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読んでみた 『たぬきちの「リストラなう」日記』

今日の「読んでみた」シリーズ、書籍・雑誌ではない。
BLOGを始めて6年半近くになるが、仕事の話はあまり書いてこなかった。
理由は簡単で「つまらない」からである。
出版社に勤めていることは明らかにしているが、仕事の話なんて書いてもどうせ文句や愚痴や妬みや版ズレやひがみや謝罪や葛藤や苦痛や戯言にしかならず(あああ)、ますます根性が腐っていくことを確信しているので、あえて書かないことにしているのだ。
「売れない出版社の三流中年社員の愚痴BLOGです」なんて誰が読む?

しかし。
昨日「やじうまWatch」により、あるBLOGを知ることになり、その内容に衝撃を受けた。

たぬきちの「リストラなう」日記

出版社に勤めるたぬきち氏が、会社からの早期退職措置に応じて退職を決意した以降の、氏自身と社内の動向を進行形で綴るBLOGである。
ひととおり読ませていただいたが、文章は実に軽快で、この手の内容にありがちな「会社との我が闘争の記録」「不当な要求を私は断じて許さない」のような文体ではなく、非常に読みやすい表現である。

文章を読んでいくと、頻繁に固まる。
パソコンではなく自分の思考が、である。
それほどにリアルで自分にも投影される内容だからだ。
勝手に思ったが、たぬきち氏とは共通点が多い。
年齢・業界・社歴・会社のとっている措置。
違うのは氏が公開している収入、あとは間違いなく「能力」である。
いずれもこちらがはるかに下。

出版不況と言われて久しいが、氏の収入を見てやはり驚いてしまった。
自分の倍くらいの数字だ。
げぇーあの会社はそんなにもらっとるのか・・
「出版社は給料が高い」という話は、自分に関しては確実に幻想(変な表現だ)だし、同業の友人のほうが多いだろうことも知ってはいるが、「なぁ、いくらもらってるんだよ?」なんて話はしないので、実はあまりよくわからない。
BLOGはコメントもそのまま受け付けているようなので、やはり氏の「高給」について辛辣な意見がいくつか投稿されている。

しかしだ。
この数字だけで「高給とりが何を言ってるんだ」と批判するのはあまり意味がない、と思い直した。
同年齢・同業ではあるが職種は全く違うし、会社だって違うのだから給料が違うのは当然である。
一番違うのは価値観のはずだ。
額面100万円を高いとか安いとか感じるのはそれぞれで全然違うのが当たり前である。
月収1000万円でフェラーリちょっとこすったんで買い換えました、なんて書いてあったらそりゃあムカつくでしょうけど、そんなことは書いてないのだった。

たまたま先月自分の給料明細なんか整理していたのだが、10年前に比べて額面自体がどんどん減っていることを改めて認識した。
10年働いて給料が増えもしない!むしろ減っとるやんけ!きぃー!!・・と2秒くらい暴れてみたが、ここも冷静に考えると10年の間のデフレで「円」の価値も下がってるので、単純に比較してはいけないのだった。
まあ最大に考えなくてはいけないのは10年間の自分の業績というか貢献度なんだが、あたし自身が経営者だったらコイツなんか給料半分でも多いやんけボケと思う程度のハタラキしかしてないので、まあ妥当なのかも・・

BLOGにはたぬきち氏自身のリストラの話以外にも、業界の抱える問題や書店さんとのつながりの話など、自分にとっても非常に共感できる内容が綴られている。
ここだけ読んでも氏が版元の営業マンとして優れた人であることが、同業である自分には直感的にわかる。(と勝手に言わせてもらう。)
無粋で辛辣なコメントには思わずこっちまでムカついてしまうような状態だが、さほど「荒れて」きていないのは、同業者・関係業界からの共感コメントが多いこともあるが、やはり氏の置かれた厳しい実状が、軽妙な文章ではあるが(むしろそれが故に)充分読み手にも伝わっているからではないだろうか。
氏の境遇や考えについて「認識が甘い」と断罪することは簡単だが、それを直球で匿名コメントとして残すのかどうかは、ネットを使う上でのセンスの問題だと常に思う。

いずれにしても、明日自分に起きても全くおかしくない内容のBLOGに、これからも注目していきたい。
よそのBLOG追っかけてる場合じゃないんだけどね。

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コメント

SYUNJIさん、こんばんは。
私の場合、自分の勤め先業界に限らず、サラリーマンの
厳しい現実に直面させられる文章を、読むことができません。
理由は簡単で、自分自身の認識の甘さなどに目を向けるのが
怖いからです。
ついでにいいますと、サラリーマン向けの自己啓発本、
例えばベストセラーを連発している勝間和代氏の本など
も読むことができません。
「あなたは自己研鑽に励んでいますか?」
「あなたは何のために仕事をしているのですか?」
などと問われるのが、怖いからです。

こんな感じで逃げて逃げてサラリーマン生活を約20年
続けてきましたが、これから先もやっていけるのか、
というより雇ってもらえるのか、不安です。
NHKのコント番組「サラリーマンNEO」は楽しみに
しているのですが(^^;)。

投稿: モンスリー | 2010.04.11 17:54

モンスリーさん、こんな記事にコメント感謝です。

>理由は簡単で、自分自身の認識の甘さなどに目を向けるのが怖いからです。

これは自分も同じですね。
研鑽本などたまに読んだりすることはありますが、全然身につきません。

>「あなたは自己研鑽に励んでいますか?」
>「あなたは何のために仕事をしているのですか?」

これは正解のない質問ですよね。
「別に・・」と答えてもそいつの人生ですから、他人から文句言われることではないはずですが・・
ただ研鑽はともかく自分のハタラキが何らかの形で世の中を浄化したり効率化したり誰かの役に立ったりしてる体系を作ること、これが労働の使命だとは思います。

