読んでみた 第22回 アンディ・サマーズ自伝 ポリス全調書
今回読んでみたのは「アンディ・サマーズ自伝 ポリス全調書」。
日本では先日のポリス来日公演に合わせて出版された、アンディ・サマーズの自伝である。
公演の日に水道橋駅から東京ドームに向かう途中、書店に山積みされていたのをルドルフさんと見ていたので、出版されたことは知っていた。
値段とページ数にビビって買わなかったのだが、先日図書館に入荷されたのを見つけて早速借りた。
CDの品揃えはイマイチだが、今回の新刊チョイスは偉いよ、M市立図書館。
この調子でもっと音楽関連書籍を充実させておくように。義務。
版元はブルース・インターアクションズ、2500円。
400ページのハードカバーでかなり厚い。
普段安っぽい文庫本とか雑誌ばかり読んでるので、この厚さ重さはかなりこたえるか?と心配だったのだが、電車の中で立って読んでいても思ったより苦痛ではなかった。
内容がよかったからだろう。
版元サイトの紹介ページにはこんなアオリが記されている。
☆ロンドンで名を馳せたバンドマン青春時代とロマンティックな愛の実話。
☆スティングとスチュワート・コープランドとの運命的な出会い。
☆パリで「ロクサーヌ」が生まれた夜、ポリスが警察に連行された日。
☆ウォーホルが書いた「アンディーからアンディーへ」。
☆俳優ジョン・ベルーシと食べた「マジック・マッシュルーム・オムレツ」。
☆「シンクロニシティーII」の"あの音"はローディーの○○○の音?
☆3人がバラバラの心のまま「見つめていたい」が完成した瞬間の感動秘話。
☆そして新しい夢……。
本のタイトルは「アンディ・サマーズ自伝 ポリス全調書」だが、「ポリス全調書」は副題である。
だが表紙や背にある文字級数は副題のほうが倍くらいでかい。
これは日本での販売を考えるとしかたのないことだろう。
「ポリスを知っていてもアンディを知らない」という人もそれなりにいるであろうと版元が判断したためだ。
で、アンディ自伝なので当然アンディの半生を本人が綴るのだが、生い立ちから始まってスティングやスチュアートが登場してポリス結成となるまでに200ページくらいかかっている。
つまり本の半分はポリス以前のアンディ話なのだ。
これは少し意外だった。
アンディはスティングやスチュアートよりも10歳くらい年上であり、二人とは比較にならないキャリアを持ってポリスを結成している。
なのでポリス以前の音楽活動の中で、様々なビッグネームと交友関係を築いていたようだ。
エリック・クラプトン、ジミ・ヘンドリックス、キース・ムーン、ジョン・ロード、ロバート・フリップなど、有名なアーチスト名が続々と、しかもさらっと出てくる。
ロバート・フリップとは古い友人でアルバムも共同で作成したことは知っていたが、同じクリムゾンのマイケル・ジャイルズとはかつて同じボーイ・スカウトにいたことがある、とのこと。
この話はもちろんこの本で初めて知ったのだが、クリムゾンのファンにもおそらくあまり知られていないのではないだろうか。
国や人種にもよるだろうが、10歳違うと「同世代」という感覚は共有しづらいと思う。
が、この本を読む限りではアンディは自分よりずっと若い二人のミュージシャンとしての才能を認めていて、自分のキャリアや年齢を押しつけるようなことはしていないように感じた。
ともかくアンディはサイケやヒッピーといったフラワーな文化にモロに影響を受けた世代であり、自伝にもマリファナやコカインやマジック・マッシュルームなどを試したくだりが何度も出てくる。
ジョン・ベルーシとはマジック・マッシュルーム入りオムレツを一緒に食べて幻覚を楽しんだ間柄だそうだ。
やはり興味深かったのはポリスの音楽性についてふれているあたりだ。
その後のスティングのジャズに傾倒したソロ活動の方向性を考えると、どうしてポリスはパンクやレゲエを土台にしたのかがずっと不思議だった。
本当のところスティングはどう思っていたのか、他の二人もパンクやレゲエを本当にやりたかったのか、知りたいと思っていたのだ。
今回この本を読んで、そのあたりの疑問が少しだけ解けたような気がした。
もちろんスティングではなくアンディの考えなのだが。
アンディはパンクというジャンルは自身の方向性とは違うことをはっきりと書いている。
他のパンクなバンドとともにツアーに出て、バスの中でパンク連中が大騒ぎする中、スティングは静かに本なんか読んでいて、はじめはスチュアートもそんなパンクから浮いたポリスがカッコ悪くてイヤだったらしい。
