聴いてみた 第27回 ビーチ・ボーイズ その2
実はイメージよりもずっと重い歴史を持っているビーチ・ボーイズ。
といってもそれをあたしが知らなかっただけの話ですが。
前回は「スマイリー・スマイル」に挑戦し、なんとなく判定負けを喫したような状態。
今回はモンスリー師匠のご指導で「これを聴かずしてビーチ・ボーイズを語ってはいけない」ロックの歴史上不滅の金字塔アルバム(表現ダサすぎ)、「ペット・サウンズ」を聴くことにした。
「ペット・サウンズ」はそれまでの路線とは明らかに異なり、セールスとしても成功したとは言い難い問題作とのこと。
しかしながらジョン・レノンはこれを聴いて危機感を募らせ、後にビートルズとして「サージェント・ペパーズ」を発表するという、因縁のアルバムである。
つうことは「ペット・サウンズ」がもしも発表されなかったら、「サージェント・ペパーズ」もどうなっていたかわからない、ということになるのだろうか。
いずれにしても歴史を作ったグレイトな作品であることは間違いなさそうだ。
・・・聴いてみた。
サウンドは思ったよりまともで叙情的だ。
お得意のコーラスも健在であり、クリスマスソングを思わせるような曲もある。
ブライアン・ウィルソンにまつわるいろいろヤバそうな話を先に仕入れてしまったので、サウンドとしてもかなり破綻しとるんじゃないかと思っていたのだが、そういうわけではなさそうだ。
プログレのように転調があったりヤケクソだったり凝った演奏やアレンジがあったり・・というようなことは全くない。
が。
聴き進めていくうちにやはり自分の知るビーチ・ボーイズとは雰囲気が少し違うことに気づく。
それぞれの曲は決して悪くないし、クオリティも高いとは思う。
が、全体を通して感じるこのもの悲しさ・全体を覆う寂しさは何だろう?
楽しそうに歌っているはずの曲でも、どこかはかなげで湿っぽい印象なのだ。
ビーチ・ボーイズファンの人々はどういう気分のときにこのアルバムを聴くのだろう?
ただ、前回聴いた「スマイリー・スマイル」よりも出来はいいと思う。
「スマイリー・スマイル」はどこか難解で、クスリっぽくてたるんだ印象だ。
経緯はよくわからないが、「ペット・サウンズ」のほうが丁寧に作られていると感じる。
問題作と言われるだけあって、一筋縄ではいかないアルバムだが、「サージェント・ペパーズ」に比べるとやはりバラエティに乏しい。
比較は無意味かもしれないが、このあたりの大衆性はさすがにビートルズが優勢のようだ。
このアルバムの後で「Made In U.S.A」を聴いてみた。
こっちは一般に通じているビーチ・ボーイズ・サウンド、お得意の海海車お姉ちゃん節が全開である。
「サーフィン・USA」「アイ・ゲット・アラウンド」など、お決まりの曲が続く。
これだよこれ。自分のような素人にとっては、やっぱビーチ・ボーイズ聴くならこっちだよなぁ。
やはりビーチ・ボーイズに対するイメージが「楽しくお気楽な砂っぽい海辺のあんちゃんバンド」で固定されてきたため、どうにも「ペット・サウンズ」「スマイリー・スマイル」の違和感がぬぐえない。
まさに聴き慣れないとはこういうことだろう。
「ペット・サウンズ」という名前は、ブライアンの路線についていけなかったメンバーが、「こんなの誰が聴くんだよ。犬(ペット)か?」というあきれて出てきたセリフが元になっている、なんて話もネットで見たが、作った本人達も全然一枚岩ではなかったということですかね。
それまでの海車女路線で売れてたバンドなので、ブライアンによるアート路線に他のメンバーが「え~??」となったのもムリもないかもね。
例えばビートルズと言えば「イエスタディ」「プリーズ・プリーズ・ミー」なんかのイメージで固定されている人に、いきなり「トゥモロウ・ネバー・ノウズ」「ヘルター・スケルター」「ア・デイ・イン・ザ・ライフ」なんて聴かせると、かなり違和感を覚えるのではないだろうか?なんてことを考えた。
自分が「ペット・サウンズ」に感じる印象も、そういう状況に近いのかもしれない。
ビーチ・ボーイズ、ビートルズといろいろ因縁があることは聴いてみるまで全然知らなかったのですが、まあこれまで語られてきた因縁話の半分くらいは脚色も混じっているかもしれない。
でもそういう情報をふまえてビーチ・ボーイズを聴いたほうがなんとなく楽しそうだ。
ポール・マッカートニーとブライアンは実は同い年で、どちらもベーシストでバンドの作曲の要でもあり、共通点は多いが、性格は正反対で「ポールは出たがり・ブライアンはヒッキー」なんだそうだ。
「ペット・サウンズ」が高い評価を受けるのは、楽曲の質の高さの他に、こうしたブライアンにまつわる多くの伝説が、人々の心を(シンパシーも含め)押し上げているからではないか?
