聴いてみた 第42回 ブラックモアズ・ナイト
今回聴いてみたのは、ブラックモアズ・ナイト。
ご存じリッチー・ブラックモア御大が、パープルともレインボーとも決別してキャンディス・ナイトと結成した、クラシック回帰ユニットである。
ロック・ミュージシャンやバンドの路線変更は多々あるが、リッチーのように極端な転職はけっこうめずらしい。
かつてパープルのギタリストとして一時代を築き、レインボーのバンマスとして歴代のボーカルを世に出したリッチーだが、メンバーともロック・ミュージックとも完全に別れてキャンディスとともに生きることを決意している。
リッチーはユニット結成当時は過去のパープルの映像を見ることもイヤだったようで、日本に来てニュースステーションに出演した時も、モニターに映るパープル時代の自らの姿に、ずうっと目をそむけていた。
パープルやレインボーの何がそんなにイヤだったのだろう?
キャンディスのどこがリッチーにそこまでの決断をさせたのだろう?
こんな風に興味がわいたので、図書館で借りてみたのが「Under The Violet Moon」である。
パープルの音すら満足に聴いてない自分だが、リッチーの決断の表れはサウンドにどのような変化をもたらしたのだろうか。
・・・・・聴いてみた。
噂には聞いていたが、やはりパープルやレインボーとは全然違うし、もはやロックとは全く別のジャンルである。
まずサウンドは全般的に短調の曲であり、フラメンコ調やワルツやトルコの行進曲風の曲が多く、リッチーもアコースティック・ギターを弾いている曲が多い。
ただしエレキギターを全く使っていないわけではなく、「Gone With The Wind」という曲ではかつてのリッチーを思い起こさせるギターワークが聴ける。
リッチーだと思って聴くからそう思うだけで、全く予備知識がないまま聴いたら「どこの国の人たち?」という感じだろう。
さてキャンディス・ナイト。
アレンジや編集がどのくらい施されているのか不明だが、以前ニュースステーションで歌った時はクチパク疑惑もあり、実はあまり歌の上手な人ではないんじゃないかと想像していた。
が、今回このアルバムを聴いてみた範囲では、うまいかどうかは別として、かなり雰囲気のある声を出している。
曲調がロックではないので声量は必要ないが、あまり抑揚のない声でささやくように歌っている。
感覚的には「声の高いスティービー・ニックス」というところである。
スティービーほどのビブラートも情感もない代わりに、不安定なところもなく、どの曲も同じ調子なのだが、この声は嫌いではない。
またこの声がリッチーのギターと実によくマッチしている。
曲調がヨーロッパ風なのでなんとなく意外に思ったのだが、キャンディス・ナイトってアメリカ人なんですね。
感想。
あのリッチーがここまで路線変換したかと思うと、多少残念な気持ちにはなるが、サウンドは美しいしキャンディスのボーカルも意外にいいので、最後まで落ち着いて聴けることは確かである。
静かな部屋で夜中に聴くにはいいだろう。
ジャケットは完全に中世をイメージした絵であり、ギターを携えるリッチーや歌うキャンディスが、中世の街並みの中に、行き交う人々とともに描かれている。
が、絵の雰囲気や線の調子がどこか漫画チックで、ちょっと変である。
はた万次郎の漫画みたいな絵なのだ。
このあたりはもう少し叙情的または写実的に作ってみたほうがよかったんじゃないかと思う。
というわけで、初めて聴いてみましたブラックモアズ・ナイト。
かつてギターネックでテレビカメラを突き刺したりギターでグラハムの頭をぶん殴ったリッチー・ブラックモアの狂気はみじんも感じられません。
リッチーの理不尽で傲慢なクレイジーさが大好きな自分としては残念ながらもの足りませんが、音楽としては悪くありません。
オトコとしてのリッチーの身の振り方にはある種のあこがれも感じたことも確かです。
かつての同僚も自分で起こした会社も全て捨て去って、新しい女性とともに地方の小さな会場で静かにギターをつまびくリッチー。
これはこれでいいんじゃないかなと、なぜか寛容な気持ちにさせる不思議なサウンドでした。
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コメント
SYUNJIさん、こんにちは。
ブラックモアズ・ナイトですか。
どのアルバムか記憶にないのですが、一度だけ聴いた事があります。
リッチーの変わりぶりに「やっぱりエレキをガンガン弾かなくては、リッチーじゃない!」と、ちょっとショックを受けた覚えがあり、楽曲を手元に残すこともなく、それ以来聴いていません。
でも、SYUNJIさんの記事を読み、前に聴いた楽曲の断片を思い出すと、今ならそんなに違和感なく聴けるんじゃないか...と思ったりしました。
アルバム探して聴いてみたいと思います。
投稿: Junk | 2007.08.05 16:26
Junkさん、コメント感謝です。
>リッチーの変わりぶりに「やっぱりエレキをガンガン弾かなくては、リッチーじゃない!」と、ちょっとショックを受けた覚えがあり
そうかもしれませんね。
ただリッチーがパープルをやめてもうこれだけ時間が経っていて、リッチーのキャリアの中で10年以上続いたのは実はブラックモアズ・ナイトだけだそうですので、そういう意味では自分もかなり落ち着いて聴けたのだと思います。
まあ自分の場合、リッチーのギターをそれほど多く聴いてませんでしたし、プレイよりも逸話とか伝説の部分にばかり興味があったりしますが・・
最近はパープル時代の曲を時々公演で披露したり、ジョー・リン・ターナーと共演もしてるらしいので、御大もだいぶ丸くなったんじゃないでしょうか。(知り合いかよ)
投稿: SYUNJI | 2007.08.05 23:19
ハロー、SYUNJI。コンナモノマデトリアゲルノデスカ。シラナクテトウゼンデス。
失礼しました。SYUNJIさん、映画ブロガーのぷくと申します。こんな現在進行形のバンド、私やSYUNJIさんが知らなくて当然です。(←同胞攻撃!)