一方でアンディはパンクの持つ音楽性やエネルギーや反骨精神は嫌いではなく、当時の世間を覆うパンクのムーブメントは決して無視できないものだったことも認めている。
なので音楽の要素としてパンクやレゲエは採り入れることはしても、スタイルやファッションには同調しないというスタンスをとったのである。
アンディはレゲエやパンクを土台にしても、スティングの作曲に自らのギターを乗せて「ポリスな音」にしてみせることに絶対の自信を持っていたと思う。
これは土台にプログレやジャズやクラシックを持ってきても同じだろう。
独創的な彼らはあっという間にスーパーバンドに成長。
あちこちのバンドを渡り歩き、浮き沈みの激しい生活を送っていたアンディも、スターとして世界を飛び回ることになる。
だが成功と引き替えに私生活は崩壊し、バンドが人気絶頂の時に離婚を経験する。
これは時期はそれぞれ異なるが他のメンバーもスタッフにも共通した話のようだ。
ポリスが解散するあたりの話はかなり淡泊に書かれている。
アンディ自身の意図なのか編集の都合なのかはわからないが、バンド解散とともにめでたく妻とも復縁し、アンディ的にはハッピーエンドで本は終わっている。
400ページの大作だが、内容がおもしろいので読み終えるのが惜しいくらいだった。
本当にアンディが書いた原語を翻訳したものという前提での話だが、翻訳としても非常に優れた文章で、臨場感にあふれた描写が多い。
新刊なのに書体や紙質がちょっと古くさいのだが、慣れると結構味わい深いものに思えた。
ただし誤字脱字は案外多い。
まあ400ページもあればしかたがないし、なにしろ日本公演前には店頭に並べなければならなかったのだから、編集や印刷もすんごいタイトなスケジュールだったのかもしれない。
そんなわけで読んでみました「アンディ・サマーズ自伝」。
もちろんポリスを知らなければ楽しめない内容ですが、これまで読んだ様々なアーチスト本の中でも上位にランクしたいと感じました。
最後に、最も印象に残ったチカラのある一文をご紹介して、終わりにしたいと思います。
「ポリスは僕の夢のひとつでしかない。ひとつだけ確かなことは、僕には音楽があるということ。」
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コメント
人気記事ランキングで「買ってみた」が第一位というのに不思議な雰囲気を感じた私です。
私のブログでは「女子テニスプレーヤー」の記事がいつまでも上位に・・・・
さてミュージシャンの自伝。面白いですか?私もオペラ・スターの自伝を結構読みましたが、なかなか芸術家の裏の顔が見れて楽しいと感じました。
ロック・ミュージシャンではそれこそ、興味深い私生活なんでしょうね・・・アンディ、ポリスの中では一番好感が持てる顔立ちと人柄(勝手な想像)をしていますよね。
今度、読んでみようかと思います。
ところでSYUNJIさん、M市図書館というと県境を越えて!そういえばあそこの隣接はそのような構造ですものね・・・・
投稿: ぷくちゃん | 2008.04.19 12:37
人気記事はボクシング、、。アクセスの殆どをボクシングが占めている、、だいまつです。
さて、ポリスなんですが、洋楽に興味を持ったときには解散した後で、兄はアメリカのバンドを聞いていたために殆ど就職するまで聞いたことがなかったということで、どうしてもスティングばかりに目が行っている私です。
昔のWOWOWで、一緒にツアーを回っているのを見たことがあります。
結構話題を集めましたし、最近の再結成というか一緒にツアーもどうしてもそれほど熱を持たずに見ています。
おもしろい本を読み終えたくない、、判ります。
投稿: だいまつ | 2008.04.19 17:44
ぷく先輩、クリムゾンの話題を仕込んでおいたのに反応していただけなくて残念です。(本音)
ランキングですが、この仕掛けを表示して以来なぜか「カセットアダプター」の記事がずうっと上位です。(ベスト5以下に下がったことがない)
ほとんどが検索サイト経由なのですが、どうも特定の人ではなさそうで、全国各地でカセットアダプターを検索するのがここ2年くらい流行っているのではないかと・・(謎)
さてアンディ自伝ですが、やはり雑誌記事では知ることのできない情報が多いです。
ボーイ・スカウトやマジック・マッシュルームの話ももちろん知りませんでした。
>M市図書館というと県境を越えて!
