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読んでみた 第26回 ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児

いちおう音楽BLOGとして4年半続けてきたあたしですが、本文中に幾度かプロレスラーの名前を登場させたりしています。
その中でもっとも登場回数が多いのが、故ブルーザー・ブロディ。
これは自分がもっとも好きだったレスラーであることに他なりません。
そんなブロディに関する書籍を今週図書館で発見しました。

「ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児」
バーバラ・グーディッシュ&ラリー・マティシク/著

Brody

版元は東邦出版、発売は2008年2月、定価1800円、256ページ。
二部構成で、前半の手記をブロディの妻であるバーバラ女史が、後半の伝記を友人でありWWFのプロモーターもしていたラリー・マティシク氏が手がけている。

手記はフランク・グーディッシュ(ブロディの本名)とバーバラの出会いから、ブロディの死を語るに至った決意、死亡時とその後の混乱、夫や父親としてのフランクの姿などが綴られたものである。
夫の死亡連絡(実際には到着後に真相を知らされた)を受けてプエルトリコに向かう際の動転した様子や、関係者の混乱ぶりなどが非常にリアルに記されている。
ブロディを刺したのはホセ・ゴンザレスというレスラーだが、この事件に興行師として大きく関わっていたのはカルロス・コロンである。
この人自身もレスラーであり、日本にも来てブッチャーとタッグを組んで馬場や鶴田と戦っていたことを覚えている。

一方伝記はラリー氏やスタン・ハンセン、テリー・ファンクら周囲の人間によるブロディ談話が随所に埋められた秀逸なドキュメントである。
著者がいずれもアメリカ本国で生活している人たちなので、内容もアメリカでのブロディの生活や信条が中心となっている。
馬場や猪木の名前も出てくるが、日本の関係者の談話は基本的に採り上げられていない。

さてそのプロレス。
我が国でもK-1や総合格闘技の台頭により、プロレス自体の人気凋落ははっきり現れており、ゴールデンにテレビ中継がなくなってどれくらいになるのか、思い出せないほどの状況だ。
加えてユセフ・トルコやターザン山本やミスター高橋など、身内の者がプロレス界の内幕を洗いざらい明らかにしてしまい、本国ではとっくにWWFが「演出ありきの総合エンターテイメント」としての定義を確立させて成功しているにも関わらず、日本では未だに全日本・新日本といった老舗団体が従来の興行スタイルを維持したままである。
(むしろハッスルやインディーズ団体のほうがその点の割り切りが早かった)

で、この本もブロディのたどってきたプロレスが、実は全て演出の上で成り立っていたことを前提に書かれている。
もはや「常に真剣勝負で強い者がチャンピオン」という昭和の前提は誰も信じていない。
たとえフィニッシュが事前に設定されていたとしても、結果として勝ち負けではなくプロセスで客を呼べるレスラーがのし上がっていく、という構造を、ブロディの哲学と理念と葛藤の紹介により明らかにしている。

プロレスは興行であり、プロモーターのチカラは絶大である。
レスラーがプロモーターの意向に逆らえば次からはお呼びがかからなくなり、プロモーター同士の横のつながりで他の興行にも出られなくなることもあるだろう。
その団体や興行のトップレスラーをあっさり負かしてしまうようでは困るのである。
ブロディもそうした「仕込み」「演出」と無縁だったわけではもちろんないだろう。
ただこの本には、そういう状況の中でも興行として成功させる最良のシナリオを、常にブロディは持っていたことをうかがわせる表現が随所に見られるのだ。

客を呼べるレスラーであることを充分自覚していたブロディは、自分を安売りするようなことはなかったようだ。
もちろん「あっさり負けてくれ」と言われてころころ負けてしまっては、ブロディの価値も下がってしまうどころか、興行そのものもどんどんダメになってしまう。
これはプロモーターや相手レスラーのためにもならない。
ブロディはそれを知っていて、常に興行側に戦いを挑んできたのだ。

これまでも多くのプロレス本を読んできたが、明らかにゴーストが書いてると思われる「レスラーの著書」だったり、特定のレスラーや団体にやたら肩入れした話ばっかだったり、ムチャクチャな暴露本でかえってどこまでがホントなのかわからないような、プロレスさながらのフィルターがかかった内容のものが大半だった。おもしろかったけどね。
しかしこの本に関しては、まずプロレスの興行としてのあり方をストレートに提示した上で、ブロディがいかに知的にギリギリのところまで反逆(創意工夫と言ってもよい)を試みたかが記されており、非常にリアリティを感じた。
刺した張本人のゴンザレスや、深くかかわっていたカルロス・コロンの証言がないのは取材の限界だろうが、それを割り引いても単純なブロディ絶賛本ではないところが、質の高さを感じさせるのである。

