読んでいた 第1回 アストロ球団
唐突ですが、「読んでいた」シリーズを始めようと思います。
子供の頃、読んでいた漫画はそれなりにあったが、どちらかというとひとつの作品をじっくり読んでいくタイプの少年であり、持っていた単行本の数はそれほど多くなかったと思う。
貧乏だったので漫画雑誌は近所の外科のゴミ捨て場に捨ててあったやつをしょっちゅう拾っていたし、全巻貸本屋で借りたものも多かった。
そんな中で全巻揃えて繰り返し何度も読んでいた漫画作品について書いておこうと思う。
書く前から、自分の趣味が当時の少年たちとはかなりズレている予感は大いにするのだが・・・
第1回は「アストロ球団」。(やっぱズレてる?)
原作は遠崎史朗、作画は中島徳博。
70年代に少年ジャンプに連載された荒唐無稽野球漫画の代表的な作品である。
ボール型のアザを持つ9人の超人が、様々な紆余曲折を超えて米大リーグ打倒の旗印のもとチームを結成するという、野球版八犬伝みたいなストーリー。
75年頃からリアルタイムで連載を追っかけて読んでおり、のちに文庫版で全20巻を買いそろえ繰り返し読んだ。
今はもう手元にはないが、だいたいのセリフや絵はアタマに入ってしまい、ほぼどの場面でも脳内再生が可能である。
多くの長編漫画がそうだろうが、漫画家の画力向上によって作風が初期と末期ではかなり変わってきている。
また川上・長嶋・王・金田といった実在の人物が登場するが、いまいち似ていないのがご愛敬である。
さてその内容だが、野球という枠をあまりにも超える展開が多く、当時の少年の評価は二分されていたんじゃないかと想像する。
同じようにムチャな野球漫画として「侍ジャイアンツ」もあるが、「侍ジャイアンツ」はムチャが番場や数人のライバルに限られていたのに比べ、「アストロ球団」はチーム全員はおろか相手もそろってどいつもこいつもムリめなことばっかしたがるスゴイ漫画なので、まともな感性で受け止めるとちょっと疲れる作品である。
不朽の名作「巨人の星」を始め、野球を題材にした少年漫画には「魔球」とか「超人技」はつきものなんだけど、「アストロ球団」にはもはや野球というスポーツの枠内で小学生が実戦向けに学べるようなものはほとんどない。
米大リーグ(という言い方も昭和だけど)打倒という目標は素晴らしいが、実際にはロッテ相手に大苦戦する。
ビクトリー球団に至っては元力士とか元プロレスラーとか元ボクサーとか全員が野球選手じゃないチームだが、これまたアストロ超人たちは素人集団相手に何度となく劣勢に立たされて大苦戦。
最後は肋骨を折った後で試合に復帰した球五が、球四郎から押しだしフォアボールを選んでサヨナラ勝ち・・って、超人の勝ち方にしてはなんとも地味。
まーとにかくケガ人は多いし(相手チームには死人も出た)点はやたら取られるし、マジメに考えたらプロでは全然通用しないレベルとも言えるんだが・・
でもそうしたSF以上の荒唐無稽さを受け入れて楽しめば、これほどステキなファンタジー・コミックもないのだった。
「殺人L字ボール」とか「殺人X打法」などそもそも名前ですでに目的がスポーツでないワザもあれば、「九星剣円陣」「人間ナイアガラ」とか、WWEでもやらない演出が続々登場し、流血の好きな少年たちを歓喜させていた。
八犬伝をベースとしたコンセプトは悪くなかったし、いつ9人全員がそろうのか待ちこがれたのも確かだ。
しかしながら自分がこの漫画に読む意義を最も感じたのはセリフ回しである。
ことわざとか難しい熟語とか故事成語が効果的に使われ、小学生はまず学校で教わらない言葉をこの漫画でたくさん覚えた。
「前門の虎、後門の狼」
「阿鼻叫喚の地獄絵図」
「敗走する者の思考」
「卓越した逸材」
「知らぬ顔の半兵衛」
「虎は死して皮を残す」
「人間至る所青山あり」
とにかくどこか時代劇調の大げさなセリフが多かったのだが、小学生にとっては説得力のあるテキストだったのだ。
こんなセリフを普通に語るアストロ超人たちだが、劇中の設定では全員18歳。
ライバルとして登場したリョウ坂本なんて、アストロ超人と同い年なのに謡曲「敦盛」を好む、という設定だ。
もちろん当時も今もこんな18歳はあまりいないだろう。
連載中は夢中になって少年ジャンプを読んでいたのだが、連載終了と同時にジャンプを続けて読む意欲は急速に無くなっていった。
「アストロ球団」の後、同じ中島徳博の作品で「コンドルの翼」「朝太郎伝」などが連載されたが、どれも読み応えがなく最後まで追うこともしなかった。
しばらくしてサンデーやマガジンを読むようになったので、それだけ自分は「アストロ球団」に入れ込んでいたということだろう。
というわけで、「アストロ球団」。
いささか年代が古い漫画で恐縮ですが、みなさまの評価を教えていただけたら幸いです。
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コメント
ども、だいまつです。