>リッチーのキャリアの中で10年以上続いたのは実はブラックモアズ・ナイトだけだそうですので、
やはりこういう観点で音楽を聴かなければ3級合格は難しいのですね。
>かつての同僚も自分で起こした会社も全て捨て去って、新しい女性とともに地方の小さな会場で静かにギターをつまびくリッチー。
何だか自分の事言われているみたいでホロリときました・・・
投稿: ぷくちゃん | 2007.08.06 17:32
自分が洋楽をまったく聴かなかった90年代から、21世紀に洋楽復活を果たしたとき、一番ビックリしたのがこのブラックモアズ・ナイトでした。見た目から、最初は学芸会みたいなバンド(グループ?)かと思っていましたが、結構マジメにやり続けているみたいですね。まだ1音たりとも聴いたことはありませんが。
私が気になっているのは、ポピュラー音楽の世界でこのバンドはどのような位置にあるのかということです。平たく言えば、どんなジャンルなのか、人気があるのかないのか、です。リッチー信者の多い日本やヨーロッパではチっとは売れているのかな?という気がするのですが、アメリカではどんな感じなのでしょう?(まったくもって無視された存在という気もするのですが) たしか、ナイトさんはアメリカ人でしたよねぇ(ちがいましたっけ?)
そういえば、このバンド、日本では吉本がマネージメント契約しているんですよね。やっぱりイロモノ?
投稿: ルドルフ | 2007.08.06 21:50
SYUNJIさん、こんばんは。
ブラックモアズ・ナイト、名前しか知りません。確かブラックモア
の奥様とのユニットでしたでしょうか。
>>ロック・ミュージックとも完全に別れて
>>もはやロックとは全く別のジャンル
ここを拝見して、ちょっと怖くなりました。もし私の好きな
ミュージシャン、たとえばドゥービーが突如ハワイアン
になったり、スプリングスティーンがタンゴ歌手として
来日したらどうしよう、と思ったのです。いや、ハワイアンや
タンゴ単なる例示で書いただけで悪いという意味では決して
ありません。
前にも書いたかもしれませんが、ミュージシャンの変化は、それが
微妙なものであっても、ファンや、おそらくはレコード会社にも結構
影響が大きいものです。本人は、
「♪職業(=音楽ジャンル)選択の自由、アハハ~ン」てな
感じかもしれませんが。
スティングのようにポリス→ソロと、ともに大きな評価を得るのも
まれでしょうねえ。
投稿: モンスリー | 2007.08.06 23:02
選手権ブロガーのぷく先輩、コメント感謝です。
>こんな現在進行形のバンド、私やSYUNJIさんが知らなくて当然です。(←同胞攻撃!)
あたしの場合、リッチーが2回目のパープルやレインボーを経てブラックモアズ・ナイトを結成したところまでは一応リアルタイムで情報を仕入れていました。(全然聴いてませんけど)
こうした探求力こそが3級合格の秘訣です。(大ボラ)
>何だか自分の事言われているみたいでホロリときました・・・
先輩がホロリときたのはどれでしょうか・・
1.かつての同僚や会社を捨ててきた
2.小さな地方の会場でギターをつまびいている
3.「昔は月に100万もの接待費を使ったもんだ・・」とつぶやいている
ルドルフさん、コメント感謝です。
リッチーの転身ぶりを追っていた自分ですら、このユニット結成にはたまげましたね。
その昔族車で夜中にパレードしたり近所の家の塀を倒して逃げたりしてた同級生が、久しぶりに会ったと思ったら七三分けで黒フチ眼鏡で学習教材のセールスをしていた・・という感じでしょうか。(いまいちよくわかんねえよ!byぷく)
>ポピュラー音楽の世界でこのバンドはどのような位置にあるのかということです。
あたしもその点は気になってますね。
想像するに、日本ではほとんどかつてのパープルやレインボーでリッチーを追っていた方のみが聴いているのではないでしょうかね。
全く予備知識のないまま、このユニットに突入するという図式もあまりピンと来ないのですが・・
>日本では吉本がマネージメント契約しているんですよね。
知らなかった・・・
ということは、タカアンドトシと同じような立場なのか・・?
(違うと思う)
モンスリーさん、コメント感謝です。
>たとえばドゥービーが突如ハワイアンになったり、スプリングスティーンがタンゴ歌手として来日したらどうしよう、と思ったのです。
これはとまどうでしょうね。
ドゥービーのハワイアンてのも案外いけそうな気もしますが。(適当な意見)
あたしの知り合いには堀内孝雄の演歌転身にいまだになじめない人がいますが・・
>「♪職業(=音楽ジャンル)選択の自由、アハハ~ン」てな
感じかもしれませんが。
リッチーはこんなセリフはまあ言わないと思いますが。
あとキャンディスがいなかったらここまでの転身もなかっただろうと・・女のチカラはやはり偉大です。
投稿: SYUNJI | 2007.08.06 23:31