読んでみた 第31回 ダ・ヴィンチ
世の中に自分の守備範囲外な分野はうんざりするくらいあるが、その中でも非常に居心地の悪い分野が文芸である。
文芸には小説の他に詩や戯曲なんかも含まれるが、部数や話題から言っても小説が文芸の中心にあることは間違いない。
だが。
自分には小説を読むという習慣が全くない。
全然いばって言える話じゃないんだが、これは子供の頃から変わっていない。
いちおう版元に長いこと勤めていて編集っぽい仕事もしてたりするんだが、小説は公私ともに守備範囲外なのである。
村上春樹の「1Q84」が200万部突破したらしいが、これを聞いて考えるのは利益率とか印税とか編集のボーナスとか返品とか配本とか、生臭くて夢のないことばかりだ。
そんなアンチ文芸な自分が今回何を勘違いしたのか、総合文芸誌「ダ・ヴィンチ」なんかを買ってしまった。
特に強くひかれた特集などがあったわけではない。
書店で雑誌を物色中、なぜか「ダ・ヴィンチ買わないと・・」という電波を受信したのである。(大丈夫?)
藤子・F・不二雄特集に多少興味があったことは確かだが・・・
「ダ・ヴィンチ」は94年創刊の月刊総合文芸誌である。
小説が中心だが漫画も詩も短歌も映画も採り上げている。
表紙に若いタレントを使うことが多いので、比較的若い世代をターゲットにしていると思われる。
版元はメディアファクトリー。
この会社は元のリクルート出版である。
小説に興味のないキモイ中年から一番距離のある総合文芸誌「ダ・ヴィンチ」。
果たしてあたしは今回その距離を縮めることは可能なのでしょうか。
・・・・・読んでみた。
今回読んだのは8月号、490円。
判型はA4、236ページ。
目次はこんな感じ。
●特集1
ようこそSF(すこしふしぎ)な世界へ
ぼくらの藤子・F・不二雄~ドラえもんという扉を抜けて
●特集2
求ム、本当に怖い怪談実話
●あの人と本の話
ベッキー/松田龍平/北乃きい
●Colum Blocks
●百人書評
●連載漫画「舞姫 テレプシコーラ」 山岸涼子
第一の特集が漫画という点で、この雑誌のスタンスが見てとれる。
漫画という分野だって立派な文芸の一ジャンルであり、序列優劣を付けるものではない、という意志表示である。
出版業界ってのは予想以上に石頭な輩も多く、漫画を明らかに小説よりも低く見る人間はまだたくさんいるのだが、この雑誌の編集サイドはそういう姿勢とは違うようだ。
藤子・F・不二雄特集では東直子・あさのあつこ・辻村深月などの作家が寄稿している。
「誰もそこまで聞いてない」ようなオタク論評を載せず、女性作家からの意見も意図的に掲載している時点で、藤子作品が普遍的なものだという主張が伝わってくる。
特集に限らずどのページでもこの調子であり、マニア臭はあまり感じない。
で、その藤子・F・不二雄特集を読んで気づいたのだが、自分も思ったほどこの人の作品を読んではいないようだ。
「ドラえもん」は最初の発表当時からリアルタイムで読んでいたが、「エスパー魔美」「21エモン」「キテレツ大百科」などはほとんど読んでいない。
これは当時定期購読していた小学館の学習雑誌によるところが大きい。
要するにリアルタイムに「小学○年生」で連載されていた作品ならば読んでいて、そうでない作品はそれほど読んでいない、ということだ。
藤子作品はAもFも決して嫌いではなかったが、単行本を買ったりはしていない。
「Colum Blocks」は文字通り1ページ4分割のコラムページだ。
執筆は結構多彩で、川上未映子・三崎亜記・多部未華子などの著名人もいるが、何者なのかよく知らない人もいる。
だがこれがどれもかなり秀逸な内容だ。
短いコラムなのだが切り口が鋭かったり笑えたり新鮮だったりでどれもいい話なのである。
川上未映子のコラムはただの日記のような内容だが、作家にしては表現が無防備でけっこう新鮮な印象だ。
多部未華子のコラムには「男と寝たり」なんてフレーズがさらりと出てきて、「未華子ちゃんが・・・もうそんなことを・・・」などと極めておっさんな感想を抱いてしまったが。
「百人書評」は読者と思われる100人が短い言葉でひとつの作品について評するページだ。
今回の対象は三崎亜記の「となり町戦争」。
(実はこの本はめずらしく読んでいる)
百人の書評は様々だが、思ったより想定内のコメントが多かった。
その中で一人だけ非常にいい書評を書いている人がいた。
「本当は少し悲しい恋愛小説」
この作品を読んだ人であれば、おそらく「言われてみればその通り」と思うんじゃないだろうか。
「となり町戦争」、やや不可解なところはあったがまあおもしろい小説だと思った。
自分の場合、小説を読んだ時の「置きざりにされた」感がダメなのである。
結末が淡白だったり不可解だったりつまんなかったりした時に、「置きざりにされた」ような気分になるのだ。
「損した気分」とも言えるのだが、小説を読み慣れていないせいか、書き手に「置いていかれた」感覚という言い方のほうが正確だ。
さてこの雑誌、真ん中あたりに判型の小さいページが挟まっていて、そこに山岸涼子の連載漫画「舞姫:テレプシコーラ 第2部」が掲載されている。
しかし。
この漫画が残念ながらかなり雑な絵に見える。
山岸涼子と言えば「日出処の天子」くらいしか読んだことがないが、こんな絵だったっけ?