自分も含め、多くの昭和の少年はプロレスの様々な矛盾や疑惑に気づいてはいた。
悪役レスラーの露骨な反則の最中、なぜかリング内のゴミを拾っていて肝心の反則現場を見ていないジョー樋口・・・
タイトル戦で最後は必ずベルトを持って帰ることになっているハリー・レイスやリック・フレアー・・・
マードックの子牛の焼き印押しを必ず受けてしまう藤波・・・
それでも対戦を前にわくわくさせるレスラーやカードはたくさんあり、結果がどうあれ興奮させられたものだ。
その中で突出して強さや技を受けた側の痛みがものすごく伝わる「説得力のある」レスラーがブロディだった。

ブロディが亡くなって20年が経った。
自分はブロディの死を、「ズームイン!朝」で知った。
パンを食いながらテレビを見ていたのだが、徳光アナがブロディ死亡を伝えた時、持っていたパンを本当にタタミの上に「ぽとっ」と落としてしまったほどの衝撃だった。
その日の夕方、東スポを買ったらやはり1面にブロディ死亡の記事が出ていた。
やはり本当だったんだ・・・
そう思ってアパートでひとりチカラなく東スポの記事を読んだことを鮮明に覚えている。

この本の書名は少し変わっていて、「私の、知的反逆児」と句点が入っている。
何かの間違いかとも思ったが、あえて句点を入れたのだろう。
意図はわからないが、目を引くタイトルではある。
訳者は田中雅子という人だが、自分が読んだ限りでは、日本語としてあるいはブロディに関わる文章として、おかしいと感じた箇所は全くなかった。
もともと訳者はプロレスにかなり詳しい人か、または入念な下調べや校正が行われたものと思われる。
東邦出版は格闘技や音楽関連書籍をたくさん出している版元だが、こうした訳本が出せるのはさすがだと思う。

というわけで、読んでみた「ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児」。
ブロディがもし今も存命であったなら、おそらくはレスラーとしては引退後、プロモーターとして手腕を発揮していたことでしょう。
あるいはジェシー・ベンチュラのように政治家になっていたかもしれません。
日本でただプロレス中継を見ていただけの自分にとっては、ある意味ビジネス書とか啓発モノを想起させるようなところがあります。
今はプロレスそのものからは遠ざかりつつある自分ですが、この本は元昭和のプロレス好き少年であれば間違いなく楽しめる一冊です。

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コメント

定価1800円と聞いて、借りたんだろうなあ、と感じた私、ぷくちゃんです。

ブロディ。。。すごいレスラーでした。ハンセンは本当はやさしいやつってな感じでしたが、ブロディはマッド・レスラーという感じがしました。本当はインテリだったのでしょうが・・・・

しかし、この記事。絶対に「やつ」が来る・・・「やつ」が・・・・

投稿: ぷくちゃん | 2008.08.16 09:43

ジンジャー先輩、まだ記事をアップして数分しかたってませんが・・・チャットのようなコメント感謝です。

>定価1800円と聞いて、借りたんだろうなあ、と感じた私、ぷくちゃんです。

ええ、借りました。
よその版元の売り上げ貢献には抵抗が・・(←ココロの狭いヤツ)

ブロディは実際インテリでもあったようで、レスラーやる前はダラスのスポーツ紙でコラムニストなんかもやっていたそうです。
(日本の漫画「プロレススーパースター列伝」では新聞記者という説明でしたが、これは少し脚色だったらしい)

>しかし、この記事。絶対に「やつ」が来る・・・「やつ」が・・・・

ええ、あの人とあの人が・・まもなく・・
コメントほしさについブロディ記事をかましてしまいました・・

投稿: SYUNJI | 2008.08.16 09:53

猪木の瞳にバーニンスピリッツを見た、、

という台詞は、新聞記者ならではなのかな?と子供のころ思っていただいまつです。

説得力という点では、鶴田にやったキングコングニーパッドが本当に最高の技だとも思っていました、、。

後、ワンハンドボディースラムとかね、、。

プロレスという枠組みだったら最強と子供のころ何時も思っていましたね、、、。

でも、私の場合、地方でチャンネルの都合上、どうしてもブロディーの映像はごくわずか。
新日での活動期間が短かったというのが理由なんですが、新日に来たら、猪木含めでみんな負けるんだろうなと思っていました。