・・・などともめ事の好きなあたしは考えたりしました。
そういうわけで聴いてみた「ペット・サウンズ」。
ただならぬ雰囲気を多少感じとったものの、手放しで絶賛するほど気にいったわけではありませんでした。
ビーチ・ボーイズの実は複雑な魅力、理解できるまでまだかなり時間がかかりそうです。
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コメント
私にとってのビーチ・ボーイズはこの2枚です。そう、「ペット・サウンズ」、「スマイリー・スマイル」の2枚。
ここから入ったので、「サーフィンUSA」は後々まで違和感を感じて仕方がなかったです。
ビートルズは段階を追ってステップ・アップして行きました。それも楽曲のクオリティは最初期と後期でそれ程大きな違いを持ちません。時代の雰囲気を器用にアルバムに取り入れることで、アルバムのクオリティをあげていくように見せる事に成功したのです。
ところがビーチボーイズは明らかに楽曲のクオリティが違います。イニシアティブを持った人間が変わっています。アルバムの雰囲気もガラリ変わってしまっています。別のバンドみたい。これについてはいつか自分のブログで取り上げなければいけないかも・・・(たまに真面目に話そうとすると話の収集がつかない・・)あっ!新幹線だ!じゃあねえ。ぴゅー
投稿: ぷくちゃん | 2006.04.22 20:08
ぷく先輩、コメント感謝です。
もしかして携帯からですか?
>「サーフィンUSA」は後々まで違和感を感じて仕方がなかったです。
なるほど、自分の感覚と逆ですね。
>ビートルズは段階を追ってステップ・アップして行きました。それも楽曲のクオリティは最初期と後期でそれ程大きな違いを持ちません。
確かにそのとおりですね。
自分は「サージェント・ペパーズ」が最高傑作だと思っていますが、ネットでは時々「シングル曲がなくて退屈」「難しい曲が多い」といった評価が見られます。
初期の楽しいビートルズが好きな人にとっては違和感のあるアルバムのようです。
これがたぶん自分の「ペット・サウンズ」に対する感覚と似ているのかもしれない・・と思いました。
自分、ビーチ・ボーイズの初期が好きというほどのものではないんですけど。
>これについてはいつか自分のブログで取り上げなければいけないかも・・・
ということは、次回の先輩のエントリ、「そのアーチストのファンではあるが違和感の残るアルバム選手権!!」ですね・・・
投稿: SYUNJI | 2006.04.22 21:28
「Pet Sounds」大好きです。ただ、SYUNJIさんが抱く「ビーチボーイズ」のイメージとのギャップに違和感を覚えるのも分かります。
「California Girls」で「女の子がみんなカリフォルニア娘だったらいいのに」と脳天気に歌っている姿と比べると「Pet Sounds」はかなり暗いですよね。
だけど、だけどですよ、このアルバムはとんでも無く美しいじゃありませんか。こんなに素晴らしい音楽はめったにお目にかかれるものではありませんよ。ビーチ・ボーイズのイメージからかけ離れていたって、ブライアン・ウィルソンのエゴ丸出しだって良いじゃないですか。こんなに素晴らしいものに出会えるなら。
「Wouldn't It Be Nice」
や「God Only Knows」などからは、青空のかけらも覗いていませんが、真剣に音楽に取り組んだ男の神々しさがあります。
と、全面的に肯定してしまう「Pet Sounds」ファンのgetsmart0086でした。
あっ、念のために書いておくと、脳天気サーフィンサウンドも好きですよ。
話は変わりますが、以前何かでブライアン・ウィルソンの誕生日祝した映像を見ました。たぶん、70年代前半の映像だと思いますが、誕生日パーティーではポール・マッカートニーと奥さんのリンダがブライアンを和やかにお祝いしてました。ブルース・ブラザーズの二人が、ベットに寝ているブライアンを無理矢理担ぎ出し、サーフボードのように小脇に抱えながら海に入っていくシーンには大笑いでした。たぶん、彼が病んでいた時期を脱出したので、復活を期して友人達がこういう映像を作ったんでしょうね。
