読んでみた 第16回 広告批評
今回読んでみたのは「広告批評」。
コラムニスト天野祐吉が編集長の広告関連雑誌である。
が、実は読むのは初めてだ。
自分は普段広告とは縁のない仕事をしており、また特に広告に興味があるわけではない。
コピーライターやプランナーやアートディレクターやクリエイターやターミネーターやダイ・ハードといったカタカナ職業の人とのつながりも全くない。
なのでこの雑誌の存在自体は知っていたが、手にとったことは全くなかった。
今回も興味があって買ったわけではなく、たまたまその日荷物がやや重かったので、判型の小さい薄めの雑誌を探しただけである。
今回買ったのは7月号、590円。
なんとも半端な定価である。
版元はマドラ出版。
判型はA5、総ページ数は150弱である。
批評というからには、巷にあふれる広告についてほめたり批判したりする雑誌なのだろうか。
たぶんCMに登場する若いアイドル予備軍を注視したりはしていないだろう。
イメージ的には「広告という世界を語るわりにやや硬派で実直な雑誌」のようにとらえていたが、果たしてどうなのだろうか。
・・・・・読んでみた。
今月号の目次はこんな感じである。
○10年でWebはメディアになった
杉山恒太郎
○世界のWeb広告アーカイブス1998-2007
大岩直人
○そろそろ次のことを
福田敏也
○ウェブってスポーツに近いメディアだと思う
伊藤直樹
○デザイナーとして、ビジュアルは捨てたくない
カイブツ
○面白いコンテンツを作っていたいだけなのかも
中村洋基
○エンターテインメント精神でもてなしたい
朴正義
○ウェブの美をいかに伝えるか
中村勇吾
○Webは広告を解体するか
西垣通
○図版でわかるインターネット10年
特集としては「Web広告10年!」となっている。
いきなり内容でなくて体裁の話になるが、まず感じたのが4段組構成のページが多いことである。
2段組・3段組のページもあるが、その違いの意味はよくわからない。
同じようにWeb広告について語る文章なのに、2段だったり3段だったり4段だったり。
もちろんページごとに適度に変化があっていいのだが、書体や級数や色は同じで段組だけ違っていたりで、なぜ変えているのかが不明である。
インタビューや対話文は2段組かな?とも思ったが、そうでもないようだ。
文章中心の雑誌だが、この変化はやや抵抗がある。
特に4段組は正直読みづらい。
1段は14字だが、今回はWebを語る内容だからだろうか、横文字が多く、また改行がかなり少ないため、気になってしかたがなかった。
慣れていないせいもあるのだろうが、クリエイティブな方面の雑誌のわりにページデザインは案外甘いんだなぁ・・・と思ってしまいました。
今回のWeb広告特集には業界の様々な人が文章を寄せたりインタビューに答えたりしている。
が、当然文章表現においては個々にかなり違いがある。
それぞれの文章はさほど長くないが、テンポよく読める文章もあれば、何が言いたいのかよくわからない人もいて、同じ業界でもいろいろである。
こうして読み比べると、文章の優劣が驚くほどはっきりわかる。
特集の中で世界中の秀逸なWeb広告を写真で紹介しているが、当然写真ではWebに仕込まれたしかけは体感できないので、なんとなく不満な気持ちになる。
テレビCMやミュージック・ビデオの紹介ページもそうだが、これは紙媒体の限界であり、仕方がない話だ。
でも広告を批評する雑誌なんだから、そこはもう少し工夫してもいいのではないかと思う。
単にテレビ画面やWebページを切り取って紙面で紹介する方法自体、ちょっと古いんじゃないだろうか。
(じゃあどうしろと?と言われても、特にアイディアがあるわけではないのですけど)
今回Web広告が対象だったんで、よけいにそんなことを感じた。
「今月の新作CM50連発!」という、ちょっとアレなタイトルのコーナー。
「やはり」と言うべきか「あえて」なのかわからないけど、例のアップルジャパンの「こんにちはMacです」「こんにちはパソコンです」シリーズが紹介されている。
Mac側のホームムービー役には中谷美紀、パソコン側は同じ格好をした女装のおっさんが出てくる、あのCMである。
個人的には、あのCMシリーズは嫌いである。
なぜか?
それは自分が世にも珍しい「Mac挫折ユーザー」だからである。
まあそれを割り引いても、あのCMにはそれほどセンスがあるとは思えないのだ。
で、これを含めた50のCMが紹介されとるんだが、ホントにただ紹介してるだけで、ここには「批評」はない。
せっかくの「広告批評」なんだから、こういうコーナーこそ独自の視点で切り込んでいくべきではないか?と感じる。
センスと言えば、何かと話題の「Docomo2.0」。
今月号にはあのCMのクリエイティブディレクターによる文章もある。
CMが始まって少し日が経ってしまっているが、CMそのものはなんとなくドラマ仕立てでおもしろいとは思う。
ただし。
このディレクター氏は「今さら2.0かよ」という世間の評価を全く考えていないようである。
「2.0はウェブ2.0から来ているのでしょう」などとかなり不用意に書いちゃってるが、大丈夫なのだろうか。
巻頭には橋本治の連載がある。
今回は社会保険庁について語っている。
広告と何か関係あるんだろうかと思って読んでみたが、後半にやや強引に広告と関連づけたくだりがあっただけだった。
この人の連載はこの本の中では評判がいいらしいが、そもそも題材が絶望的なので読んでいて楽しくなかった。
感想。
特集がWeb広告だったこともあるが、今月号にはそれほどの鋭さは感じなかった。
やはりページデザインが読みづらいのが前に来てしまい、文章の中身に集中できなかったのが残念だ。
歴史も人気もあるクオリティの高い雑誌だと思っていたのだが、今回読んでみた範囲では、そこまでのものはなかったと思う。
体裁としては軽いし小さいし薄いので、持ち歩いて読むには適している。
対象が広告なのでほとんどのページがオールカラーであり、また紙質にもそれなりの配慮がある。
写真をきれいに読ませる(「見せる」、ではない)ため、反射のきついコート紙を避けているところはさすがである。
また書体は基本的にゴシックであり、これも紙質との組み合わせにおいてベストな選択だ。
ここまで配慮の効いた編集なだけに、4段組多用のレイアウトはやはり惜しいと思う。
この会社のサイトは非常に淡泊だ。
広告批評だけでやっている版元のようだが、他の出版社のようなハデな画像やフラッシュによる本の宣伝が全くない。
本誌の内容に相当自信があるからだろうか。
出版社のサイトなんてセールス的には大した効果なんかないんだろうが、この方針はちょっと驚きである。
というわけで、「広告批評」。
評価としてはちょっと微妙なところです。
段組というデザイン面で抵抗を感じてしまったのはかなり残念です。
また文章表現も人によって力量にかなり格差があり、内容になかなか没頭できなかったことも惜しい点でした。
今後興味のある内容で特集でも組まれれば、また読んでみようかと思いますが、そこでまたデザイン面で引っかかってしまうのではないかと、つまらないことを気にしています。
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