>こんな感じで逃げて逃げてサラリーマン生活を約20年続けてきましたが、これから先もやっていけるのか、というより雇ってもらえるのか、不安です。

自分も同じです。
昨年はウチの会社でも大量の退職者を出しましたが、形としては自分も勧告する側にいる状態でした。
今度は自分が勧告を受ける側になるはずです。

投稿: SYUNJI | 2010.04.11 22:14

有料のメールマガジン、InternetWatchを10年以上購読しており、やじうまWatchは楽しみにしているコーナーなのですが、今月に入ってほとんど読んでなかったので、このブログを知りませんでした。

読みました。

この方、SYUNJIさんの書かれているとおり、仕事できる方ですよね。年収についての辛辣な批判もあるみたいですが、私はこの方のレベルだと高いとは感じませんでした。

現在の出版業界の厳しさは、私のいる通信業界の発展と逆相関の関係なので、コメントしづらい部分はありますが、出版業界はコンテンツデリバリー形態の変化に対応しなくてはならないのでしょうね。ダーウィンの「生き残る種というのは、最も強いものでもなければ、最も知能の高いものでもない。 変わりゆく環境に最も適応できる種が生き残るのである。」という言葉は事実だと思います。

ただ、僕は通信業界でも、市場規模が右肩下がりの固定系の通信の方なので、携帯とは違い将来の発展性がそれほど期待できないのですが。そんな中、僕の会社は現在深刻な危機にさらされています。しかも、政治による危機です。

支持率低下を挽回しようとしている大臣と、その大臣にうまく食い込み利益をあげようとしているiPhone売ってる社長。そんな人達の策略を何とか防ぐために、仲間を集めて奔走しています。

僕は利己的な人が生理的に受け付けられなく、汚い本心を美しい言葉で覆い隠し、あたかも社会のためにやっているようなことを言う人が大嫌いです。

そんな人達が、笑顔でいられる社会にならないように、微力ながら頑張ろうと思っています。

すいません。僕の愚痴になってしまいました。

投稿: getsmrt0086 | 2010.04.17 22:13

利己的なぷくちゃんといいます。
私ほど年収が上下している人間も珍しいと思います。でも正直言ってその年収に合わせて生活するのは(私の場合)それほど難しいとは感じませんでした。そこの職場の方たちも、同じような生活をしていますので。

ブログを読んでみました。頭のいい方だと思いますし、冷静に判断しているような感じも受けましたが、その一方自分に陶酔しているかのような感じも受けました。

そこは多分、コメントされる方たちと同じで、私も彼の高年収に嫉妬しているからかもしれません。

でもわが医院の決算書をみると、うすら寒いものを感じています。次に首を切られるのは、現場に出ていない私だろうな・・・・

投稿: ぷくちゃん | 2010.04.18 07:48

昨日のコメント、僕がまるで利己的な部分がないかのように読めますね。

当然、そんな聖人ではないことは、ご存知のとおりです。

投稿: getsmrt0086 | 2010.04.18 19:18

ゲッツさん、コメント感謝です。

>出版業界はコンテンツデリバリー形態の変化に対応しなくてはならないのでしょうね。

その通りです。
ただ村上春樹があんなに売れている様を見ると、どこの版元も「まだウチもなんとか・・」とつい考えてしまうところが業界の甘い点ですね。

>僕は利己的な人が生理的に受け付けられなく、汚い本心を美しい言葉で覆い隠し、あたかも社会のためにやっているようなことを言う人が大嫌いです。

いますね、そういう人。
まあたいがいそういう人の発言や行動はすぐ裏が透けて見えるもんですが・・

ぷく先輩、コメント感謝です。

>頭のいい方だと思いますし、冷静に判断しているような感じも受けましたが、その一方自分に陶酔しているかのような感じも受けました。

そうですねえ、実際に会ったわけではないので本心はわかりませんけど、20年以上勤めた会社をやめるというのは別の意味で高揚するものがあってもおかしくはないように思います。

>そこは多分、コメントされる方たちと同じで、私も彼の高年収に嫉妬しているからかもしれません。

それはあるでしょうね。
あたしの場合やはり同業同年齢でこの差は・・と思わずにいられませんでしたが。
ただ、あのBLOGにコメントでその思いをぶつけてる書き込みを見ると、あれはオトナとしてどうかなと思います。

投稿: SYUNJI | 2010.04.18 21:23

ども、SYUNJIさん。

じぶんは紹介のブログを読んでいませんが、正直自分はそれどころでは無いという状況で、、。

繰り返しの転勤で自分の人生も転機を迎えている所ですね。

状況が落ち着いたら、ブログを更新しようかと思っているのですが、現在はもう少し報告にも時間が必要ですね。

ま、それまではツイッターで。

辞めるも何も、自分はその後が一番難しい地域に住んでいます。
というのも、有効求人倍率が全国で一番低い所。

その現実が、自分の前にありますね、、。

関東圏の人が羨ましい、、。

投稿: だいまつ | 2010.04.23 22:58

だいまつさん、コメント感謝です。

>じぶんは紹介のブログを読んでいませんが、正直自分はそれどころでは無いという状況で、、。

自分もよそのBLOGを追ってる状況じゃないんですけど、見ずにはおれません。
最近コメントも殺伐としたものが増えてますが・・

>ま、それまではツイッターで。

BLOG更新より手軽なのはツイッターのいいところですね。
未だに使い方がよくわかりませんけど・・

投稿: SYUNJI | 2010.04.24 20:41

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