以前このアルバムの記事を書いていたのでTBさせてもらいます。自分の能力では表しきれないので、山下達郎が書いたライナーノーツを紹介しちゃってます。
投稿: getsmart0086 | 2006.04.23 08:51
getsmart0086さん、コメント感謝です。
ビーチ・ボーイズぐらいのアーチストになると、やはり好きな方のコメントにも非常に熱いものを感じます。
これはツェッペリンでもビートルズでも同じでしょうね。
たぶんビーチ・ボーイズとして聴こうとしているから違和感があるのであって、「ブライアンと仲間たち」の渾身の作品、として聴いたほうがいいのかもしれない・・と思いました。
音楽自体は全く肌に合わないというわけではありませんでしたので、もう何回か聴けば、自分の「ビーチ・ボーイズ観」もかなり上塗りされて違和感も徐々に解消するのかもしれません。
関係ありませんが、ブライアンの娘がやってたウィルソン・フィリップスは90年頃によく聴いてました。
投稿: SYUNJI | 2006.04.23 17:35
SYUNJIさん、こんばんは。
早速ですが、
>>全体を通して感じるこのもの悲しさ・全体を覆う寂しさは何だろう?
>>こうしたブライアンにまつわる多くの伝説が、
その2点を即座に感じ取られただけで、音楽的な意味からも、音楽評論
的な側面からも、「ペットサウンズ」をほぼ把握されたと思います。
さすがです! 私は先に評論で頭でっかちになっておりましたので、
後から音楽を聴いて確認するというていたらくでした(^^;)。
「ペットサウンズ」は個別の曲としてもいいですが、通して聴くのが
一番いいと思います。お聞きになった「Made In USA」にも「Wouldn't
It Be Nice(素敵じゃないか)」が収録されていますが、「ペット」
とかなり印象が異なります。この一見明るい曲は、「ペット」の
オープニングを飾り、なおかつ美しすぎるコーラスの2曲目「You Still
Believe In Love」へつながる重要な役割があります。
「ペット」の不幸な側面は、常にブライアンの伝説がつきまとい、「普通に
聞くことができなくなってしまった」といったところでしょうか。
ですので、私の場合、出来るだけ気楽に聞こうと心がけますが、それを
許さない(音楽的に)厳しい顔も持つ、そんなアルバムです。
逆に「USA」収録曲は、やはり楽しんで聴くべき曲だと思います。
「California Girls」、「Fun Fun Fun」、「I Get Around」などなど、
これもビーチボーイズでなければ作ることができなかった名曲だと
思います。
・・・・しかし「Made In USA」は廉価になりましたねえ。私が購入した
とき(89年頃?)は輸入盤しかなく、しかも4,000円弱でした(笑)。
投稿: モンスリー | 2006.04.23 21:02
モンスリー師匠、ご指導ありがとうございます。
今回もお世話になりました。
>その2点を即座に感じ取られただけで、音楽的な意味からも、音楽評論的な側面からも、「ペットサウンズ」をほぼ把握されたと思います。
いや、把握してないしてない。
ただ感覚としてそう思っただけで・・
自分も結構評論でアタマでっかちになってました。
>「ペット」の不幸な側面は、常にブライアンの伝説がつきまとい、「普通に聞くことができなくなってしまった」といったところでしょうか。
そうですね。
自分のように「聴いてない素人のくせに人物に関する情報だけやたら仕入れたがる」タイプの人間は特にその傾向が・・
もっと若い頃に聴いていれば、きっと違った感想だったように思います。
投稿: SYUNJI | 2006.04.23 23:25