自分はまったくアストロ球団は名前だけで、読んだ事はありません。
でも、子供のころは野球漫画はとても好きなジャンルでした。
キャプテン、タッチ、、。
これは自分の中でも10本の指、、5本ではないですが入る自分の好き好きランキング上位の漫画です。
子供のころは野球をするというのが一番の楽しみだったということもあるのですが、、。
実際の野球も今でも見るのが好きですし、野球はサッカーよりも漫画向けに最適なスポーツでもあると思っています。
何も考えず漫画を読むような休みの使い方、、今度やってみようか、、。
投稿: daimatu | 2010.09.12 12:04
SYUNJIさん、こんばんは。
実は、10年ほど前に、ネット友人に復刻版を借りて
全部読みました。
詳細は忘れましたが、「ドカベンと全然違う」と
思いました。
>>まーとにかくケガ人は多いし(相手チームには死人も出た)
そうそう! 不謹慎な発言をお許しいただきたいのですが、
とにかく野球と生死があまりにも接近しているのが
荒唐無稽でおもしろかったです。
投稿: モンスリー | 2010.09.12 20:35
だいまつさん、コメント感謝です。
読んだことないですか・・ちょっと古い漫画だもんなぁ。
「キャプテン」はあまり読んでませんが、「アストロ球団」と同時期にジャンプに連載されていた「プレイボール」は読んでましたね。
同じ野球漫画ですが、対極にあるような世界でした。
>野球はサッカーよりも漫画向けに最適なスポーツでもあると思っています。
同感です。
野球はサッカーよりポジションの役割がはっきりしているので、キャラクターの色が出しやすいのではないかと思いますね。
モンスリーさん、コメント感謝です。
>詳細は忘れましたが、「ドカベンと全然違う」と思いました。
確かにそうですね。
土佐丸高校の殺人野球とか明訓メンバーがケガしてピンチになることもありましたが、ムチャ加減ではレベルが違いますね。
劇中の主人公チームの年齢設定はドカベンもアストロもあまり変わらないんですけど・・
>とにかく野球と生死があまりにも接近しているのが荒唐無稽でおもしろかったです。
試合中に死人が出る物騒な漫画ですけど、死に至る伏線はわりと細かく作られていて、ドラマとしてはよくできていたのではないかと思います。
投稿: SYUNJI | 2010.09.12 22:35
♪おれたっちゃ
はだかが
ユニホーム~
野球漫画大好き、ルドルフです。ただし、「キャプテン」と「プレイボール」、「タッチ」は見てません。(←聞いてないか)
でもでも、「アストロ球団」は子供のころに通っていた近所の床屋(のジャンプ)で読んでましたよ。
大男が小男を投げ、ホームランを取ってしまうところや、ミイラみたいな格好をしたピッチャーが投げたり・・・とにかくむちゃくちゃでしたね。詳細はあまり覚えていないのですが。
作者は誰でしたっけ? なんとなく、作風が「ワイルド7」などとだぶるんですよねー。画風は微妙に違うのだけれど。
話は変わりますが、水島新二は神ですよ神。
花は桜木、男は岩木。
投稿: ルドルフ | 2010.09.14 06:40
ルドルフさん、コメント感謝です。
>でもでも、「アストロ球団」は子供のころに通っていた近所の床屋(のジャンプ)で読んでましたよ。
あー同じようなことしてましたね。
友達の散髪につきあって漫画読んで髪切らずに帰るという・・
>作者は誰でしたっけ? なんとなく、作風が「ワイルド7」などとだぶるんですよねー。画風は微妙に違うのだけれど。
絵は中島徳博ですね。
この人も井上コオと同じく作品のほうが圧倒的に有名でしょう。
望月三起也の絵とはかなり違う気がしますが・・
>話は変わりますが、水島新二は神ですよ神。
ぐわらきーん!!
以前書いたかもしれませんが、小学生の頃水島先生のご自宅前まで行って写真を撮ってきたことがあります。(知り合いが近所に住んでいた)
写真撮ってたら中から息子(のちの「おぼっちゃま」!)が出てきて「なに撮ってんだよ!」と怒られました・・
「ドカベン」もだいたい読みましたが、あたしゃ「一球さん」が好きでしたね。
投稿: SYUNJI | 2010.09.14 22:47
まだ 少年誌とヤング誌など 分類のなかった頃
朝太郎伝を 読みました。おそろしい漫画でした。
リアルさ というか 凄かった記憶です。
漫画同好会(名前検討中 朝太郎伝
投稿: 謎の村石太&銀次郎 | 2012.05.15 21:14
謎の村石太&銀次郎さん、コメントありがとうございます。
本文にも書いたとおり、自分は「朝太郎伝」はあまり読んでいません。
「アストロ球団」とは全く違うテイストで、どこか本宮ひろ志の世界にも似ていたような気がしました。
中学生の主人公が次々と無茶なことをやる荒唐無稽な展開は、「アストロ球団」のむちゃくちゃにも通じるようでしたが・・
投稿: SYUNJI | 2012.05.18 22:51