でもネットで調べたら人気はかなり高いようで、扉のページには「大反響!」なんてアオリが書いてある。
意外だ・・・
体裁面では紙の薄さ粗さがやや気になるが、軽いことはメリットでもある。
紙が薄いので中年のあたしにはページがめくりにくい・・・
あと文字の級数(大きさ)が小さいページが多いので、これもやっぱ若いヒト向けなんだろうなあと少なからず疎外感を覚えた。(じじい)
というわけで、買った直後はかなりムリめな展開かと危惧したが、実際はそうでもなかった「ダ・ヴィンチ」。
これでこの先ばんばんと小説を読むようになるとも思えませんが、この雑誌がもしかしたらハードルを下げてくれるのかもしれない・・・と勝手な淡い期待を抱くような、そんな雑誌でした。
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コメント
今回初めて「ダ・ヴィンチ」が文芸雑誌だったということを知ったゲッツです。
小説を読まなくなって10年以上経つような気がします。20才前後の頃は、一般教養として名作は読んでおかないといけないと思い、少しは読んでいましたが、最近は全く手に取ることさえしなくなりました。
昨年、何年かぶりに「カモメになったペンギン」という小説を買いましたが、これはジョン・P・コッターという経済学者の書いた本なので、純然たる小説ではありません。
心を豊かにするためには、小説を読むことも大事だと分かっていますが、なかなか手が出ません。そこの部分は映画で少し補っています。
投稿: getsmart0086 | 2009.08.08 13:03
ゲッツさん、コメント感謝です。
>20才前後の頃は、一般教養として名作は読んでおかないといけないと思い、少しは読んでいましたが、最近は全く手に取ることさえしなくなりました。
それは意外ですね。
あたしは20才前後の頃も名作は読んでおらず、雀荘でスポーツ新聞を毎晩読んでました・・
ちなみに妻は「1Q84」を発売直後にAmazon買いし、3日くらいで読破していました。
>そこの部分は映画で少し補っています。
映画も4年に1本くらいしか見ないです・・
どうしよう・・・のりピー逮捕・・(関係ない)
結局こういう下世話な話にしか興味がわかない・・
投稿: SYUNJI | 2009.08.08 22:23
こんにちは。
ほぼ1~2日に一冊の割で小説を読んでます。
余暇はほとんど音楽聴きながら本読んでます
(我ながら他にすることないんでしょうか)。
「ダ・ヴィンチ」は図書館で一応毎号チェックしてますが、
買うまではいきません。
私も堂々オッサンと呼ばれる年だからでしょうか、
大好きな「本」に関する雑誌なのに、
ちょっとついていけないところが多いです。
それころ「置いていかれた」感があります。
字も小さすぎるなあ~(←やっぱりオッサン)。
あ、でも「テレプシコーラ」は、なかなか面白いです。
投稿: 木曽のあばら屋 | 2009.08.08 23:01
木曽のあばら屋さん、コメントありがとうございます。
>ほぼ1~2日に一冊の割で小説を読んでます。
それはすごいですね。
自分も毎日本は読みますが、基本的にノンフィクションです。
>字も小さすぎるなあ~(←やっぱりオッサン)。
確かに少し小さいですね。
おそらく若い読者はなんとも思っていないんでしょうね。
>あ、でも「テレプシコーラ」は、なかなか面白いです。
そうですか・・
どうしても絵の雑さが気になって、内容があまり頭に入りませんでした。
設定自体も古典的な感じですし・・
一話だけなので評価もできませんけど。
投稿: SYUNJI | 2009.08.09 18:03
SYUNJIさん、こんばんは。
会社の福利厚生で図書館の管理をしております。
そのせいではありませんが、本はまあまあ読み
ます。
さて、ダヴィンチですが、創刊当時は新刊情報を
得るためによく立ち読みしていました(申し訳
ありません)。ですが、しばらくするとやめて
しまいました。SYUNJIさんも指摘されている
とおり、ターゲットが若向けで、新刊情報以外は
あまり読もうと思わなかったからです。とはいえ、
創刊当時といえば、私もまだ当時は20代でしたが。
>>ベッキー/松田龍平/北乃きい
>>川上未映子・三崎亜記・多部未華子
こういう人たちが出てくるところをみると、
やはり若向けだなあと思います。
ですが、それが悪いことだとも思いません。読書離れ
が叫ばれている中、若い人向けの読書ガイドがある
のはよいことです。
ところで、私は藤子・F先生が大好きです。マニア度
ではオタクに負けますが、先生の作品への愛情は負けない
つもりです。これから発刊が続く大全集もほしいのですが、
狭い我が家では置き場がないのであきらめます。
>>辻村深月
この作家も相当な藤子・F先生フリークです。ドラえもん
へのオマージュとなる小説もあります(ただし、読みにくい)。
投稿: モンスリー | 2009.08.09 20:37
モンスリーさん、コメント感謝です。
会社に図書館があるんですか?