ウチの市とで相互に図書館利用が可能なのですが、最近もっとスゴイ本が入荷されました。
そのうち書きます。
だいまつ親分、コメント感謝です。
>人気記事はボクシング、、。アクセスの殆どをボクシングが占めている、、
これはやはりボクシングの好きな方が見に来られているんでしょうね。
ぷく先輩の記事もテニス好きの方がたくさん見ているんだと思います。
あたしのBLOGはカセットアダプター好きな人が見に来てるのだろうか・・?
>どうしてもスティングばかりに目が行っている私です。
先日、20年前に録画した「音楽の巨匠たち」のビデオを見たのですが、その前にスティング日本公演が録画してありました。
録画したことも忘れてましたので、かなり新鮮でした。
アンコールが「見つめていたい」だった・・
スティングの公演なのに・・
>おもしろい本を読み終えたくない、、判ります。
今週も図書館から借りたあるアーチスト本を読んでますが、残り50ページくらいです。
これがまたおもしろくて、読み終わるのが惜しいので、ちびちび読んでいます。
投稿: SYUNJI | 2008.04.19 21:36
たまたま昨日、書店で同書を見かけました。パラパラと見ただけででしたが。
地元のN市図書館の蔵書をネットで検索しましたが、ありませんでした(;_;)。
>☆「シンクロニシティーII」の"あの音"はローディーの○○○の音?
>☆3人がバラバラの心のまま「見つめていたい」が完成した瞬間の感動秘話。
この辺、気になります。立ち読みしようっと。
昔、ロッキン・オンのコープランドのインタビューで『「見つめていたい」をスティングが初めて聞かせてくれたときは、オルガン弾きながら歌っていた。あのギターリフを考えたのは、アンディだ。』とか言ってました。
ポリス=スティングではない、と言いたかったようですが、そんなことは、わかってますよ、コープランドさん!あなたたちも十分個性的なミュージシャンですから、他の人間ではポリスになりませんって。
>今週も図書館から借りたあるアーチスト本を読んでますが、
こちらも気になります。感想楽しみにしています。
投稿: JT | 2008.04.20 13:19
JTさん、コメント感謝です。
アンディも自伝の中でスティングの作曲の才能は絶賛していますが、サウンドの創造から言えばアンディの力が大きかったことがわかります。
「見つめていたい」の頃はバンドの雰囲気も良くなかったようですが、アンディがギターを入れて録音が終了した瞬間、静寂のあとに称賛の拍手がスタジオ中におこったそうです。
確かにあの3人でないとポリスにはなりませんね。
>こちらも気になります。感想楽しみにしています。
ちびちび読んでますんで、記事は少し先になりそうですが・・
投稿: SYUNJI | 2008.04.20 17:43
勉強熱心なSYUNJIさんに頭が下がる思いがし、
今日も稲穂の如く西南方向に向けて頭を垂れるルドルフと申します。式次第もありがとうございます。
> 様々なビッグネームと交友関係を築いていたようだ
いくつかのアーティストモノを読んでいると、UKの60年代音楽シーンというのは、(60年代に限らないかもしれないけど)ロンドンを中心にしたものすごく狭い範囲に限られ、交友関係もジャンル横断的に濃密だったことがわかります。
手前ミソですが、ビー・ジーズもビートルズ、ザ・フー、オーティス・レディング等との付き合いがあり、一般にはまったく知られていませんが(コアなビー・ジーズファンしか知らない)、ジミ・ヘンとも深い交流がありました。
> 翻訳としても非常に優れた文章で、
翻訳本って、結局コレですね。日本語が優れていれば、サラっと読める。逆にダメなのもありますが・・・
アーティスト本の読んでみたシリーズ・・・これはイケるのでは?
投稿: ルドルフ | 2008.04.21 07:36
ルドルフさん、こんばんは。
>ロンドンを中心にしたものすごく狭い範囲に限られ、交友関係もジャンル横断的に濃密だったことがわかります。
そのようですね。
音楽文化に身を置く絶対人数が80年代90年代に比べて少なかったということもあるのでしょうけど・・
ビージーズがジミヘンと交流があったというのは初めて聞きました。
>日本語が優れていれば、サラっと読める。
個人的な感覚になりますけど、訳した日本語がこなれている、古くさくない、このあたりがポイントですね。
訳者は山下理恵子さんという方ですが、我々と同世代のようです。
きっと洋楽にも詳しい方だと思います。
投稿: SYUNJI | 2008.04.22 22:38