猪木が勝ってほしいと新日ファンの俺が思わずに、ブロディーが勝つだろうなと思っている。
それがあの当時のブロディーの位置だったですね、、。

この間、紀伊之國屋書店で、思わずダスティーローゼスの本を手に取ってしまいました。
でも、、せっかく紀伊國屋に行ったのに、プロレス本を選んでいる俺、、、

投稿: だいまつ | 2008.08.16 21:09

だいまつ親分、ようこそお待ちしておりました。

>説得力という点では、鶴田にやったキングコングニーパッドが本当に最高の技だとも思っていました、、。

これは痛そうな技でしたね。
シロウトにはマネできない危険な技でした。
技を決めた後ブロディは大きく回転してよけいに大技に見せていたと思います。

>新日での活動期間が短かったというのが理由なんですが、新日に来たら、猪木含めでみんな負けるんだろうなと思っていました。

そうですねぇ・・
結局新日と全日ではブロディの使い方が違ってたんですね。
猪木との試合も見ましたが、やはり全日でこそ光るブロディなんだなと感じました。
新日での試合ボイコット事件のあと、当時の写真週刊誌に、ハワイの海岸でくつろぐ猪木の目の前に突然現れて自分の使い方に納得がいかないことを訴えているブロディの記事が載っていました。
今思うとこういうのも一種の演出だったのかも・・

投稿: SYUNJI | 2008.08.16 21:44

プロディーを最初に見たとき、あんな巨漢で、あれだけのスピードおよびジャンプ力を持ってダイナミックに戦う姿に心底驚いたことを覚えています。それ以来彼のファンでしたが、入場テーマが「移民の歌」だったことも多少寄与しているかもしれません。

僕は、彼以外にはダイナマイトキッドのファンでした。佐山タイガーとの名勝負は本当にワクワクしながら見てました。

この頃のプロレスは本当に面白かったですよね。古き良き時代です。

プロレスを見なくなって久しく、総合格闘技をたまに見るのですが、UFCからパウンドが広まり、危険なイベントになっていますよね。総合格闘技では、僕はRINGSルールが見た目の迫力と選手のダメージが一番バランスとれていたと思っています。観客の過激なものを求める欲求に答え続けるだけではよくないと思うんですけど、興行主はビジネス的に考えてしまうんですよね。。。

投稿: getsmart0086 | 2008.08.17 11:50

こんにちわ。
私が川崎体育館前でブロディに蹴り倒されそうになっている頃、一緒に言った友人はジミー・スヌーカにプレゼントを渡していました。「疲れをとってもらおうと温泉の素、あげちゃった。」…。ジミーが、粉末ジュースと間違えなかったかとても心配でした。そんなヤツと今でもつるんでいる私も何ですが…。

投稿: ねこのちー | 2008.08.17 16:19

ゲッツさん、ようこそお待ちしておりました。
今さらながらブロディの求心力に感謝です。

>入場テーマが「移民の歌」だったことも多少寄与しているかもしれません。

全日時代は原曲でなくアレンジしたものを使っていましたね。
ハンセンとのコンビで入場する際、全日としては彼らの序列に気を使って「サンライズ」「移民の歌」を会場ごとに順序を変えて流していたそうです。

>彼以外にはダイナマイトキッドのファンでした。

いやー渋いですね。
彼のピークは新日時代だったと思いますが、あの滞空時間がゼロと言われたブレーンバスターが好きでしたね。

>僕はRINGSルールが見た目の迫力と選手のダメージが一番バランスとれていたと思っています。

リングスは自分にとっては空白期間ですね。
前田が新日を去ってから、自分は新日もU系もあまり追わなくなりました。
地上波ではリングスの試合が放送されなかったのも原因ですが・・

ねこのちーさん、コメント感謝です。
実際に会場でご覧になっていたんですか、スゴイですね。
ねこのちーさんのBLOGにもレスラーの名前が毎回出てきて楽しく拝見しております。

ジミー・スヌーカって人はブロディのビジネスに対する理念には共鳴するものがあったようで、新日の試合をボイコットした時も、自らの考えで行動を共にした、というようなことがこの本にも書いてありました。
しかしスヌーカに温泉の素をプレゼントしたってのはイイ話ですねぇ。

投稿: SYUNJI | 2008.08.17 17:50

はじめまして大絶画と申します。
復刊ドットコムに『ブルーザー・ブロディ 私の、知的反逆児』をリクエストしました。みなさんの投票次第で復刊される可能性があります。
URLから投票ページにアクセスできます。趣旨に賛同していただけるようでしたら投票にご協力ください。

投稿: 大絶画 | 2012.12.12 21:18

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