事現場探訪や建築物紹介がテーマのようだ。
毎回土木がテーマというわけではなく、文学だったりグルメだったりするらしい。
たまたま今回は土木工事や再開発事業といったガテンな内容なのだが、これが相当におもしろい。

バブル崩壊以降、都内の開発事業なんてしばらく停滞するんじゃないかと思ったりした時期もあったが、今も都内の至るところで、しかも東京駅や渋谷駅といったターミナルで大工事中なのである。
ここ10年でも赤坂や丸の内や秋葉原などむやみに人の集まる場所ででかいビルがどんぱん建ったりしているのだ。
基本的にミーハーなので、この手の話は好きなのである。
東京スカイツリーが完成したら、間違いなく自分は第2展望台にも上ることになるだろう。

ちなみに京橋エリア再開発の記事にある「大丸有」とは、大手町・丸の内・有楽町を指し、「日八京」とは日本橋・八重洲・京橋のことだそうだ。
初めて聞く言葉だが、土木関係業界では常識なんだろうか。

「町はこうして生まれた 土木工事は江戸の華」というページもなかなか興味深い。
東京や横浜は、京都や大阪や神戸に比べて道がわかりにくい、という話をよく聞く。
実際そのとおりである。

関西の3都市はいずれも「通り」「筋」と呼ばれる道が原則として方位に整合して整備されている。
(この規格を近代になってやっと応用して造られた都市が札幌。)
東京や横浜は通りと方位が全然整合しておらず、東に進んでいたはずがゆるやかにカーブしていて気づいたら南に進んでいた、なんてのは今も当たり前に出会う事態である。

都内の都市構造は主に江戸時代に原点があるのだが、道路を整然と交差させて造った箇所もあるにはある。
が、その規模がいずれもそれほど広くなく、また方位に整合させることに重きを置くと、かえって造成に負担がかかり、住みやすい街にならないことを江戸の為政者や都市計画の役人は知っていた、という話。

たしかにその通りだと思う。
東京や横浜を出歩くとわかるが、京都や大阪と比べて平たい土地が思ったほど広くないのだ。
坂が多いことも、東京や横浜が起伏の多い土地であることの現れである。
京都にも坂はあるが、それは基本的に東山や北山などの裾に面している部分であり、洛中そのものには坂はほとんどないはずである。

こうした基盤情報だけ考えても、東京や横浜はいわゆる碁盤のような計画や開発がしづらい土地なのだ。
だから結果として道は方位に整合せず、わかりにくくなっている。
まあ東京の場合、大田道灌の江戸城築城の際の防衛的発想が道をわかりにくくさせているという説もあり、一概に言えないようだが。

ということでひととおり読んでみたが、記事の論調や文体は堅実である。
くだけた表現やチャラい印象のページがなく、後半は若干退屈なイメージもあるが、これはこの雑誌の持ち味だと思うので、変える必要はないだろう。

雑誌の体裁として特に気になるところはない。
紙はそれほど厚くないので重くなく、それでいて写真がきれいに印刷されている。
書体・級数や、構成・レイアウトも普通だ。
読んでいてそうしたことが気にならないのは秀逸な編集だと確信している。

ボリュームのわりに価格が少し高い。
その分、広告も少ないので致し方ないというところだ。
ターゲットがどのあたりなのか不明だが、あまり若い人向けではなさそうである。

というわけで、「東京人」。
今回の特集が興味のある分野だったこともありますが、実直ではあるけどなかなかおもしろい雑誌だと感じました。
いつまで東京で働き続けられるかわかりませんが、またおもしろそうな特集の時に「東京人」で情報の裏打ちをしていこうと思います。

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは
毎回ですが、記事内容が面白いし興味そそられますね
楽しく拝見しています・・・

実をゆう私も28歳の頃に川崎に6ヶ月ほど住んでいました、もちろん小田急沿線です
新百合ヶ丘で降りて小田原線だったかな・・・
栗平とゆう駅の近くでした
そして40分ほどかけて世田谷へ通勤してました

東京生まれの方は珍しくもない風景などは
地方からくる人間にとってはとても新鮮ですね
もちろん都市としての利便性やある意味
都会らしい無機質なところも魅力です

私は新宿や渋谷、銀座なんかよりも上野、浅草などの
下町風情が好きですね
こういった感情はテレビや映画の影響でしょう・・・

しかし都市を論ずるような雑誌があるなんて
面白そうですね、読んでみたいです。

投稿: ボレロ | 2011.03.26 20:18

ボレロさん、コメント感謝です。

>栗平とゆう駅の近くでした
>そして40分ほどかけて世田谷へ通勤してました

そうですか!
栗平は多摩線ですね。
自分は長らく小田原線の沿線に住んでおり、大学は世田谷にありました。

>私は新宿や渋谷、銀座なんかよりも上野、浅草などの下町風情が好きですね

好みの街は年齢とともに変わったりしますね。
若い頃はなじみのあった新宿や下北沢やお茶の水が好きでしたが、最近は中野や人形町といった場所が好みになりつつあります。

>しかし都市を論ずるような雑誌があるなんて
>面白そうですね、読んでみたいです。

今回初めて読んだのですが、面白かったです。
地方に行った時に地元のタウン誌を見たりするのがけっこう好きですが、自分の感覚はそのノリに近いですね。

投稿: SYUNJI | 2011.03.26 21:44

> 生まれた時に家があったのは杉並区である。

あら、ならば本籍地は私と同じかしら。

ところでSYUNJIさん、先週丸の内線に乗ってませんでした? クリソツ(←死語?)な人をお見かけしたのですが・・・

投稿: ルドルフ | 2011.03.29 07:17

ルドっちも杉並区ですか?
あ、でもウチは本籍地は札幌だったんスよ。
今は住所と同じ場所に移しましたが。
日本で一番登録が多い本籍地って皇居(千代田1-1)だそうですが・・

>先週丸の内線に乗ってませんでした? クリソツ(←死語?)な人をお見かけしたのですが・・・

それはきっとホンモノのトヨエツです。(←ぷく調)
いえ、最近丸の内線には乗ってないですけど・・?

投稿: SYUNJI | 2011.03.29 23:36

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