よく考えたらウチの会社、出版社なのに資料室もありませんけど・・
>読書離れが叫ばれている中、若い人向けの読書ガイドがあるのはよいことです。
ごもっともなのですが、あたしには若者をたしなめる資格もありません・・
読書離れの最先端にいるのは、実はあたしのようなデタラメ中年なのだと確信しました・・
>これから発刊が続く大全集もほしいのですが、
>狭い我が家では置き場がないのであきらめます。
これにはあたしも興味がわきましたね。
あまり読んでないんで、こういう全集で勉強しなおしたいな、と・・(でも買えないと思う)
投稿: SYUNJI | 2009.08.09 21:17
SYUNJIさん同様、小説をほとんど読まないルドルフです。
どのくらい読まないかというと、直近に読んだ芥川賞受賞作が、10年前の「日蝕」(平野啓一郎)というテイタラク。
自分が熱心に読むものといったら、スポーツ系の雑誌や新聞、製品解説書(?)、たまにちょっと昔の人のエッセイ、カルチャー系のおバカモノだったりします。つまり、ブンゲイからは相当遠いところで読書している、ということです。
ところがそんな私もたまに買う雑誌がコレだったりします。今月号は買ってませんが、たしか、先月号までは結構続けて買っていたりして。
この雑誌よくできてますよ。若者向けというのはたしかでしょう。表紙を含め、やたら有名人を登場させるところなんかはハナにつく。けれど、中身はマニアックに寄り過ぎず中庸で、ミーハーでない。私は最近の雑誌の中では、大変評価してます。
読み物として中身を追うと、「置き去り」感を感じるかもしれないけれど、情報誌としてみれば、逆に、我々のようなオッサンが世の中から「置き去り」にされるのを救ってくれる役目を果たす雑誌ではないかと。とりあえずは、ブンゲイの世界の流行とかがわかるし。
なにより、ワンコインでコンビにで買えるというのはデカい。中綴じの漫画はいらねーけど。
投稿: ルドルフ | 2009.08.10 06:43
ルドルフさん、コメント感謝です。
小説を読まないという割にコメントが鋭い・・
>直近に読んだ芥川賞受賞作が、10年前の「日蝕」(平野啓一郎)というテイタラク。
もはやタイトルも作者名も記憶にありません・・
ちなみにあたしが最後に読んだ芥川賞作品は金原ひとみ「蛇にピアス」だったと思います。
>自分が熱心に読むものといったら、スポーツ系の雑誌や新聞、製品解説書(?)、たまにちょっと昔の人のエッセイ、カルチャー系のおバカモノだったりします。
ああーほとんど同じですね。
製品解説書ってのはあまりないですが。
>中身はマニアックに寄り過ぎず中庸で、ミーハーでない。
同感ですね。(1回しか買ってないけど)
もっとおカタイ文芸誌かと思っていましたが、そうでもないですね。
かと言ってチャライところもそれほどなく、秀逸な編集だと思います。
>中綴じの漫画はいらねーけど。
ばっさりですな。
あえてこの雑誌で連載する意義があまりよくわからないですが・・
ふつうの少女漫画誌じゃだめなんでしょうかね。
投稿: SYUNJI | 2009.08.10 23:12
こんばんは、JTです。
カミさんは小説や漫画が好きなので、よく「ダ・ヴィンチ」立ち読みしています(買えよ)。私は眺める程度の立ち読み(爆)。
今は無くなりましたが、山岸涼子さんの漫画とは別に不定期(?)で別冊のエッセイマンガが付いていました。
伊藤理佐さん、小栗左多里さんなどでこちらを主に読んでいました。
投稿: JT | 2009.08.14 23:12
JTさん、コメント感謝です。
>私は眺める程度の立ち読み(爆)。
うはは、ご夫婦で立ち読み。
あんまし笑ってられない状況なんだけど、よその版元の話だからいいか・・
>伊藤理佐さん、小栗左多里さんなどでこちらを主に読んでいました。
そうですか!
伊藤理佐の「おんなの窓」はけっこう好きです。
この人、吉田戦車の奥さんですよね。
小栗左多里の「ダーリンは外国人」シリーズもけっこう読んだなぁ。
このアニメ版(どっちかっつうと紙芝居調)が、都内のJR中央線の車内で放映されてますよ。
投稿: SYUNJI | 2009.08.15 18:12